4−1A:BCとサービス組織
ABCの登場とともに、サービス組織の原価計算研究は大きな転機を迎える。むしろ、サ ービス組織の原価計算研究はABCとともに歩んできたといっても過言ではないほどの状況 になる。この時期に「サービス組織」を前面に押し出した多くの原価計算研究がなされ、
個別サービス業種におけるABCシステムの議論も多くなされた。そして近年では、原価計 算論の専門書の中でサービス業の議論が1章を使って説明されることは珍しくない。
ABC以降のサービス組織の原価計算研究は、総体的には上記のような変遷をたどってき た。そのため、この時期のサービス組織の原価計算研究を整理するにあたり、ABCを軸と することは妥当であろう。その際、サービス組織のABC研究の詳細を追ってみるといくっ か興味深い点が発見できる。
まず、最初に目に付くことは、ケースの蓄積である。ABC的な原価計算モデルを導入し たサービス組織に関する事例が、Harvurd Business Sehoo7 Case SeriθsやUniversity of Virs7hia Darden Gradua te Business Sch oo7 Caseなどのビジネス・スクール用のケースや、
Jo urna/ of Cost Managθm en tやMan agem en t/ACCO un tingのようなジャーナルを中心とし
54American Bank以外にも、この時期にABC的な製品原価計算モデルを導入するサービ ス組織が存在していたことが確認されている(鉄道業のUnion Pacific、医療機関の Massachusetts Eye and Ear lnfirmaryなど)。
て蓄積される。そして、それらケースを基礎に理論的研究が行われているのである。
次に目に付く点として、1990年代初頭、1992年から1994年ごろ、1996年から1998年 ごろ、という3っの時期で研究の内容に変化が見られる点である。一方で、90年代初頭ま ではビジネス・スクール用のケースによるケースの蓄積が中心的であり、90年代初頭あた
りからジャーナル上での事例研究が多くなされるようになってきている。
こうした点を考慮し、本節では90年代初頭、92年から94年、90年越後半という時間的 区分を軸とし、この区分を中心にケースの蓄積との関係性を眺め、かつそれぞれの時期の 理論における中心的テーマを整理し、さらにはABC以外のサービス原価計算研究を取り上 げることが、ABC以降のサービス組織の原価計算研究を整理するうえで適切であると考え
られる。
4・2 提案・正当化を中心とした90年代初頭
1990年から1992年ごろまでのサービス原価計算研究は、事例研究、特にビジネス・ス クール用のケースを基礎とした理論化の時期であった。ABC的な製品原価計算モデルを導 入した事例を情報源としながら、サービス組織一般に対するABCの適用可能性を議論しよ
うとする研究がなされた。そういった意味で、この時期の研究はサービス組織においても ABCは有用であることを提案・正当化するものであった。
この時期の基礎となった事例研究は、金融機関(American Bank、 Manufacturers Hanover Corporation)、運輸(Amtrak)、鉄道(Union Pacific)、医療機関(Massachusetts Eye and Ear lnfirmary、 Alexandria Hospital)、エネルギー(Kanthal)、情報処理サービ ス(Data Service, Inc.)など多岐にわたる。 Harvard Businθss Sehoo/Case Seriesや University of Virginia Dardθn Gradua te Business Schoo/ Case等で取り上げられた講義 用のケースは、サービス組織の原価計算を体系化する際に大いに役立ったのである。ここ では、90年代初頭の代表的な研究であり、かつその後の研究にも広く引用されている Rotch[1990]とCooper and Kaplan[1991]を詳しく取り上げたい。
4・2・1サービス原価計算研究の火付け役となったRotch[1990]
Journa/of Cost Managemen t誌に掲載されたRotch[1990]は、サービス組織一般への ABCの適用可能性を議論する恐らく最初の公表論文であった。そういった意味で、彼の試
みはサービス組織の原価計算研究の火付け役となったといってよい。彼の問題意識は以下 のとおりである。
「近年多くの論文やケースがABCを取り上げ分析している。しかしながら、 ABCは主に 製造業企業に適用されてきたため、ABCがサービス業においても利用されうるのかという
疑問が生じる。(p.4.)」
Rotch[1990]は、この問題に答えるべく、事例研究をもとにサービス組織のABCを議論 する。具体的には、サービス組織へのABCの適用可能性(suitability)と、ABCを導入し ようとするサービス組織が取り組まなければならないであろう固有の問題を議論している。
Rotch[1990]は、これらの議論を行うにあたり、まず製造業のABCについて分析を行う。
