第 3 章 目的語指向型の日中結果複合動詞
3.4 文脈と目的語指向型の結果複合動詞
中国語の結果複合動詞は、日本語の結果複合動詞や英語の結果構文より、広い範囲の因果 関係を表すことができる。すなわち、V1とV2の間に、形式クオリアが一致せず、共通する 項がなくても、あるいは因果関係が間接的であっても、中国語では結果複合動詞という形で 表現できる。前に述べたように、間接的因果関係を持つ中国語の結果複合動詞には、百科事
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典的知識に依存するタイプとコンテクストに依存するタイプという2種類がある。(94a)か ら(94d)までの例は主語、複合動詞と目的語さえあれば、特に文脈が無くても我々がもっ ている世界に関する知識だけで理解できるが、(94e)から(94g)までの例は、特定の文脈 でのみ、成立する。
(94) a. 踩湿了双脚((水)を踏んで、両足を濡らした)
b. 洗破了衣服(服を洗って、服が破れた)
c. 翻破了书(本をめくって、本が破れた)
d. 摸破了纸(紙を触って、破れた)
e. 跑哑了嗓子(走って、喉がかすれた)
f. 跑碎了肾结石(走って、腎臓結石が砕けた)
g. 吻瘫了机场(キスをして、空港が麻痺した)
(95a)であれば、我々の常識のみで、何かの液体を踏んで、両足を濡らしたのであろうと 推測でき、ほかの特殊な背景情報などは一切必要ない。しかしながら、(94e)から(94g)
までの例については、常識的には、“跑”(走る)と“哑”(かすれる)、あるいは“碎”(砕く)、
また、“吻”(キスする)と“瘫”(麻痺する)の間には関連性はない。走っても、喉がかすれ たり、腎結石が砕けたりするわけではなく、恋人同士がよく空港でキスをしたとしても、そ れで空港が閉鎖されることも考えにくい。以下の例は原文の引用であるが、これだけでもな お、理解は難しい。特にいくつかの述語には引用符がついており、特殊な表現であることが 示唆されている。
(95) a. 胡茜 的 声音 有些 沙哑, 与 其他 志愿者 喊破
hú qiàn de shēng yīn yǒu xiē shā yǎ yǔ qí tā zhì yuàn zhě hǎn pò
胡茜 の 声 すこし かすれる と 他の ボランティア 叫ぶ-破れる 嗓子 不同, 她 的 嗓子 是 “跑哑 的”。
sǎngzǐ bú tóng tā de sǎng zǐ shì pǎo yǎ de 喉 違う 彼女 の 喉 SHI 走る-掠れる DE
「胡茜の声が少しかすれている。他のボランティアが叫んで、声がかすれたの と異なり、彼女は走って、声がかすれた。」(焦作日报2009.10.12)
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b. 长跑 狠 人 跑碎 肾结石 (=(4)) chángpǎo hěn rén pǎo suì shèn jié shí
長距離走 厳しい 人 走る-砕ける 腎結石
「ストイックな長距離ランナーが走って、腎臓結石が砕けた。」
c. 中国 留学生 “吻瘫” 美 机场
zhōng guó liú xué shēng wěn tān měi jī chǎng
中国 留学生 キスする-麻痺する アメリカ 空港
「留学生がキスをして、アメリカの空港を麻痺させた。」
(春城晚报2010.1.11)
以上の例文はすべて新聞記事からの引用であるが、いずれも記事全体を見なければこれら の複合動詞の意味を理解することはできない。(95a)の胡茜の喉がかすれたのは、オリンピ ックのボランティアとして、あちこち走り回り、各試合の結果を皆に知らせたためである。
(95b)の記事は、ランナーは腎結石にかかった後、科学的なランニングときちんとした栄 養管理により、手術をせずに結石が砕けたことを伝えている。最後の(95c)では、アメリカ で生物学を勉強している留学生がニューヨーク空港で彼女を見送ったときの事件である。彼 は恋人が保安検査を通過した後、彼女とキスをするために、通路の隔離テープをこっそりと 乗り越えてしまった。警察は安全のため、空港のターミナルビルを6時間に渡り閉鎖し、数 千人の乗客が改めて保安検査を受けることになり、その影響で、100 便の飛行機に遅れが生 じることになった。これら三つの結果複合動詞は、臨時的に作られたものであり、意味の理 解や容認度は文脈に完全に依存する。
英語の結果構文についても、Boas(2003、2005、2011)は文脈の重要性を強調している。
Boas(2011)の調査によれば、多くのネ母語話者は(96a)を結果構文として認めない。な
ぜなら、hammerという動作が直接的にsafeという結果状態を引き起こさないからである。
しかし、(97)のような適切な文脈を与えると、容認度が上がる。
(96) a. ?? Ed hammered the metal safe.
b. Ed hammered the metal flat.
(Boas 2011:1271)
(97) The door of Ed’s old Dodge had a piece of metal sticking out. When getting out of
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the car, Ed had cut himself on the metal and had to go to the hospital to get stitches.
The next day, Ed hammered the metal safe.
(Boas 2011:1272)
Boasは以下のような例も挙げている。
(98) a. Lars blew/sneezed the napkin off the table.(Boas 2003:271)
b. ?? Lars panted/wheezed the napkin off the table(Boas 2005:455)
(98b)の容認度は(98a)より低い。その理由は、blowとsneezeとは異なり、pantや
wheeze が排出する空気の量が少なく、ナプキンに移動させる力を持たないからである。し
かし、(98b)の文に「救急の場合など、喘息で予想以上に激しく息をすることがある」とい う背景情報を加えると、容認度が上がる。
中国語の結果複合動詞や英語の結果構文では、文脈により容認度が上がるとしたら、日本 語の結果複合動詞でも同じ現象が起こるだろうか。この点を確認するため、以下の例文で容 認度の調査を行った。
(99) 体重100キロを超えた人がそのべビーチェアを座り壊した。
(100) 彼は急いで資料を調べるため、持っていた本をめくり破ってしまった。
(101) その子は濡れている手でその和紙を触り破いてしまった。
文脈など何もない場合では、「*座り壊す」と「*めくり破る」「*触り破く」について、調査 した母語話者全員がまったく容認できないと答えた。しかし、同じ結果複合動詞でも状況を 加え(99)(100)(101)としたところ、完全に文法的とは言いがたいが、容認度は確かに上 昇した。しかしながら、「*走り砕く」は、中国語の“跑碎”(走る-砕ける)と同じ文脈を加 えても、容認されない。したがって、「百科事典的な知識」に基づいて解釈できる結果複合動 詞なら、日本語でも中国語でも、文脈次第では理解しやすくなるが、文脈のみで成り立つ結 果複合動詞の場合はいくら文脈を与えても、日本語では、結果複合動詞として成立しにくい と言えよう。
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