第 2 章 日中結果複合動詞の概観
2.2 日中結果複合動詞と英語の結果構文に関する分類及び意味制約
2.2.3 日本語の結果複合動詞の分類及び意味制約
本節では、日本語の結果複合動詞を説明する前に、その上位タイプである複合動詞を見て おきたい。影山・由本(1997)は複合動詞を語彙的なものと統語的なものに分けている。こ の二種類の動詞は形態上が同じに見えるが、実は様々な相違点がある。影山・由本(1997)
によれば、第一に、意味の透明さと生産性の高さに違いが見られる。意味の透明さという点 で、語彙的な「飲み歩く」と統語的な「飲みかける」と比べると、前者では「飲む」対象は 酒類に限定されているが、後者ではどのような液体でもよい。このように、語彙的複合語は 様々な程度に意味が慣習化されているが、統語的複合語は意味的に透明である。
(52) a. 語彙的複合動詞
飛び上がる、沸き立つ、押し開ける、書き込む、吸い取る、受け取る,
貼り付ける,探し歩く,飲み歩く、恋い慕う、誉め讃える、語り明かす,
遊び暮らす、泣き叫ぶ、泣きはらす、勝ち抜く b. 統語的複合動詞
話し終わる、払い終える、話し始める、しゃべり続ける、歩き過ぎる,
58
食べそこなう、しゃべりまくる、飲みかける、読み直す、見慣れる,
書き忘れる、乗りそこねる、鍛え抜く
(影山・由本1997:68)
さらに、統語的複合動詞のV1とV2は補文関係があると捉えることができるのに対し、
語彙的な複合動詞は、より複雑である。影山(1993)はV1とV2の間にある意味関係の種 類を、(53)の「並列」「手段」「様態」「原因」「補文関係」という五つのタイプに分ける。
(53) a. 手段:V1することによって、V2
切り倒す、踏み潰す、押し開ける、折り曲げる、切り分ける、
むしり取る
b. 様態:V1しながらV2
尋ね歩く、転げ落ちる、遊び暮らす、忍び寄る、舞い上がる、
語り明かす、持ち去る、探し回る c. 原因:V1の結果、V2
歩き疲れる、抜け落ちる、溺れ死ぬ d. 並列:V1かつV2
泣き喚く、忌み嫌う、恋い慕う、慣れ親しむ e. 補文関係:V1という行為/出来事を(が)V2
見逃す、死に急ぐ、聞き漏らす、晴れ渡る、使い果たす、呼び交わす
これらの複合動詞において、「手段」複合動詞と「原因」複合動詞が結果複合動詞である。
松本(1998)や陳(2015)によれば、(53a)のような「手段」複合動詞はV1がV2の結果 状態を達成する手段を表す。また、このタイプで最も典型的な組み合わせは「他動詞+他動 詞」である。一方、(53c)にある「原因」複合動詞では、V1はV2を引き起こす原因であり、
V2はV1の無意志的な結果であるため、V2は非対格動詞のみを取る。
日本語では、統語構造も形態構造も「右側主要部の規則」(Righthand Head Rule)に従 う。影山(1993)によれば、「並列」複合動詞を除いて、他の四つのタイプの複合動詞もすべ て右側のV2が主要部で、V2の項構造が複合動詞全体の項構造を決める。この点について、
V1とV2が異なる目的語を取る例を見て見よう。
59
(54) a. 彼をだます、お金を取る
→ お金をだまし取る *彼をだまし取る b. どら焼きを焼く、菊の模様を付ける
→ 菊の模様を焼き付ける *どら焼きを焼き付ける
(54a)の「だます」の目的語は「彼」であり、「お金」ではないが、「だます」と「取る」
を複合して、「だましとる」になると、複合動詞全体は「お金」を目的語として取る。「焼き 付ける」においても、V1とV2はそれぞれに「どら焼き」と「菊の模様」をとり、複合動詞 全体もV2と同じ目的語を取る。「手段」複合動詞のV2は状態変化あるいは位置変化の使役 を表す動詞つまり他動詞であるから、「手段」複合動詞全体も(55a)のように他動詞になる。
それに対し、「原因」複合動詞のV2は非対格自動詞であり、「原因」複合動詞も(55b)のよ うに自動詞になる。また、「手段」複合動詞は目的語指向型、「原因」複合動詞は主語指向型 と対応する。したがって、中国語と同じく、日本語結果複合動詞も主語指向型と目的語指向 型に分類できる。
(55) a. 彼は木を切り倒す。
b. 彼は歩き疲れる。
ここまで日本語の結果複合動詞の分類を簡単に紹介したが、以下では語彙的複合動詞の成 立にかかる制約を見ていきたい。これまで提案されてきた制約の中で、最も重要なのは影山
(1993)の「他動性調和の原則」と松本(1998)の「主語一致制約」の二つである。
影山(1993)によれば、語彙的複合動詞を構成する単純動詞の項構造は以下のようの三つ のタイプがあるが、V2が「付く」「込む」である場合を除き、ほとんどの語彙的複合動詞で、