彼は、ABCを理論化する際の基礎となったケースの1つであるSchrader Bellowsの事例を 取り上げ、ABCシステム導入の効用を以下のように整理している55。
1.アウトプットの特性とアクティビティの間の関係性を学習し、製品設計や工程設計に 関する意思決定に活かすことができる。
2.組織単位ではなく、活動単位に注目しているため、アウトプットと資源利用の関係性 をより具体的に理解することができる。
3.製造活動以外の活動に必要とされる資源も認識でき、より戦略的に意思決定を行うチ ャンスがえられる。
4.従来は固定費とされてきたコストを、企業戦略もしくは製品戦略の観点から変動費的 に扱うことができる。
5.非付加価値アクティビティ(non−value・adding activities)や高コストのアクティビテ ィ(high・cost activities)を探り出し、経営者に改善に対する注意を促す。
6.アクティビティを識別し、コスト・ドライバーを洗い出す分析プロセスは、経営管理 者が戦略のコストを評価し、コスト削減の方法を発見するのに役立つ。
以上のように、Rotch[1990]はABCと企業戦略もしくは製品戦略との間のリンクを強調 している。そして、ABCシステムが提供する原価情報だけでなく、ABCシステムを導入す る際の学習効果にも注目している。
ここでRotch[1990]は、サービス組織においてもABCが適用可能であるのか否かについ て議論する。そしてその第一歩として、製造企業とサービス組織の問の3っの違いに注目
する(p.8.)。
1.
2.
3.
アウトプットを定義することがしばしば困難である。
サービス要求に対応したアクティビティを予測することが難しい。
アウトプットと関連付けられたアクティビティへと結びつけることが難しい共通費が 総原価の中で高い割合を占めている。
55以下の6点は、Rotch[1990,pp.6・8」の記述を筆者が整理したものである。
要するに、サービス組織では製造業と比べて、最終的原価計算対象の特定(上の1)、ア クティビティ・ドライバーとアクティビティの特定(上の2)、リソース・ドライバーの特 定(上の3)が困難な傾向が強いとRotch【1990]は主張しているのである。
Rotch[1990]はここで特に、サービス組織のアウトプソト属性について取り上げる。彼は サービス・マネジメント論の知見(Sasser e七al[1978])を参考に、サービス組織のアウト プットを「サービス・ベネフィットのパッケージ(p.8.)」として認識する56。そして彼は、
無形の機能の束としてアウトプットを捉えると、サービス組織も製造業と同様に製品原価 計算システムを設計しうる旨を指摘し、Alexandria H:ospita1、 Union Pacific、 Amtrak、
Data Service, lnc.の事例を取り上げる。なおRotch[1990,p.8.]は、これらの事例ではABC という名称を用いてはいないが、ABC的な製品原価計算モデルで原価計算システムを設計 しており、こうしたケースはサービス実務において増えてきていると論じている。
さて、それではABCのサービス組織への適用可能性についてRotch[1990]はどのような 見解を示しているのであろうか。彼はCooper教授とKaplan教授の諸研究を参照し、製造 業においてと同様に、サービス組織でもABCを適用すべき状況とそうでない状況が存在す るとする。具体的には、資源利用の多様性(diversity of resource consumption)に注目し、
それを忠実に反映させてサービス原価を集計する必要がある場合には、当該サービス組織 にとってABCは有用であるとする。
しかしその一方で、アウトプソト生成と資源利用の関係性を特定することが難しい場合 には、当該サービス組織にABCシステムを導入するのは「コストがかかり、そうすること によるベネフィットは疑わしい(p.13.)」と述べている。また彼は、サービス組織固有の問 題として、リソース・ドライバーを特定することが困難であることを再び指摘している。
これは前述のように、サービス組織ではアクティビティ共通費の割合が大きい傾向にある ことと関連している。
Rotch[1990]の研究内容は、以上のとおりである。そこでは、当初のABC研究の視点と 同様に57、より正確にサービス原価情報を集計することが重視されている。さらに、ABC システムを導入することがきっかけでえられる、サービス提供システムに関する知識が重 要視されている。一方で、原価管理的な考え方は、この時点ではあまり考慮されていなか った。彼はアクティビティ共通費との関連で、わずかながらに「サービスは在庫化できな いので、未利用キャパシティはしばしば回避不能原価となる。(p。13.)」と述べているのみ である。
56彼はアウトプットの例として、サービスのスピード、情報の質、顧客満足を取り上げて
いる(P.8.)。
57高橋【2000]によると、ABC研究は1990年頃を境に次第に変遷していった。初期のABC 研究はどちらかというと製品単位原価計算を重視していたという。