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特殊の寄託―流動性預金口座

ドキュメント内 民法(債権関係)部会資料 (ページ 107-143)

(前注)この「第6,11 特殊の寄託―流動性預金口座」は,主として,以下の場 面に関する法律関係を取り上げるものである。

① 振込依頼人は,仕向銀行に対して,振込依頼を行うとともに,振込資金の 交付又は預金口座からの引落しの依頼をする。

② 仕向銀行は,為替通知を被仕向銀行に送信する。

③ 被仕向銀行は,受信した為替通知に基づき,受取人の流動性預金口座に入 金記帳をする。

被仕向銀行

振込依頼人 仕向銀行

為替通知

対価の支払 振込依頼 入金

受取人 財産権の移転・役務の提供

現代における取引の特徴として,隔地者間での取引の増加等により,金銭債

務の履行の多くが,銀行振込みやクレジットカードによる支払等により行われ

ているという指摘がされており,普通預金や当座預金等の流動性を有する預金

口座への振込みは,現代の日常生活において非常に重要な役割を果たしている。

しかし,民法にはこの点に関する規定が置かれていないため,①流動性預金口 座への振込みが,金銭債務の弁済と代物弁済(民法第482条)のいずれに該 当するか,②流動性預金口座への振込みによる金銭債務の消滅時期がいつかと いった基本的な法律関係が必ずしも明らかではないという問題が指摘されてい る。

そこで,流動性預金口座への振込みによる金銭債務の履行に関する規律につ いて民法に明文の規定を置くべきであるとする改正提言がある。この改正提言 は,具体的に,流動性預金口座において金銭を受け入れる消費寄託の合意の効 果や,流動性預金口座への振込みによる金銭債務の履行が弁済に該当するとい うことについて,明文の規定を設けるべきであるとするものであるが,どのよ うに考えるか。

(補足説明)

1 問題の所在

民法の制定時と比べたときの現代における取引の大きな特徴として,遠隔地にい る者の間での取引が増加したこと等の理由により,金銭債務の履行の多くが,銀行 振込みやクレジットカードによる支払等により行われていることが指摘されており,

普通預金や当座預金などの流動性を有する預金口座への振込みが,現代の日常生活 において非常に重要な役割を果たしていると言われている。しかし,民法には,こ の点に関する規定が置かれていないため,①流動性預金口座への振込みが,金銭債 務の弁済と代物弁済(民法第482条)のいずれに該当するか,②流動性預金口座 への振込みによる金銭債務の消滅時期がいつかといった基本的な法律関係が必ずし も明らかではないという問題が指摘されている。

2 流動性預金口座への振込みが弁済か代物弁済かに関する議論の状況

まず,流動性預金口座への振込みが弁済と代物弁済のいずれに該当するかという 上記①の点は,弁済に該当すると考える場合は,金銭債務について各種の通貨で弁 済することができるとする民法第402条第1項との関係で,預金債権が「通貨」

にあたると解することになる。他方,代物弁済に該当すると考える場合は,民法第 482条との関係で,流動性預金口座への振込みをする際に債権者の承諾が必要と なる。

この点について,流動性預金口座への振込みが弁済に該当するとする見解は,銀 行振出の自己宛小切手(預手)の交付が債務の本旨に従った弁済の提供となると判 断した判例(最判昭和37年9月21日民集16巻9号2041頁)について,預 手の交付による預金債権の取得が現金の交付に相当するということを含意している と見るものである。これに対して,流動性預金口座への振込みが代物弁済に該当す るという見解は,債権者が預金債権を取得したとしても,銀行からの相殺の主張や 第三者からの預金債権の差押え等,現金払いの場合には生じない不利益が発生する おそれがあることから,現金払いと同視することはできないとして,これを代物弁

済とし,債権者の承諾を必要とすべきであるとするものである。

3 流動性預金口座への振込みによる金銭債務の消滅時期に関する議論の状況 流動性預金口座への振込みによる金銭債務の消滅時期という上記1②の問題は,

振込みによって受取人(債権者)の預金債権が成立する時期という問題と密接に関 連する。すなわち,弁済と解するか代物弁済と解するかを問わず,金銭債務が消滅 するためには,受取人が処分可能な形で確定的に預金債権を取得したと言えること が必要であり,そのためには,受取人の下で預金債権が成立している必要があるか らである。預金債権の成立時期は,寄託の要物性と関連して議論がされてきたとこ ろであるが,通説は,被仕向銀行が受取人の預金口座に入金記帳をした時点である としている。

