人類史上最古の技術を実践しているグループに遭遇した。それは石器作 りである。すなわち、石で鏃(やじり)や矛先を作る技芸である。
驚いたことに、新しい石の鏃(やじり)が今でも非常に多く作られてい る。新石器時代の狩人と全く同じ方法で手作りしたものだ。この話の情 報源は、"American Flintknappers, or Stone Age Art in the Computer
Age"(アメリカの石器作り――コンピューター時代における石器時代の
芸術)という本の著者、ジョン・ウィテカーである。ウィテカーは考古学 者で、考古学的発見の年代を定めるのに使われる、有名なクロビス・ポ イントなどの石鏃を研究している。ウィテカーの研究方法は、石器作り の技術を自分で再現してみることである。たくさんの石、皮の敷物、鹿 の角を用意して、新しい石の鏃を作り始める。やがてクロビス・ポイン トの複製を作ることができるようになる。彼一人だけではない。他にも アマチュアで石鏃を作る人たちのグループがいることを知った。何百人 もの人が、活発に毎年数千個の石鏃を作っているということに彼は魅力 を感じて興味を持った。
現代の石器作り職人の大部分は歴史マニアで、ウィテカーと同様に、鏃
(やじり)をどうやって作るかという技術を理解することに興味を持って いる。その他にサバイバル主義者がいる。この人たちは弓矢を一から自 分で作る技能を身につけたいと思っている。たとえば割れたガラス瓶で 鏃を作るのは、そんなに難しくない。さらにそれ以外には、石器作りが 非常に上手で石鏃の複製品をよい値段で売ろうとしている人たちがいる。
ウィテカーはこの最後のグループには警戒している。なぜならばその複 製が非常にうまくできているからだ。このアマチュアたちは、石で思い 通りの形の鏃を作る技能を持っている。あまりにも精巧で本物らしいの で、鏃の専門家であるウィテカーでさえ、古い物と新しい物を見分ける
第 9 章 生き続けている古代の技術
のが難しいと言う。彼らがウィテカーをだませるのならば、イーベイの 利用者をだますこともできる。イーベイでは常に 40 ページにわたって 石の鏃が売りに出ている。石器作りをしている人の多くは誠実で、自分 の作品を古代のものだと偽ったりはしないが、彼らから購入した仲介業 者はそれほど信用できるとは限らない。重大な問題は、今使っている技 術が大昔のものと全く同じだと思われることだ。
ウィテカーは現代のアメリカで毎年作られる新しい鏃(やじり)の数 を推定しようとした。石器作りの広報誌の発行部数や交流会の出席者数、
ウィテカーが書いた石器作りに関する書籍の販売部数などから、現代に
第 9 章 生き続けている古代の技術
おいて石器時代の鏃を作る人は 5 千人だと見積もった。週末の趣味だっ たり、学者だったり、また自分の作品を販売する「プロ」もいる。ウィテ カーはその調査および他の概算などにもとづいて、この愛好家たちが 1 年に何個の鏃を作るか推定した。彼の大まかな推算では、なんと 150 万 個になるという。
銃がもたらされる以前にアメリカで鏃(やじり)が何個くらい作られ たのか、私はウィテカーに尋ねてみた。当時の北米の人口が 3 百万人か ら 1 千万人として、現役で働く猟師は百万人くらいだったと彼は推測す る。一人の猟師が 1 年に何個の鏃を使うか計算するのはもっと難しい。
ウィテカーは次のように言う。
1 年に何個の鏃を使ったのか、民族学的な推測はわからない。200 年以上の間に散発的に 2〜4 家族が住んでいた小さなシナグア遺 跡では、私たちは 261 個の鏃を発見した。アリゾナ州中央部にあ るプエブロ族の大きな遺跡、グラスホッパーでは、約 100 年にわ たって約 500 人が住んでいて、その約 5 分の 1 を発掘したとこ ろ数百個の鏃を発見した。鏃の多くは森で紛失したり、あるいは 物々交換したかもしれない。遊びのためとして計算するならば、
一人の猟師が、週に 1 個の鏃を壊したり、紛失したり、交換した と仮定しよう。そうすると、合計で 1 年あたり 5 千万個になる。
というわけで、鏃(やじり)を作る人の数は現代のほうがはるかに少 ない。しかし現代の石器作り職人は、その祖先よりもずっと生産性が高 い。現代の鏃は道具というよりも芸術である。でも昔の生産方法が続い ている。素敵な石のナイフに骨の把手がついたものが欲しければ、イー ベイで 50 ドルで売っている。もともとは 1 万 3 千年前に作られた、新
第 9 章 生き続けている古代の技術
品のクロビス・ポイントが石器作りの大会(ナップ・イン)で売りに出て いるのを見ると、実は石器時代は終わっていないということがわかる。
1970 年代になるまで、パプア・ニューギニアのバリエム・バレーにい るダニ族は、黒い石から切り出した斧を使っていた。彼らは 30 年後の今 でも観光客のために石斧を作っている。技術はしぶとく生き延びている。
(初出: http://memo7.sblo.jp/article/22355585.html) (原文: Surprising Continuity of Ancient Technologies)