• 検索結果がありません。

生産論派のサービス研究の評価

ドキュメント内 HERMES-IR : Research & Education Resources (ページ 141-147)

…コ

第4節  生産論派のサービス研究の評価

4−1 史的展開の総括

 生産論派のサービス研究は、Gutenberg教授の理論を歴史的に受け継いできた。それら の研究は、サービス提供システムを工場のアナロジーでIPO関係で捉え、生産要素体系論 を基礎にサービス提供システムを観察している。このGutenberg的な研究アプローチは、

英語圏のサービス・マネジメント論にはあまり見られない独特のものである。

 しかしながら生産論派のサービス研究は、Gutenberg生産論を継承しているがために、

IPO関係でサービス提供システムを認識することに固執してしまっていた。一方で、サー ビス生産のアウトプットを特定することはしばしば困難である。そのため、生産論派のサ ービス研究は、サービス生産という経営現象を説明するための理論として大きな矛盾を抱 えていた。Maleri、 Carp、 Berekoven、 Altenburger、 Corsten達は、この矛盾を解決する べくアウトプット測定の困難性を叫んだり、生産関数を構築する必要がないことを正当化

しようとしたりしたが、生産論派のサービス研究のドイツ経営経済学における地位は向上 することはなかった。

 こうした状況の中、Corsten教授は生産墨入のサービス研究の方向性を変更する決断を下 す。彼は1991年以降、英語圏のサービス・マネジメント論を大きく受容し、また、マーケ

27ドイツ語圏のコントローリング研究では、原価企画とプロセス原価計算:は密接に結びつ いたものとなっている。わが国や英語圏の原価企画研究においては、原価企画の対象は直 接費領域を主な対象として理論化されている。一方ドイツ語圏の原価企画研究では、間接 費領域についても原価企画の対象とし、プロセス原価計算:によってその実施を支援するフ レームワークが一般的なものとなっている。ドイツ語圏における原価企画の受容と展開に ついては、尾畑[2000]が詳しい。

ティング論派のサービス研究ともさらなる歩み寄りを図る28。そしてその結果、彼は英語圏 のサービス・マネジメント論を受け入れながら、その一方で生産論派のサービス研究の蓄 積を可能な限り継承し、ユニークな理論体系を構築するに至る。そして現在では、彼のサ ービス・マネジメント論に内在する生産論的思考は、生産一派のサービス研究(例えば Maleri[1997】)だけでなく、マーケティング論派のサービス研究者も一般的に参照するほど の共有知識となっている29。

 ここで注意すべきことは、Corsten教授がサービス生産・原価理論自体には否定的な見解 を持っていることである30。彼は、少なからず恣意的にならざるをえないサービス提供シス テム全体の関数表現には全く固執していない。Corsten[2001]は周辺知識として過去の生 産・原価理論研究について大いに取り上げる一方で(S.119−146,188−248。)、自身の理論体 系においてはサービス組織の経営管理を考えるうえで有用となり、かつ関数表現に妥当性 がある部分でのみしか関数的な観察方法を採用していないのである31。

28Corsten教授は、マーケティング論派のサービス研究との歩み寄りも積極的に行ってい る。例えば本稿で取り上げたCorsten[199ユ,1994]が掲載されているDienstieistungs quallta tとDienstノθistungsρroduA tionは、 Bruhn、 Hilke、 Staussのようなマーケティン グ論派のサービス研究者と彼との協働の成果である。

29例えば、本章で焦点をあてたCorsten教授の「活動の外部化」概念は、 Bieberstein[2001,

S.158 161.]. Scheuch[2002,S.70,183 185.], Meffert und Bruhn[2003,S.50 55,375 376]

で取り上げられている。

30Corsten[2001]は、生産理論と生産関数をほぼ同じものとして扱い、自身の理論体系の中 で生産・原価理論という表現を全く使っていない。また彼は、1990年の時点ではサービス 生産・原価理論の構築に対してわずかながらも興味を示していたが、その困難さからか、

現在ではあきらめてしまったようである。

 彼は過去のサービス業の生産・原価理論を振り返った結果、「(サービス生産関数の)発 展レベルは、(一般化した)サービス生産理論とはいえないものである。(S.247.,括弧内は 筆者が加筆。)」と述べている。加えて、Corsten[1990]では存在した「先行研究で明らかに なったのは、今後、サービス企業のための全く新しい生産理論を開発する必要はないこと である。むしろ、利用可能なアプローチのギャップを取り除き、適切な補完や修正を施す べきであるように思われる。(S.168.)」や「(サービス生産モデルは状況によって異なるた め)生産関数はモジュラー構造を持つべきである。(S.170.,括弧内は筆者が加筆。)」といっ たサービス生産・原価理論の未来を期待する記述がCorsten[2001}では完全に削除されてい

る。

31これに対して、Bode[1993]は情報の生産という観点からサービス組織一般にあてはまる 生産理論を構築しようと試みている。また、Steven[1998]は、サービス組織にもあてはま る分析的な生産関数を構築しようと試みている。こうした試みは、ドイツ語圏における代 表的な生産・原価理論の専門書であるSteffen und Schimmelpfeng[2002]ではわずかながら 紹介されているものの、Corsten教授の一連の研究と比べると現時点ではその影響力は小さ い。だが、今後これらの研究がどのように展開していくかを注意深く見守っていく必要が

ある。

4 2 Corstenサービス・マネジメント論の評価

 Corsten教授の学説は、 Gutenberg教授の生産論およびそこから派生したサービス生産・

原価理論の蓄積を大きく継承している。図表3・8に示されるCorsten教授の理論体系には、

生産要素体系論からの一連のつながりというGutenberg的思考と、多段階生産モデルを基 礎に各論を議論するという生産論派のサービス研究の思考が生きているのである。

