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第1章  序論

3.3  リング部のフリクション計算法

3.3.8  数値計算法の概略

以上述べてきた計算式を用いての数値計算の概略を以下に示す. 

 

①油膜厚さの変化がないクランク角度(450 度の時,dHm/dT 0とした)から計算をスタ ートする.式(3-81)から油膜厚さHmが,式(3-85)から油膜の終端XOが求まり初期値 とする. 

②1階の常微分方程式はオイラー法(73)により計算する.クランク角度を 0.5 度おきに とり計算時間短縮を狙った. 

③式(3-85)はHmなどが求まればXOに関する代数方程式であり,これを数値的に解くの は逐次2分法(73)(一部にニュートンラフソン法(73))を用いた. 

④各時間ステップ(各クランク角度)において,接触荷重WCと油膜が支える荷重Whの合 計が外力W と釣合うとした. 

外力W はピストンリングの面圧Peとトップランド部の圧力P1(トップリングの計算の 場合)あるいはセカンドランド部の圧力P2(セカンドリングの計算の場合)を加えて計 算した. 

⑤数値積分は主にシンプソンの 1/3 公式(72)(73)によった. 

⑥以上により1サイクル(クランク角度 720 度)にわたり計算を行いHmの値が収束する までサイクル計算を繰返した.収束判定はクランク角度 0 度と 720 度のHmの差が 0.5%以内かどうかで行った. 

⑦収束した 油膜厚 さHm を用いて,流 体(油膜の 剪断)による 摩擦力Fh,境界潤 滑状態 に よ る 摩 擦 力 FC, 筋 状 流 れ 部 の 摩 擦 力Fstrを そ れ ぞ れ 式 88) , 式 95), 式 (3-110)を用いて計算し,全摩擦力Fを求めた(F Fh FC Fstr). 

 

数値計算の実行においては油膜厚さが極薄くなるような条件でまれに計算値の振動が 見られる場合もあったが,ほとんどの条件で問題なく収束した.なお,プログラムはス カート部と同様にマイクロソフト Visual C++ Ver. 6.0 を用いて作成し,パソコンによ り計算を行った.計算時間は CPU Pen4 3.0 GHz の場合には1条件 2〜3 分であった. 

 

ここで表 2-3, 2-7 に示された数値以外で数値計算に用いた諸数値をまとめて表 3-3 に示す.表に示した各リングの油膜温度は推定値であるが,推定の根拠にした温度デー タを図 3-23 に示す.十分なデータではないが,リング摺動面からライナへの熱流れが あることや Top リング溝からスカート方向への温度勾配などから各回転速度の温度差や リング間の温度差を 0〜5℃ほどにとり決定した. 

   

項目  Top Ring  2nd Ring  Oil Ring  摺動面幅 b  mm  0.8  0.6  0.3  ダレ部長さ b1  mm  0.25  0.25  0.1  ダレ量 hd  μm  8.0  3.0  1.1  リング摺動面粗さ  1  μm  0.2  0.2  0.1  ライナ摺動面粗さ  2  μm  0.4  0.4  0.4   700 rpm 油膜温度  ℃  105  105  100  1200 rpm 油膜温度  ℃  110  105  100  1500 rpm 油膜温度  ℃  115  105  105  2000 rpm 油膜温度  ℃  120  110  105 

  0.3 

  0.05 

  0.001 

  1.0 

1  1.0 

2  0.6 

                                   

表3-3  リング計算に用いた諸数値(エンジンⅡ) 

図 3-23  ピストンとライナの温度  128℃ 

116℃ 

94℃  105℃ 

100℃ 

94℃  ライナ  95℃ 

Top リングの  上死点位置  Top リングの 

下死点位置 

EJ22 型生産エンジン 

1200 rpm, 1/4 負荷,  冷却水/潤滑油:90/85℃ 

(リングとライナの摺動面形状および粗さは図2-5(b)(c)を参照) 

3.3.9 2nd ランド部圧力の計算方法 

2nd リングにかかる圧力は 2nd ランド部の圧力であるため,本研究では古浜ら(76)(77) の方法を用いて 2nd ランド圧力を計算した.本項では計算に用いた古浜らの式の概要を 以下に記述する. 

(a) 記号とモデル化説明図 

リングランド間の圧力,体積,温度などの変数を以下のように(図 3-24)定める. 

 

F1  :Top リング合口部のもれ面積 [m2F2  :2nd リング合口部のもれ面積 [m2

G1  :Top リング合口部を流れるガス質量 [kg] 

G2  :2nd リング合口部を流れるガス質量 [kg] 

P1  :筒内圧力 [Pa] 

P2  :2nd ランド部圧力 [Pa] 

P3  :3rd ランド部圧力 [Pa] 

R  :ガス定数 [286.9(空気), J/kgK] 

T1  :Top ランド部平均ガス温度 [K] 

T2  :2nd ランド部平均ガス温度 [K] 

T3  :3rd ランド部平均ガス温度 [K] 

V2  :2nd ランド部の体積 [m3V3  :3rd ランド部の体積 [m3

t  :時間 [sec] 

  :比熱比 (1.40) 

  :合口部を流れるガスの流量係数 (0.86) 

1  :流量特性(Top リング部) 

2  :流量特性(2nd リング部)   

                       

P1,T1 

P2,T2,V2 

P3,T3,V3 

ガスの流れの概念図 

ライナ 

P1,T1 

ピストン 

P2,T2,V2 

P3,T3,V3 

図3-24  リング合口部とランド間を流れるガスのモデル化 

(b) 計算式 

先細ノズルにおけるガスの流れから, 

t時間に Top リング合口部を流れるガスの質量 G1は  t

RT P G F

2 2 1 1

1       (3-111) 

ただし流量特性 1は式(3-112)から求められる. 

