第2章 サービス提供システムの源流管理
第3節 サービス・ブループリンティング研究
3・1 サービスの源流管理
近藤教授がいう「活動としてのサービス」概念は、その生成当初から源流管理の考え方 と密接に結びついて議論が展開されてきた。1981年会議で明確化された「サービスはプロ セスである」という考え方がサービス・デザイン分野で発展していったという歴史的事実 がこのことを物語っている。そこでは、いかにしてサービスの不均一性を抑えるか、いか にしてよりよいサービスを提供するか、いかにしてサービスの生産卜生を高めるか、といっ た問題意識からサービス開発の方法論に関する議論がなされた。
こうしたサービスの源流管理の議論において、サービス・ブループリンティングという 活動志向のサービス提供システム設計技法がごく頻繁に登場する。そして、サービス提供
システムを設計・診断・改善するための技法として高い評価を受けている。例えば本論文 で取り上げてきた、戦略的サービスビジョン(Heskett[1986])やサービス・プロフィソト・
チェーン(Heskett e七al[1997])の議論の中でも、サービス・ブループリンティングは高い 評価を受けている。また、コンサルタントとしてサービス組織の経営管理問題に1980年代 前半から取り組んできたK:arl Albrecht氏が提案する、サービス・トライアングル24
(Albrecht and Zemle[2002])の議論の中でもサービス・ブループリンティングは高く評価 されている。本節では、サービス・マネジメント論におけるサービス・デザイン分野の中 核技術として発展してきたサービス・ブループリンティング研究を詳しく取り上げたい。
本節は2つの部分から構成される。前半部は、サービス・ブループリンティング研究の 史的展開を整理する。その際の軸として、縦軸の役割軸と横軸の時間軸に注目したい。そ の理由は、それらがサービス開発の際に考慮すべき諸要因を示していると考えられるから である。次に後半部において、サービス・ブループリンティング研究の史的展開を総括し、
そのエッセンスを整理し、サービス・ブループリンティング研究の限界と今後の課題につ いて考察を行いたい。この部分の考察は、第3章以降で議論するサービス原価企画の議論 と密接に関係してくるものである。
24サービス・トライアングルとは、彼らの著作の中で1985年に紹介された成功するサービ スのための主要3要因のことである。その3要因とは、サービス戦略、サービス提供シス テム(Systems)、従業員(People)である。これらの3要素を標的顧客のニーズに報った 形で準備し、サービス提供するべきであると彼らは主張する。
3・2 サービス・ブループリンティング研究の概要
これまで取り上げてきたように、サービス・マネジメント論とサービス組織の原価計算 研究は、サービス提供システムを活動プロセスという観点から体系化している。特に、前 者に関してはABCが、後者に関してはサービス・ブループリンティングが、サービス提供 システムを活動プロセスとして認識してきた。しかしながら、両者の間には大きな問題意 識の違いがある。ABCがより正確な製品原価の計算を志向して誕生したのに対し、サービ ス・ブループリンティングはサービス提供システムを設計するツールとして誕生したもの
である。
サービス・ブループリンティングは、前述の1981年会議において初めて紹介された。以 降、サービス・マネジメント論の主要なテーマの1つ、サービス・デザインに関する議論を 行う上で欠かせない技法として、アメリカを中心にゆうに50を越える専門文献で取り上げ
られてきた。サービス・ブループリンティングを取り上げた海外の代表的な文献は、図表2・4 のように分類できる25。
図表2・4 サービス・ブループリンティングを取り上げた海外の代表的な文献
取上げ方
、究の焦点
サービス・ブループリン eィングを定義(再定義)
オている文献
サービス・ブループリンティ 塔Oをもとにした議論を展開 オている文献
その他
i技法の有用性にのみ触 黷トいる文献など)
サービス・デザイン
Shostack[1981,1984a,1992]
jingman−Brundage[1989a]
kovelock and Wirtz[2004]
Lovelock[1984]
rhostack[1984b,1987]
j1ngman−Brundage[1993,1995]
jingman−Brundage et a1[1995]
yeithaml and Bitner[2003]
Heskett[1986]
eisk et al[1993,1995]
borsten[2001]
̀】brecht and Zemke[2002]
rcheuch[2002]
サービス品質管理
Shostack[1985]
jingman−Brundage[1989b,1991]
rtauss[1991]
aitner[】993】
kings and Brooks[19981
Wyckoff[1984]
bhase and Haynes[2000]
aieberstein[20011 jotler[20031
lef色rt und Bruhn[2003]
25わが国でサービス・ブループリンティングを詳細に取り上げている代表的な文献は、浅 井[2003]である。浅井[2003]では、サービス・マネジメント論の全体像におけるShostack 氏のサービス・ブループリンティング研究の位置づけという観点からブループリントの解 説がなされている。浅井[2003】は、サービス・マネジメント論のこれまでの研究体系を整理
し、今後の方向性を展望しており、サービス・マネジメント論におけるShostack氏の思想 の位置づけを理解したい場合には非常に優れた文献である。
サービス・ブループリンティングの基本コンセプトは、サービス提供システムを2次元の 平面図に描写することにある。その平面図はサービス・ブループリント(以下、ブループリ ントと略す)と呼ばれ、横軸は時間の経過とともに個々のサービス提供活動がおこる順序 を表現する。一方、縦軸はサービスを提供する上で認識すべき重要な立場や役割を表し、
一連のサービス生産活動を分業する基本単位であるとも言い換えることができる。
もちろん、1つのブループリントによって全ての詳細を厳密に定義することは不可能で ある。ゆえに、重要な活動や重要な失敗点に焦点を置き、一連の活動の全体像を記述する 段階と、それをもとに個別に詳細な行動方法を記述する段階の2段階のブループリンティ
ングが適切であるという主張がなされている(Kingman・Brundage[1989a,p.30.]、
Shostack[1992,p.78J).
