証明 条件 (i) より、部分和 Tn:=
∑n k=1
bk の作る数列{Tn} は単調増加数列である。条件(ii) は {Tn} が上に有界ということを意味しているので、「上に有界な単調増加数列は収束する」
という定理によって、{Tn}は収束する。すなわち ∑
n
bn は収束する。
例 3.9 (「画像処理とフーリエ変換」から) (唐突に別の講義で出て来たものにジャンプ)内積 空間 X の要素 f と正規直交系{φn}n∈N に対して、∀N ∈N
∑N n=1
|(f, φn)|2 ≤ ∥f∥2
という不等式が証明できる。このとき
∑∞ n=1
|(f, φn)|2 は収束する。bn = |(f, φn)|2, M = ∥f∥2 として命題 3.8 を適用するわけである。そして
∑∞ n=1
|(f, φn)|2 ≤ ∥f∥2
が成り立つ (これは Besselの不等式と呼ばれる有名な不等式である)。
このとき bn:=M z−c
z0−c
n とおくと、
(∀n∈N∪ {0}) |an(z−c)n|=|an(z0−c)n| z−c
z0−c
n≤M z−c
z0−c
n =bn.
数列 {bn}は公比 |(z−c)/(z0−c)|<1の等比級数であるので収束する:
∑∞ n=0
bn= M
1− |z−c|/|z0 −c|. ゆえに優級数の定理から
∑∞ n=0
an(z−c)n は絶対収束する。
系 3.11
∑∞ n=0
an(z−c)n が z =z0 で発散するならば、|z−c|>|z0 −c| を満たす任意の z に対して発散する。
証明 補題から「|z1−c|<|z2−c|のとき、z2 で収束すればz1 で収束する」が分かるが、そ の対偶である。
定理 3.12 (冪級数の収束円の存在) 任意の冪級数
∑∞ n=0
an(z−c)n に対して、次のいずれか 一つが成立する。
(i) z =c以外の任意のz で冪級数は収束しない。
(ii) 任意の複素数z で冪級数は収束する。
(iii) ある正の数 ρ が存在して、|z−c|< ρならば冪級数は収束し、|z−c|> ρ ならば冪 級数は発散する。
証明 (授業では、図を描いて流すものかもしれない。「きちんとやるには、区間縮小法に持 ち込みますが、それは講義ノートを見て下さい。)
A:=
{
z ∈C
∑∞ n=0
an(z−c)n は収束する }
とおく。c∈A であることに注意する(z =c を代入すると n ≥ 1 に対して an(z−c)n = 0)。 次の3つに場合分けできる。
(i) A={c}. すなわち、c以外のすべての複素数で発散する。
(ii) A=C. すなわち、すべての複素数で収束する。
(iii) (i), (ii)のいずれでもない。
(iii) の場合を考える。
(i)でないので、∃zc∈A\ {c}. r0 :=|zc−c| とおくとき、|z−c|< r0 では収束する。
(ii) でないので、∃zd ∈C\A. R0 :=|zd−c| とおくとき、|z−c|> R0 では発散する。
0< r0 < R0 である。以下、二分法を行なう。
ρ0 := r0+R0
2 とおく。
• c+ρ0 ∈Aであれば |z−c|< ρで級数は収束する。このときr1 :=ρ0,R1 :=R0 とおく。
• c+ρ0 ̸∈A であれば|z−c|> ρで級数は発散する。このときr1 :=r0,R1 :=ρ0 とおく。
どちらの場合も、級数は |z−c|< r1 で収束し、|z−c|> R1 で発散する。また r0 ≤r1 < R1 ≤R0, R1−r1 = R0−r0
2 が成り立つ。
以下同様にして、数列{rn}, {Rn} が作ると、
• {rn}は単調増加数列であり、{Rn} は単調減少数列である。
• 任意の n に対して rn< Rn, Rn−rn = R0 −r0 2n .
• 任意の n に対して、級数は |z−c|< rn で収束し、|z−c|> Rn で発散する。
区間縮小法により、{rn} と {Rn} は共通の極限ρ に収束する。
ρ≥r0 >0 であるから ρ >0.
