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サービス組織における原価管理のあるべき姿

ドキュメント内 HERMES-IR : Research & Education Resources (ページ 167-173)

第4章  サービス組織の原価管理

第4節  サービス組織における原価管理のあるべき姿

4・1サービス原価企画とオペレーション段階の原価管理

 サービス原価企画は原価計算研究者からまだあまり注目されていないが、今後原価計算 研究者が体系化していくべき重要な研究テーマであると筆者は考えている。その理由は、

経営学におけるサービス研究の文脈で頻繁に指摘される「生産性と品質」問題は、サービ ス開発段階で中心的に解決すべき問題であるという点にある。

 サービス・ブループリンティング研究の史的展開や第3節で見てきたように、オペレー ション段階におけるサービス品質の適正水準とサービス生産性の適正水準は、サービス開 発段階で大部分が規定される。その根本にあるのがサービス・コンセプトである。従来の

「生産性と品質」問題を扱った多くの議論は、こうした源流管理の観点が欠けてしまって いるように思われる。繰り返すが、オペレーション段階における「生産性と品質」は、サ ービス開発段階でサービス・コンセプトを基準として作り込まれるのである18。この「生産 性と品質」を作り込む作業は、サービス原価企画活動をとおしてなされる。生産性は「ア

ウトプット/インプット」であるから、まさにサービス原価企画活動が取り扱う内容その ものなのである。

17Lovelock氏と同じくサービス・ブループリンティングの体系化を試みているZeitham1 教授とBitner教授も、顧客の活動を基準にブループリントを記述すべき旨を論じている。

18「適正生産性水準はコンセプトに依存する」という筆者のサービス生産観からすると、

従来よく聞かれる「第3次産業の低生産性は問題だ。生産性向上が望まれる。」という類の 発言にはもう少し注意深い分析が必要であるように思われる。

 第3節では、従来の研究から、サービス原価企画のあるべき姿の概観について考察を行 った。その結果、サービス原価企画は、サービス提供原価企画、サービス・スケープ投資 企画、顧客ライフサイクル・コスト企画、という3つの柱から構成され、3っの活動はあ る程度の同時並行と、相互の緊密なコミュニケーションが必要となろうことが推定された。

 サービス原価企画活動を以上のように想定すると、サービス原価企画とオペレーション 段階の原価計算および原価管理との接点はサービスBOA的なものにあると考えられる。こ の考え方は、第1章で取り上げたBrimson氏とAntos氏の研究に基本的に従ったものであ る。彼らが提案するサービスBOAは図表4・4のとおりである。

図表4・4 銀行ローンのサービスBOA

アクティビティ アクテイビ アクティビ アクテイビ ローン5000件に アクティビティ原価 合計

ティ量測定 ティ量 ティ単位原 対するライフサ

尺度 イクル・コスト

ライフサイクル・コスト

ローンのデザイン デザイン 1 5,000 5,000 1.00($5,000/5,000件)

手続きのデザイン 手続き 5 200 1,000 0.20($1,000/5,000件)

備品の取得 備品 1 50 50 0.01($50/5,000件)

小計 1.21

申し込みの受付 申込書 1 150 150.00

与信 報告書総数 3 30 90.00

書類審査 審査 1 70 70.00

ローン審査委員会 申請書 1 200 200.00

による審査

ローン資料の作成 ページ 30 5 150.00

貸付 貸付 1 100 100.00 760.00

総オペレーション原価 $761.21

総報告書原価 $150.00

ライフサイクル・オペレーション・原価報告の総原価 $91121

訳注:ここでいう「ライフサイクル・コスト」とは、特定会計期間における期間原価のこ    とである。

出所:Brimson and Antos[1994,p.239」

 第1章で取り上げたように、彼らは、実績記録や継続的なサービス改善などのためにサ ービスBOAを利用することを想定している。そして、サービスBOAの内容は、サービス・

デザインにおける設計資料を参考とすべきである旨を論じている。この議論を発展させる と、サービス原価企画段階でサービスBOA的な考え方を利用して目標原価明細書を作成し、

この目標原価明細書やサービス提供システムの詳細設計図などを基礎に、オペレーション 段階において運用される原価計算構造を構築し、目標アクティビティ原価を設定すること が望ましいと思われる。

 こうしてオペレーション段階へと落とし込まれた目標原価は、サービス・コンセプトが 翻訳されたものであるという見方ができよう。つまり、設計情報のメディアとして、オペ

レーション段階における原価計算および原価管理の役割があるのである。この観点からす ると、目標原価と実際原価の差異は(目標アクティビティ原価およびその差異は、例えば 図表4・4でいう「アクティビティ原価」の欄に併記されることになろう)、fサービスがコン セプトどおりに、もしくは設計どおりに生産されていないかもしれない」といった注意喚 起情報となる。そういった意味で、この種の原価計算システムは、標準原価計算的な機能 を持つと考えられる。

 ここでいう「標準原価計算的」とは、「(1)製品の製造(または販売)のまえに、あら かじめ原価発生の目標を指示し、(2)製品の実際生産量(または販売量)について、実際 に要した原価(実際原価)と、(3)要すべきであった原価(標準原価)とを計算し、(4)

これらの実績と標準とを比較して、両者の差異を計算し、(5)差異発生の原因を分析し、

(6)その結果を報告する(岡本[1969,1頁])」という意味を示している。サービス組織で は標準原価計算が上手く機能しないという指摘がよくなされるが、サービス組織において も標準原価計算的な発想は十二分に応用可能であるのではないかと筆者は考えている。そ の際、標準原価および公差を決める基準の根本はサービス・コンセプトにあり、コンセプ

