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寄託者の義務

ドキュメント内 民法(債権関係)部会資料 (ページ 96-99)

(1) 寄託者の損害賠償責任(民法第661条)

民法第661条は,寄託物の性質又は瑕疵によって受寄者に生じた損害の 賠償責任について,その立証責任を寄託者に転換している。この規定に対し ては,委任者の無過失責任を定めた同法第650条第3項との権衡を失して いるのではないかという立法論的な批判がされており,学説上,無償寄託の 場合には同項を類推適用して寄託者に無過失責任を負わせるべきであるとい う見解が主張されている。

そこで,一定の場合に寄託者に無過失責任を負わせる方向で,民法第66 1条の規定を見直すべきであるという考え方が提示されている。具体的には,

無償寄託についてのみ,寄託者に無過失責任を負わせるという考え方や,有 償寄託と無償寄託のいずれについても,原則として寄託者の責任を無過失責 任とするが,例外的に,受寄者が事業者で,寄託者が消費者である場合に限 定して,寄託者が寄託物の性質又は状態を過失なく知らなかった場合には免 責されるという考え方が提示されているが,どのように考えるか。

(参考・現行条文)

○(受任者による費用等の償還請求等)

民法第650条 (略)

2 (略)

3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委 任者に対し、その賠償を請求することができる。

○(寄託者による損害賠償)

民法第661条 寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠 償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知 らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない。

(補足説明)

1 問題の所在

民法第661条は,寄託物の性質又は瑕疵によって受寄者に生じた損害の賠償 責任について,その立証責任を転換し,寄託者は,①過失なくその性質若しくは 瑕疵を知らなかったこと,又は②受寄者が当該性質若しくは瑕疵を知っていたこ とのいずれかを立証しなければ免責されないものとしている。

このうち,②の受寄者が性質又は瑕疵を知っていた場合に寄託者が免責される ことについては,特に異論は見られないものの,①の規律に対しては,委任につ いて委任者の無過失責任を定めた民法第650条第3項との権衡を失しているの ではないかという立法論的な批判がされている。同項は,委任の利益が委任者に あることに鑑み,委任者に対して無過失の損害賠償責任を負わせたものであると されるが,寄託もまた,寄託の利益が寄託者にあるとされているにもかかわらず,

寄託者が無過失を立証することで免責されるのは,適当でないというものである。

このような批判を踏まえ,学説上,特に無償寄託の場合には,好意的契約として の性格が強いことから,同法第650条第3項を類推適用し,寄託者に無過失責 任を負わせるべきであるという見解が主張されている。

2 見直しの方向性

そこで,一定の場合に寄託者に無過失責任を負わせる方向で,民法第661条 の規定を見直すべきであるという考え方が提示されており,具体的には以下のよ うな考え方が提示されている。

[A案]無償寄託については寄託者の責任を無過失責任とし,他方,有償寄託 については同条の規律を維持するという考え方(参考資料2[研究会試 案]・218頁,219頁)。

[B案]有償寄託と無償寄託のいずれについても,原則として,寄託者の責任 を無過失責任とするが,例外的に,受寄者が事業者で,寄託者が消費者で ある場合に限定して,寄託者が寄託物の性質又は状態を過失なく知らなか った場合には免責されるという考え方(参考資料1[検討委員会試案]・3 80頁)。

[A案]は,解釈論として主張されている前記の学説と同様に,特に好意的契 約としての性格が強い無償寄託についてのみ,寄託者の責任を無過失責任とする という考え方である。

これに対して,[B案]は,以下のような理由に基づくものであると説明されて いる。すなわち,寄託と委任は,対人的信頼関係を基礎とする点で共通するもの であるから,委任者の損害賠償責任と寄託者の損害賠償責任とで異なる理解をす る必要はなく,また,寄託の場合には,寄託物の内容や性質等について情報を有 しているのは寄託者であって,受寄者は,寄託者から情報の提供を受けない限り,

