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構文文法

ドキュメント内 結果複合動詞の日中対照研究 (ページ 124-138)

第 3 章 目的語指向型の日中結果複合動詞

3.3 中国語の結果複合動詞が取る疑似目的語の特徴

3.3.1 構文文法

Goldberg(1995)によれば、個々の動詞とは別に、意味と形式を持つ「構文」が存在する。

つまり、構文は文中の動詞から独立した意味と形式を持つのである。Goldberg(1995)はさ らに、英語の疑似目的語は動詞ではなく、構文によって役割を与えられた目的語であると主 張する。つまり、図1のように「構文」の一種である英語の結果構文において、構文は動詞 が選択していない項を付加することができる。

Sem CAUSE-BECOME < agt pat result-goal >

means

RUN < jogger >

Syn V SUBJ OBJ OBLAP/PP

図1

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一般に、動詞がある構文に現れるとき、動詞の参与者役割は構文の意味役割と融合しなけ ればならない。図 1 では、動詞runの参与者が構文の動作主項agentと融合し、主語として 実現する。また、被動作主項patientであるpavementと結果着点項result-goalであるthin も動詞ではなく構文によって付与され、それぞれ直接目的語、斜格の形容詞句として具現化 する。意味に関しては、「何かを変化させる」という意味が動詞runの意味と結合し、「走る ことによって、何かを変化させる」という意味になる。

Zhang(2011)は中国語の目的語指向の結果複合動詞を、次の三種類に分類している。

表6 Three types of patient-oriented construction

(Zhang 2011:41)

Zhang(2011)は“打死”(打つ-死ぬ)、“哭湿”(泣く-濡れる)と“吻瘫”(キスする

-麻痺する)を例として取り上げ、三種類の複合動詞の共通点と相違点を説明している。

Zhang(2011)によれば、上記のすべての結果複合動詞に動作主と被動作主があるが、これ Compound

Participants (confirmed by ba-test)

Constructional semantics Semantic features

打死(他打 死了小偷)

Agent (beater) and

patient (beatee)

The agent acts on the patient and leads to the change of the state of the

patient

The patient of the causative event corresponds to the

patient of V1 哭湿(他哭

湿了手帕)

Agent (crier) and patient

(napkin)

The action of the agent (on himself) leads to the change

of state of the patient.

The patient of the causative event participates inV1,

although not subcategorized. It is

determined by the constructional semantics of the

causation.

吻瘫(留学 生 吻 瘫 机 场)

Agent (kisser) and

patient (airport)

The action of the agent (on a third participant/the patient of V1) leads to the change of the patient (the patient of

the causative event)

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らの構文的な意味はそれぞれ異なる。“打死”(打つ-死ぬ)タイプでは、動作主が被動作主 に直接作用することによって、被動作主の結果状態変化を起こす。これに対して、“哭湿”(泣 く‐濡れる)と“吻瘫”(キスする-麻痺する)では、動作主が直接的に被動作主に作用す るのではなく、動作主から影響を受け、状態変化が起こる。また、“打死”(打つ-死ぬ)の 目的語と“打”(打つ)の目的語は同じであるのに対し、“哭湿”(泣く‐濡れる)と“吻瘫”

(キスする-麻痺する)の目的語と“哭”(泣く)と“吻”(キスする)の目的語は一致し ない。英語の結果構文の疑似目的語と同様に、“手帕”(ハンカチ)と“机场”(空港)は 結果複合動詞の時に限り、この構文の目的語になる。

Zhang(2011)は中国語の結果複合動詞も形式と意味を併せ持ち、V1とV2が組み合わさ

った以上の意味が生じるので、英語の結果構文と同様にひとつの「構文」であり、“手帕”

