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サービス組織と原価企画活動

ドキュメント内 HERMES-IR : Research & Education Resources (ページ 150-167)

第4章  サービス組織の原価管理

第3節  サービス組織と原価企画活動

3・1 従来の原価企画

 原価企画は、製造業スペシフィックな活動として体系化が進んでいる。原価計算論の専 門書では、一般的に以下のような説明によって原価企画は定義される。

「原価企画とは、新製品開発にさいし、商品企画から開発終了までの段階において、目標 利益を確保するために設定された目標原価を作り込む活動のことである。一般的には原価

企画は新製品原価企画を指しているが、新製品であれ、既存製品であれ、新設備の企画か ら稼動までに、その製品の目標原価を作り込む活動を、とくに新設備原価企画ということ

がある。(岡本[2000,856頁])」

 そもそも原価企画活動は、製造業スペシフィックな活動なのであろうか?サービスとい う無形の経済財に対しても、サービス開発・事前準備・オペレーションというプロセスは 存在し、サービス開発段階において原価および利益を作り込むことが、製造業のそれと同 様にもしくはそれ以上に有用となるのではなかろうか?

 しかしながら、歴史的に原価企画は、日本の主要製造業企業とともに発展を遂げてきた。

そして現在、原価計算論において、原価企画は製品を主な対象とした総合的利益管理活動 として体系化が進んでいる。ここでは、従来の原価企画研究のレビューを基礎に原価企画 のあるべき姿を論じている日本会計研究学会{1996]を中心に、まずこのことを確i記しておこ

う。

3・1・1 原価企画の生成、発展、伝播

 原価企画という用語が生み出され、製品開発プロセスで原価・利益を作り込む活動の意 として用いられるようになったのは、わが国製造業を代表する自動車産業においてであっ た。そして、1960年代を通じて、原価企画は自動車産業の原価管理技法として発展してい

く。原価企画活動の生成事情について、日本会計研究学会[1996]は以下のように記述してい

る。

「日本での原価企画活動の源流は、バリュー・エンジニアリング(VE)がアメリカより導 入された1960年代初期に遡ることができるであろう。…  トヨタ自動車は1962年にVE を導入した。そして、1963年に原価企画を同社における原価管理の3本柱(原価維持、原 価改善、原価企画)の1つに位置づけたのが原価企画という用語の始まりであるとされて いる。同社では、1965年頃新車開発にあたり計画段階でコストを作り込む目的で、当時の 車両担当主査を中心に原価検討が行われた。その後、「原価企画実施規則」を制定したり、

原価企画の推進手順とその担当部門を規定して組織活動としての定着化が図られ、1969年 頃には自社内だけではなく協力企業と一体となった原価企画活動が展開されるようになっ た。また、日産自動車においてもほぼ同様な経過をたどってきている。同社では原価企画 に相当するものを新車開発原価管理と呼び、これを1966年の新車開発設計時点から適用し

ている。(1頁)」」

 以上のように、原価企画は1960年代にわが国のいくつかの自動車企業において試行錯誤 の末に生成・発展してきた経緯を持つ。この時期の原価企画活動は、「開発後期の試作段階 以降の目標原価管理(日本会計研究学会[1996,2頁])」の色合いが強いものであったが、「目

標販売価格の設定→目標原価の設定→原価低減目標の割付」という原価企画の基本的枠組 みは既に取り入れられていたという(田中[1994,12頁])。

 そして1970年代に入って、原価企画活動はさらに洗練されていくとともに、自動車産業 だけではなくその他の産業にも展開されていく。原価企画活動のその後の発展および伝播 について、日本会計研究学会[1996]は以下のように記述している。

「1970年代に入って、自動車メーカーでは、車種グループ全体を対象として原価企画活動 が展開されるようになったが、その頃になると、電機、機械、精密機器等においても原価 企画活動が普及していった。この普及には、自動車メーカーと頻繁な取引を行っていたサ プライヤーを通じての伝播、及び自動車メーカーでの先進事例を学んで導入したという2 っの経路が挙げられる。… 1970年代の後半になると原価企画の概念も変化し、たんなる 原価低減ではなく、目標利益の確保を目指した活動へと意識が拡大されるようになった。

それと同時に、原価企画の対象範囲は、開発・設計の前段階(製品コンセプト設計・売価 設定)や後段階(初期流動管理)をも包括するようになった。(2・3頁)」

 いくつかの自動車企業で生成し、製品開発プロセスにおける組織ルーチンとして定着す るに到った原価企画活動は、1970年代に入って自動車産業以外の加工組立型産業に伝播す る。そして、1970年代後半には、原価企画活動は目標利益の確保を目指した利益企画へと 発展していく。その一方で、この頃からトヨタ自動車では、原価企画活動はさらにその適 用領域を拡張する。従来の原価企画活動は主として設計部門の活動であったが、1980年代 前後から生産技術部門を中心に設備投資企画が行われるようになる。また、f特別プロジェ