1

1 2 2

1 2

1 1

2

P P P

P     0.528

1 2

P

P の時 

145 .

1 2         0.528

1 2

P

P の時 

P0P1の比の 0.528 は臨界圧力比で 0.528 以下の時,合口部を流れるブローバイガス は音速を意味する. 

同様に 2nd リング合口部を流れるガスの重量 G2は  t

RT P

G F Δ

Δ

3 3 2 2

2       (3-113) 

ただし, 

1

2 3 2

2 3

2 1

2

P P P

P    0.528

2 3

P

P  

145 .

2 2         0.528

2 3

P

P  

 

2nd ランド部圧力P2の圧力変化を P2とすると 

2 2 2 1

2 V

RT G

P G       (3-115)  t後の 2nd ランドの圧力変化は次式(3-116)により求められる. 

2 2

2 P P

P       (3-116)  なお,オイルリングはガスシールの役目はないので,P3は大気圧とした. 

 

以上の諸関係から 2nd リングに作用する圧力を求めることができる.ただしランド間 を流れるガス温度は付近のピストン温度とほ ぼ同じとし(77),合口部を流れるガスの流 量係数は 0.86(76)とした. 

 

(3-112) 

(3-114) 

3.4 第3章のまとめ 

本章では 3.1 節においてスカート部のフリクション計算のための基礎式について,

3.2 節においては数値計算法について述べ,3.3 節においてはピストンリングのフリク ション計算法について述べた. 

 

本計算法の特徴はスカート部に発生するスカート荷重(オーバラップ荷重)の計算法を 提案し,このスカート荷重と表面粗さを考慮できる平均レイノルズ方程式とを組み合せ て摩擦力の計算を行った点にある.本計算法の特徴とその内容を以下にまとめる. 

①オーバラップ荷重の計算方法とスカート摺動面積の定義 

・ガソリンエンジンは運転時にはピストンとライナの温度差,線膨張率差によりスカ ート部の外径がライナ内径より計算上大きくなるオーバラップが発生する.本研究 ではオーバラップ荷重の計算方法とオーバラップ部のライナとの切断面を摺動面積 とする定義を提案した.この方法によりスカート部の重要な寸法諸元も同時に考慮 することができた. 

②境界摩擦力の計算方法 

・経験式として提案し,計算の容易化と計算精度向上を狙った. 

③スカート表面粗さの考慮 

・平均レイノルズ方程式の中にスカート表面の条痕形状を導入した. 

④スカート摺動部後端の筋状流れ部の摩擦力の考慮   

上記項目の中で特に①,②は本計算法の特徴である.計算式の解法には差分法を用い 数値計算を行った. 

 

ピストンリングの計算ではリング に作用する 筒内圧を考慮できるように三田(70)らの 式を基に改良を加え,実際のエンジンのピストンリングの摩擦力を計算可能とした.本 研究のピストンリング計算法の特徴を以下にまとめると, 

①筒内圧の考慮 

・実際のエンジンのピストンリングの摩擦力を計算する上で必要となる.本研究で計 算可能とした項目である.Top ランド部の圧力は筒内圧(実験値)を用い,2nd ラン ド部の圧力は計算により求めた. 

②リングおよびライナ表面粗さの考慮 

③境界潤滑時の摩擦力の考慮 

④リング後端付近の筋状流れ部の摩擦力の考慮 

であり,①が本研究で新たに計算可能になった項目である. 

数値計算はオイラー法により行った.なお,②〜④はリングの摩擦力を計算する上で 考慮すべき重要な項目であり,本研究でも取り入れた. 

 

           

第4章 

 

ピストン系のフリクション解析結果 

       

4.1 本章の概要 

本章では実験結果,計算結果を示し,これらをもとに行ったフリクションの解析結果 について記述する.概要は以下のとおりである. 

最初にスカート荷重計算時の主要な入力データであるスカート剛性の測定結果につい て述べ,スカート荷重計算結果の妥当性について調べている. 

次に新たに開発した分離型浮動ライナエンジンⅠによるリングとスカート部のフリク ション測定結果およびスカート部とリング部のフリクション割合について解析している.

さらにスカート部フリクションの実験結果と計算結果を比較することにより計算精度を 検討し,計算精度が十分あることを確認している.続いて計算によりスカート部フリク ション低減策を検討し,いくつかの低減策を提案している. 

筒内圧を考慮できる新たに構築したピストンリングの計算方法について計算精度を確 認し,ピストンリングを含めたピストン系全体のフリクションとスカート部潤滑特性と の関連について考察を行っている.