第 2 章 日中結果複合動詞の概観
2.2 日中結果複合動詞と英語の結果構文に関する分類及び意味制約
2.2.2 中国語の結果複合動詞の分類及び意味制約
中国語の複合動詞について、湯(1989)は複合動詞の内部構造から、(31)の五つのタイ プに分類している。
(31) a. 述宾式复合动词(「動詞+目的語」型):
唱歌(歌を歌う)、生气(怒る)、干杯(乾杯する)
b. 述补式复合动词(「動詞+結果補語」型):
打倒(打ち倒す)、压碎(押しつぶす)、走疲(走り疲れる)
c. 偏正式复合动词(「副詞+動詞」型):
暗杀(暗殺する)、合唱(合唱する)、偷看(覗き見る)
d. 并列式复合动词(並列型):
解放(解放する)、收割(刈り取る)、剥削(搾取する)
e. 主谓式复合动词(「主語+述語」型):
地震(地震がある)、头痛(頭痛がする)、嘴硬(強硬に言い張る)
(湯1989:154-160をもとに作成)
6 結果述語が形容詞となるのは中国語の結果複合動詞であるが、残念ながら以下では特に英 語と中国語の結果述語形容詞について、詳しく見当する余裕がなかった。詳細は今後の可だ とするが、事実としては、次節の例文から分かるように、中国語は尺度上の終点を持たない 形容詞であっても、結果述語として何ら問題は無い。
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申・望月(2009)、望月・申(2011)によれば、中国語の結果複合動詞は(31b)の「動詞
+結果補語」型に属する。上記の五つのタイプにおいて、「動詞+結果補語」型、つまり結果 複合動詞の卓越性と生産性が最も高い。中国語の結果複合動詞を分類する場合、英語の結果 構文と日本語の結果複合動詞よりやや複雑な分類が必要である。太田(1958)、望月(1990)、 山口(1991)、申(2007)や石村(2011)などの多くの研究者たちも中国語の結果複合動詞 を様々な角度から分類している。本論文は望月(1990)、山口(1991)、申(2007)の分類を 中心に比較しつつ、紹介する。その後は中国語結果複合動詞における意味制約に触れる。
望月(1990)は V2 の指向対象の違いにより、(32)のように結果複合動詞を四種類に分 けている。(32ⅰ)の「主語指向型」では、V2“累”(疲れる)が主語“我”(私)の状態を 表しているのに対し、(32ⅱ)の「目的語指向型」のV2は目的語“他”(彼)について述べ ている。(32ⅲ)の“完”(終わる)がV1“吃”(食べる)を叙述していることから、望月(1990)
は「動詞語幹指向型」と呼ぶが、研究対象からは外している。最後の(32ⅳ)のV1の目的 語である“那顿饭”(そのご飯)は結果複合動詞の前に移動し、無標型の「V1+V2+対象」
という語順ではなく、「O1+V1+V2+O」となり、「有標型」とする。
(32) ⅰ. 主語指向型:
我 走累 了。
wǒ zǒu lèi le
私 歩く-疲れる LE
「私は歩き疲れた。」
ⅱ. 目的語指向型:
我 踢伤 了 他。
wǒ tī shāng le tā
私 蹴る-怪我する LE 彼
「私は彼を蹴って怪我をさせた。」
ⅲ. 動詞語幹指向型:
我 吃完 了 饭。
wǒ chī wán le fàn
私 食べる-終わる LE ご飯
「私は御飯を食べ終わった。」
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ⅳ. 有標型:
那 顿 饭 吃坏 了 我 的 肚子。
nà dùn fàn chī huài le wǒ de dù zǐ
その 量詞 ご飯 食べる-壊れる LE 私 の お腹
「(言わんとする意味は)あの御飯を食べて私はお腹を壊した。」
(望月1990:129)
有標型の(32ⅳ)は石村(2011)では「原因型」と呼ばれる。石村(2011)によれば、こ の型は再帰的意味構造を具える<自動型>が「原因主語の導入」によって、派生されたもの である。「再帰的意味構造」とは「自分で自分をある結果状態にする」(石村2011:166)と いうことで、(33a)では、複合動詞の“喝醉”(飲む-酔っ払う)には張三という1つの項 しかなく、張三が酒を飲むことにより、自分を酔わせた状態にしたので、“喝醉”(飲む-酔 っ払う)は再帰的意味構造を持つ自動型の複合動詞である。(33a)で、V1 の目的語である