 Corsten教授のサービス・マネジメント論は、説明が不十分な箇所があり、また重複した 記述もあるなど、今後さらに洗練されるべき余地が残っている。しかしながら、生産論的 思考を可能な限り継承した彼の学説は、少なくとも以下の点で意義あるものと考えられる。

(1)生産論とサービス・マネジメント論の融合

 生産論派のサービス研究は、英語圏のサービス・マネジメント論にはあまり見られない 研究アプローチをとっている。生産論派のサービス研究は、サービス提供システムを工場 のアナロジーで生産プロセスとして観察することを重視する。具体的には、生産要素体系 論を基礎に、サービス提供システムにおける諸生産要素の消費・利用の側面を強調して議 論するのである32。

 一方、英語圏のサービス・マネジメント論は、高品質のサービスを安定的に提供するこ とが出発点となる傾向にある。つまり、「高品質のサービスとは何か?⇒高品質のサービス を安定して提供する方法は?」という論理で議論が展開されるのである。こうした成果重 視の傾向は、サービス・ブループリンティング研究からサービス品質研究やサービス・プ ロフィット・チェーン研究まで、英語圏のサービス・マネジメント論の主要テーマに広く 見られるものである。

 1990年代はじめまで、サービス研究に関するこれら2つの流れは、ほとんど完全に独立 した領域として研究されてきた。Corsten教授は1991年以降、それまでの状況を大きく転 換させる33。彼はサービス組織の経営管理の側面を強調するために34、生産論派のサービス 研究を英語圏のサービス・マネジメント論と関連付けようと歩み寄った。従来の生産論派 32例外としてCarp[1974]があげられる。彼は、サービス活動の対象(ヒト、モノ、情報、

名目財)と活動対象にもたらす成果属性(対象自体の属性、空間的属性、時間的属性)と いう2次元から業種・業態を類型化し、その類型化を基礎に適切な経営のあり方を考察し ようとしている。そのため、彼の生産要素体系論はサービス提供を実施する手段として補 足的に議論されているにすぎない。

33一方、ドイツ語圏におけるマーケティング論派のサービス研究も、このころから英語圏 のサービス・マネジメント論との融合の動きが特に顕著となる。その代表的な人物はBernd Stauss教授である。彼はドイツ語圏におけるサービス品質研究の第一人者で、ドイツ語圏

に英語圏のサービス・マネジメント論の研究成果を取り入れるとともに(例えば

Stauss[1991])、英語圏のサービス・マネジメント論にもその研究成果を報告している(例 えばStauss and Weinlich[19971)。

34Corsten[1997]の序文では、サービス企業の経営上の問題(生産性問題、キャパシティ問 題、原価管理の問題、品質管理の問題)が実務において非常に重要となっており、これに 応じて構成を変更した旨が記されている。

のサービス研究では、サービス組織の経営上の諸問題を包括的に取り扱うことが困難だっ たからである。

 こうして生み出されたCorsten教授の学説は、ドイツにおける生産論研究の蓄積の、特 に生産要素体系論と生産理論の部分を成果重視のサービス・マネジメント論と有機的に融 合しようとしている点で意義あるものである。生産論派のサービス研究と比較して、英語 圏のサービス・マネジメント論はサービスの成果の側面に偏向しており、生産要素の物理 的特性および消費・利用の観点が不十分である。そのため、英語圏のサービス・マネジメ ント論において原価管理の議論は十分になされてこなかった。Corsten教授の学説は、英語 圏のサービス・マネジメント論の「偏り」のバランスをとる試みとして評価できる。

(2)サービス原価企画研究へのインプリケーション

 Corsten教授の革新的な理論体系のもとで生み出されたサービス原価企画の考え方は、今 後の原価計算研究にとって意義あるものである。現在のところサービス原価企画は、原価 計算研究において理論的に体系化がなされておらず、さらには実務での利用状況さえも明 らかになっていない未知の分野である。Corsten教授はこの未知の分野に対して、自身のサ ービス研究の成果と製造業において一般化された原価企画研究を結びつけるというアブn 一チで、コンセプチュアルにそのあるべき姿を導いている。

 これは、本稿で取り上げてきたように、彼がGutenberg教授の生産論およびそこから派 生した生産論派のサービス研究の思考を受け継いできたからこそたどり着いた研究成果で ある。そして、今後のサービス原価企画研究の方向性を示す有力なものであると思われる。

それは以下の理由による。

 現在の経営学におけるサービス研究において、サービスを活動の視点から認識すること が主流となっている。この見方からすると、サービス・デザインとはサービス提供システ ムにおける一連の活動を設計することであるといえる。つまり、サービス・デザインの段 階で行われるサービス原価企画は、一連の活動を設計しながらそのコストを作り込むこと を意味する。活動を設計しながらコストを作り込むことを考えると、サービス原価企画に おいて「活動の外部化」概念を適切に応用すべきであるとするCorsten教授の主張は、論 理的に正しい見解であると考えられる。

 以上の2点は、Corsten教授の学説の今後のサービス研究および原価計算研究に対する意 義であったが、一方で、彼の研究にはいくつかの限界がある。これらはCorsten教授自身 やその他の研究者の今後の課題となろう。

 まず、彼の学説がドイツ語圏を中心に展開されている点である。英語圏のサービス・マ ネジメント論とド イツ語圏の生産論派のサービス研究を融合した研究成果は、英語圏でも 紹介され、評価を受けるべきである。英語圏のサービス・マネジメント論の「偏り」のバ

ランスをとる試みとして意義あるCorsten教授の学説は、英語圏のサービス・マネジメン

ドキュメント内 HERMES-IR : Research & Education Resources (ページ 141-147)