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4 構造色による触覚検出センサ

4.2 設計

4.2.3 機械設計

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図9に,ゲージ圧センサの測定レンジの検討結果を示す。フードに装着した時の大気圧を基 準圧0Paとした場合,1日のうちに気圧が-1~1kPa変動し,胃への送気圧を10mmHg(1。

3kPa)と仮定すると,-1~2。3kPa(25mmHg)を測定レンジとする。測定レンジ内でCr膜

とガラスのギャップが294~147nmまで変化する状態を理想とする。

図 4.28 ゲージ圧センサの測定レンジ

② 真空チャンバを有したセンサチップをフードに固定する

真空チャンバでデバイスを形成し,使用時の気圧変化も含め送気圧を検出する。計測レ ンジについて,気圧の世界記録である87kPa~109kPa(652。5mmHg-817mmHg)を補 償する必要があるが,実装自体は必要な箇所に取り付けるのみで完了でき,チャンバが 陽極接合により真空封止された部分のみとなるため,フードの変形などの外乱を受けな い。

図 4.29 真空封止チップの構造

絶対圧センサとして駆動するため,各季節などの気圧変動を考慮に入れる必要がある。気 象庁の大気圧に関するデータ,加工誤差の影響,胃への送気を考慮した測定レンジを図2に 示す。測定レンジ内でCr 膜とガラスのギャップが 294~147nmまで変化する状態を理想 とする。現在検討している測定レンジは,98kPa~105kPa(53mmHg)程度となる。

Al or Cr

SiO2

Si 真空

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図 4.30 絶対圧センサの測定レンジ

第四章の圧力センサにおいては,ダイヤフラムの最大変位量が 1µm程度であるのに対し て,チャンバを形成する支持基板の厚さが500µm程度であったため,体積変化は最大でも 1%程度となり,ダイヤフラムの変形による体積変化を考慮する必要が無かった。しかし,圧 力検出に構造色を利用するセンサにおいては,構造間ギャップとダイヤフラムの変位量が 近いため,デバイスの機械的特性を検討するためには,空気ばねのもつ非線形特性を考慮す る必要がある。チャンバ内の圧力および温度の変化は初期条件がわかっていればボイル・シ ャルルの法則から計算できる。

T V P T

V

P

in

0 0

0 (4.14)

圧力について整理すると,

0 0 0

V P V T

P

in

T

(4.15)

この式から,チャンバ体積の変化が十分に小さい場合においては,チャンバ形成時温度T0

および圧力P0がわかっていれば,センサの温度変化は等価的に圧力の変化として扱うこと ができる。その感度はT0の逆数で与えられ,P0が大気圧の場合,常温の300Kで0。33kPa/K

(2。5mmHg/K),陽極接合時温度の673Kでは0。14kPa/K(1。1mmHg/K)となり,1mmHg 単位での圧力検出を,温度が最大で5℃程度変化する環境下で行うには,大きな問題となる ため,この対策を設計段階で行っておく必要がある。また,チャンバの体積は,デバイスの

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設計寸法により,以下のように計算できる。ダイヤフラムの変位分布においては簡単に線形 として体積を定義する。

 





  

a a R

a d R g L V

3 2

3

1 (4.16)

ここで,Rはダイヤフラム半径,aはボス半径である。Lはチャンバ部の幅,gは初期ギ ャップ(ガラスのエッチング量)である。ここでは,簡便に取り扱うため,初期ギャップg とダイヤフラム半径R,ダイヤフラムの変位量dで以下のように近似する。

)

2

( d g R

V   

(4.17)

この変位量dについて,半径aのメサ構造を有するダイヤフラムの変位については,ダイ ヤフラム間の圧力差ΔPを用いて以下の式で与えられる。

 



 

  

 

R a R a R

a Eh

d PR 1 4 ln

16 1 3

2 2 4

4 3

2

4

(4.18)

上の式は,透過的なバネ定数kを用いれば,以下のように表現できる。

kd P

P

out

in

(4.19)