また級数は |z−c|< ρ で収束し、|z−c|> ρ で発散する。
(i) の場合に ρ = 0, (ii) の場合に ρ = ∞ とすると、形式的に次のように一つにまとめら
れる。
あるρ (0≤ρ≤ ∞) が一意的に存在し、|z−c|< ρで収束、|z−c|> ρで発散する。
定義 3.13 (収束半径, 収束円) ρ を冪級数の収束半径、{z ∈C| |z−c|< ρ} を冪級数の 収束円と呼ぶ。
例 3.14 (もっとも簡単な冪級数、等比級数) (c = 0, an = 1 とした)
∑∞ n=0
zn を考えよう。こ れは公比 z の等比級数であるから、収束・発散が具体的な計算で判る。結論だけ述べると、
|z|<1であれば収束、|z| ≥1であれば発散する。ゆえに収束半径は1で、収束円はD(0; 1) = {z ∈C| |z|<1}.
問 36. 上の例で述べたこと(複素等比級数の収束条件)を確認せよ。
注意 3.15 (収束円の周上の点では) 収束円の周 {z ∈C| |z−c|=ρ} 上の点 z での収束発散 については何も主張していないことに注意しよう。これについてはケース・バイ・ケースとし か言いようがない。
上の例で見たように、
∑∞ n=0
zn については、収束半径は 1で、|z|= 1 上のすべての点で発散 する。
後で見るように
• ∑∞
n=1
zn
n2 については、収束半径は 1で、|z|= 1 上のすべての点で収束する。
•
∑∞ n=1
zn
n については、収束半径は 1で、|z|= 1 上の点のうち z = 1 では発散するが、そ れ以外では収束する。
この講義では、この問題には(このような単純な例を除いて)あまり深入りしないことにする。
{an} が分かっているとき、それから ρ を計算する公式を紹介する。次の定理は、適用範囲 はあまり広くないが(それでも微積の講義で現れる冪級数の多くを処理可能である)、使うのが 簡単なので、身につけるべきものである。
命題 3.16 (係数比判定法, ratio test, ダ・ランベールの判定法) 冪級数
∑∞ n=0
an(z−c)nに ついて、ある番号から先のすべてのn に対して an̸= 0 であり
nlim→∞
|an|
|an+1| が存在するならば、それは冪級数の収束半径に等しい。
証明 c= 0 の場合に証明すれば良い。lim
n→∞
|an|
|an+1| =ρとおく。|z|< ρならば収束し、|z|> ρ ならば発散することを示す。
|z|< ρとする。|z|< R < ρとなる R を取る。(ρ <∞ ならばR := |z|+ρ
2 とおく。ρ=∞ ならば R:=|z|+ 1 とおく。) lim
n→∞
|an|
|an+1| =ρ であるから、(∃N ∈N) (∀n∈N: n≥N) an
an+1
> R (これは an+1
an
< 1
R と書き直せる).
この条件を満たす N を1つ取る。m ≥0 とすると aN+mzN+m=
aNaN+1
aN · aN+2
aN+1 · · · · aN+m
aN+m−1zNzm
≤aNzN(
|z| R
)m
. 言い換えると ∀n≥N に対して
|anzn| ≤aNzN(
|z| R
)n−N
.
そこで
bn :=
|anzn| (0≤n≤N −1) aNzN(
|z| R
)n−N
(n ≥N) とおくと、任意の n ∈Nに対して |anzn| ≤bn,
∑∞ n=0
bn =
N−1∑
n=0
|anzn|+ aNzN
1− |z|/R (収束).
優級数の定理により
∑∞ n=0
anzn は収束する。
|z| > ρ とする。|z| > R > ρ となる R を取る。(ρ = ∞ のときは考えなくて良いので、
R := |z|+ρ
2 とおけば良い。) lim
n→∞
|an|
|an+1| =ρ であるから、(∃N ∈N) (∀n ∈N: n≥N) an
an+1
< R (これは an+1
an
> 1
R と書き直せる).
上と同様にして (しかし不等号の向きは逆になって)∀n ≥N に対して
|anzn| ≥aNzN(
|z| R
)n−N
.
ゆえに anzn は0に収束しないので、
∑∞ n=0
anzn は発散する。
例 3.17
∑∞ n=1
zn
n の収束半径は1 である。実際an = 1
n とおくと、
nlim→∞
|an|
|an+1| = lim
n→∞
n+ 1
n = lim
n→∞
( 1 + 1
n )
= 1.
