第1章 序論
5.2 油膜可視化予備試験
5.1 本章の概要
スカート部のフリクションは潤滑状態の影響を受けると考えられ,さらに前章におい てスカート部のオイル不足(starvation, スタベーション)によるフリクション増大の現 象と推定される現象があることも分かった.そこでスカート全体の油膜を観察し,スカ ート部潤滑状態とフリクションの関係を解析した結果を本章で述べる.
油膜の可視化は油膜厚さに比例した蛍光が得られる誘起蛍光法により行う.良好な油 膜画像を得るため,蛍光剤,光学フィルターなどの組み合せを最適化した上で,ファイ アリング時のスカート部の油膜撮影を行った.
最初にスカート部にオイル不足が起きていることを油膜画像により確認し,次にオイ ル不足が起きる原因やスカート形状と潤滑状態との関係などを油膜画像により調べた.
図 5-1 蛍光剤・フィルター選定試験方法 0
50 100 150 200 250
0 50 100 150 200
石英板間の油の厚さ μm
蛍光輝度
(c) 油の厚さと蛍光輝度 (b) 実際の撮影画像
0 μm 200 μm
蛍光輝度を 読み取る位置
200μm 0μm
石英板(t=2mm)
蛍光剤入りオイル
(a) 油膜擬似装置
0 μm 200 μm
①蛍光剤:NKX1595
ストロボフィルタ:B390 カメラフィルタ:Y48
<最適仕様>
②蛍光剤:NKX846
ストロボフィルタ:B390 カメラフィルタ:Y48
③蛍光剤:NKX2401
ストロボフィルタ:B390 カメラフィルタ:Y48 (a) 蛍光剤の選定
図 5-2 蛍光剤・フィルターの選定試験結果 (b) フィルターの選定
④蛍光剤:NKX1595
ストロボフィルタ:B390 カメラフィルタ:Y44
⑤蛍光剤:NKX1595
ストロボフィルタ:B390 カメラフィルタ:G533
⑥蛍光剤:NKX1595
ストロボフィルタ:B370 カメラフィルタ:Y48
⑦蛍光剤:NKX1595
ストロボフィルタ:U330 カメラフィルタ:Y48
140
蛍光強度は蛍光剤濃度の影響を受けるため(2.4.1項),エンジンオイル中の蛍光剤濃 度と蛍光強度の関係を調べた結果を図5-3に示す.エンジンオイル中の蛍光剤濃度が0.4 g/lより多くなると蛍光強度の増加は落ちてくることが分かったので,本研究では蛍光 剤濃度を0.5 g/lとし,可視化試験を行った.
5.2.2 ライナ温度測定
本エンジンは冷却していないためファイアリング運転時はライナ温度の急な上昇があ る.図 5-4 にファイアリング開始後のライナ温度上昇の測定例を示す.図 2-13 に示し た所定のライナ温度(110℃)に達するのは運転条件によっても変わるが 1〜2 分後と短く,
この間ですべての測定,撮影を終了させた.
図 5-5 にはライナの温度分布を示す.周方向の温度差は少ないものの,摺動方向の温 度差は大きかった.2.4.1 項において述べたように蛍光強度は温度や照射光強度の影響 を受ける.したがって油膜厚さを定量的に求めるには,ライナの温度分布に対する補正,
ライナ全体を広く照射するため生じる照射の不均一に対する補正などが必要になる.し かしながら今回は油膜厚さの絶対値の評価までには至らなかった.これらは今後の課題 である.
油膜画像撮影時は観察場所であるライナのスラスト側は温度測定できないので前後方 向のみを測定するが,基準点であるスラスト側,27.5 mm 点はリア側の 27.5 mm 点の温 度が近い値を示すのでリア側の温度で代用した.温度測定はサファイアライナ外周に素 線径φ0.2 の熱電対を貼り付けることにより行い,ライナ内周面(摺動面)の温度は外周
+6℃と推定した.
図 5-3 蛍光剤濃度と蛍光強度の関係
油膜厚さ 100 μm, 20℃
0 50 100 150
0 0.2 0.4 0.6
蛍光剤濃度 g/㍑
蛍光輝度
NKX1595, B390, Y48 NKX846, B390, Y48 NKX2401, B390, Y48
②
①
③
①,②,③は図 5-2 の番号を示す
TH
AT
R
F
2番気筒 ヘッド側 TH:スラスト側 F:前側 CTR:行程中央
AT:反スラスト側 R:後側
数値は Top Ring の TDC からの距離を表す
1200 rpm, 380 kPa (IMEP)
0 50 100 150
0 50 100 150 200 250 時間 sec
サファイアライナ外周温度 ℃
TH,6mm TH,BDC TH,95.5mm TH,55mm AT,6mm AT,27.5mm AT,CTR AT,55mm F,6mm F,BDC F,95.5mm F,55mm R,6mm R,27.5mm R,CTR R,55mm
図 5-4 ファイアリング時のライナ温度変化 ファイアリング運転区間
ライナ
図 5-5 ファイアリング時のライナ温度分布 0
50 100 150
0 20 40 60 80 100 トップリング上死点からの距離 mm
サファイアライナ外周温度 ℃
スラスト側 反スラスト側 前側 後側
行程中央
BDC
(図 5-4 における時刻:155 秒)