この式に対して,先ほどのチャンバー内圧力を代入すると,温度変化,チャンバー体積の 変化も考慮した圧力変化に対するダイヤフラムの応答が,ダイヤフラムによるバネと空気 バネの並列接続と同じモデルで表現できる。

0 0

0

P

T T V kd V

P

out

 

(4.20)

0

)

0

( P

T T d g kd g P

out

 

(4.21)

この式の第二項が誤差の要因となってしまうため,温度感度事体を消す方法としては,T0 を無限大にするか,P0を0にすることで達成できる。(真空での実装)しかしながら,その 場合はダイヤフラムの変位が大変形領域に入っていると考えられ,設計時にはそのことも 検討する必要がある。また,この式を温度に関する式として整理すると,

  

0

0

gP

T d g kd

TP

out

 

(4.22)

チャンバ体積変化,外圧変化を考慮しない場合(V0/V=1,Pout=P0)は,

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0 0

1 T

P T kd

 

 

(4.23)

となる。また,先ほどのメサを含んだダイヤフラムの変形の式は,メサがない場合の変位 量と比較することで,メサによる変位量低減効果をメサとダイヤフラムの半径の比だけで 判断できる。

図 4.31 メサ構造によるダイヤフラムの変位減少効果

図 4.32 ダイヤフラム半径に対するダイヤフラムの最大変位量の変化

続いて,チャンバ体積変化も考慮した圧力および温度に対するダイヤフラムの応答を計 算した。寸法を一つに固定して計算しているが,圧力検出のために必要なバネ定数に対して,

空気ばねが30倍以上になる結果となり,真空封止を行わない場合は,この効果を無視でき る構造上の工夫が必要となる。

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

0 20 40 60 80 100

最大変位量[%]

メサ半径/ダイヤフラム半径[%]

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

0 200 400 600 800 1000

最大変位量m]

ダイヤフラム半径[µm]

ヤング率 : 150GPa ポアソン比 : 0.3 ダイヤフラム : 5µm

印加圧力 : 10mmHg

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図 4.33 チャンバ体積変化を考慮した場合の圧力センサ動作

図 4.34 チャンバ体積変化を考慮した場合の温度依存性

以上の検討から,温度依存性や空気ばね効果を無視できる陽極接合による真空封止を行 いデバイス製作を行っていくこととなった。この測定目標レンジにおいて,理想の構造間ギ ャップを実現するダイヤフラム設計を行うため,図 7 に示すような軸対象モデルを用いた 構造解析を行った。図8は,ボスの直系変化に対する,圧力応答の変化である。得られた解 析結果のうち,実際のデバイス使用時に加わる可能性がある圧力範囲である 80kPa から

110kPaの範囲における特性を線形でフィッティングし,以下のようにダイヤフラムの変形

量の式とした。

  

 ( P

out

P

in

)

d

(4.24)

0 20 40 60 80 100

750 900 1,050 1,200 1,350 1,500

ダイヤフラム変位[nm]

外圧(絶対圧)[mmHg]

体積変化考慮 体積変化未考慮

ヤング率 : 150GPa ポアソン比 : 0.3 ダイヤフラム厚: 5µm ダイヤフラム計: 500µm

メサ計 : 250µm

初期ギャップ : 200nm 1/30以下に低下

0 20 40 60 80 100

150 200 250 300

ダイヤフラム変位[nm]

温度[K]

体積変化考慮 体積変化未考慮

ヤング率 : 150GPa

ポアソン比 : 0.3 ダイヤフラム厚: 5µm ダイヤフラム計: 500µm

メサ計 : 250µm

初期ギャップ : 200nm

1/30以下に低下

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図 4.35 解析に使用したモデル

図 4.36 圧力に対するダイヤフラム変位

以上のような検討から,ダイヤフラム径 1000µm,ボス構造径630µm,ガラスエッチン

グ量3.8µmの場合に目標の計測感度,計測範囲を実現できることから,この寸法でのデバ

イス製作を行っていくこととなった。

d = 25.19ΔP + 769.2 R² = 0.9993

0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110

変位量[nm]

圧力[kPa]

解析値@低圧 解析値@使用圧 理論値

Linear (解析値@使用圧)

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