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サービス組織の原価計算研究一ABC以前の展開

ドキュメント内 HERMES-IR : Research & Education Resources (ページ 34-49)

3・1ABC以前の非製造活動における原価計算研究の概要

 ABC以前の原価計算論においても、非製造領域に焦点をあてた研究は多数存在する。ABC 以前の非製造業領域の原価計算:研究は、大きく3つのタイプに分けることができよう。(1)

製造業の非製造業領域を取り上げたもの、(2)特定業種のサービス組織における原価計算 を取り上げたもの、(3)原価計算のサービス組織に対する適用可能性を包括的に議論した もの25、である。

 製造業の非製造領域における原価計算のあり方を議論するものは、歴史が古く、文献も 多い。このタイプの研究に該当するのは、営業費計算として発展してきた諸研究である。

営業費計算の視点および方法論についてアメリカにおける先行研究を中心に整理している 松本[1959]によると、営業費計算は、製造企業の規模が増大することに伴う販売費・一般管 理費の増加、製品別・販路別・顧客別の収益性分析の重要性の増大、実務における蓄積、

24筆者は尾畑教授とともに、2004年春…に横浜で開催されたCSR(Corporate Social Responsibility)に関する国際フォーラムで、この関係性について報告を行った。その際、

我々はこの関係性をtrigger relationと表現した。

25本章をとおしてわかるように、この時期のサービス組織の原価計算研究は、どのような 原価計算システムをサービス組織で運用するべきかという点が論点となっている。つまり、

経常計算システムとしての原価計算を想定しているのである。このことは後ろで指摘する が、誤解のないよう注意されたい。

不当な価格差別から小企業を保護するための法規定、といった要因により1920年代の中ご ろから第2次世界大戦以前にかけて個別テーマとして議論されるようになったという  (19・48頁)。松本教授が「第4の発展段階」として位置づけているこの時期に、「営業費分

析と予算統制が発展し、標準原価管理が芽ばえ始めてきた(35頁)」のである。そして、第 4の発展段階の諸研究を基礎に、販売費を注文獲得費(costs of getting orders)、注文履行 費(costs of fi11ing orders)、販売管理費(costs of marketing administration)に機能別分 類を行い、原価管理の基礎iとする考え方が全米原価会計士協会の調査報告書(NACA[1951D によって体系化されるにいたる。西澤[1992]によると、この時期に営業費計算研究は隆盛を 迎えたという。

 2つめの研究タイプとして、特定業種のサービス組織における原価計算を取り上げた研 究があげられる。このタイプの研究は、かなり古くから先進国諸国において断片的に見ら れる、特定の業種の事例を中心とする研究である。文献は少数であるが、銀行業(山高[1964]、

Cowen and Melnick[1983]など)、保険業(Altenburger【1975]、小暮[19771など)、海運業

(Cheng[1969]、斎藤[1973]など)など、特定業種における原価概念および原価計算・原価 管理のあり方を議論している。

 最後の研究タイプとして、原価計算のサービス組織一般に対する適用可能性を議論して いるものがあげられる。このタイプの研究は、経済のサービス化が注目されだした頃に議 論がなされだした。3つの研究タイプの中で最も歴史が新しく、その数は非常にわずかで はあるが、サービス組織における原価計算目的を取り上げ、サービス組織一般にあてはま る原価計算モデルを議論している(McDonald and Stromberger[1969]、 Anthony and

Welsch[1977]. Dearden[1978]).

 本論文は、サービス組織一般のレベルの議論に焦点をあてている。そのため、本節では 原価計算のサービス組織一般に対する適用可能性を議論したものを取り上げたい。非常に 文献数は少ないが、このタイプの研究は、サービス組織における原価計算のあり方につい て考える際に考慮すべきいくつかの重要なインプリケーションを与えてくれるものである。

 なお、彼らの研究はABCが登場するまでは黙殺された形となり、ABC登場以降はほと んど完全に無視された状態になっている。しかし、今後さらにサービス組織の原価計算研 究が発展していくためには、忘れ去られた過去の研究成果についてもその歴史的な展開の 中での位置づけ明らかにし、将来のよりよい研究への素材とすべきであると筆者は考えて

いる。

3−2 原価計算のサービス組織一般に対する適用可能性を議論した研究 3・2−1 専門サービス業と原価計算

 世界の主要ジャーナル26を見渡してみて、原価計算のサービス組織一般に対する適用可能 性を議論した研究で最も古いものとしてあげられるのは、Harvard Businθss Revie w誌に 掲載されたMcDonald and Stromberger[1969]であろう。彼らは専門サービス業(会計事務 所、広告代理店、コンサルティング・ファーム、弁護士事務所、設計事務所など)におけ

る原価計算および採算管理のあり方について議論している。これは一見2つめのタイプの 研究かのように感じられるが、その内容は特定業種を超えた一般化したレベルのものを扱 っている。そのため、3つめのタイプの研究の先駆的なものとして位置づけるのが適切で

