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PHENIX グループ内での競争

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 77-80)

第3章 事例分析

3.5 PHENIX グループを取り巻く競争

3.5.3 PHENIX グループ内での競争

単一の実験グループ内でも競争は起こっている56。CERN においては、強力な指

54 Q 氏インタビュー(2011 年 5 月 20 日)

55 O 氏(2011 年 5 月 12 日)、A 氏(2014 年 8 月 29 日)インタビューをはじめ、インフォーマ ルな会話でも複数回聞いた。

56 CERN の実験グループにおいても競争が観察されている。「CERN に行ってみれば、多数の大学 からやってきた何百人もの正教授・講師・大学院生が単一の巨大な実験の計画と実行のためにす べての科学的精力を注いでいるのを目にするだろう。儀礼的にはそのような事業は「協働」とよ ばれるが、それに参画した大多数のものはー通常、非常に強力な指導者に支配されたーチームの 集合的権威に個人的な科学的自主性を譲り渡している。これは、彼らに技術的能力を示すすぐれ た機会を与えるであろう。ある個人はチームの内部においてソフトウェア設計、エレクトロニク ス工学、データ解析のような精巧な技術の点で鬼才として高く評価されるであろう。しかし、そ のような局所的名声は公表された研究の説明を通じて一般的なアカデミック市場へと広まって いくわけではない(ザイマン, 1995, p.250)」。

CERN の UA1 実験では、「実験が始まり、装置類もほとんど完成してからやってきた学位取得直 後の研究員や大学院生、それに客員の研究者たちは、検出器の建設にそれほど関わっていないの で、あまり重要な責任は与えられていない。加速器の運転の度にやってきてはすぐに帰るので、

顔もなかなか覚えてもらえない。大抵は補助的な、あるいは誰でもできるような仕事をしている。

導者に支配される中、研究者が「協働」しつつも、技術的な能力を示す機会を 競っている(ザイマン, 1955; トーブス, 1988)。

PHENIX グループ内で起きている競争は、特にデータ解析からプレリミナリー

(予備的承認)取得の段階までで起きる。物理解析グループ(Physics Working Group、以降 PWG と略す)でデータ解析の精確さを競って、予備的承認審査に至 るまでについての状況を、インタビューの該当箇所から示す。

中身がしっかりすれば、負けないんだけど。やっぱりみんな 中身もあれっていうときがあるからさ。そうすると英語も分 かんなくて、中身がしっかりしてないと負けるんですよね。

言われたことを、自分が認識してないようではだめなので。

まあここで皆さん鍛えられますよね。

(Y 氏インタビュー:2015 年 4 月 1 日)

日本人の場合は、母国語が英語でないというハンディを背負いつつ、物理の 中身で正々堂々と競争に打ち勝てる力がなければ、プレリミナリーを取得でき ないと Y 氏は述べた。

(PWG の場で誰かが)学生を攻撃するっていうのは基本的 にその先生がやっていることを攻撃しているわけだから。

普通かばうわけね、自分の所の学生を。かばわないと かわいそうだからね。【中略】学会発表は戦いだから、

ここはね、プレリミナリーって。その人の発表会ではない ので。ちゃんと答えるように頑張りますよね。

(X 氏インタビュー:2015 年 4 月 2 日)

ルビアの弟子の連中は少人数だがグループの核になっている若い物理学者たちの集団で、ルビア と密着しながら仕事をしている。彼らは最も重要な物理的な解析の仕事を自ら担当したり、命じ られたりしている。その誰もが優れた才能を持っており、また野心もある。一応は、解析の分野 の仕事につきたい人は誰でも、この活発なチームの一員に加わることはできる。あるいは、個人 でやれる仕事がしたければ、UA1 の数千に及ぶテープが入れてあるテープをチェックして、自分 の興味あるデータを選び出すプログラムを書くこともできる(トーブス, 1988, p.199)。

競争

競争

X 氏は、発表時間が限定され大枠の質問しかされない国際学会よりも、詳細に まで質問が及ぶプレリミナリーの審査の厳しさについて語った。PWG やプレリミ ナリー取得の場において、PHENIX グループ全体に公開された状態で、個人の意 思にもとづいて、個人としての報奨を目指して研究成果を競っているのである。

競争が激しく繰り広げられると、テーマの異なるデータ解析を進めている PHENIX グループメンバーにも噂のような形で伝わるようである。PWG の場で繰 り広げられた競争の具体例を、複数のインタビューやインフォーマルな会話で 聞いた。

3.8 節で詳しく記述するが、PHENIX グループでは検出器の製作・アップグレ ード、検出器の運転・各サブシステムからのデータ収集、実験データ生成、デー タ解析、データ解析結果承認、論文執筆、論文発表承認の段階を経て論文を発 表する。この全てのプロセスに、PHENIX メンバーならば誰でも参加でき、グル ープ内にデータ等は全て公開されている。メンバーの義務は、RHIC 運転中(ラ ン)に年 1 回 1 週間のシフトを取ることだが、シフトを取るとその年のランで 収集したデータによって産み出される論文の著者に自動的になる。ただ、ここ で他の科学研究の慣例とやや異なるのは、論文著者の掲載順はアルファベット 順のため、貢献度は外部からは判断することができない、ということである。

内部では、検出器等のサブシステムの製作やアップグレードの作業、サブシス テム専門家としてランの間に検出器運転を実施し、取得データのコンピュータ 解析実施等の追加の作業を行うことで、PHENIX グループへの貢献が認められる。

また、PHENIX グループの内部ウェブサイトでは、論文毎に誰が関わったかが明 示してある。ただし、PHENIX グループの実験結果を学会発表する時と次のポジ ションへ応募する際の推薦状においてのみ、個人の貢献度が PHENIX グループ外 に明示されることになっている。

グループ内では、所属機関の予算負担やグループ在籍年数等には全く関係な く、あくまでも物理研究の内実での勝負なのである、つまり、PHENIX 内での自 由競争だとメンバーが納得できるように、執行部は気を遣っている、とインタ ビューでは語られていた。グループ内の誰にでも良い研究成果を出せるチャン スがあるとなれば、多くの研究者が集まり、良い競争が生まれ、良い研究成果 に繋がると言う。ただシフトを取るだけ、1 週間の検出器運転当番をするだけ で他の作業をしないメンバーを追放はしないが、メンバーはシフト当番以外に

も自発的に働いてくれることを期待されている。

このように実験を成立させるための協調体制がある一方で、同じ加速器を使 う研究グループ間(PHENIX グループ対 STAR グループ)と PHENIX グループ内研 究者間の二重の競争が存在している。

なお、PHENIX グループ内では物理の興味に従って、重イオン組とスピン組に 分かれている。RHIC は、クォーク・グルーオン・プラズマの境目を探るために エネルギーを下げてきている。重イオン組は、エネルギーを下げた実験をした い一方、スピン組は偏極陽子の高エネルギーをやりたいという希望があるが、

限られた実験期間の配分で競争がある。重イオン組の人数が多いので、スピン 組は若干立場が弱い。

STAR グループにおいても重イオン組とスピン組に分かれていてスピン組が少 数派なので、情報交換や RHIC に対する色々な要望をまとめることなどを目的に、

グループの枠組みを越えて情報共有などの協力をスピン組同士で行っている。

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