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報奨の仕組み

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第3章 事例分析

3.9 報奨の仕組み

先に述べた通り、論文の著者はアルファベット順であり、筆頭著者・代表著 者の概念は PHENIX グループには適用できない。「何百人もいるとその重要さの ランク付けができない。もちろん実際書いた人を最初にするというのも一つの 考えだが、データ解析をした人だけが偉いのではないという議論もある。皆参 加して、役割を担っているのだから、平等にちゃんと名前を載せるべき。全員 のランク付けするのは不可能なので、A,B,C 順に並べるのが一番フェアであろう という立場です74」と執行部の一人から聞いた。ラン中にサブシステム専門家の 当番をこなしたり、プロダクションジョブやデータ解析の手伝いをしたり積極 的に仕事をすることがメンバーに求められていて、そういったシフト以外の仕 事の実績は PHENIX グループへの貢献として認められる。

誰がどのように貢献したか、能力の程度は、グループ外からは分からない。

74 A 氏インタビュー(2014 年 8 月 29 日)。

個人の貢献度が PHENIX グループ外に明示されるのは、推薦状と学会発表におい てである。

グループ内では貢献の度合いを全員が把握している。PHENIX グループ内部ウ ェブサイトでは、論文毎に誰が関わったかが明示してあり、内部では誰と誰の 論文と呼んでいる。論文執筆に関する議論はメーリングリスト・Web の掲示板上 で全て公開されているし、グループのミーティングにおける発表・質疑応答内 容で、各自の能力が赤裸々になる。たいていの場合、論文執筆チームの中心人 物は、これから博士論文を書こうとしている学生であり、学生が内容を十分に 理解し論文執筆に貢献したとグループ内で判断された場合、重要な学会での発 表者になることができる。ここで、論文の中心人物が PHENIX グループ内外に公 開される。つまり、同じ分野の研究者同士では、お互いの能力を知り合う機会 がある。また、論文執筆以外の貢献については、ある若手研究者75は、検出器運 転中は自分の居室ではなく PHENIX グループの状況監視室(カウンティング・ハ ウス)にずっと詰めて、情報収集をすると述べていた。PHENIX グループメンバ ーが会議や作業現場等の場を共有することで、誰が何をしていてどのような能 力を持っているか、把握されている。

ポスドクや大学院生のモチベーションとしては、PHENIX のデータを解析し、

大学院生はそれで博士論文を取ることを望み、ポスドクは次のポジションを得 るための自身の業績を積むために、解析をする。

大型実験に参加している研究者の能力については、「優秀かどうかは、研究発 表を聞けば分かる。シニアな人の場合は、過去にやってきたことを見れば分か る」との複数の意見があった。特に、プロジェクトに閉じた研究発表で本当の 実力が分かるが、外部向けの研究発表でもそれなりに実力を判断することがで きるそうである。

論文はグループ全体の成果、成果の分け前は、参加機関で平等配布である。

もし、ある成果に対してノーベル賞をもらうとしたら、論文作成の中心人物 3 人が選ばれる、もしくはアイディアを最初に出した人と装置を作った人が 選ばれるはずである。そして、ノーベル賞をもらえなかった他の PHENIX グ

75 K 氏インタビュー(2011 年 5 月 18 日)。

ループ研究者は心から祝福するだろう。

(Y 氏インタビュー:2011 年 6 月 10 日)

Y 氏が述べたように、この分野で共有されている規範として、正々堂々とした 競争とその結果の公正な報奨が前提となっている。

3.9.1 業績リストについて

大学院生がポスドク職に応募する時や、ポスドクが次の職に応募する時、業 績リストを提出することが求められる。PHENIX グループの場合、論文の著者は アルファベット順であるが、研究論文リストには応募者が実際にどのように貢 献したか分からない状態で、PHENIX グループ論文が並ぶことになる。以下の W 氏のインタビューで分かる通り、この業界の慣例となっている。

筆頭著者っていうものの概念はないんだけど、僕らには。だけど、実際にこ の論文が誰のものかって、皆分かるんだよ。それでたとえば、どっかに応募 する時に、【中略】自分がやったものを出して、この部分に関しては全部こ れだけのことをやりましたってプレゼンテーションするわけなので、そのこ とに対して、僕らの業界として文句を言う人はいない。お前筆頭著者じゃな いじゃないかって、いう奴はいないので。もうそういうふうになっちゃって いるから。あまり問題は起きない。

(W 氏インタビュー:2015 年 4 月 8 日)