“酒”(そのお酒)を原因として、主語の位置に導入すれば、(33b)の<原因型>になる。
(33) a. 张三 喝醉 了。<自動型>
zhāng sān hē zuì le
張三 飲む-酔っ払う LE
「張三は飲んで、酔っ払った。」
b. 那 瓶 酒 喝醉 了 张三。<原因型>
nà píng jiǔ hē zuì le zhāng sān
その 量詞 お酒 飲む-酔っ払う LE 張三
「張三はそのお酒を飲んで酔っ払った。」
(石村2011:5)
(32ⅳ)の例も(34)から派生したものと考えられる。(34)は私が食べて、私のお腹を 壊したという意味である。そこで、“吃”(食べる)の目的語である“那顿饭”を具体的な原 因として(34)に組み込むと、(32ⅳ)の形になる。(33a)(34)のV2の“醉”(酔っ払う)、
“坏”(壊れる)は主語の状態を修飾しているので、本研究でも「有標型/原因型」は「主語 指向型」から派生されるものと考える。
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(34) 我 的 肚子 吃坏 了。
wǒ de dù zǐ chī huài le
私 の 腹 食べる-壊れる LE
「私のお腹は(食べて)壊れた。」
山口(1991)は中国語の結果複合動詞を(35)のようなAタイプ(V2が主語や目的語を 指向するタイプ)と(36)のようなBタイプ(V2がアスペクト辞、また修飾語として働く)
に分類しているが、望月(1990)と同じく、Bタイプを研究対象としては扱わない。
(35) A a. 他 跑累 了。
tā pǎo lèi le
彼 走る-疲れる LE
「彼は走り疲れた。」
b. 张三 推到 了 李四。
zhāng sān tuī dào le lǐ sì 張三 押す 倒れる LE 李四
「張三は李四を押し倒した。」
(36) B a. 他 睡着 了。
tā shuì zháo le 彼 寝る-着く LE
「彼は寝ついた。」
b. 我 看清 了 那 个人。
wǒ kàn qīng le nà gè rén
私 見る-はっきり le その 量詞 人
「私はあの人をはっきり見た。」
(山口1991:115)
山口(1991)は上のAタイプについて、V1とV2がそれぞれ自動詞か他動詞か、複合動 詞全体が自動詞になるか他動詞になるかを基準に、四種類に分類している。(37ⅰ)では、
“冻”(凍る)も“病”(病気になる)も自動詞であり、この二つの動詞を組み合わせた複合
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動詞全体も自動詞である。(37ⅱ)のV1“喝”(飲む)は他動詞にもかかわらず、複合動詞全 体は自動詞である。(37ⅲ)の“哭”(泣く)は自動詞、“湿”(湿った)は形容詞であるのに、
複合動詞では目的語を取る他動詞になる。最後の(37ⅳ)の“削尖”(削る-とがる)は、他 動詞と自動詞から構成され、V1 の目的語がそのまま複合動詞全体の目的語となる。このよ うに、複合動詞全体が自動詞であれば、V2は主語について述べる主語指向型であり、複合動 詞全体が他動詞の場合、V2は目的語の状態を叙述する目的語指向型となるのが普通である。
(37) ⅰ 自+自/形→自
我 冻病 了。
wǒ dòng bìng le
私 凍る-病気になる LE
「私はこごえて病気になった。」
ⅱ 他+自/形→自
他 喝醉 了。
tā hē zu le
彼 飲む-酔っ払う LE
「彼は(お酒を)飲んで酔っ払った。」
ⅲ 自+自/形→他
她 哭湿 了 手帕。
tā kū shī le shǒu pà
彼女 泣く-濡れる LE ハンカチ
「彼女はハンカチを泣き濡らした。」
ⅳ 他+自/形→他
弟弟 削尖 了 铅笔。
dì dì xuē jiān le qiān bǐ 弟 削る-とがる LE 鉛筆
「弟は鉛筆をけずってとがらせた。」
申(2007)は中国語の複合動詞を5種類に分類した後、『汉语动词-结果补语搭配词』か ら結果複合動詞を1866個集め、それぞれの種類の分布状況を調べた。申(2007)の調査結
