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主語指向型日中結果複合動詞におけるイベントとクオリアの融合

ドキュメント内 結果複合動詞の日中対照研究 (ページ 172-179)

第 4 章 主語指向型の日中結果複合動詞

4.2 主語指向型結果複合動詞のクオリア構造

4.2.1 主語指向型日中結果複合動詞におけるイベントとクオリアの融合

初めに、前章で見た目的語指向型の結果複合動詞のイベントとクオリア構造の融合を振り 返っておこう。

目的語指向型の日中結果複合動詞において、プロトタイプであれば、V1とV2の間に必ず

(60)の使役スキーマによる直接因果関係がある。その詳細については、(61)と(62)の 例を通して説明する。

(60) E1=e1:process

E2=e2:state

RESTR=e1<e2

FORMAL =ɑ _result(e2, y)

AGENTIVE=ɑ _act(e1, x, y)

(小野2005:111)

小野(2005)によれば、英語の結果構文では、動詞のクオリアと結果述語のクオリアとの 共合成により、動詞は構文に組み込まれる。(61)に示す目的語指向型の中国語の結果複合動

EVENTSTR

QUALIA

168

詞の形成過程は英語の結果構文の形成過程と全く同じである。まずV2“平”(平らだ)は使 役スキーマの形式クオリアと同定され、その後、V1“锤”(ハンマーで叩く)とV2“平”(平 らだ)で共合成を行うことにより、V1をその結果複合動詞に組み込む。

(61) a. FORMAL = α _result(e2, y)

AGENTIVE= α _act(e1, x, y)

b. “锤”(ハンマーで叩く)

ARG1=x:human

ARG2=y:the metal

EVENTSTR= [E=e:process]

QUALIA= [AGENTIVE =hammer_act (x,y)]

“平”(平らだ)

ARGSTR= [ARG1=y:the metal]

EVENTSTR=[E=e:state]

QUALIA= [FORMAL=flat_state (e,y)]

c. “锤平”(ハンマーで叩く-平らだ)

ARG1=x:human

ARG2=y:the metal E1=e1:process (x,y)

EVENTSTR= E2=e2:state (y)

RESTR=e1<e2

AGENTIVE =hammer_act (e1,x,y)

FORMAL =flat_result (e2,y)

一方、他動詞+非対格動詞の組み合わせである中国語と異なり、他動詞+他動詞で結果複 合動詞が形成される日本語では、使役スキーマに入れるだけでは不十分である。まず、項構 造が一致し、さらにV1の慣習的な結果がV2であると同時に、V2の様態として、V1が挿 入されなければならない。

ARGSTR

QUALIA

ARGSTR

同定

QUALIA=

169

QUALIA

ARGSTR

ARGSTR

QUALIA

(62) 叩く

ARG1=x

ARG2=y

EVENTSTR=E=e:process

AGENTIVE =hit_act (e,x,y)

FORMALCONVENTIONAL=β_state(e2,y)

壊す

ARG1=x

ARG2=y

E1=e1:process

EVENTSTR= E2=e2:state

RESTR=e1<e2

FORMAL =broken _state(e2,y)

AGENTIVE =α_act(e1,x,y)

(63) 叩き壊す

ARG1=x

ARG2=y

E1=e1:process(x,y)

EVENTSTR= E2=e2:state(y)

RESTR=e1<e2

AGENTIVE=hit_act (e1,x,y)

FORMAL = broken_ result (e2,y)

「叩き壊す」のような目的語指向型の日本語の結果複合動詞では、(62)が示すように、V1

「叩く」の項構造は内項と外項を持ち、イベント構造はprocessで、主体クオリアはxがy を叩くことである。しかし、中国語と異なり、V2である「壊す」がすでに使役関係を持つ。

したがって、日本語では「叩く」の主体クオリアをそのまま「壊す」の主体クオリアと同定

QUALIA

ARGSTR= r e s u l t r e s u l t

170

したうえで、V1とV2を複合することができる。言い換えれば、V2「壊す」の様態は指定さ れておらず、どのような手段・方法で壊すかはあらかじめ決まっていない。ここで無指定の 様態(αで表す)にV1が様態として指定されるのである。つまりV1が原因でV2が結果と なる。ただし同定に際して、1つの条件を満たさなければならない。同定されるV1 の慣習 的な結果の一つがV2の形式クオリアと一致しなければならないのである。前章で考察した ように、「叩く」の慣習的な結果の一つは「物の形を変化させる」であり、これは「壊す」

の形式クオリアと矛盾しないため、「叩く」は「壊す」と複合することができる。

では、主語指向型の結果複合動詞はどうであろうか。

まず、前に述べた(61)の目的語指向型の結果複合動詞と同じく、「他動詞または非能格動 詞+非対格動詞」の場合、V2 の形式クオリアと使役スキーマの形式クオリアを同定するこ とにより、主語指向型の日中結果複合動詞がコード化される。具体的に、“吃饱”(食べる-

満腹だ)、「泣きぬれる」の意味構造を見て見よう。

(64a)に挙げている“吃饱”(食べる-満腹だ)の意味構造は(64c)で示している。(64c)

では、スキーマ核である“饱”(満腹だ)の形式クオリアは(64b)の使役事象スキーマの形 式クオリアと同定され、主語指向型の結果複合動詞は使役事象スキーマにコード化される。