他方、口頭発表リストには応募者が発表者である発表が記される。口頭発表 のプログラムや予稿集には、「氏名 for the PHENIX Collaboration」と発表者 名が明示されるからである。特に有名な国際学会での発表歴がある場合は、応 募者自身の貢献度が大きいため PHENIX グループの代表として選抜され、PHENIX グループの承認を得て口頭発表をしたと見なされる。ゆえに、国際学会での発 表者に選ばれることは非常に重要である。

3.9.2 推薦状について

大学院生がポスドク職に応募する時や、ポスドクが次の職に応募する時は、

推薦状を 2 枚程度要求するのが通例となっている。推薦状は本人の実績を知っ ている人物が実績を書く。推薦状によってのみ、何をどの程度行ったかが部外 者にも分かる。推薦状には実際にどの論文を書いた人物であるのか記載する、

また、推薦者自身の評判にも関わるため、推薦できない場合は推薦状の執筆を 断る、と複数人から公式・非公式なインタビューにおいて聞くことができた。

推薦者の性格から、どの程度推薦状対象者のことを相対的に評価しているか推 察できると語る研究者もいた。推薦状以上のことを知りたい場合は、研究者ネ ットワークを通じて非公式に推薦状執筆者に直接問い合わせることも、この業 界では通例として行われている76。学生や若手研究者の上司にとって、若手が良 いポジションを獲得するよう、トレーニングを積ませたり、空いているポジシ ョンを紹介したりできる限りのことは手を尽くすが、上司自身の評判にもつな がるため、推薦状は事実に即して書く。業界内で噂が共有されており、いつも 厳しいコメントを書く研究者が褒めている場合は、相当優秀な若手と判断する こともある。

PHENIX グループ内で推薦状の内容を公式に承認する手続きはなく、あくまで も推薦状執筆者に内容が任されている。推薦状の書き方について PHENIX グルー プ内でオーサライズする仕組みはない。

3.9.3 国際学会での発表者について

国際学会では、グループの承認なく PHENIX グループの結果を話すことは許さ れず、全て PHENIX グループの発表者事務局を通して発表者を決めるルールであ る。また、PHENIX グループ外に結果を公開する前提として、プレリミナリーの 取得が必要である。

国際学会から PHENIX のトピックで講演の依頼があると、発表者事務局は PWG に対して、国際学会での発表者を問う。PWG の幹事は、該当分野の研究への貢献 度が高く、最近プレリミナリーを取ったメンバーに順番をつけて推薦し、発表 者事務局に返事をする。発表者事務局では、講演回数や別の要素も加えて発表 者を決め、発表者事務局から講演候補に対して、打診する。発表者事務局が発 表者を選んだ理由は、公平な選考を目指している一方 PHENIX グループ内でも非

76 N 氏・X 氏インタビュー(2015 年 4 月 2 日)や非公式インタビューより。

公開である77

国際学会に参加している同業者は、PHENIX グループの選考を経て発表者とな った研究当事者が大きな貢献をした PHENIX の研究内容を発表していると認識し、

しかもその結果は PHENIX グループが承認していると認識する。発表者にとって は、そういった認識が得られ発表者自身のクレジットになり、業績リストにも 明示できる。

若手研究者 H 氏は、重要な国際学会での発表者に若手が選ばれにくくなって いるのではないかという疑問を抱いている。発表者は先に述べた通り、発表者 事務局が公正な判断に基づき選ぶ。しかしながら、重要な国際学会での PHENIX グループを代表した講演を複数回任された研究者がいたり、当然選ばれるもの と思っていた研究者が選ばれなかったりする例があるという。中堅研究者 R 氏 も以下のような疑問を提示した。

またこの人を選んだのか?っていう感じは多いと思い ますね。【中略】特に選ばれた人が本当の解析をしてな い場合だったら、どうしてまたこの人を、何もしてな いけど。

(R 氏インタビュー:2015 年 4 月 7 日)

他方、発表者事務局の委員を務めているシニア研究者は、求職中の研究者・

会議の開催地・各種意見にも考慮しつつ、十分公正な判断に努めていると答え た。異議申し立てがあった場合は、次回の発表者選定時に配慮をしているとの ことである。

発表者事務局で判断するので。完全にノン・バイアス ではないと思いますね。でも、その中には、PWG 幹事 の OB も入っているし、発表者事務局のレギュラー・

メンバーは、一応バランスを取って、大学・研究機関、

77 これは、CERN の UA2 という大型物理実験グループとは事情が違う。Knorr-Cetina(1999) は、発表者が発表テーマに直接携わったかどうかは必須ではなく、グループの中で売り込 みたい研究者を発表者に選んでいると報告している。

報奨の機会の不 公平感

内部コンフリク ト

マネジメント側 の配慮

公平性の担保

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