寄託物の内容等を知ることができない立場にあるため,有償寄託と無償寄託のい ずれについても,原則として,寄託者が無過失責任を負うとすべきである。しか し,受寄者が事業者であり,寄託者が消費者である場合には,必ずしも寄託者が 知識を有しているとは限らないため,寄託者に無過失責任を負わせるのは厳しす ぎるとして,この場合に限り,例外的に,寄託者が自らの無過失を立証した場合 の免責を認めるとするものである。また,この考え方は,事業者同士の寄託であ る倉庫寄託契約においては,寄託者に無過失責任を負わせるのが一般的であるの に対し(標準倉庫寄託約款第45条参照),消費者を寄託者とし,事業者を受寄者 とすることが想定されているトランクルームサービス契約においては,民法第6

61条と同様の規定が置かれているのが一般的であり(標準トランクルームサー ビス約款第36条参照),このような規律が実務上の取扱いに合致しているという ことも根拠としている。

以上のような考え方について,どのように考えるか。

なお,[B案]のように,「事業者」,「消費者」等の文言を用いて規定の適用範 囲を画することの当否については,個別的課題の検討が一巡した後に,改めて全 体を振り返りながら行うことを予定している。

(2) 寄託者の報酬支払義務

寄託を諾成契約として規定する場合には,報酬に関する規律について明文 の規定を設けるべきであるという考え方が提示されている。具体的には,① 保管義務を履行しなければ,報酬請求権は具体的に発生しないという原則を 定めるとともに,②寄託者の義務違反により寄託物が引き渡されなかったと きは,受寄者は,約定の報酬から自己の債務を免れることによって得た利益 を控除した額を請求することができるという規定を設けるという考え方であ る。このような考え方について,どのように考えるか。

(補足説明)

前記「2(2) 寄託物の受取前の当事者間の法律関係」(補足説明)のとおり,

寄託者は,寄託物を引き渡さなかった場合に,受寄者に対して費用償還義務を負う という考え方が有力であるが,報酬については,争いはあるものの,通説は,これ を支払う義務を負わないとする。これは,報酬が保管の対価であることから,保管 がされなかった以上,対価である報酬も発生しないという考え方に基づくものと言 われている。

もっとも,当事者間の合意により寄託者が寄託物の引渡義務を負った場合に,寄 託者が解除することなく寄託物の引渡しをしなかったときは,寄託者は引渡しの約 定日から解除時又は引渡時のいずれか早い方までの報酬相当額を支払う義務を負う べきであると考えられている。その法的構成については,様々な見解が主張されて おり,例えば,必要費の一部として償還義務が発生する(民法第665条,第65 0条第1項・第2項)という見解や,民法第536条第2項により報酬請求権が発 生するという見解等が主張されている。

また,保管期間を定めた有償寄託において,寄託者が当該期間の途中で寄託物の 返還請求をした場合に,受寄者は,保管期間全部に対する報酬を請求することがで きるかという点について,学説は必ずしも一致しているわけではないが,受寄者は,

原則として,返還請求時までの割合的な保管料を請求することができるにとどまる が,寄託者が保管期間の終了まで寄託することを確約したなどの特段の事情があれ ば,保管期間の全部に対する報酬を請求することができるとされている。

寄託を諾成契約として規定する場合には,以上の点を明確にするために,報酬に 関する規律について明文の規定を設けるべきであるという考え方が提示されている。

具体的には,①保管義務を履行しなければ,報酬請求権は具体的に発生しないとい う原則を定めるとともに,②寄託者の義務違反により寄託物が引き渡されなかった ときは,受寄者は,約定の報酬から自己の債務を免れることによって得た利益を控 除した額を請求することができるという規定を設けるという考え方である。①は,

前記第5,2(1)と同様の考え方に基づくものであるが,これにより,具体的な 報酬請求権の発生時期を条文上明らかにするものである。また,②は,前記第2,

4(2)等と同様の考え方に基づくものであるが,これにより,寄託物を引き渡さ なくても報酬請求権が例外的に発生する場合があることの法的根拠を明らかにする というものである。

このような考え方について,どのように考えるか。

ドキュメント内 民法(債権関係)部会資料 (ページ 96-99)