与えられた関数の冪級数展開の収束半径については、係数を用いた公式(ratio test (d’Alembert
の公式) や Cauchy-Hadamard の公式)もあるが、元の関数の性質を元にした特徴づけが重要
である。次の命題は、教科書のものとは少し変えてある。
命題 9.13 Ω は C の開集合で、f: Ω→C は正則、c∈Ωとする。
R:={R >0|D(c;R)⊂Ω であるか、あるいは f は D(c;R) まで正則に拡張できる} とおくとき、f の cのまわりの 冪級数展開の収束半径 ρは supR に等しい。
証明 ρ > 0 であることに注意する。(実際、Ω は開集合であるから、D(c;ε)⊂Ω を満たす
ε >0 が存在する。ε を小さく取り直して、D(c;ε)⊂Ωと出来る。このとき、定理 7.3 より、
f は D(c;ε) で冪級数展開出来る。収束半径の定義より ρ≥ε であるから、ρ >0.)
ρ が有限の数である場合、収束半径の定義により ρ ∈ R であるから、ρ ≤ supR. 一方、
R ∈ R とするとき、∀ε ∈ (0, R) に対して、D(c;R −ε) ⊂ Ω であるから、定理 7.3 が適用 できて、f の cの回りの 冪級数展開は D(c;R−ε) で収束する。ゆえに収束半径の定義から R−ε≤ρ. ε は任意であるから、R≤ρ. ゆえに supR ≤ρ. 従って ρ= supR.
ρ=∞ である場合、f の cの周りの冪級数展開はC 全体で収束するので、その冪級数が定 める関数はC で正則である。ゆえに特に任意の正数R に対して、その冪級数はD(c;R)で収 束するので、R∈ R. ゆえに supR=∞ であるから、ρ= supR.
例 9.14 (有理関数の冪級数展開の収束半径) f(z) = Q(z)
P(z) (P(z), Q(z) ∈ C[z], P(z) とQ(z) は互いに素)とするとき、P(z)のすべての根α1,α2,. . .,αnを除いたΩ :=C\{α1, α2, . . . , αn} で f は定義されて正則である。
一方、各 j ∈ {1,2,· · · , n} に対して、lim
z→αj|f(z)|=∞ であるので、z =αj を含めて正則に 拡張することは出来ない(αj は後で定義する言葉を使うと、f の極である)。
ゆえに、∀c∈ Ω に対して、f のc の回りの 冪級数展開の収束半径は min
1≤j≤n|αj −c| である (最寄りの赤点までの距離に等しい)。
24もしa0zn+a1zn−1+· · ·+an−1z+an (a0̸= 0,n≥1)が定数であれば、a0zn−1+a1zn−2+· · ·+an−1≡0 である。「0 の代入と微分(あるいは割り算)」によって、an−1=an−2 =· · · =a1 =a0 = 0が得られ、a0 ̸= 0 に矛盾する。
例 9.15 (教科書 p.81) 実関数
f(x) := 1 1 +x2
は R 全体で実解析的である。すなわち、∀x0 ∈R に対して、f は x0 で冪級数展開できる: (∃r >0)(∃{an}n≥0)(∀x∈(x0 −r, x0+r)) f(x) =
∑∞ n=0
an(x−xn0).
しかし x= 0 での冪級数展開
f(x) = 1−x2 +x4−x6+· · ·=
∑∞ n=0
(−1)nx2n
は −1 < x < 1 でしか収束しない (理由は各自チェックせよ)。それは f(z) = 1 z2+ 1 = 1
(z+i)(z−i) のc= 0のまわりの冪級数展開の収束半径が、上の例からmin{|i−0|,|−i−0|}= 1 となるから、D(0; 1)では収束し、{z ∈C| |z|>1} では発散することから分かる。
例 9.16 (Bernoulli 数の母関数の収束半径) f(z) = z
ez −1 とおく。まず分母と分子は整関数 (C全体で正則) である。
分母 ez−1 = 0 ⇔ (∃n∈Z)z = 2nπi であるから、f はD0 :=C\∪
n∈Z{2nπi} で正則な関数を定める。
任意のz ∈C に対して
ez−1 =
∑∞ n=0
zn
n! −1 =
∑∞ n=1
zn n!
であるから、z ̸= 0 に対して
ez−1
z =
∑∞ n=1
zn−1 n! =
∑∞ n=0
zn (n+ 1)!. 右辺の冪級数の収束半径は ∞ であるので、
g(z) :=
∑∞ n=0
zn
(n+ 1)! (z ∈C) とおくと、整関数 g が定まる。g(0) = 1̸= 0 に注意すると、
g(z) = 0 ⇔ z ̸= 0∧ez−1 = 0 ⇔ (∃n∈Z\ {0}) z = 2nπi.
