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4 構造色による触覚検出センサ

4.3 製作

4.3.1 初回試作と問題点の改善

87

88

表 4.3 ガラス基板加工プロセス

製作を行ったデバイスの写真を図 4.37に示す。ボス構造に0.01度の傾きがあるものの,あ る程度均一な構造色を有していることが確認できる。

図 4.37 ダイヤフラム写真からの色相抽出結果

続いて,レーザー顕微鏡でダイヤフラムの変位量を取得した,図 1 に取得した形状図を示 す。ダイヤラフラムの変位量は3.3µmであり,線形計算で予想していた3.0µmと概ね一致 した。ガラスエッチング量が4.8µm程度であったことを考慮すると,構造間ギャップは,

1.5µm程度であると推測できる。

条件 時間 備考

初期洗浄 APM 15min NH4:H2O2:H2O=1:1:5

DIW 3times

SPM(硫酸過水) boil 10min H2SO4:H2O2=3:1

DIW 3times

乾燥

表面保護 塗布前ベーク 160°Cover5min レジスト塗布 s1805 0.5μm

500rpm 5sec

5000rpm 30sec 蓋はあける

ポストベーク 150°C5min

裏面フォトリソ レジスト塗布 s1805 0.5μm

500rpm 5sec

5000rpm 30sec 蓋はあける

プリベーク90°C 5min

露光 31.5mJ/cm2

現像 1min

リンス

ポストベーク 150°C5min

ガラスエッチング強フッ酸:純水=1:20 9min 目標3800nm DIW

レジスト除去 SPMboil 5min

DIW 10min

陽極接合 400℃ 500V 10min

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図 4.38 デバイス裏面の形状取得結果

以下に示すような実験系を用いて,デバイスの圧力応答特性を取得するため,デバイスを顕 微鏡で観察,チャンバ内の圧力を外部の圧力センサで取得した。

(b)PC画面(左:USBカメラ出力 右:顕微鏡写真)

図 4.39 圧力計測実験

(a)負圧印加時 (b)初期s状態 (c)正圧印加時

図 4.40 圧力を印加した際の構造色変化

デバイスの初回試作によって,基本的なデバイスの動作原理を検証した。しかしながら,

初回試作デバイスには以下の様な問題により非常に歩留まりが低下しており,改善が必要 となった。

90 [A] 発色部分の接合

試作したデバイスのほとんどは,図 4.41に示すように90%程度のデバイスのダイヤフラム 部分が接合されている結果であった。この問題の支配的な要因は,陽極接合時に加わる電圧 により,ガラス基板とダイヤフラム面の間に働く静電引力であると考えられる。図 4.42構 造間ギャップに対するダイヤフラムに加わる静電引力と,ダイヤフラムの復元力のプロッ トを示す。初回試作においては陽極接合電圧を500Vに設定しており,その場合では,静電 引力がダイヤフラムの復元力を常に上回っていることが分かる。そのため,①陽極接合電圧 を150Vに落として接合する,②接合防止膜として,膜厚10nm以下のCr薄膜をガラス表 面に形成する,という二つの対策指針でデバイスの歩留まり向上を目指した。

図 4.41 ダイヤフラム部分の接合 図 4.42 ダイヤフラムの復元力と静電引 力

図 4.43 接触荷重に対する圧縮応力の変化(赤:Siの圧縮強度)

構造色は,薄膜両端の反射光の強度が等しい時に最も発色がよくなる。現在基板上の Si

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

0 1000 2000 3000 4000

へ加わる圧力[kPa]

構造間ギャップ[nm]接合前ギャップ

0.0 100.0 200.0 300.0 400.0 500.0 600.0

0 50 100 150 200 250 300

応力[MPa]

荷重[kN]

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の反射率は約30%,ガラスと真空界面の反射率は20%程度であるため,発色効率の良い組み 合わせではあるが,全体的に反射率を底上げできれば,センサの発色(画像では彩度)が向 上し,最大2。5倍のセンサ自体の分解能の向上が期待できる。それを実現するため,ハーフ ミラーの形成予備実験を行った。

図 4.44 各薄膜の表皮深さ

図 4.45 各薄膜の表皮深さ[9]:新規機能薄膜の研究 0

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

380 430 480 530 580 630 680 730 780

表皮深さ[nm]

波長[nm]

Cr Al

92

図 4.46 25nmのCr膜+2mmのガラスの透過率

[A] 陽極接合時の酸素ガス発生

陽極接合は,真空環境で行われるが,原理上接合箇所においては酸素ガスが発生する。構 造色変化による圧力検出デバイスは,チャンバ内のガス量によって,圧力応答の非線形性,

温度特性の影響を受けるので,この推定は,製作するデバイスの温度依存性を予想するうえ で非常に重要な要素となる。まず,デバイスのチャンバ内においては,酸素ガスの発生量に より以下の気体の状態方程式が成り立つ。

nRT V

P

in

(4.25)

ここで,Pin はチャンバ内圧,Vはチャンバ体積,nはチャンバ内ガスの物質量,Rは気 体定数,Tはチャンバ内温度(気温と同一であると定義)である。また,デバイスのダイヤ フラム変位d(構造色変化)は以下のように内圧と外圧の差で決定される。