収束円は {z ∈C| |z|<1}. 同様に
∑∞ n=1
zn
n2 の収束半径は1 である。
∑∞ n=0
zn
n! (expz の Taylor 展開) の収束半径は ∞である。実際 an= 1
n! とおくと
nlim→∞
|an|
|an+1| = lim
n→∞
(n+ 1)!
n! = lim
n→∞(n+ 1) =∞. 収束円は C.
同様に
∑∞ n=0
n!zn の収束半径は0 である。
∑∞ n=0
(−1)n
(2n)!z2n (cosz のTaylor 展開) の収束半径は∞ である。実際ζ =z2 とおくと、
∑∞ n=0
(−1)n (2n)!z2n=
∑∞ n=0
(−1)n (2n)!ζn.
右辺は ζ の冪級数である。まずこの収束半径を調べる。an = (−1)n
(2n)! とおくと、
nlim→∞
|an|
|an+1| = lim
n→∞
(2(n+ 1))!
(2n)! = lim
n→∞(2n+ 2)(2n+ 1) =∞.
収束半径が ∞ であるから、この ζ の冪級数は任意の ζ に対して収束する。するともとの級 数は任意の z に対して収束することが判る。ゆえに収束半径は ∞. 収束円は C.
時々 |an|
|an+1| なのか |an+1|
|an| なのか、混乱しそうになるが、|an|の増大が早まるほど、収束半 径は小さくなるはず、と考えれば前者が正しいと判るであろう。あるいは
∑∞ n=0
(z ρ
)n
に対し て(これは等比級数で収束条件が|z|< ρであることは明白)、収束半径がρ という結果が出る かどうか。
与えられた冪級数の係数から収束半径を求める問題には、ある意味で決定版と言える解答が ある。それが次の定理である。
命題 3.18 (Cauchy-Hadamard の公式) 冪級数
∑∞ n=0
an(z−c)n の収束半径を ρとする。
1
∞ = 0, 1
0 =∞ の約束のもとで、次式が成り立つ。
lim sup
n→∞
√n
|an|= 1 ρ .
任意の複素数列 {an} に対して、lim sup√n
|an| は確定するので、任意の冪級数の収束半径 を表す公式になっていることに注意しよう。
これを使いこなすためには、数列の上極限lim sup (付録 C.1.1(p. 168) 参照)を習得する必 要があるが、それにはある程度の時間が必要になるので、この講義ではこれ以上追求しないこ とにする。証明は付録 ?? で与えておく。
例 3.19 例えば
∑∞ n=1
zn2 =z+z4+z9+· · · のような級数は冪級数であり(n が平方数である ときに an = 1, そうでなければ an = 0)、収束半径が 1 であることは少し考えれば分かるが、
係数比判定法の適用範囲外である。Cauchy-Hadamard の公式を使えば、収束半径が1である ことはすぐに分かる。
例 3.20 冪級数
∑∞ n=0
2nzn,
∑∞ n=0
3nzn の収束半径はそれぞれ 1 2, 1
3 である。その和として得られ る冪級数
∑∞ n=0
(2n+ 3n)zn の収束半径は 1
3 である。実際
nlim→∞
2n+ 3n 2n+1+ 3n+1
= 1 3 であることから、d’Alembert の公式により収束半径は 1
3.
筆者は、2つの収束冪級数の和として得られる冪級数の収束半径は、最初の冪級数の収束半 径の最小値とある時期勘違いしていたが、それは正しくない。
問 37. 冪級数
∑∞ n=0
anzn,
∑∞ n=0
bnzn の収束半径がそれぞれ R1, R2 で、0< R1 < R2 <∞を満 たすならば、
∑∞ n=0
(an+bn)zn の収束半径はR1 であることを示せ。
問 38. 冪級数
∑∞ n=0
anzn,
∑∞ n=0
bnzn の収束半径が両方共 R とする。
(1)
∑∞ n=0
(an+bn)zn の収束半径はR 以上であることを示せ。
(2)
∑∞ n=0
(an+bn)zn の収束半径がR より大きい例をあげよ。