定理 10.4 (Laurent級数の収束範囲, “収束円環” の存在)
∑∞ n=0
an(z−c)n+
∑∞ n=1
a−n (z−c)n について、次の3つのうちのいずれか一つが成り立つ。
(i) 0≤ ∃R1 <∃R2 ≤ ∞ s.t. 円環領域 A(c;R1, R2) で収束し、その外部では発散する。
R1 < r1 < r2 < R2 を満たす任意の r1, r2 に対して、A(c;r1, r2) で一様に絶対収束 する。
(ii) 0≤ ∃R <∞s.t. 円周 |z−c|=R の空でない部分集合上で収束し、その補集合では 発散する。
(iii) C 上いたるところで発散する。
(i)の場合の R1 と R2, (ii) の場合の R は一意的に定まる。
証明
∑∞ n=0
an(z−c)n については、ある R2 ∈[0,∞)∪ {∞} が存在して、|z−c|< R2 で収束 し、|z−c|> R2 では発散する。
∑∞ n=1
a−n
(z−c)n については、ある R1 ∈ [0,∞)∪ {∞} が存在して、|z −c| < R2 で発散し、
|z−c|> R2 では収束する。
R1 < R2 であれば、Laurent 級数は A(c;R1, R2) で収束し、その外部 {z ∈ C | |z −c| <
R1 or|z−c|> R2}で発散する。
R1 =R2であれば、Laurent級数は{z ∈C| |z−c| ̸=R2}で発散する。{z ∈C| |z−c|=R2} の部分集合上では収束する可能性があるが、部分集合が空集合ということもありうる。
R1 > R2 であれば、Laurent 級数は C 上のいたるところで発散する。
問 55. 上の定理の (i)の場合に、R1, R2 を an を用いて表わせ。
定理 10.5 (円環領域で正則な関数のLaurent展開) c∈Cで、R1, R2 は 0≤R1 < R2 ≤
∞を満たすとする(R1 は 0以上の実数だが、R2 はR1 より大きい実数であるか、または
∞に等しい)。f が A(c;R1, R2) で正則ならば、∃{an}n∈Z s.t.
(19) f(z) =
∑∞ n=0
an(z−c)n+
∑∞ n=1
a−n
(z−c)n (R1 <|z−c|< R2).
(19) の右辺の級数は、R1 < r1 < r2 < R2 を満たす任意のr1, r2 に対して、A(c;r1, r2) で 一様に絶対収束する(特に一様収束であり、絶対収束である)。
(係数の一意性)等式 (19) が成り立っているならば、R1 < r < R2 を満たす任意のr に対 して、
(20) an = 1
2πi
∫
|z−c|=r
f(z)
(z−c)n+1 dz (n∈Z).
以下、(19) を書く手間を少なくするため (案外と大事) f(z) =
∑∞ n=−∞
an(z−c)n あるいは
f(z) =∑
n∈Z
an(z−c)n と略記する。
証明 (係数の一意性)∀m ∈Z に対して、等式 (19) の両辺を (z−c)m+1 で割った f(z)
(z−c)m+1 =
∑∞ n=−∞
an(z−c)n−m−1
は、R1 < r < R2 なる r に対して、円周|z−c|=r 上で一様に収束するので、
1 2πi
∫
|z−c|=r
f(z)
(z−c)m+1 dz = 1 2πi
∫
|z−c|=r
∑∞ n=−∞
an(z−c)n−m−1 dz
=
∑∞ n=−∞
1 2πian
∫
|z−c|=r
(z−c)n−m−1 dz
=
∑∞ n=−∞
1
2πian·2πiδnm=am. すなわち (20)が成立する。
(存在) R1 < r1 < r2 < R2 を満たす任意の r1, r2 を取る。z ∈A(c;r1, r2)とする。
C1: |ζ−c|=r1, C2: |ζ−c|=r2
とおくと、Cauchyの積分公式から、
(♯) f(z) = 1
2πi
∫
C2
f(ζ)
ζ−zdζ− 1 2πi
∫
C1
f(ζ) ζ−zdζ.
D:=A(c;r1, r2), M := max
ζ∈D |f(ζ)| とおく。
(♯) の右辺第1項については、円盤内のCauchy の積分公式の証明とまったく同様の議論で 1
2πi
∫
C2
f(ζ) ζ−zdζ =
∑∞ n=0
an(z−c)n, an:= 1 2πi
∫
C2
f(ζ) (ζ−c)n+1dζ.