その後、スキーマ核であるV2はV1と共合成が行われる。また、起因事象であるV1の項で ある“他”(彼)と結果事象V2の項は共通しているので、この二つの事象の間にある使役関 係を保証することができる。

(64) a. 他 吃饱 了 (饭)。

tā chī bǎo le (fàn)

彼 食べる‐満腹だ LE (ご飯)

「彼はご飯を食べて、満腹になった。」

171

ARGSTR

ARGSTR

QUALIA

b. FORMAL = α _result(e2, y)

AGENTIVE = α _act(e1, x, y)

c. 吃(食べる)

ARG1=x

ARG2=y

EVENTSTR= [E=e:process]

QUALIA= [AGENTIVE =eat _act (x,y)]

饱(満腹だ)

ARG1=x

S-ARG=y

EVENTSTR= [E=e:state]

QUALIA= [FORMAL =full_state (e,x)]

吃饱(食べる‐満腹だ)

ARG1=x (ARG2=y)

E1=e1:process (x)

EVENTSTR= E2=e2:state (y)

RESTR=e1<e2

AGENTIVE = eat_act (e1,x)

FORMAL =full_result (e2,x)

他方、「泣きぬれる」では、「濡れる」は非対格動詞であり、使役意味を持つ他動詞ではな く、(64)の“吃饱”(食べる-満腹だ)とほぼ同じ過程で融合するが、“吃饱”(食べる-満 腹だ)と相違点がひとつある。日本語では、中国語と異なり、V1がV2と共合成する時に、

V1の慣習的な結果(下ではFORMALCONVENTIONAL=βで示す)は必ずV2の形式クオリアを含ま なければならないという条件がある。(65)の「泣きぬれる」では泣いた後に涙が出るので、

この意味から「濡れる」という結果が予測される。「泣く」の慣習的な結果に「濡れる」が含 まれていると考えられ、「泣く」と「濡れる」の共合成が行われる。

ARGSTR

QUALIA

同定

172

QUALIA

(65) a. 彼は一人泣き濡れた。

b. FORMAL = α _result(e2, y)

AGENTIVE = α _act(e1, x, y)

c. 泣く

ARGSTR = [ARG1=x]

EVENTSTR= [E=e:process]

AGENTIVE = cry_act (x)

FORMALCONVENTIONAL=β_state(e2,y)

濡れる

ARGSTR= [ARG1=y]

EVENTSTR= [E=e:state]

QUALIA= [FORMAL =wet_state (e,x)]

泣きぬれる

ARGSTR = [ARG1=x]

E1=e1:process (x)

EVENTSTR= E2=e2:state (y)

RESTR=e1<e2

AGENTIVE = cry_act (e1,x)

FORMAL =wet_result (e2,x)

次に、複合動詞のV1とV2が共に状態変化を表す非対格動詞では、V1が示す状態変化が V2 の示す状態変化を引き起こすことを表す。これは因果関係であり、使役関係であるとも 言える。使役スキーマにおいては、主体クオリアと形式クオリアが原因と結果を表すから、

ここでもやはり、上と同じ構造を持つと考えられる。Pustejovsky(1995)に従えば、(66d)

において、到達動詞である「崩れる」も「落ちる」もイベント構造はtranstionであるが、

このtransitionはprocessとstateを組み合わせた複合事象である。また、「崩れる」は「落 ちる」より先に発生するので、「崩れる」は原因で、「落ちる」は結果だと考えられる。

QUALIA

QUALIA

173

QUALIA

(66) a. 大きな岩が道路に崩れ落ちた。

b. 巨大 的 岩石 崩落 到 了 道路 上。

jù dà de yán shí bēng luò dào le dàolù shàng 巨大 の 岩 崩れる-落ちる に LE 道路 上 c. FORMAL = α _result(e2, y)

AGENTIVE = α _act(e1, x, y)

d. 崩れる/“崩”

ARGSTR= [ARG1=y]

EVENTSTR= [E=e:transition]

QUALIA= [FORMAL = collapse _state (y)]

落ちる/“落”

ARGSTR= [ARG1=y]

EVENTSTR= [E=e:transition]

QUALIA= [FORMAL =fall down _state (e,y)]

崩れ落ちる/“崩落”

ARGSTR= [ARG1=y]

E1=e1:transition (y)

EVENTSTR= E2=e2:transition (y)

RESTR=e1<e2

AGENTIVE = collapse _ thechange of sate(e1,y)

FORMAL = fall down _result (e2,y)

「他動詞/非能格動詞+非対格動詞(心理・生理的動詞を除く)」の組み合わせを持つ主語 指向型の日本語の結果複合動詞は目的語指向型と同じく、V1の慣習的な結果はV2の形式ク オリアを含まなければならないが、同タイプの中国語結果複合動詞にそのような制約はない。

主語指向型の「非対格動詞+非対格動詞(心理的・生理的動詞を除く)」結果複合動詞では、

V1の状態変化をきっかけとして、V2の状態変化が起こる。

次節では、V2が心理的・生理的変化を表す非対格動詞の日中結果複合動詞を取り上げ、そ の特徴を詳しく論述する。

QUALIA

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