縦軸の役割軸と横軸の時間軸という図の構造に注目すると、サービス・ブループリンティ ング研究はShostack氏が創造し、 Kingman−Brundage氏が継承し拡張させ、:Lovelock氏 が体系化を行ったといえる。彼らの用いたブループリントは、サービス組織の活動に特化
したもの(Shostack型)、顧客およびサービス組織の活動とそのサポート体制を統合的に描 写しようとしたもの(Kingman型)、顧客志向でサービス活動を捉えたもの(Lovelock型)、
とそれぞれ特徴を持っている。
サービス生産活動を定義する行動スクリプトやフローチャートは、個々のサービス組織 レベルでは存在していた。サービス・ブループリンティング研究を牽引してきた三者が行っ た研究の本質は、「サービス提供システムを設計するための統一的なフォーマントを提案す る」ということにあったことを忘れてはならない。
3−3Shostack型ブループリント
3−3−1前史一規制緩和とプロダクトの描写(1977年)
前述のとおり、歴史的にサービスに関する議論は主としてマーケティング論で行われて きた。1970年代後半までは、無形性を中心としたサービス独自の性質に焦点をあてた議論 が中心であったが、その中で財貨とサービスの関係を明確に表した論文が1977年に登場す る。Shostack氏の Breaking Free from Product Marketing である。当時シティバンク の副社長であった彼女は、その論文の中で「分子モデル(molecular model)」というプロ ダクトを描写するアプローチを提唱し、プロダクトとしての財貨とサービスの関係を「財 貨とサービスの束」として視覚的に表現しようと試みた(図表2・5)。
彼女が分子モデルを用いて解決しようとしたことは、当時の経営環境における中心的な 問題にあった。当時アメリカでは、サービス産業の規制緩和が短期間で行なわれ、サービ ス組織には生産性の高い、高品質かつ低価格のサービスを提供することが求められるよう になっていた。これは、各種サービスが独立したプロダクトとして社会的に認められ、製
品と同様に市場競争が行われるようになってきたことを意味する。
彼女は自身の銀行業務での実務経験をもとに、サービスを顧客に提供する組織は、この トレンドに迅速に対応し、新しい経営環境である競合他社とのサービス競争に勝っために、
自社のプロダクトを「財貨かサービスか(product vs. service)」という either・or の関係で 捉えるのではなく、「財貨とサービスの結合体(combinations)」として捉える必要がある
と主張する(Shostack[1977,pp.73・74.])。そして、この要求に答え、「プロダクトの全体像
(atotal market entity)を可視化し、管理するチャンスを与える(p.74.)」実用的なツー ルとして分子モデルを提唱したのである。
図表2−5 分子モデル
航空乗客輸送企業 自動車製造企業
流通 流通
地上
サービス
馬 子
・…
輸送 }一一ii機内 サ■ビス
狽煤h;
価格
輸送
車体
○有繍
ポジショニング
れ
ション
価格
ポジショニング
無形要素 出所:Shostack[1977a,p.76.]
ここで注意すべきことは、分子モデルでは時間軸が全く考慮されていないことである26。
一般的にサービスには財貨の販売のような一時点的形態をとるものもあれば、映画鑑賞や 旅客輸送のような継続的形態をとるものもある。さらに、医療機関のように、一時点的形
26山本[1999,61・64頁]やLovelock et a1[2002,pp.215・218.]では、このことを指摘し たうえで時間軸を考慮した分子モデルを描写している(前者は医療、後者はホテルを例と している)。両者の図の構造は非常に似通っており、横軸に時間軸を取り入れて分子モデル を拡張したものとなっている。