(ハンカチ)と“机场”(空港)はそれぞれ構文から付与される項であると主張する。ただ

し、Goldberg(1995)とは異なり、Zhang(2011:44)は動作主と被動作主の間には制約が

あることを指摘している。

(75) a. 他 喊哑 了 嗓子。

tā hǎn yǎ le sǎng zǐ

彼 叫ぶ-かすれる LE

「彼が叫んで、喉がかすれた。」

b. 他 走酸 了 腿。

tā zǒu suān le tuǐ 彼 歩く-だるい LE

「彼は歩き疲れた。」

c. 他 哭湿 了 手帕。

tā kū shī le shǒu pà 彼 泣く‐濡れる LE ハンカチ

「彼がハンカチを泣き濡らした。」

Zhang(2011)によれば、(75)に属するすべてのV1は自動詞であり、動作主がある動作

を始めたとき、直接的な影響を受けるのは動作主自身である。そのため、被動作主と動作主 の間に緊密な関係がなければならない。例えば、被動作主は(75a,b)のように動作主の身体

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の一部分であるか、あるいは(75c)のように所有物である。Zhang(2011)はこのことを活 性領域(active zone)という概念を用いて、説明を試みている。

活性領域とはあるドメインまたは関係に関与する事物の中で、直接的に相互作用する部分 のことをいう(中野(他)2015:308)。例えば「トランペットが聞こえる」であれば、実際 に聞こえるのは目的語の「トランペット」ではなく、活性領域である「トランペットの音」

であり、「私はまばたきをした」であれば、「まばたき」に直接関係する「瞼」が活性領域と なる(Langacker 1987:273)。

(75a,b)では、“喊”(叫ぶ)と“走”(歩く)の活性領域はそれぞれ“嗓子”(のど)と

“腿”(足)であり、それがV2“哑”(かすれる)および“酸”(だるい)というイベント の参与者にもなっている。(75c)については、「泣くときには、ハンカチで涙を拭く」という、

いわゆる「百科事典的知識(encyclopedic knowledge)」を利用して、“手帕”(ハンカチ)が 活性領域となり、V2“湿”(濡れる)の項ともなるという。

このように、活性領域の概念はある程度有効であるが、問題はどのような場合に何が活性 化されるのか、はっきりとしない点にある。

(76) a. 他 跑烂 了 他 的 鞋。

tā pǎo làn le tā de xié 彼 走る-破れる LE 彼 の 靴

「彼は走って、靴をボロボロにした。」

b. ?? 他 跑烂 了 他 的 裤子。

tā pǎo làn le tā de kù zǐ 彼 走る-破れる LE 彼 の ズボン

「彼は走って、ズボンが破れた。」

(76)の“跑”(走る)は(75)の“喊”(叫ぶ)、“走”(歩く)と同じく自動詞であると共 に、被動作主の靴もズボンも動作主の所有物である。そしてZhang(2011)のいう活性領域 の観点から見ると、“鞋”(靴)も“裤子”(ズボン)も“手帕”(ハンカチ)のように「百 科事典的知識」を利用して、“跑”(走る)の活性領域に入るはずである。「走る」ときには 靴を履き、ズボンをはくのが普通だからである。したがって(76a)と(76b)は同じように 可能であることが予測されるが、(76b)の容認度はそれほど高くない。(76a)と(76b)の

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差は、“跑”(走る)と“穿鞋”(靴を履く)の間に常識的な関連性があるのに対し、“跑”(走 る)と“穿裤子”(ズボンを履く)の間にはそれが弱いことにある。だが、動詞と目的語の 間にある関連性の強さはどのように計ればよいのか、はっきりしない。

以上を踏まえ、本稿では、Zhang(2011)と異なり、一部の結果複合動詞において、疑似 目的語を取る時に、動詞の意味を考慮する必要があることを主張する。

3.3.2 “挖坏”(掘る-壊れる)“跑薄”(走る-薄い)

上記の(76)と同じく、3.3節の最初に挙げた“跑薄”(走る-薄い)の例をZhang(2011)

の理論を用いて解釈しようとしても、うまくいかない。(77)にある“路面”(路面)だけで はなく、“地板”(床)の上も走れるから、百科事典的な知識で見ると、二つの目的語は“跑”

