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生産論派のサービス研究の視点一1990年以前を中心に

ドキュメント内 HERMES-IR : Research & Education Resources (ページ 124-139)

第3章  サービス提供システムの説明理論とその新展開

第2節  生産論派のサービス研究の視点一1990年以前を中心に

2・1 Gutenberg生産論の理論体系の全体像

 生産卵塔のサービス研究は、本流である製造業の生産論から枝分かれする形で登場する。

その起点となっているのが、Gutenberg教授の生産論である。そのため、 Gutenberg教授 の流れを汲む製造業の生産論3もサービス組織の生産論4も共通の理論体系を土台としてい る。Gutenberg教授の理論体系の登場とその内容について、尾畑[1999,217頁]は以下のよ うに記述している。

「グーテンベルクは、1951年頃『経営経済学原理 第1巻 生産論』を刊行した。この本 の第1部で、生産要素の体系が論ぜられ、第2部門「結合過程」において、生産要素の結 合法則が論じられた。この結合過程の部分が、生産理論と原価理論であり、従来の原価理 論とはまったく異なった発想のもとに構築され、ドイツ経営経済学に新風を吹き込んだ。」

 尾畑教授が論じているように、Gutenberg教授の生産論は、生産要素体系論、生産・原 価理論という2つの構成要素がそのメルクマールとなっている5。以下、この2つの部分で

どのようなことが議論されているかを概説し、彼の理論体系の全体像を整理したい。

 Gutenberg教授の理論体系では、まず生産要素体系論によって生産プロセスに投入され る原材料、労働力、設備などの直接的資源と、生産プロセスを管理する経営管理者のよう な間接的資源が識別される。前者は基本的生産要素(Elementarfaktoren)、後者は経営管 理的生産要素(dispositiven Faktoren)と呼ばれる。そして、基本的生産要素が投入され ることによって生産物が生み出されるというIPO関係が議論される。

3その代表的なものとして、Munchen大学で教鞭を取っていたEdmund Heinen教授の生 産論があげられる。なお、彼の著著には『経営経済学的原価論(Betriebswirtschaftliche Kostenlehre)』というタイトルが付されているが、その内容は基本的にGutenberg教授の 生産論の理論体系に従っている。そのため、彼の生産・原価理論は生産論と解しても問題 ないと筆者は考えている。

4本論文でいうサービス生産論もしくは生産論判のサービス研究には、個別業種のサービス 生産論を含んでいない。個別業種のサービス生産論は、製造業の生産理論を参考にはして いるが、基本的に業種もしくは職能に特化した独自の生産理論を展開している

(Corsten[1990,S.121・122.])。業種に焦点をあてたものとして銀行業、保険業、運輸業、

大学などの生産理論があり、職能に焦点をあてたものとして研究開発、メンテナンス、情 報などの生産理論がある(S.122・167.)。なお、初期の生産論派のサービス研究は、主とし てBuddeberg商業論、 Diederich運輸論、 Farny保険論、 Machlup研究・開発論を参考に

している。

5「第3部 経営体のタイプを決定する要因」はマクロ組織論と関連した記述であり、生産 論(生産要素体系論と生産・原価理論)の補足部分という位置付けにあると筆者は考える。

そのため、本論文では生産論の構成要素として取り上げない。

 Gutenberg教授の理論では、労働力や設備のような、生産量に対して固定的な資源が費 消関数を構成し、費消関数の連鎖として生産物が生み出されるという生産プロセス観がと

られる。つまり、原材料のような生産量に対して変動的な資源が生産プロセスの小単位で ある費消関数に投入され、そこで「結合」がなされ、中間生産物が生み出され、中間生産 物は次結合のインプソトとなり、それら一連の生産活動の結果として最終生産物が生み出

されると考えるのである。

 さらに、生産物を生み出すために犠牲となった変動的資源の総量:は費消関数を基礎に関 数的に表現され、この関数に資源の単価に関する関数を乗じることによって原価関数が導 出される。そして以下、原価関数を基礎として原価作用因の分析、固定費の理論、適応の 理論が展開される。

 このように、生産要素体系論にはじまり、一連のつながりをもって議論が展開されてい くのがGutenberg教授の生産論の特徴である。なお、生産プロセスのアウトプットである 生産物に関しては、特別な体系化や説明はなされていない。それは、製品や仕掛品のよう な加工された財貨が生産物であるという前提があるためである6。

 Gutenberg教授の生産論の理論体系は図表3・1のように描写できる。この図でいう生産 モデルと生産関数が生産理論の領域である7。1970年ごろからはじまる生産論派のサL一一一ビス 研究は、この生産要素体系論と生産・原価理論という2つの領域を中心に、サービス組織 一般に適合するような生産論を構築しようとする試みであった。

図表3−1 Gutenberg生産論の理論体系

生産要素体系論

生産モデル

生産関数

原価理論(原価作用因の分析、適応方法の検討、原価経過の説明)

6Gutenberg教授の理論に関する以上の記述は、溝口・高田訳[1957]、 Gutenberg[1983]、

尾畑[1992,1996,1998,1999]を参考に筆者が整理したものである。

7生産モデルは生産理論の基礎となる概念モデルであるが、Gutenberg教授の生産論では、

制限性(Limitationalittit)の概念をもとにした多工程・単一製品の生産モデルが構築され ている(Ellinger und Haupt[1982.S.202・203」)。ここでいう制限性とは、生産要素間の関 係性に関するもので、他の生産要素の投入量を固定してしまうとある生産要素の投入量を 増やしただけではアウトプットが増えない関係のことをいう。その対立概念として、伝統 的な経済学の生産関数が前提としている代替性(Substitutionalitat)の概念がある。

