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中国語の目的語指向型の分類

ドキュメント内 結果複合動詞の日中対照研究 (ページ 79-90)

第 3 章 目的語指向型の日中結果複合動詞

3.1 日中結果複合動詞の項構造

3.1.1 中国語の目的語指向型の分類

中国語の結果複合動詞について、申(2007:198)は主に項の受け継ぎに基づき、《汉语动 词—结果补语搭配词典》から集めた1866例を五つに分けている。

(5) 結果複合動詞の分類とその生起数 1866例

①目的語志向型 816例 44%

②主語志向型 322例 17%

③前項述語の項が具現化しない場合 73例 4%

④後項述語の項が具現化しない場合 0例 0%

⑤補文関係 655例 35%

申(2007)によれば目的語指向型の複合動詞には二種類ある。(6a)と(7a)の1及び1’

はそれぞれV1とV2の主語を、2はV1の目的語を表す。“推开”(押す-開く)では、V1

“推”(押す)は“她”(彼女)と“门”(扉)という二項をとり、V2“推”(開く)は「扉」

という内項のみをとる。さらにV1 とV2が複合動詞化する際に、項の合成が行われる。こ のときV1の主語「彼女」が複合動詞全体の主語になり、共通している「扉」が結果複合動 詞の目的語になる。(7)の“哭走”(泣く‐行く)では、“哭”(泣く)も“走”(行く)も1 項述語で、項の合成により、V1の項“黛玉”が複合動詞の主語に、V2の項“客人”が複合 動詞の目的語になる。

(6) a. 推开(押す-開く):<1,2>+<1’> → <1,2-1’>

b. 她 推开 了 沉重 的 大 门。

tā tuī kāi le chén zhòng de dà mén

彼女 押す-開く LE 重い の 大きい 扉

「彼女は重い扉を押し開けた。」

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(7) a. 哭走(泣く‐行く):<1>+<1’> → <1,1’>

b. 黛玉 哭走 了 很多 客人。

dài yù kū-zǒu le hěn duō kè rén 黛玉 泣く-行く LE 沢山 お客さん

「黛玉は、泣いて、沢山のお客様を帰らせてしまった。」

(申2007:204)

申(2007)と異なり、石村(2011)は複合動詞の意味特徴から、目的語指向型(石村(2011)

は、目的語指向型の中国語の結果複合動詞を<他動型>と呼ぶ)を(8)と(9)のように大 きく二種類に分け、さらにV1が1項述語の場合は三つに下位分類する。

(8) V1が2項述語の場合

武松 打死 了 老虎。(石村2011:76)

wǔ song dǎ sǐ le lǎo hǔ 武松 殴る-死ぬ LE

「武松は虎を殴り殺した。」 (9) V1が1項述語の場合

a. V1=非能格動詞

他 喊哑 了 嗓子。 (石村2011:85)

tā hǎn yǎ le sǎng zǐ

彼 叫ぶ‐かれる LE

「彼は叫んで喉をからした。」

b. V1=非対格動詞

西瓜 滚破 了 皮。 (石村2011:89)

xī guā gǔn pò le pí

スイカ 転がる-割れる le 皮

「スイカが転がって皮が割れた。」

c. V1=目的語を伴わない他動詞

他 吃坏 了 肚子。 (石村2011:87)

tā chī huài le dù zǐ

76 彼 食べる-壊れる LE お腹

「彼は食べてお腹を壊した。」

石村(2011)によれば、(8)の“打死”(殴る-死ぬ)のV1には動作主と対象という2つ の項を持ち、複合動詞全体は「武松が虎を打ち、その結果として、虎を死なせた」という意 味構造を表す。

例(9)のV1はすべて一項述語である8。(9a)の“喊”(叫ぶ)は非能格的動詞で、(9b)

のV1“滚”(転がる)は非対格動詞である。(9c)の“吃坏”(食べる-壊れる)のV1は他

動詞であるが、その目的語は統語上具現化していない。つまり、例(9)の目的語“嗓子”

(喉)、“头”(頭)、“肚子”(お腹)はすべて、V1ではなくV2の内項である。つまり、(8)

の“打死”(殴る-死ぬ)の目的語“老虎”(虎)はV1とV2の共通の項であるが、(9)の目 的語はV2のみの項である。

このような違いはあるが、いずれも「複合動詞+目的語」という構造を持つことから、石 村(2011)はこれらの複合動詞を“他動型”と呼ぶ。。

これら以外に、申(2007)は(10b)の例を挙げ、V1の項が具現化しないタイプがあると 主張する。この例では、“写酸”(書く-疲労して痛い)のV1“写”(書く)の項が実現して いない。

