Zillionics 数の多さが違いを生む。
ある物が大量に存在すると、そのある物の性質を変えることができる。
すなわち、スターリンが言ったように、「量も質のうち」なのだ。計算機 科学者J.ストーズ・ホール (J. Storrs Hall) は"Beyond AI"(「人工知能 の向こうに」)で次のように書いている。
もし何かが十分に存在するならば、それが少量で孤立した存在で ある場合に全く見られなかった性質を持つようになることがある。
それは実際には珍しくない。その個数の差は少なくとも1兆 (10 の 12 乗) 程度だろう。私たちの経験によれば、1 兆個という数に よって、量的なものだけに限らず、質的な相違が現れなかったこ とはない。1 兆といえば、小さすぎて見えず軽すぎて感じられな いイエダニと、象とを比べたほどの本質的な違いである。50 ドル と、全人類の 1 年間の経済的生産高との違いである。名刺の厚さ と、地球から月までの距離との違いである。
この違いを私はジリオニクスと呼ぶ。(訳注:ジリオン zillion は架空 の大きな数の単位)
第 17 章 ジリオニクス ―超大量の世界―
複製を作る機械があれば、とくにデジタルの複製なら、普通の量のあ りふれた物を、今まで知らなかったほどの規模の量に拡大することがで きる。個数は 10 から億や兆へ、さらにもっと多くにまで増加する。
個人の蔵書は 10 冊だったものが、グーグル図書館では 3 千万冊分の デジタルデータに増大する。音楽のコレクションはアルバム 100 枚だっ たものが、世界中の音楽全体に拡大する。個人が保管する文書は古い手 紙が一箱だったのが、生涯にわたって蓄積されるペタバイトの情報にな る。企業は 1 年につき何百ペタバイトの情報を扱う必要が生じる。科学 者は 1 秒ごとに何ギガバイトものデータを生成する。政府が記録し、保 管し、分析すべきファイルは、何百京もの数になるだろう。
ジリオニクスは新しい世界であり、私たちの新しい基準である。そん なに多くの物が動くような規模になると、新しい道具、新しい数学、新 しい考え方の変化が必要である。
第 17 章 ジリオニクス ―超大量の世界―
図: 「フットボール・フィールドと比べた 1 セント硬貨 1 兆個の大きさ」
(メガペニー (Megapenny) プロジェクトによる)
ギガ、ペタ、エクサというくらいの量になると、不思議な新しい力が出 現する。このような規模では、今まで不可能であったはずのことが可能 になる。超大量のハイパーリンクがあれば、百個や千個のリンクでは考 えられなかったような情報や挙動を得ることができるだろう。1 兆個の 神経細胞があれば、百万個ではありえないような賢さが得られる。超大 量のデータがあれば、たったの百や千では決して得られない洞察を生む。
それと同時に、ジリオニクスを扱うためのスキルはなかなか手ごわい。
この世界では、確率と統計がすべてを支配する。人間の直感は頼りにな らない。
以前、私は次のようなことを書いた。
数学的には、システム内の部分の数が極端に大きくなると、100 万以下の時とはまったく違う性質を帯びることがわかっている。
何兆億という数はあまりにも大量で、部分部分がすでに数百万規 模になっている。ネット・エコノミーは何兆もの部分、文書、ボッ ト(自走式ソフトウェア)、ノードによってできる。何兆億という のは、近年の人工世界の産物よりも、生物界――そこではずっと
第 17 章 ジリオニクス ―超大量の世界―
昔から何兆億もの遺伝子や有機体が存在した――の概念に近い。
生命系は、何兆億という数の扱い方を知っている。何兆億という 数の扱い方は、生物界に学ぶことになるだろう。
(ケビン・ケリー著、酒井泰介訳「ニューエコノミー勝者の条件」
より)(原書:New Rules for the New Economy, 1998)
ソーシャル・ウェブは、ジリオニクスの国土を駆けめぐる。人工知能、
データ・マイニング、仮想現実などを扱うには、ジリオニクスに精通し ていることが必要になる。人間が作る物、とくに人間の集団が作る物の 数が増えるにつれて、人間はそれと同時にメディアと文化をジリオニク スの世界へ引き上げている。音楽、芸術、映像、言葉など ―あらゆるも の!― の選択範囲はジリオニクスのレベルに達しつつある。
ジ リ オ ニ ク ス 的 な 選 択 で 麻 痺 状 態 に な っ た り("The Paradox of
Choice"(選択肢の矛盾)を参照されたい)、あるいは、それに脅かさ
れたりすることをどのようにして防ぐか? ジリオニクスに限界はないの か? このロングテールは、とても長くて広くて深いので、今までのロン グテールとは全く違うものになる。
数の多さが違いを生む。
(初出: http://memo7.sblo.jp/article/25595813.html) (原文: Zillionics)