また,金銭債務の消滅時期については,上記の預金債権の成立時期のほかに,債 権者の承諾の要否が問題となる。上記1①について代物弁済であるとする見解によ ると,債権者の下で預金債権が成立していることに加えて,債権者の承諾が常に必 要となる(民法第482条)が,上記1①について弁済であるとする見解の中でも,

債権者の承諾あるいは当事者間の合意が必要であるとするものがある。弁済である とする後者の見解は,有効な弁済となる要件として,目的物が契約に合致している ことと,履行方法が契約に合致していることが必要であるとした上で,預金債権は

「通貨」に含まれることから,目的物が契約に合致していると言えるが,流動性預 金口座への振込みによることについての当事者間の合意がない場合には,社会通念 上認められた金銭債務の履行方法とは言えないとして,債権者の承諾が必要である とするものである。しかし,この見解に対しては,反対説も有力であり,現在でも 見解が一致していないという状況にある。

4 改正提言

以上のように,流動性預金口座への振込みが現代社会において重要な役割を果た しているにもかかわらず,その法律関係の理解をめぐってなお争いがあることを踏 まえて,流動性預金口座への振込みに関する規律について民法に明文の規定を設け るべきであるとする改正提言がある。比較法的にも,ドイツ民法を始めとして,近 時,この点に関する規定を民法に置く例がみられる。

上記の改正提言は,具体的に以下の①及び②のような内容の規定を設けるべきで あるとするものであるが,どのように考えるか。

① 流動性預金口座において金銭を受け入れる消費寄託の合意がされた場合にお いて,流動性預金口座への入金や振込みがされたときは,受寄者が当該預金口 座に入金記帳(入金記録)を行うことにより,既存の債権の額に当該金額を合 計した金額の預金債権が成立するものとする。

〔理由〕

流動性預金口座において金銭を受け入れる消費寄託の合意がされている場合 において,その流動性預金口座に金銭の預入れや振込みがされたときは,個々 の預入れ等に係る金銭ごとに債権が成立するのではなく,既存の残高に係る金 銭債権と融合して1個の債権が成立し,この1個の債権は,預金口座への入金

記帳という行為により成立すると考えられており,この点については,現在で は特に異論は見られない。このような法律関係は,流動性預金口座の基本とな るものである上,特に預金債権の成立時期が,前記のとおり,振込みによる金 銭債務の消滅時期と密接に関連する問題であることから,明文規定を設けるべ きであるとするものである。

② 金銭債務を負う債務者が債権者の流動性預金口座に金銭を振り込んだときは,

債権者の預金口座において当該振込額を加えた預金債権が成立した時点で,当 該金銭債務の弁済の効力が生ずるものとする。

〔理由〕

流動性預金口座への振込みが弁済に当たるということと,債務の消滅時期に ついて預金債権の成立時(上記①の考え方によれば,受寄者が入金記帳を行っ た時)であることを,条文上明確にしようとするものである。もっとも,この 改正提言は,金銭債務の弁済方法として流動性預金口座への振込みが含まれる ことが契約から導かれる場合の規律を提案するものであり,明示又は黙示に異 なる合意が認められる場合についてまで規律するものではないとされている。

このほか,流動性預金口座への振込みに関しては,誤振込みがされた場合におけ る預金者の認定の問題を始めとして,誤振込みを巡る法律関係について,近時,多 くの重要な判例が出されており(最判平成8年4月26日民集50巻5号1267 頁,最判平成15年3月12日刑集57巻3号322頁,最判平成20年10月1 0日民集62巻9号2361頁等),これらの判例の評価を含めて,学説上,様々な 見解が主張されている。このため,必ずしも具体的な改正提言まで示されてはいな いものの,その法律関係を明確化するため,立法的な解決を図るべきであるという 指摘がされているが,どのように考えるか。

(関連論点)

1 流動性預金口座に存する金銭債権の差押えに関する規律の要否

流動性預金口座に存する金銭債権の差押えに関して,判例・通説は,ある時点に おける残高に係る金銭債権を差し押さえることは可能であるとした上で,差押え時 点の残高に係る金銭債権についてのみ差押えの効力が生じ,その限度で金銭債権の 流動性は失われるが,これによって流動性預金口座自体の流動性が失われるもので はないとしている。

流動性預金口座に存する預金債権に対する差押えは,債権回収の手法として極め て重要であり,かつ,頻繁に利用されているものである。そこで,このような実態 に鑑み,流動性預金口座に存する金銭債権の差押えに関して,上記の法律関係を条 文上明確にすべきであるという考え方が提示されているが,このような考え方につ いて,どのように考えるか。

2 流動性預金口座に係る預金契約の法的性質に関する規律の要否

流動性預金口座に係る預金契約において,金融機関は,顧客に対して,個別の預

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