(♯)の右辺第2項についても、ほぼ同様であるが、これは一応書く。ζ が |ζ−c|=r1 を満た
すとき、
ζ−c z−c
= r1
|z−c| <1 に注意して
1
ζ−z = 1
(ζ−c)−(z−c) = −1
z−c· 1 1− ζ−c
z−c
= −1 z−c
∑∞ n=0
(ζ−c z−c
)n
=−∑∞
n=1
(ζ−c)n−1 (z−c)n . f(ζ)(ζ−c)n−1
(z−c)n
≤ M r1
( r1
|z−c| )n
であり、右辺は |公比|<1 の等比数列であるから、Weierstrass の M-test により、
∑∞ n=0
f(ζ)(ζ−c)n−1 (z−c)n
は円周 C1: |ζ−c|=r1 上、一様収束する。ゆえに項別積分が可能で、
− 1 2πi
∫
C1
f(ζ)
ζ−cdζ = 1 2πi
∫
C1
∑∞ n=1
f(ζ)(ζ−c)n−1 (z−c)n dζ
=
∑∞ n=1
1 2πi
∫
C1
f(ζ)(ζ−c)n−1 (z−c)n dζ =
∑∞ n=1
a−n (z−c)n. ただし
a−n:= 1 2πi
∫
C1
f(ζ) (ζ−c)n−1dζ = 1 2πi
∫
C1
f(ζ)
(ζ−c)−n+1dζ.
以上から
f(z) =
∑∞ n=0
an(z−c)n+
∑∞ n=1
a−n
(z−c)n (z ∈A(c;r1, r2)).
係数の一意性で示したことから、r1 < r < r2 を満たす任意のr に対して、
an = 1 2πi
∫
|ζ−c|=r
f(ζ) (ζ−c)n+1dζ.
(最後のしあげ)r1, r2 が任意であることと、この係数を表す積分の積分路がr によらないこと から、A(c;R1, R2) で収束することが分かる。
定義 10.6 (円環領域における Laurent 展開, 孤立特異点のまわりの Laurent 展開) c∈C, 0≤R1 < R2 ≤ ∞,f は A(c;R1, R2) で正則とするとき、
(21) f(z) =
∑∞ n=0
an(z−c)n+
∑∞ n=1
a−n
(z−c)n (R1 <|z−c|< R2)
を満たす {an}n∈Z が一意的に存在するが、(21) をf の A(c;R1, R2) における Laurentロ ー ラ ン (級数) 展開(the Laurent (series) expansion) あるいは単にLaurentロ ー ラ ン 級数 (Laurent series)と呼ぶ。特に R1 = 0 の場合、f の孤立特異点 cのまわりの(「cにおける」とも 言う) Laurent 展開とも呼ぶ。
正則関数が冪級数展開 (Taylor展開)出来るという定理と、上の定理は良く似ている。f が c を中心とする円盤 D(c;ε) で正則な場合、f は c のまわりで Taylor 展開可能できるが、そ れは実は f の c のまわりの(あるいはもっと詳しくA(c; 0, ε) における) Laurent 展開でもあ る。その意味で
Laurent 展開は、 Taylor 展開の一般化である
後でおいおい分かることであるが、実はLaurent展開が出来ることは重要であるが、Laurent 展開の具体形が必要になることはあまりない(後で紹介する留数が分かれば十分であることが
多い)。以下、Laurent展開を具体的に求めるための方法をいくつか紹介するが、“便利な方法”
は存在しない、いう感想を持つかもしれない。それでもあまり困らないわけである。
まずTaylor 展開の場合の f(z) =
∑∞ n=0
an(z−c)n, an = f(n)(c)
n! (n= 0,1,2, . . .) の拡張であるような便利な公式は存在しない。また、
an= 1 2πi
∫
|ζ−c|=r
f(ζ)
(ζ−c)n+1dζ (n ∈Z)
という公式は、an の一意性を示すのに役立ったが(重要)、an を具体的に求める目的には役立 たないことが多い(線積分を計算するのはしばしば難しい)。
とにかく何らかの手段で f(z) =
∑∞ n=−∞
an(z−c)n (R1 <|z−c|< R2)
を満たす{an}が得られれば、これが f のA(c;R1, R2)におけるLaurent展開である(一意性 による)、という事実を利用する場合が多い。
例 10.7 (色々な求め方) (1) 関数 f(z) = 3
(z−1)2 は、C\ {1}=A(1; 0,∞)で正則であるが、
それ自身が 1のまわりの Laurent 展開を与える。実際、
a−2 := 3, an:= 0 (n∈Z\ {−2}) で {an} を定義するとき、
f(z) =
∑∞ n=−∞
an(z−1)n (0<|z−1|<∞) が成り立つ。
(2) f(z) = exp1
z は C\ {0} =A(0; 0,∞) で正則であるから、そこで Laurent 展開出来るは ずである。expz の 0のまわりの Taylor 展開
expζ =
∑∞ n=0
1
n!ζn (ζ ∈C) の ζ に 1
z を代入することで得られる f(z) = exp 1
z =
∑∞ n=0
1 n!
(1 z
)n
= 1 +
∑∞ n=1
1 n!