(10) a. 写酸(書く-疲労して痛い):<1,2>+<1’> → <1-1’>

8 このタイプの複合動詞について、石村(2011:88-89)は(i)のようにV1が“热”(熱い)、

“忙”(忙しい)、“饿”(空腹だ)のような形容詞を取る場合もあると主張する。しかしこれ らの語の品詞には、なお検討の余地があるので、ここではこのタイプの複合動詞は扱わない こととする。

(i) a. 我 热晕 了 头。

wǒ rè yūn le tóu

私 暑い-くらくらする LE

「私は暑さで頭がくらくらした。」

b. 老李 忙昏 了 头。

lǎo lǐ máng hūn le tóu

李さん 忙しい―くらくらする LE

「李さんは忙しくて頭がくらくらした。」

c. 老王 饿坏 了 身体。

lǎo wáng è huài le shēn tǐ

王さん 空腹だ―壊れる LE 身体

「王さんは飢えて体を壊した。」

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b. 我 写 了 一天 字, 手 都 写酸 了。

wǒ xiě le yī tiān zì shǒu dōu xiě suān le

私 書く LE 一日 字 手 殆ど 書く-疲労して痛い LE

「私は一日中ずっと字を書いて、手が書き疲れて痛くなった。」

(《汉语动词—结果补语搭配词典》:225)

(10b)のような“手写酸了”(疲労して、手が痛い)のような構文は本稿では取り上げな い。その理由は次の通りである。(10b)の“写酸”(書く-疲労して痛い)では、V1の外項 も内項も複合動詞の項構造に現れず、状態変化を起こすV2の項“手”(手)のみが出現して いる。その理由について、申(2007)はV1の項が背景化される一方、V2の項及びV2が表 す結果状態が前景化され、(10a)のような項構造となるためであるとする。しかしながら、

この説明には二つの問題がある。第一に、目的語指向型において、項の同定があるのは V1 の項とV2の項が一致する場合のはずであるが、(11)が示しているように、“写”(書く)の 主語は“我”であって、“手”ではないのに、“写”(書く)の主語と“酸”(疲労して痛い)

の主語が同定されている。つまり、“我”と“手”で異なるはずの項が同定されてしまってい るのである。

(11) a. 我 写 字。

wǒ xiě zì

私 書く 字

「私は字を書く。」

b. * 手 写 字。

shǒu xiě zì 手 書く 字

「手は字を書く。」

第二に、申(2007)はV1の項が統語上に現れない原因は背景化されたためであると主張 するが、なぜ背景化できるのか、どの項がいつ背景化できるのか、一切説明していない。

では(10b)はどのように派生されるのであろうか。まず注意しなければならないのは、

“写酸”(書く-疲労して痛い)には、(12a)のような、石村の言う「他動型」が存在すると

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いうことである。その項構造は(12b)のように表すことができる。

(12) a. 我 写酸 了 手。

wǒ xiě suān le shǒu

私 書く-疲労して痛い LE

「私は(字を)書くことにより、手が痛くなった。」 b. <1,2>+<1’> → <1,1’>

V1“写”(書く)の内項が実現しないことについてはすぐ後で見ることにして、まず(12)

の主語を削除し、目的語“手”(手)を主語にすれば(10b)ができることに注目したい。こ れは中国語によく見られるパターンである。なぜかというと、中国語では、受動標識“被”

を使わずに、動詞の目的語を主語の位置に移動することにより、受動化ないし他動詞から自 動詞へ転換することがが可能である。

(13) a. 我们 已经 解决 了 那个 问题。

wǒ men yǐ jīng jiě jué le nà gè wèn tí 我々 すでに 解決する LE その 問題

「我々はすでにその問題を解決した。」

b. 那个 问题 已经 解决 了。

nà gè wèn tí yǐ jīng jiě jué le その 問題 すでに 解決する LE

「その問題はすでに解決された。」

(14) a. 我 刚刚 删除 了 那 个 错字。

wǒ gāng gāng shān chú le nà gè cuò zì 私 たった今 削除する LE その 量詞 誤字

「私はたった今、その誤字を削除した。」

b. 那 个 错字 刚刚 删除 了。 nà gè cuò zì gāng gāng shān chú le その 量詞 誤字 たった今 削除する LE

「その誤字はたった今削除された。」

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例えば、(13a, 14a)では、動詞“解决”(解決する)及び“删除”(削除する)は目的語を とり、文全体はSVOの構造を持つ。ここで、主語を削除し、目的語の“那个问题”(その問 題)と“那个错字”(その誤字)を主語の位置に置くことができる。これを受動化とみるか能 格化とみるかは議論の余地はあるが、いずれにせよ(10b, 13b, 14b)はそれぞれ(12a, 13a, 14a)から派生したものと考えられる。

