2.5 Cauchy-Riemann の方程式
2.5.2 正則関数と調和関数
以下に述べることは論理的にはフライングであるが、順番を守ると、おそらく、この講義で は説明することが出来なくなると思われるので、あえてここで説明する。
命題 2.13 (正則関数の実部虚部は調和関数である) Ω は C の開集合、f: Ω→C は正則 とするとき、f の実部・虚部 u, v は
uxx(x, y)+uyy(x, y) = 0, vxx(x, y)+vyy(x, y) = 0 ((x, y)∈Ω :=e {
(x, y)∈R2 x+iy∈Ω} ) を満たす。
証明 後で f がΩ内の任意の点の十分小さな近傍で冪級数展開出来ることが証明できる。ゆ えに u と v は C∞ 級である。そのことを認めて議論する。
Cauchy-Riemann 方程式ux =vy, uy =−vx が成り立つので、
uxx+uyy = ∂
∂x
∂u
∂x + ∂
∂y
∂u
∂y = ∂
∂x
∂v
∂y + ∂
∂y (
−∂v
∂x )
= ∂2v
∂x∂y − ∂2v
∂y∂x = 0.
最後の等号が成り立つのは、v が C2 級であることによる(v の2階偏導関数は偏微分の順序 によらない)。
vxx+vyy = 0 についても同様である。
n 変数関数 u(x1, . . . , xn) が (♯)
∑n j=1
∂2u
∂x2j = 0
を満たすとき、u は調和関数 (harmonic function) であるという。また (♯) を Laplace 方程 式という。
上の定理は「正則関数の実部と虚部は調和関数である」と述べることが出来る。実は任意の 調和関数は、局所的にはある正則関数の実部になっているので、複素関数論は2変数の調和関 数論であるとも言える。
R2 の開集合Ω で定義された調和関数uに対して、(☆)を満たすv のことをu の共役調和 関数と呼ぶ。正則関数の虚部は実部の共役調和関数であるということになる。
問 30. v が u の共役調和関数であるとき、u は v の共役調和関数であるかどうか答えよ。
Ωが領域であれば、調和関数 u を定めたとき、u の共役調和関数は (もし存在するならば) 定数差を除いて一意的に定まる。
問 31. このことを証明せよ。(ベクトル解析を学んでいる人には、続けて問う) v を u を用 いて表示する式を求めよ。
余談 2.3 (桂田君2?才) 正則関数の実部虚部が調和関数という命題は、筆者が学生のとき (も う30年以上も前のこと)、某県の教員採用試験で解かされた問題で、ちょっと思い出深い。ど ういう採点基準か良く判らなかった。Cauchy-Riemann 方程式は既知として使ってよいのか、
u, v が C2 級であることは認めて良いか、とか。Cauchy-Riemann 方程式はその場で導出した が(上に紹介したf′ =fx = 1
ify という議論をした)、u, v が C2 級であることの証明は書かな かった(そのときの私には書けなかった — 実はちょっと情けない)。どちらも受験生が証明を 書くことは要求していなかったのかもしれない。その辺の判断は、学習指導要領で出題範囲が 定まっている大学入試とは違って、難しい。
Cauchy-Riemann 方程式に関係が深く、応用上も意義のある話題があるけれど(2次元の渦
なし非圧縮流体の速度ポテンシャル・流れ関数とか)、今年度はまた台風休講が来そうな雰囲 気なので、先を急ぐことにする(練習問題のネタにするくらいか…まあ、応用複素関数でやれ ば良いか)。
3 冪級数
べき
冪級数(a power series) は巾級数、ベキ級数とも書く。整級数と呼ぶこともある。
実は「正則関数=各点の近傍で冪級数で表せる複素関数」と後で分かる。
現時点で関数欠乏症なので(多項式関数、有理関数、指数関数くらいしか複素関数がない)、 冪級数を使ってたくさんの関数を導入したい。
3.0 イントロ
冪級数について、少し長めの話をすることになるので、ものものしいが、イントロをつける。
冪級数とは∑∞
n=0an(z−c)n (ここでz は変数、cや an は与えられた定数)の形をしている 級数のことをいう。
3つの事実を指摘する (1つは既知、後の2つはこれから)。
1. (微積分で教わった) ex, sinx, cosx, logx, (1 +x)α などなど、高校生の知っているよう
な関数 (「場合分け無しの式で書けるような関数」)は、ほとんどが Taylor 展開できる
(f(x) =
∑∞ n=0
f(n)(a)
n! (x−a)n)。つまり冪級数で表せる。—x を複素変数z に置き換える と、複素関数バージョン (複素関数拡張) の定義が得られる。
2. (複素関数論の主結果(我々の目標)の一つ)正則関数は冪級数展開出来る(冪級数で表せ る)。逆に収束冪級数の和は正則関数となるので
正則関数= (収束)冪級数で表せる関数 (解析関数という)
と言える。具体的に書くと、Ωが C の開集合で、f: Ω→ Cが正則とするとき、(Ωが 開集合なので) 任意のc∈Ω に対して D(c;ε)⊂ Ωとなる ε >0 が存在するが、実はあ る {an} が存在して
f(z) =
∑∞ n=0
an(z−c)n (|z−c|< ε) が成り立つ (驚くべき定理)。
3. 冪級数
∑∞ n=0
an(z−c)nに対して、収束円というものがある。それは c中心の円盤 D(c;R) で、その内部であれば、冪級数は何回でも項別微分、項別積分出来る。
( ∞
∑
n=0
an(z−c)n )′
=
∑∞ n=0
(n+ 1)an+1(z−c)n,
∫
C
∑∞ n=0
an(z−c)ndz =
∑∞ n=0
an
∫
C
(z−c)ndz.
(ここで C は D(c;R) 内の任意の区分的に滑らかな曲線である。図が必要。)