1
zn (0<|z|<∞) が A(0; 0,∞) におけるLaurent 展開である。
(3) f(z) = sinz
z2 は、C\ {0}=A(0; 0,∞)で正則であるから、そこで Laurent 展開できるは ずである。sinz の 0 のまわりの Taylor 展開
sinz =
∑∞ n=0
(−1)n
(2n+ 1)!z2n+1 (z ∈C) を z2 で割って得られる
f(z) = sinz z2 =
∑∞ n=0
(−1)n
(2n+ 1)!z2n−1 =
∑∞ n=1
(−1)n
(2n+ 1)!z2n−1+ 1
z (0<|z|<∞) が f の A(0; 0,∞) における Laurent 展開である。
問 56. 上の例の(2), (3) で、an が何であるか書け。
任意の有理関数f は、部分分数分解することによって、多項式または 1
(z−a)n の形の項の 線型結合で書ける。それらは、例 10.1 で見たように等比級数の和の公式を利用したり、微分 を考えることで Laurent 級数展開が求まる。そうして求めた部分分数分解の各項の Laurent 展開を寄せ集めることで、f の Laurent 展開が得られる。
例 10.8 ( 1
z−a の Laurent 展開) f(z) = 1
z−a の Laurent 展開は以下のように求まる。
(1) f は A(a; 0,∞) で正則であるから、f は a のまわりでLaurent 展開出来て、それはf(z) の定義式の右辺そのものである。つまり
f(z) = 1
z−a (0<|z−a|<∞) が f の a のまわりの (A(a; 0,∞) における) Laurent展開である。
(2) c̸=aとすると、f は cの近傍 D(c;|a−c|)で正則であるから、f は cのまわりでTaylor 展開できるが、それが f の c のまわりの (円環領域A(c; 0,|a−c|) における) Laurent展 開である。
1
z−a = 1
(z−c)−(a−c) =− 1
a−c· 1 1− z−c
a−c
=− 1 a−c
∑∞ n=0
(z−c a−c
)n
(収束 ⇔ |(z−c)/(a−c)|<1)
=−∑∞
n=0
(z−c)n
(a−c)n+1 (0<|z−c|<|a−c|).
(3) c̸= a とすると、f は A(c;|a−c|,∞) で正則であるから、そこで Laurent 展開出来る。
実際
f(z) = 1
z−a = 1
(z−c)−(a−c) = 1
z−c· 1 1− a−c
z−c
= 1
z−c
∑∞ n=0
(a−c z−c
)n
(収束⇔ |(a−c)/(z−c)|<1)
=
∑∞ n=1
(a−c)n−1
(z−c)n (|a−c|<|z−c|<∞).
次の例は授業ではカットするかもしれない。
例 10.9 (部分分数分解のLaurent展開を寄せ集めてLaurent展開する)
f(z) = 1
z(z−1)(z−2) = 1 2 · 1
z − 1 z−1 +1
2 · 1 z−2
とする。f は C\ {0,1,2} で正則である。f を 0 を中心とする円環領域で Laurent 展開して みよう。
(1) f は A(0; 0,1) で正則であるから、そこで Laurent 展開出来るはずである。
1 z = 1
z (0<|z|<∞), 1
z−1 =− 1
1−z =−
∑∞ n=0
zn (|z|<1), 1
z−2 =−1 2 · 1
1− z 2
=−1 2
∑∞ n=0
(z 2
)n
=−∑∞
n=0
zn
2n+1 (|z|<2).
であるから f(z) = 1
2· 1 z +
∑∞ n=0
zn−1 2 ·
∑∞ n=0
zn 2n+1 =
∑∞ n=0
(
1− 1 2n+1
)
zn+1 2 · 1
z (0<|z|<1).
(2) f は A(0; 1,2) でも正則であるから、そこでもLaurent展開できる。
1
z−1 = 1 z · 1
1− 1 z
= 1 z
∑∞ n=0
(1 z
)n
=
∑∞ n=1
1
zn (1<|z|<∞).
ゆえに f(z) = 1
2· 1 z −
∑∞ n=1
1 zn −1
2
∑∞ n=0
zn 2n+1 =−
∑∞ n=0
zn 2n+2 − 1
2 · 1 z −
∑∞ n=2
1
zn (1<|z|<2).
(3) f は A(0; 2,∞) でも正則であるから、そこでもLaurent展開できる。
1
z−2 = 1 z · 1
1−2 z
= 1 z
∑∞ n=0
(2 z
)n
=
∑∞ n=0
2n zn+1 =
∑∞ n=1
2n−1
zn (2<|z|<∞).
ゆえに f(z) = 1
2·1 z−
∑∞ n=1
1 zn+1
2
∑∞ n=1
2n−1 zn =
(1
2−1 + 1 2
)1 z+
∑∞ n=2
2n−2−1 zn =
∑∞ n=3
2n−2−1
zn (2<|z|<∞).
これがA(0; 2,∞) における f の Laurent 展開である。