項構造に関係する制限がある。
(56) a. 他動詞:(x<y>)
b. 非能格自動詞:(x<>)
c. 非対格自動詞:<y>
60
他動詞は外項xと内項yの両方を持つが、非能格自動詞と非対格自動詞はそれぞれ外項と 内項の片方しか持たない。Jacobesen(1991)は語彙的複合動詞では、他動詞と他動詞、自 動詞と自動詞の組み合わせが多いことを指摘しているが、影山(1993)は他動詞と非能格動 詞という組み合わせの複合動詞の数も少なくないことを指摘している。
(57) a. ~回る(非能格自動詞)
非能格+回る:暴れ回る,歩き回る,動き回る,逃げ回る,這い回る,はね回 る,走り回る,泳ぎ回る,はいずり回る
他動詞+回る:探し回る,買い回る,荒し回る,ふれ回る,しゃべり回る,
持ち回る
非対格+回る:(風が)*吹き回る,*落ち回る,*流れ回る,*つまずき回る
~暮らす(非能格自動詞)
他動詞+暮らす:嘆き暮らす,待ち暮らす,眺め暮らす
非能格+暮らす:泣き暮らす,遊び暮らす,行き暮らす,降り暮らす 非対格+暮らす:*明け暮らす(cf.明け暮れる),*倒れ暮らす,*痛み暮らす b. ~落とす(他動詞)
他動詞+落とす:打ち落とす,振り落とす,切り落とす,突き落とす 非能格+落とす:泣き落とす,競り落とす
非対格+落とす: *(子供が砂山を)崩れ落とす,*揺れ落とす,*振れ落とす,
*こぼれ落とす c. ~落ちる(非対格自動詞)
非能格+落ちる:*走り落ちる,*跳び落ちる,*(スキーで)滑り落ちる,
他動詞+落ちる:*洗い落ちる,*ぬぐい落ちる,*切り落ちる
非対格+落ちる: こぼれ落ちる,崩れ落ちる,剥げ落ちる,焼け落ちる,
ころげ落ちる,(段階から)滑り落ちる
(影山1993:121-122)
(57a,b)が示しているように、非能格動詞「回る」と他動詞「落とす」は非能格動詞また は他動詞と複合できるのに、非対格動詞とは組み合わせられない。また、(57c)のV2は非 対格自動詞であり、V1は非対格自動詞のみ可能である。つまり、「他動詞+他動詞」「他動詞
61
+非能格自動詞」「非対格自動詞+非対格自動詞」の組み合わせはよいが、「非能格+非対格 自動詞」「他動詞+非対格自動詞」はできない。他動詞と非能格自動詞は外項があるという共 通点を持ち、「非対格自動詞+非対格自動詞」はどちらも内項のみを持つことから、日本語の 語彙的複合動詞は、原則として、外項を持つか否かの基準により、外項をもつ動詞同士(他 動詞・非能格動詞間)か、外項を持たない動詞同士(非対格動詞同士)の間での複合しかお こらない(申・望月2009:412)といえる。影山(1993)はこれを「他動詞調和の原則」と 呼んでいる。
ほとんどの日本語の語彙的複合動詞は、影山(1993)の「他動性調和の原則」に従うが、
反例がないわけではない。松本(1998)によれば、「原因」複合動詞では、(58a)のような 典型的なものを除き、(58b)の「非能格動詞+非対格自動詞」と(58c)「他動詞+非対格自 動詞」の組み合わせをもつものは「他動性調和の原則」に反している。
(58) a. 降り積もる、溺れ死ぬ、焼け死ぬ、抜け落ちる
b. 歩き疲れる、遊び疲れる、泳ぎ疲れる、立ち疲れる、座り疲れる、しゃべり疲 れる、鳴きくたびれる,走りくたびれる、泣きぬれる、泣き沈む
c. 読み疲れる、待ちくたびれる、飲みつぶれる、食い潰れる、聞きほれる、見惚 れる
(松本1998:48)
(59a)では、「私」は「歩く」の外項であり、「疲れる」の内項でもある。非能格自動詞と非 対格自動詞の組み合わせであり、「他動性調和の原則」に違反しているが、この二つの動詞は 一項動詞であり、唯一の項はどちらも主語となるはずの項である。同じく、(59b)は他動詞 と非対格自動詞の組み合わせであり、「他動性調和の原則」に反しているが、「読む」の主語 と「疲れる」の主語は同一である。
(59) a. 私が歩き疲れた。
b. 太郎が本を読み疲れた。
このことから、松本(1998)は「他動性調和の原則」より緩い「主語一致の原則」を提案 している。
62
(60) 主語(卓立項)一致の原則:二つの動詞の複合においては、二つの動詞の意味構造の
中で最も卓立性の高い参与者(通例、主語として実現する意味的項)同士が同一物を 指さなければならない。
(松本1998:72)
日本語の結果複合動詞では、まず「他動性調和の原則」あるいは「主語一致の原則」を守 らなければならない。しかし、この二つの原則だけではまだ不十分である。本研究は日本語 の結果複合動詞において、上記の二つの原則以外に、他の制約も必要であるが、この点につ いては第3章と第4章で詳しく述べる。