トが順次翻訳されていく過程の延長線上でそれらは決定されることが望ましいと思われる。

4・2 サービス原価管理サイクル

 前項の標準原価計算的原価管理は、オペレーション段階においてコンセプト不安定性を 抑えることを重視した議論であった。そこでは、顧客のニーズを熟知し、それを適切に翻 訳し、強力なリーダーシップを取って確実に商品化していくスーパー・マン(藤本教授の 用語法でいうならば重量級プロダクト・マネジャー)の存在を暗黙のうちに仮定していた

といってよい。彼が創造したコンセプトおよび彼が中心となって開発したサービス提供シ ステムは最適解であり、オペレーション段階はこの最適解を確実に実行する役割が強調さ れていたのである。

 しかし、現実には人間の情報処理能力には限界があり、また、人間が知りうる情報も限

られている。そのため、サービス組織の経営プロセスはサイクル的な経過を辿り、オペレ ーション段階をとおした公式のコンセプト再解釈活動を行いながら事業を継続させていく ものと思われる。つまり、サービスは漸進的に進化していくのである。これを原価管理の 視点からイメージした図が図表4・5である。

 公式のコンセプト再解釈活動とは、従業員が実際に顧客とともにサービスを生産してみ て気づいた問題点を、サービス組織が公式に改善案件として承認して改善を行う活動であ る。公式のコンセプト再解釈活動には、特に費用がかからないものもあれば、それなりの 投資を伴うものもあろう。そして、この種の活動を迅速に行うためには、従業員に対して エンパワメントを行うことが有 用となるかもしれない。いずれにせよ、この種の改善活動 は既存の顧客満足やサービス経験を改善するための公式の活動であるから、それは従来の サービス・コンセプトを見つめ直す作業から始まろう。

図表4−5 サービス組織の原価管理サイクル

サービス 提供システム サービス・  サービス計画  サービス   サービス提

    コンセプト (機能設計)

    の創造

胴 .  ■ ■ ■ o o 願   ■ o ■ ● ■ ● ● ■ ● o , ■ ● ■ ● 騨 ■ 幽 o   ■ ● ● ■ ■ 冒 ■ 口 ● 聰 , 口 冒 ● 口

  詳細設計    供システム       の事前準備

e・・一^一・e・・・・…i一・・ ・・f mh

r一一r一一 一 一/ 一 一一一 一

オペレー  ション

1.一 一. 一一一一一一一 .一 一一一一一一一一一

一一一一一一一一一一〉一一一)一

サービス開発段階 事前準備段階  オペレーション段階

…・・…倹Vサービス原価企画活動

→標準原価計算的原価管理活動

一一 ィレサービス改善原価企画活動

く→顧客価値創出の段階

 再解釈されたコンセプトは、サービス開発段階をとおして順次翻訳されていき、最終的 にオペレーション段階へと反映される。この一連の作業は、サービス改善原価企画活動と

でもいうべきものである。サービス改善原価企画活動の内容は、改善案件によって様々で あろう。新サービス原価企画活動と同様のプロセスを経るものもあれば、非常に単純かつ 迅速に行われるものもあろう。こうして修正されたサービス提供システムは、新たに目標 原価が設定され、オペレーション段階における標準原価計算的原価管理活動へと移行する。

 サービス組織における原価管理は、サービスが漸進的に進化することを支援し、サービ ス進化過程と一体となった原価管理サイクルとして展開されるのが理想であるように思わ

れる。

第5節本章のまとめ

 本章では、原価計算論、サービス・マネジメント論、生産論派のサービス研究の知見を 基礎に、サービス組織の原価管理のあるべき姿を推測した。本章で導き出したサービス原 価企画の概要および原価管理サイクルの発想は、あくまでも従来の研究を基礎に筆者が整 理したものにすぎない。サービス実務を観察していないという意味で、まさに「机上の空 論」である。しかしながら、サービス原価企画の3つの柱、原価管理サイクル、という2 つの発想は、今後サービス実務における原価管理活動を観察し、革新的実務を発見し、整 理・体系化を行っていく際の事前知識として有用となろう。

 本章で明らかにしたことは以下のとおりである。

・サービス組織はサービス開発段階で原価および利益を作り込む上で、コンセプト不安定 性、製品的な属性を持つサービス・スケープ、作り込まなければならない顧客の活動、

 という3点を考慮する必要があろう。

・そのため、サービス原価企画活動は、サービス提供原価企画、サービス・スケープ投資  企画、顧客ライフサイクル・コスト企画という3っのタイプの活動を行わなければなら  ないであろう。

・これらの活動にはある程度の同時並行と緊密なコミュニケーションが求められ、これら の活動をとおして原価、利益、生産性、品質は作り込まれる。

・サービス原価企画活動とオペレーション段階の原価管理活動の接点はサービスBOA的な  ものであり、サービス組織においても標準原価計算的原価管理は機能しそうである。

・サービス組織における原価管理は、サービスが漸進的に進化することを支援し、サービ ス進化過程と一体となった原価管理サイクルとして展開されるのが理想であるように思

われる。

廣本教授はかって、以下のように論じられた。

ドキュメント内 HERMES-IR : Research & Education Resources (ページ 167-173)