(走る)と関連付けられるはずであるが、(77b)の容認度は低い。その原因を考えるため、

“跑薄”(走る-薄い)の意味構造を見てみよう。

(77) a. 跑步者 跑-薄 了 路面。

pǎo bù zhě pǎo-báo le lù miàn

ジョギングする人 走る-薄い LE 路面

「ジョギングする人が走って、路面が薄くなった。」

b. * 跑步者 跑-薄 了 地板。

pǎo bù zhě pǎo-báo le dì bǎn

ジョギングする人 走る-薄い LE

「ジョギングする人が走って、床が薄くなった。」

中国語の結果複合動詞“跑薄”(走る-薄い)において、E1である“跑”(走る)には走る 人という項があり、E2の“薄”(薄い)には“路面”(路面)という項がある。この二つの事 象の項は明らかに異なるから、V1 の項構造と V2 の項構造は重ならない。しかしながら、

(78a)が示しているように、“路面”(路面)の目的は人が通ることであり、“路面”(路面)

の目的クオリアにはV1 のrun が含まれる。“跑平了路面”(走って、路面が平らになった)

が問題なく言えるのは、“路面”の目的クオリアとV1が一致し、かつ“路面”がV2の項で あることから、V1とV2の事象が“路面”を介して一つの複合事象として解釈できるからで ある。

124

QUALIA

それに対し、(77b)の容認度が低い理由は床の目的がその上を走ることではないからであ る。つまり“地板”(床)という名詞の目的クオリアにV1である“跑”(走る)が含まれて いないため、V1 と V2 の事象を一つの複合事象として解釈するのが難しいからである。実 際、“这条新铺的路面很适合跑步。”(この新しくできた道路は走りやすい。)という文は可能 だが、“??这块地板很适合跑步”(この床は走りやすい)は非常に不自然である。

(78) 跑(走る)

ARGSTRARG1=x:human

EVENTSTR= E=e:process

QUALIAAGENTIVE =run _act (e,x)

薄(薄い)

ARGSTRARG1=y:the pavement

EVENTSTR= E=e:state

QUALIAFORMAL =thin _state (e,y) 跑薄(走る-薄い)

ARG1=x:human

ARG2=y: pavement E1=e1:process(x)

EVENTSTR= E2=e2:state(y) RESTR=〔e1<e2

AGENTIVE =run_act (e1,x)

FORMAL =〔thin_result (e2,y) (79) a. 路面(路面)

CONST=consit_of(x:pavement, y:stones)

FORMAL =road(x)

TELIC=walk/run on(x)

AGENTIVE =pave_act (z:human, x)

ARGSTR

QUALIA

125 b. 地板(床)

CONST =consit_of(x:pavement, y:wooden or other material)

FORMAL =road(x)

TELIC=walk on (x)

AGENTIVE =pave_act (z:human, x)

(76)の違いも同じように説明できる。“鞋”(靴)と“裤子”(ズボン)のクオリア構造を 見ると、“鞋”は歩いたり走ったりするための道具であり、目的クオリアにrunが含まれると 言えるが、単なる“裤子”の目的に走ることがあるとは考えにくい。事実、走るためのシュ ーズは中国語で“跑鞋”と言うのに対し、走る時に履くズボンは“*跑步裤”また“*跑裤”

(走りのズボン)と言わない。運動をするためのズボンであれば、“运动裤”(運動のズボン)

となる。つまり「走る」ことを目的とするのは“鞋”(靴)あるいは“运动裤”(運動のズボ ン)であり、単なる“裤子”(ズボン)では不十分であることは、次の例からも分かる。

(80) a. 这 双 鞋 很 适合 跑步。

zhè shuāng xié hěn shì hé pǎo bù

この SHUANG 靴 とても 適する ジョギングする

「この靴はとても走りやすい。」

b. 这 条 {运动裤/?裤子} 很 适合 跑步。

zhè tiáo {yùn dòng kù/? kù zǐ} hěn shì hé pǎo bù

この TIAO 運動ズボン/ズボン} とても 適する ジョギングする

「この運動ズボンはとても走りやすい。」

目的語の目的クオリアとV1が一致し、かつ目的語がV2の項であれば、V1とV2の事象 がその目的語を介して一つの複合事象として解釈できる限りにおいて複合動詞が容認され るのであれば、ズボンを運動用のズボンとすればよくなることが予測されるが、事実、容認 度は高い。

(81) 他 跑-烂 了 他 的 运动裤。

tā pǎo-làn le tā de yùn dòng kù

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