クト方式による原価企画(岡野[2002,113頁])」という新たな取り組みも導入されるように

なる1。

 1980年代に入ると、第2次石油危機2後の物価安定を志向するトレンドの中で、原価企画 が目標利益と目標原価を達成する新しい管理方式であるという考え方が自動車産業以外の 製造業でも一般的なものとなっていく (日本会計研究学会[1996,3頁])。当時の日本経済を 回顧している経済企画庁編[1997,203・206頁1によると、この時期の日本経済は第1次石油 危機の教訓をふまえた物価対策が功を奏し、国内卸売物価の上昇率と消費者物価の上昇率 が先進主要国の中で最も安定した推移をみせていた。その理由の1つとして特に製造活動 に関して、「サプライサイドにおいて、コスト上昇を価格に転嫁することを最小限に止める ための相当の努力がなされ、原材料コストの上昇圧力を相当程度吸収した。さらに、賃金 上昇率の安定的推移により、物価上昇と賃金上昇の悪循環に陥らずに済んだ。(205頁)」と いう。当時の日本経済のこうした状況を鑑みると、「コスト上昇を価格に転嫁することを最

1トヨタ自動車における原価企画活動の展開については岡野[2002]を参照されたい。

2イラン革命に伴い、1978年末に同国は石油の輸出を全面的に停止した。これを契機に原油 価格は急速に高騰し、世界経済は再び石油危機に見舞われた。

小限に止めるための相当の努力」のために、目標利益と目標原価を達成する新しい管理方 式である原価企画活動が自動車以外の製造業でも大いに必要とされ、利用されたことが臥 せられる。

 さらに、プラザ合意後の急速な円高や日米貿易摩擦といった日本経済を取り巻く競争環 境の変化と制約の中で、1980年代後半から1990年代初頭にかけて原価企画はさらに多く の企業で採用されるようになる(日本会計研究学会[1996,4頁])。東証一部上場の全製造業 を対象に郵送質問票形式で原価企画の実施状況を調査した神戸大学管理会計研究会[1992]

によると、加工組立型産業(機械、電機、輸送用機器、精密機器)では調査回答企業の80%

前後の企業が何らかの形で原価企画活動を実施していた。加えて、「これまで原価企画にあ まり馴染まないと思われていた装置型産業(日本会計研究学会[1996,4頁])」においても、

少数の企業で原価企画活動が採用されていたことが明らかとなっている。

 1980年代後半から1990年代初頭にかけて、アメリカでは製造業のリストラクチャリン グが強く要求され、その中でABCが提唱され、実務への導入が進んでいった。同じ頃、安 定成長を見せていたわが国では、総合的利益管理活動としての原価企画が広く注目され、

製造業全般にわたりその適用が試みられていたのである。

 一方でABCは、第1章で取り上げたように、その登場以降非製造業にも適用可能な経営 管理用具であるという認識が広く浸透し、実務における導入が進むと共に、サービス組織 の原価計算研究という大きな流れを生み出すきっかけとなった。それに対して原価企画は、

伝統的な製品原価計算がかつてそうであったように、むしろ製造業スペシフィックな活動 として取り扱われてきた。この点をより詳しく明らかにするために、次項では、日本会計 研究学会[1996]が整理し、そのあるべき姿として提示している原価企画を取り上げる。

3・1・2 日本会計研究学会[1996】が提示する原価企画の「あるべき姿」

 日本会計研究学会[1996]は、「原価企画が、さまざまな発展段階を経ながらも、究極的に は、一定の「あるべき姿」に到達するであろうと考えており、その「あるべき姿」のなか に普遍的な原理が見出される(まえがき2頁)」という認識のもと、従来の原価企画研究に もとづいて原価企画の理想像を整理している。

 日本会計研究学会[1996]は、まず、原価企画のあるべき姿を「製品の企画・開発にあたっ て、顧客ニーズに適合する品質・価格・信頼性・納期等の目標を設定し、上流から下流ま でのすべての活動を対象としてそれらの目標の同時的な達成を図る、総合的利益管理活動

(23頁)」と定義する。そして、「もっとも、ここでいう原価企画の「あるべき姿」という のは、本報告書で考える原価企画の本質についての最終的な理解を示すものではない。論 理的必然性をもってそこまで進むであろうというのは、あくまで1つの仮説であって、今 後の研究の積み重ねや原価企画の今後の展開から、原価企画がそのような発展可能性を有

しないことが分かれば、原価企画の本質についてあらためて検討し直す必要がある。(25 頁)」としながら、原価企画のメルクマールとして、(1)クロスファンクショナルな製品

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