2・2 生産論派のサービス研究の原点

 生産別派のサービス研究は、Gutenberg教授の理論を基礎に、サービス組織一般に適合 する生概論さらには一般経営経済学を議論してきた。その出発点は、現在Worms専門大学 で教鞭をとるRudolf Maleri教授の博士号請求論文にある。彼は1970年に、『サービス生 産の経営経済学的問題』というタイトルの博士号請求論文を提出する。そして、保険論で 著名なFarny教授と映画産業を研究していたBergner教授が彼の論文の審査員を務めた。

 Maleri[1970]は、ドイツ経営経済学においてサービス組織一般にあてはまる生産論を議論 する専門文献として最初のものであった。そのため、Maleri教授はこの論文を書くにあた

り、国民経済学でサービス産業を取り上げた文献や個別業種のサービス研究などを中心的 に参照するしがなかった。そして、参照可能な文献の少なさから、全体の文量はわずか150 頁ほどであり、その内容も概念の不安定性や説明の曖昧性が存在していた。彼の論文の構 成は以下のとおりである。

図表3・2Maleri[1970]の構成

第1章 総論

 1 経済財としてのサービス

 2 サー一・・ビス特有の属性

 3 サービスの概念と領域  4 サービスの類型化

 5 実際の経済におけるサービス

第2章 サービス生産の工場的な分析  1 要素結合としてのサービス生産  2 サービス生産特有の生産要素  3 要素結合の原理

第3章 サービス生産の職能別分析  1 はじめに

 2 調達職能  3 給付産出職能  4 販売職能

 Maleri[1970】の主眼は、サービス生産を経営経済学でどのように取り扱うべきかを論じる  ことであった。このことが中心的に扱われているのが「第2章 サービス生産の工場的分 析」である。彼はこの部分で、Gutenberg教授とHeinen教授の生産論を大いに参考とす る。具体的には、企業経営を生産要素の結合プロセスとするGutenberg教授の観点に従っ て、Heinen教授の生産要素体系一反復要素と潜在要素の分類geのもとにサービス生産要素

体系を議論している(S.70 83.)。

 Maleri教授のサービス提供システム観は以下のとおりである9。サ・一一・一ビス生産とは生産要 素の結合プロセスである。しかしながら、サービス生産では、工場と異なる点がいくつか ある。まず第1に、典型的なサービス生産ではサービス組織に所有権のない外部要素  (externe Faktor)が関与することである。そのため、サービス生産要素体系では、内部生

産要素と外部生産要素を認識するべきであるlo。第2に、サービス生産における結合には、

外部生産要素が投入されるものと投入されないものがあることである。そのため、両者は  「提供準備の生成(Herste11ung der Leistungsbereitschaft)」と「最終結合  (Endkombination)」として明確に区分されるべきである。そして、この2つのタイプの

結合が連鎖した結果としてサービスは生産される。

 以上のように、Maleri[1970]はサービス提供システムを結合の連鎖として、つまりIPO 関係で認識した。その一方で、サービス提供システムの最終生産物に関しては、第1章の

「1 経済財としてのサービス」や「4 サービスの類型化」において大括りで取り上げ たのみで、具体的な記述は見られない。つまり、彼はIPO関係でサービス生産を認識して いるものの、1とPの部分の議論に終始しているのである。そのため、彼の生産論には生産 関数は登場しない。

 Maleri教授のサービス提供システム観は、英語圏のサービス・マネジメント論における サービス提供システム観と同じ点と異なる点がある。まず類似点であるが、Maleri教授も 英語圏のサービス・マネジメント論もサービス提供者と顧客を生産者とみなしていること である。これは外部生産要素という発想に表れている。次に相違点であるが、両者の相違 はアウトプソトの認識にある。Maleri教授の用語法でいうならば、英語圏のサービス・マ

8潜在要素(Poten七ialfaktoren)とは、生産プロセスにおいてそのキャパシティ(生産能 力)が利用される労働力や設備といった生産要素のことをいう。一方で、生産プロセスに おいて加工対象となり消費される原材料のような生産要素は反復要素(Repe七ierfak七〇ren)

と呼ばれる。生産要素をその分割投入可能性の観点から分類する考え方は、生産・原価理 論において一般的なものとなっている。この考え方は、Gutenberg教授の生産要素体系論 を拡張したHeinen教授が提案したもので、サービス生産・原価理論にはMaleri教授が取

り入れた(Maleri[1970,S。109・112.])。

9この記述は、Maleri[1970,S.83・126.]を要約したものである。

10顧客や顧客の所有物を生産要素として認識するという考え方は早くから存在し、顧客が 積極的に関与するケースと消極的に関与するケースも指摘されていた(Fuchs[1968]など)。

そういった意味で、Maleri教授の貢献はドイツ経営経済学における生産要素体系論を外部 生産要素の観点から拡張したことにあるといえる。

ドキュメント内 HERMES-IR : Research & Education Resources (ページ 124-139)