 



 

  

 

R a R a R

a Eh

d PR 1 4 ln

16 1 3

2 2 4

4 3

2

4

(4.26)

kd P

P

out

in

(4.27)

ここに,Poutは外圧,Rはダイヤフラム半径,aはボス半径である。チャンバ体積は,デ バイスの設計寸法により,以下のように定義できる。ダイヤフラムの変位分布においては簡 単に線形として体積を定義する。

 





  

a a R

a d R g L V

3 2

3

1 (4.28)

ここで,Lはチャンバ部の幅,gは初期ギャップ(ガラスのエッチング量)である。以上 0.00%

0.50%

1.00%

1.50%

2.00%

2.50%

3.00%

3.50%

透過率

532nm 635nm

93

の式を用いると,酸素ガスの物質量nは,ダイヤフラム変位d,チャンバ外圧Pout,温度T を用いることで計算可能となる。

   

RT

R a a a d R g L kd P n

out

 





  

3 2

3 1

(4.29)

しかし,センサの出力は構造色であり,ダイヤフラムの変位量そのものではないため,そ の推定を行う必要がある。今回は,外圧および温度が異なり,チャンバ体積が同じ状態(構 造色,ダイヤラフラム変位が同じ)を用いて,その推定を行った。計算については,以下の ようにボイル=シャルルの法則を変形し,変位量算出の式とした。

'

'

T V P T

V P

in in

(4.30)

T T T Pk T

d P

out out

  '

'

'

(4.31)

また,計算に用いた二つの測定点は, 1030hPaおよび30℃固定でのもう一方のパラメー タ操作の実験結果より,1035。0hPa,303。0K,と1030。0hPa,299。8Kを用いた。この実 験結果から得られる温度依存性は1。17mmHg/Kであり,改善が必要である。

計算を行った結果,ダイヤフラム変位は,3µm,チャンバ内圧は約45kPa,実験時のチャン

バ体積が5。9nl,酸素ガスの発生量は標準状態で,2。4nlであった。このガス量を用いて理

論値から算出した温度依存性は1。12mmHg/Kであり,実験値とも概ね一致した。

(a)温度固定 (b)圧力固定

図 4.47 構造色式圧力センサの温度,圧力特性

ここで,ダイヤフラム変位をd,ダイヤフラムの圧力に対する等価的なばね乗数をk,チ

20 22 24 26 28 30 32 34

760 762 764 766 768 770 772 774 776 778

色相[8bit]

圧力[mmHg]

30℃

20 22 24 26 28 30 32 34

20 22 24 26 28 30 32 34 36

色相[8bit]

温度[℃]

772.5mmHg

94

ャンバ外圧力をPout,チャンバ体積をV,チャンバ内温度をT,それぞれの初期状態をV0,

T0,P0とする。

(a)圧力特性 (b)温度特性

図 4.48 圧力及び温度に対するギャップ変化特性の計算結果

その一つが,陽極接合の接合面積を小さくすることで,酸素発生量そのものを小さくする ことである。現在評価中のデバイスにおいては,接合幅を350µm程度確保しているが,接 合強度を1N確保する上では,接合幅は25µm程度で十分であるため,設計をそのように変 更する。もう一つは,チャンバの体積を増やすことによって,同一量のガスの影響を低減す る寳保である。こちらは,同一のレイアウト変更によってチャンバ体積を2。4倍増加させ ることが可能となる。次回制作時には,以上のレイアウト変更を行うことで,温度依存性を 問題ないレベルに低減できると考えた。

図 4.49 接合幅に対する接合強度の関係

図 4.50 現在のデバイスレイアウト

つづいて,この変更を行った場合の温度依存性の低減効果について計算を行った。その結 果,接合幅25µmのとき0。026mmHg/K,接合幅50µmのとき 0。057mmHg/Kとなり,大 幅な低減が見込める結果となった。実際のデバイスにおいてはダイヤフラム変形が非線形

1500 1600 1700 1800 1900 2000 2100 2200

710 730 750 770 790 810

構造間ギャップ[nm]

外圧[mmHg]

1500 1600 1700 1800 1900 2000 2100 2200

250 270 290 310 330 350

構造間ギャップ[nm]

温度[K]

0 2 4 6 8 10 12

0 50 100 150 200 250 300 350

接合強度[N]

接合幅[µm]

接合幅450µm

(約50µmのサイドエッチング)

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領域に入る効果があるため,チャンバ体積は計算結果より小さくなってしまうが,それでも

0。1mmHg/Kを上回ることは無いと考えられ,使用可能なデバイスの実現が見込める。

(a)圧力特性 (b)温度特性

図 4.51 圧力及び温度に対するギャップ変化特性の計算結果(設計改善後)

0 200 400 600 800 1000 1200

710 730 750 770 790 810

構造間ギャップ[nm]

外圧[mmHg]

0 200 400 600 800 1000 1200

250 270 290 310 330 350

構造間ギャップ[nm]

温度[K]

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