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果を見ると、目的語志向型に属するものの数が一番多く、次に補文関係であり、主語志向型 の結果複合動詞には322例しかいない。申(2007)はさらにV1及びV2から項を受け継ぐ 情況を基準として、(38)のように中国語の結果複合動詞を細かく分けている。
(38) 結果複合動詞の分類とその生起数 1866例
①目的語志向型 816例 44%
②主語志向型 322例 17%
③前項述語の項が具現化しない場合 73例 4%
④後項述語の項が具現化しない場合 0例 0%
⑤補文関係 655例 35%
(38)の①と②では、複合動詞の項はV1とV2両方から受け継がれるのに対し、③④⑤ では、複合動詞の項はV1かV2から受け継がれる。以下では例を挙げて説明する。
申(2007)はV1の主語と目的語をそれぞれ1と2、V2の主語と目的語をそれぞれ1’と
2’で表す。(39)と(40)は同じ目的語志向型であり、結果複合動詞の主語が V1 の主語、
結果複合動詞の目的語がV2の主語に当たる。ただし、(39)は(37ⅳ)と同様にV1は他動 詞であるが、(40)は(37ⅲ)と同じく、V1は自動詞である。
(39) a. 推开(押す-開く):<1,2>+<1’> → <1,2-1’>(745例40%)
b. 她 推开 了 沉重 的 大 门。
tā tuī kāi le chén zhòng de dà mén
彼女 押す-開く LE 重い の 大きい 扉
「彼女は重い扉を押し開けた。」
(40) a. 哭走(泣く‐行く):<1>+<1’> → <1,1’>(62例3%)
b. 黛玉 哭走 了 很多 客人。
dài yù kū-zǒu le hěn duō kè rén 黛玉 泣く-行く LE 沢山 お客さん
「黛玉は、泣いて、沢山のお客様を帰らせてしまった。」
(申2007:204)
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(41)から(44)までの例文はすべて主語志向型の結果複合動詞である。V1の外項とV2 の内項が同定され、結果複合動詞の主語になっている。また、結果複合動詞はV1の内項あ るいはV2の内項から目的語を選ぶ。
(41) a. 跳烦(踊る+飽きる)及び跌倒(転ぶ+倒れる):
<1>+<1’>→<1-1’>(161例8.6%)
b. 小丑 跳烦 了。
ピエロ 踊る‐飽きる 完了
「ピエロは踊り飽きた。」(Li 1990:189)
(42) a. 吃腻(食べる+飽きる):<1,2>+<1’>→<1-1’,2>(149例7.9%)
b. 凤姐 吃腻 了 好 东西。
鳳姐 食べる-飽きる 完了 良い もの
「鳳姐は美味しいものを食べ飽きた。」(Li 1990:187)
(43) a. 下输(将棋をさす+負ける):
<1,2>+<1’,2’>→<1-1’,2-2’>(16例0.8%)
b. 宝玉 下输 了 棋。
宝玉 (将棋を)さす-負ける 完了 将棋
(44) a. 玩忘(遊ぶ+忘れる)7:<1>+<1’,2’>→<1-1’,2’>(0例0%)
b. 他 玩忘 了 自己 的 职责。
彼 遊ぶ-忘れる 完了 自分 の 職責
「彼は遊びすぎて、自分の職責を忘れてしまった。」
(45)では、V1 が二つの項を取るものの、複合動詞の項として具現化する項は一つだけ である。“写酸”(書く-疲労して痛い)では、“写”(書く)は“我”(私)と“字”(字)と いう2つの項、“酸”は“手”(手)という1つの項をとる。(45b)において、V1の目的語 の“字”(字)は現れず、申(2007)は“写酸”(書く-疲労して痛い)のような結果複合動 詞をV1の項が具現化しない型に分類している。しかしながら、(45b)は実は(45c)から受
7 「非能格自動詞+他動詞」という組み合わせについて、申(2007)は『汉语动词-结果补 语搭配词典』にある1866例から“玩忘”(遊ぶ+忘れる)のようなV2が二項述語を取る例 を見つけられなかったが、Li(1990:188)から(45b)の例を引用している