第2章 文献レビュー
2.5 知の創造プロセスとしての科学
2.5.1 知識とは何か
(ザイマン, 2006)。
ビッグ・サイエンスにおいて不均質な集団が共同で科学論文という知識を創 造するにあたり、分業化が図られ、貢献度が一義的に分からない著者掲載を行 うことが、特に高エネルギー物理実験の特徴として言うことができる。しかし、
誰が貢献して想像したのか明確でない知識そのものを保証するには、不安定さ を除ききれないという指摘もある(Galison, 2003)。
の理解にプロジェクトマネジメントの実践知(フロネシス)が重要であるとい う立場(永谷, 2014)で、フロネシス・プロジェクトマネジメントを推進する 動きがある(本間・永谷, 2013)。
表 2-2 知の三分類
分類 英名 内容 種類
エ ピ ス テ ー メ
episteme 一般性を志向し特定の時間・空間・他者と の関係性、つまり文脈/コンテクストによ って左右されない、客観的知識
形式知
テクネ techne テクニックやアートに対応する実践的か つ文脈によって異なる、ものをつくりだす 実践的知識
暗黙知
フロネシス phronesis 倫理の思慮分別をもって、その都度の文脈 で最適な判断・行為ができる賢慮・実践的 知恵・実践理性
高質の 暗黙知
出典:野中(2006・2014)より筆者が作成
認識論的に見ると、知識は暗黙知と形式知に分類することができる(ポラニ ー, 1980)。また伊丹・軽部(2004)は、見えざる資産とは技術やノウハウの 蓄積、顧客情報の蓄積、ブランドや企業への信頼、細かな業務をトータルにき っちりと実行できる仕組やシステム、生き生きとした組織風土など、企業が持 っている「目に見えない」資源を意味し、すべての見えざる資産が情報や知識 に関連したものであると述べている。つまり、組織において業務を遂行するた めに不可欠なものを、暗黙知・見えざる資産と定義している。
自然科学論文は形式知であるが、論文を生産するまでの過程には、研究者の 個人的知識や知恵、経験といった暗黙的な知識も大いに活用される。Milton (2005)は、知識は経験に基づくもので、情報ももちろん、理論や経験則の応用 で、知的な決断をする際に必要なものであると定義しており、暗黙知・形式知 両方を包含すると整理している。我々が明示的に言明化できる知識体系の背景 には、それを支える膨大な、詳記不能な知識体系「暗黙知」が存在する。ポラ ニーの主張のように、従来の科学論の形式主義的な傾向を批判し、科学的実践
の背景にある暗黙の前提を明らかにすることで、科学的実践が明示された形式 的認識論では収まらない、膨大な慣習や熟練などの暗黙知、認識への個人的情 熱によって知識体系が構築されている(福島, 2010)。
知識の実際的な定義として、データ・情報・知識・知恵の 4 つにダベンポート・
プルサック(2000, p.16)は分類している。データとは、何事かに関する事実 の集合であり、一つひとつの事実の間には関係づけがなされていない。情報は、
メッセージとして、送り手と受け手が存在し、意味を持っていてある目的のた めに創られる。知識とは、反省されて身についた体験、さまざまな価値、ある 状況に関する情報、専門的な洞察などが混ぜ合わさった流動的なものであり、
新しい経験や情報を評価し、自分のものとするための枠組みを提供する。それ は、人の心に発し、人の心に働きかける。組織において知識は、文書やファイ ルの中に存在するだけではなく、組織の日常業務、プロセス、慣行、規範のな かに埋め込まれているのであり、形式知の隙間に暗黙知が存在していることを 指摘している。知恵は、知識のさらに上位コンセプトである。
それを受けて、梅本(2012)は,この 4 つを以下の通り定義し,知のピラミッ ド(図 2-2 参照)として整理している。
データ:生命体(人間)が創り出した信号・記号(文字・数字)の羅列 情報:データから抽出された断片的な意味
知識:行為につながる価値ある情報体系
知恵:実行されて,有効だとわかり,時間の試練に耐えた知識
図 2-2 知のピラミッド