あろう。

 McDonald and Stromberger[1969]は、顧客の個別注文に応じてカスタム化されたサービ スを提供する専門サービス業において、採算管理が非常に重要になってきているという点 に出発点を置く。当時アメリカでは、約80万人が専門サービス業に従事し、13万社を超え る専門サービス組織が存在するにいたるまで当該産業は急速に増大していた(p.109.)。こ の状況をふまえ、彼らは「専門サービス・セクターは組織単位が比較的小さいかもしれな いが、それは重要な組織単位であり、アメリカのビジネス界に明確で決定的な貢献をして いる。(p,110.)Jという認識のもと、この分野の組織が適切に経営管理を行うための手段と

してEDP技術(電子データ処理技術)を利用した原価計算システムに注目する。

 ここで、彼らが主張する原価計算のあるべき姿を理解するために、いくつか注意しなけ ればならないことがある。McDonald and Stromberger【1969]には、不明確な記述や論理的 でない記述がかなり見られる。そして、彼らが提案する原価計算モデルとその実行手段で あるEDP技術は全く独立した別の議論であるにも関わらず、かなり強引に1っのセットと して扱われている27。これらの矛盾は、「専門サービス業もコンピュータ技術を導入するべ きである」、「専門サービス業も原価管理技術を導入するべきである」という異なる2つの 主張を1つの論文で同時に行おうと挑戦した結果が悪い方に出てしまったためであると筆 者は考えている。彼らが主張する専門サービス業のあるべき原価計算モデルを理解する際、

この点を考慮して論点を抽出・整理する必要がある。

 McDonald and Stromberger[1969,p.110」は、企業の継続的な成長は適切な経営管理

(good management)に依存すると仮定する。そして、専門サービス業では当該サービス のコア部分を生み出すのは人であり、かつ主要な費目も入興費(personnel costs)である

26本章をとおして文献サーベイの中心的な対象としたジャーナルは、以下のとおりである。

〈日本〉『会計』、『企業会計』、『産業経理』

〈アメリカ>Aceoun ting Re viθw, Jo urn a1 of Cost Managem en t,,Journa1 of       Managem en t Acco un ting Researeh, Harvard Busin ess Re vie w,

      Man agem en t A cco un ting

<ドイツ>Zeitschrift fu er Betriebs wirtschaftiehre

〈イギリス〉伽刀姻θ加θ沈・4・ωびη加8㎜、Managemθn tA・eo un ting Researeh 27例えばその副題に「新しいEDP会計モデル」とあるように。

ため、人という資源の適切な経営管理が重要になるという28。彼らは、こうした観点から、

人を中心とした各種資源の利用を適切に管理し、当該企業がさらに発展していくためには EDP技術を利用した顧客別原価計算システムを運用するべきであると主張する。

 McDonald and Stromberger[1969]は、専門サービス組織がオペレーション段階で原価を 管理する際、顧客あたりの収益性に注目するべきであるとする。その理由について彼らは 以下のように述べている。

「専門サービス組織の経営者は、自社の健康状態を理解しなくてはならない;企業が取り 扱いできることとできないことを知らなければならないのである。これを知るためには、

それぞれの顧客あたりの営業利益もしくは損失を明らかにする必要がある。そして、これ らの報告は、定期的に一通常は月次および会計年度で一迅速になされるのが望ましい。

(p.112.)J

 つまりMcDonald and Stromberger【1969]は、経営者が顧客あたりの収益性を定期的にチ ェックすることを可能にするための基礎的な情報システムとして、専門サービス業におけ る原価計算システムを位置づけようとしているのである。顧客あたりの収益性を計算する ためには顧客原価を集計する必要があり、図表1・4はその集計プロセスを表している。この 顧客別原価計算モデルでは、顧客に対しての直接費・間接費分類に焦点があてられている。

図表1−4 McDonald and Stromberger[1969]の提案する顧客別原価計算の構造29

  顧客あたり直接労務費(各従業員の顧客に対する直接作業時間×各従業員の標準賃率)

十 その他の顧客直接費   顧客あたり総直接費

+ 顧客間接費配賦額   顧客原価

 McDonald and Stromberger[1969]は、専門サービス業における顧客原価の主要構成要素 は顧客あたり直接労務費(total direct service costs)であるという30。顧客あたり直接労務

28彼らはまた、専門サービス業において人件費以外の費用は人件費の水準と相関するもの が多いことを指摘している(p.11L)。

29McDonald and Stromberger[1969]では、彼らが提案する営業損益計算モデルが図で示さ れている(p.l15.)。しかし残念ながら、彼らが取り上げている図は非常にわかりづらい。

そのためこの図表では、彼らが提案する損益計算モデルのうち、顧客原価を集計するまで の過程を整理した。

30以下、McDonald and Stromberger[1969,pp.114・117]に従って、彼らが提案する顧客別

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