委任には,委任事務を処理した成果に対して報酬が支払われるものと,委
任事務の処理のための役務提供そのものに対して報酬が支払われるものとが
あるとされている。そこで,委任における報酬の支払方式には2つの類型が
あり,委任事務の処理によってもたらされる成果に対して報酬を支払うこと
が合意された場合には,当該成果を完成しなければ受任者はその報酬を請求
することができないこと(成果完成型) ,このような合意がされていない場合
は,受任者は委任事務の処理の割合に応じた報酬を請求することができるこ と(履行割合型)を明文で規定するという考え方があるが,どのように考え るか。
(補足説明)
一般に,役務提供型の契約には,役務提供自体に対して報酬が支払われるものと,
役務そのものとは区別された仕事の成果に対して報酬が支払われるものとがあると 考えられている。雇用は前者であり,請負は後者であるとされる。これに対して,
委任は,役務提供自体に対して報酬が支払われるケースを想定していると見られる 規定(民法第648条第3項など)もあるが,委任の中にも成果に対して報酬が支 払われる場合があるといわれている(例えば,事務の処理が一定の効果を上げたと きにだけ報酬が支払われる場合)。
そこで,このような二つの報酬支払方式があることを踏まえ,そのそれぞれの方 式について,委任における具体的な報酬請求権の発生要件に関する規定を整備すべ きであるという考え方がある。
具体的な一つの考え方として,委任事務の処理によってもたらされる成果に対し て報酬を支払うことが合意された場合(このような支払方式を「成果完成型」と称 している。)には,当該成果を完成させることによって具体的な報酬請求権が発生し,
このような合意がされていない場合(このような支払方式を「履行割合型」と称し ている。)には,受任者が委任事務を処理することによりその割合に応じて具体的な 報酬請求権が発生する(逆に,委任事務を処理しなければ具体的な報酬請求権は発 生しない。)ものとし,これを条文上明記すべきであるとの考え方が提示されている
(参考資料1[検討委員会試案]・359頁)。 このような考え方について,どのように考えるか。
(2) 報酬の支払時期(民法第648条第2項)
民法第648条第2項は,委任の報酬の支払時期について,委任事務を履 行した後(ただし,期間によって報酬を定めたときは期間経過後)と規定し ている。しかし,この規定は,委任のうち成果完成型の報酬支払方式を採る ものについての報酬支払時期の規律として必ずしも妥当でないとされている。
そこで,委任報酬の支払時期について,成果完成型の報酬支払方式を採る 場合には成果完成後,履行割合型の報酬支払方式を採る場合には委任事務を 履行した後(ただし,期間によって報酬を定めたときは期間経過後)とすべ きであるという考え方が提示されているが,どのように考えるか。
(補足説明)
民法第648条第2項は,委任の報酬の支払時期について,委任事務を履行した 後(ただし,期間によって報酬を定めたときはその期間の経過後)と規定している。
この規律は,履行割合型の報酬支払方式を採る委任契約については妥当すると考え
られるが,成果完成型の報酬支払方式を採る委任契約については妥当せず,仕事の 完成を目的とする請負契約における報酬支払時期(民法第633条)と同様に,そ の報酬の支払時期は仕事の完成後とすべきであるという考え方が示されている(参 考資料1[検討委員会試案]・360頁)。
このような考え方について,どのように考えるか。
(3) 委任事務の処理が不可能になった場合の報酬請求権
有償委任に基づく事務の処理が中途で終了し,その後の事務処理が不可能 になった場合には,当該委任契約が成果完成型の報酬支払方式を採るもので あるときは成果が完成していない以上報酬を請求することができず,履行割 合型の報酬支払方式を採るものであるときは事務を処理した割合に応じて報 酬を請求することができるにすぎないのが原則である。もっとも,このよう な原則に基づく処理が妥当でないと考えられる場合もあり,受任者が上記の 原則を超えて報酬を請求し得る場合があるか,あるとすればどのような場合 か,また,そのような場合にどのような範囲で報酬を請求することができる かなどが問題となる。