そこで
D :=C\ {2nπi|n∈Z, n̸= 0}=D0∪ {0}, fe(z) := 1
g(z) (z ∈D)
とおくと、fe: D→C は正則になり、f の拡張になる(0 でも定義できた)。
特に|z|<2π で正則であるから、∃{Bn} s.t.
(18) fe(z) =
∑∞ n=0
Bn
n!zn (|z|<2π).
なお、 lim
z→±2πi
ef(z)= ∞ であるから、z =±2πi での値を (z = 0 のときと同様に) 適当に定 義することによって、より大きい半径の円盤で正則になるようには出来ない。ゆえに (18)の 収束半径は2π である。
Bn は Bernoulliベ ル ヌ ー イ 数と呼ばれ、多くの重要な応用がある (冪乗和
∑∞ n=1
nk の公式, tan と cot の冪級数展開、
∑∞ n=1
1
n2k の和, Euler-Maclaurin の公式, etc.)。
最初の数項を書くと B0 = 1, B1 =−1
2, B2 = 1
6, B3 = 0, B4 =− 1
30, B5 = 0, B6 = 1
42, · · · Bn の一般項を表す簡単な式は知られていない
(そのため、この冪級数の収束半径を、Cauchy-Hadamard の定理を使って求めることは難しいことに注意しよう)。Bernoulli 数の定義の仕方
はいくつかあるが、上の議論はそのうちの一つである。
手短な定義 (まとめ)
f(z) := z
ez−1 とおくとき、Bn :=f(n)(0) をBernoulli 数という。
Mathmematicaで試す
f(z) を 0 のまわりに 10次の項まで Taylor 展開してみる。
Series[z/(Exp[z]-1),{z,0,10}]
そもそもベルヌーイ数を計算する関数 BernoulliB[] が用意されている。
Table[BernoulliB[n],{n,0,10}]
f(z) +z
2 は偶関数なので、B1 を除き、奇数次の項の係数B2n−1 (n ≥2) は0 であることが 分かる(偶関数は z2 の冪級数に展開できることに注意)。
実はBernoulli 数の定義には色々な流儀がある。
一応、上で定義したものがメジャーだと考えているが(だから上でそのように紹介したが)、そ れ以外で比較的多いのは、f(z)の代わりにf(z) +z を用いた場合に得られるもので、そうする と、B1 だけが上の定義と異なり、B1 = 1
2 となる。オリジナルのJacob Bernoulli (1655–1705) や関たかかず孝和 (1642–1708) はこちらを用いたということである(Bernoulli も関も冪乗和を考える 過程で導いた)。
その他にも、偶数番目しか考えないとか(B2n をBn にする)、符号を変えたり、細かな流儀 の違いがある。教科書は B2n のみ定義し、それが正になるようにしている。
問 54. 0の近傍で正則な偶関数は z2 の冪級数に展開されることを示せ。
余談 9.3 (Bernoulli数の応用) Bernoulli 数は色々な基本的な問題の解を表すために使われ る。いくつか紹介しよう。
cot, tan, coth などの冪級数展開: cotz =
∑∞ k=0
(−1)k22kB2k (2k)! z2k−1, zcothz=
∑∞ n=0
B2n
(2n)!22nz2n, tanz =
∑∞ n=1
(−1)n−122n(22n−1)B2n
(2n)! z2n−1. (教科書の流儀ではtanz =
∑∞ n=1
22n(22n−1)B2n
(2n)! z2n−1 となる。) 冪乗和の公式(関・Bernoulli の公式):
∑n i=1
ik =
∑k j=0
(k j
)
Bj nk+1−j
k+ 1−j (n, k ∈N).
ゼータ関数の関数値:
ζ(2k) =
∑∞ n=1
1
n2k = (−1)k+122k−1π2k
(2k)! B2k (k∈N).
Euler-Maclaurin の公式: f が [0, n]で Ck 級とするとき
∑n i=1
f(i) =
∫ n 0
f(x)dx+1
2(f(n)−f(0))+
∑k j=2
Bj j!
(f(j−1)(n)−f(j−1)(0))
+(−1)k−1 k!
∫ n 0
Bek(x)f(k)(x)dx.
ただし Bek(x)は、Bernoulli 多項式 (おっと、紹介し忘れた)Bk(x)を周期1で拡張したもので ある。和を積分で評価したり、定積分を台形公式で近似するときの誤差評価をしたり (周期関 数の1周期積分を台形公式で近似すると高精度と云う話がどこかであったけれど、それはなぜ だろう…) 色々な使い道のある公式である。
Bernoulli数については、荒川・息吹山・金子 [14]が詳しい。
例 9.17 2つの関数
f(z) := 1
z−1, g(z) := 1 (z−1)(z−2)
はそれぞれC\ {1},C\ {1,2}で正則である。f もg も|z|<1で正則であるから、h:=f+g も |z|<1 で正則であるが、実は h は |z|<2 まで正則に拡張可能である。これは g(z) の部 分分数分解
g(z) =− 1
z−1+ 1 z−2 を見れば明らかである。