(9c)も同様に、(15b)が示すように、受動化/能格化が可能である。

(15) a. 他 吃坏 了 肚子。 (=9c)

tā chī huài le dù zǐ 彼 食べる-壊れる LE お腹

「彼は食べてお腹を壊した。」

b. 肚子 吃坏 了。

dù zǐ chī huài le

お腹 食べる-壊れる LE

「お腹が食べて壊れた。」

以上から、申(2007)が挙げた(10b)のV1の項が実現しない“写酸”(書く-疲労して 痛い)の例は、他動型の結果複合動詞の受動化/能格化であると考えるのが妥当である。本 稿ではこのような派生形は扱わないこととする。

では、受動化/能格化する前の“写酸”(書く-疲労して痛い)や“吃坏”(食べる-壊れ る)について、V1“写”(書く)及び“吃”(食べる)の目的語が実現しない理由について考 察しよう。

V1とV2を合わせて考えると、全部で三つの項がある。中国語では三項述語はごく限られ ており、いずれか一つの項が出現できないことになるが、ではなぜそれがV1の内項なので あろうか。他動詞とその目的語の間には二種類の関係がある。一つは目的語が動詞の意味に 含まれているものであり、もう一つは動詞の意味に含まれていないタイプである。例えば、

“写”(書く)、“吃”(食べる)であれば、“字”(字)、“食物”(食べ物)が論理的に含意され る。それに対して、“敲”(叩く)の目的語は論理的に含意されず、限定されない。第1章で 述べたように、動詞の意味に論理的に含意される項はデフォルト項である。そのため必ずし も実現する必要はない。V1の“写”(書く)や“吃”(食べる)の内項も、V2と複合する際

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に実現できる項を減らさなければならないため、情報量が最も少ないデフォルト項が抑制さ れるのだと考えられる。

実際、V1が“敲”(叩く)の場合、(16a)のように、その目的語が統語上に出現しなけれ ば、文全体の容認度がやや落ちる。“敲”(叩く)は“桌子”(テーブル)という目的語を含意 しておらず、「叩く」の対象をデフォルト項とするのが難しいからである。そのため、叩く対 象は現れざるを得ないが、複合動詞の項としては実現すべき位置がない。そのため、デフォ ルト項として抑制しつつ、かつ、実現させなければならないという矛盾を解決する必要に迫 られる。1.2.1節でみたように、デフォルト項は統語上、付加部(PP、あるいは真の項を修 飾する位置)に現れる。崔(2018)によれば、動詞コピー構文9では、前置されている動詞述 語文は文全体の修飾要素であることから、(16b)に示すとおり、デフォルト項はここであれ ば出現することができる。つまり“敲”(叩く)の目的語である“桌子”(テーブル)は複合 動詞の項の位置ではなく、動詞コピー構文の付加部の中に現れなければならない。本論文で は、“桌子”(テーブル)のような項は真の項とデフォルト項の中間的な存在であると考える。

(16) a. ? 他 敲疼 了 手。

tā qiāo téng le shǒu 彼 叩く-痛い LE

「彼は叩いて、手が痛くなった。」

b. 他 敲 桌子 敲疼 了 手。

tā qiāo zhuō zǐ qiāo téng le shǒu 彼 叩く テーブル 叩く-痛い LE

「彼はテーブルを叩いて、手が痛くなった。」

ここまで見てきたさまざまな中国語の目的語指向型の結果複合動詞を項構造の観点から 整理しておこう。まず、V1とV2の間に共通する項があるかどうかで二つのグループに分け られる。(17)の“推开”(押す-開く)は項が共有されるタイプの典型例で、V1の目的語と

9 (16b)のような「V1+O+V1+V2」という組み合わせを持つものは動詞コピー構文だと 考えられる。すなわち、崔(2018:173)により、V1が2回繰り返して出現し、前方の 動詞が目的語を伴い、後方の動詞がV2を伴う構文形式である

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