一つの考え方として,①委任者に生じた事由によって受任者が事務を処理 することができなくなった場合は,受任者は既に行った事務処理の割合に応 じた報酬を請求することができ,②委任者の義務違反によって受任者が事務 を処理することができなくなった場合は,受任者は約定の報酬から債務を免 れることによって得た利益を控除した額を請求することができることとする 考え方が提示されている。また,上記の①及び②以外の原因で受任者の事務 処理が不可能になった場合であっても,成果完成型の報酬支払方式を採る委 任について,既に処理された部分が可分であり,かつ,委任者がその給付を 受けることに利益を有するときは,特段の事情のない限り,委任者は未履行 部分について契約の一部解除をすることができるにすぎず,この場合,解除 が制約される既履行部分について受任者は報酬を請求することができるもの とすべきであるとの考え方が提示されている。
以上のような考え方について,どのように考えるか。
(補足説明)
1 問題の所在
委任契約における報酬の支払方式に成果完成型と履行割合型とがあるとの理解
(前記(1)参照)を前提とすると,成果完成型においては,成果が完成しなけ れば受任者は報酬を請求することができず,また,履行割合型においては,現に 事務を処理した割合に応じて報酬が支払われるのが原則である。
しかし,例えば,不動産の売却を委任した者が受任者である不動産取引業者を 介さずに目的物を売却した場合に,受任者が報酬を請求することができるかが問 題とされた事案(最判昭和39年7月16日民集18巻6号1160頁)に見ら
れるように,上記の原則を貫徹することの妥当性が問題になる場合があるという 指摘がある。もっとも,委任事務の全部又は一部が履行不能になった場合に,受 任者が上記の原則の例外として報酬を請求するための要件や効果は,必ずしも明 確でない。すなわち,それが委任者の責めに帰すべき事由による場合,いずれの 当事者の責めに帰すべき事由もない場合,受任者の責めに帰すべき事由による場 合で,それぞれ報酬債権がどのように扱われるか,また,双方に帰責事由がない 場合に,履行不能を発生させた事由がいずれの当事者の領域で生じたかによって 区別するかどうかが問題となる。さらに,報酬を請求できる場合にその範囲はど こまでか(既に事務を処理した部分に対応する報酬か,事務処理を完了した場合 と同様の報酬か。)などが問題となる。
なお,民法第648条第3項は,委任が受任者の責めに帰することができない 事由によって履行の中途で終了したときは,既にした履行の割合に応じて報酬を 請求することができると規定している。これは,上記の原則に対し,成果完成型 においても履行割合に応じた報酬請求権を認める点で,また,委任の中途終了が 受任者の帰責事由による場合は履行割合型においても報酬請求権が否定される点 で,修正を加えるものと言える。
2 委任事務処理の履行不能について委任者側に原因がある場合の規律
一つの考え方として,①履行不能の原因が委任者に生じた事由であるときは,
受任者は既に行った事務処理の履行の割合に応じた報酬を請求することができ,
②履行不能の原因が委任者の義務違反であるときは,受任者は約定の報酬から自 己の債務を免れることによって得た利益を控除した額を請求することができると する考え方が提示されている。もっとも,②の場合であっても,委任者が任意解 除権を行使することができる場合は,受任者は,任意解除権が行使された場合の 損害賠償請求権の額(後記6(1)参照)を超える給付を期待することができな かったのであるから,この場合に請求することができる額は損害賠償請求権の額 と連動させるべきであるとの考え方が提示されている(参考資料1[検討委員会 試案]・360頁)。
このような考え方によると,民法第648条第3項との関係では,上記①の場 合は同様の結論になると考えられ,上記②の場合には請求することができる額が 異なり得る。また,このような考え方は,成果完成型の報酬支払方式を採る委任 においては,受任者の責めに帰することができない事由で事務処理が履行不能に なった場合であっても,上記①及び②の場合以外は報酬を請求することができな い点で,同項の規律と異なっている。
また,上記1記載の原則との関係でいえば,履行不能の原因が委任者に生じた 事由である場合については,成果完成型の報酬支払方式を採る委任においても履 行割合に応じた報酬請求権を認める点で,原則を修正するものと言える(履行割 合型においては原則どおり。)。また,履行不能の原因が委任者の義務違反である 場合については,成果完成型及び履行割合型のいずれの報酬支払方式を採る場合 であっても,履行割合にかかわらず当該契約から合理的に期待できる利益を請求