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株式上場企業の利潤分配の状況

ドキュメント内 博士(経済学)学位論文 (ページ 145-179)

第 4 章 国有企業の利潤分配に関する考察 はじめに

第 2 節 株式上場企業の利潤分配の状況

本節では株主=所有者への利益配当と企業内への内部留保との実情を明らかにする。そ の際、利潤分配先は、①株主=所有者への利益配当、②企業内の内部留保、③経営者への 報酬、となるが、「はじめに」で記したように、③の部分は僅小であり、本節の考察では③ の部分を捨象して利潤分配先は①と②との 2 つだけとし、そのいずれか一方が決まれば他 方も決まるとみなして、以下の分析では「配当」に関するデータを取り上げて分析を進め る(利益-配当=内部留保、とみなす)。つまり、税引後利益に占める配当が増加すれば内 部留保は配当に対して相対的に減少していると判定できる。企業の税引後利益から出資者 または株主への分配は、一般的には現金配当と株式配当とがある。これらのうち、株式配 当は本稿第3章第3節「株主・経営者・従業員の関係、性格についての考察」3‐1「株 主と経営者との関係、性格」3-1-1「利潤分配に関わる株主と経営者との利害一致・

対立」で示した通り株主資本の部門の中で株式配当に対応する金額が利益剰余金から資本 金へ移動するだけであり、株主資本全体の変化は生じなく、株主と経営者との関係を変化 させるものではないので、本節では株主と経営者とを対立させる要因である企業の資金が 減少する現金配当の状況について、中国の上場企業の状況を見てみる。

本節の構成は、上場企業の状況(企業数、株式数など)を概観した後、第1に2000年代 の上場企業の株主への利益配当の分析、第2に上場企業のなかの国有株式会社と実質私営 株式会社との利益配当の比較分析、そして中国の上場企業と日本の上場企業との比較分析 をする。

第1については、中国の証券取引所は上海、深圳の2つの証券取引所であり、上場企業 や株式についての概要は『中国証券期貨統計年鑑』および上海証券取引所について『上海 証券年鑑』により概観する20。そして、それら証券取引所に上場する企業の2000年代後半 の配当性向の動向と、川井(2003、2008)の1990年代の同データとを比較し、中国の経 済が大きく成長し、上場企業が大きく増加した2000年代後半における企業の利益配当の状

19 「実質私営株式会社」については、本稿第3章第2節「所有・支配・経営の関係につい ての考察」2-1「国有株式会社、親会社とその支配株主との関係図」を参照。

20 中国証券監督管理委員会編『中国証券期貨統計年鑑』2004年版、百家出版社、同2005 年版、学林出版社(2005年版以降は学林出版社)、同2008年版、同2009年版、同2012 年版、および、上海証券年鑑編集部編(2007)『上海証券年鑑』2006-2007年版、上海社会 科学院出版社、同2008年版、同2009-2010年版による。

なお上海証券取引所に関するデータは同取引所編集『上海証券交易所統計年鑑』がある が、それには配当性向のデータが明示されていない。また深圳証券取引所に関わる2000年 代後半のデータが入手困難なため、本節では上海・深圳の合計数値および上海についての データを使用する。

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況を探る。第2については、製造業の上場企業の中の国有および実質私営の個別企業を対 象に、2000年代後半から2010年代初までの期間の、それらの企業の年次報告(Annual

Report)より利益配当の実状を観察して比較分析する21

また、分析を進めるにあたって配当性向、配当率などの数値を用いるので、それらの数 値等を次の通り説明しておく22

・<配当性向>・・・(配当額/当期純利益〈税引後利益額〉)(%)、または (1株当た り配当額/1株当たり当期純利益〈1株当たり税引後利益額〉)(%)。

・<配当率(額面配当率)>・・・(1株当たり配当額/1株の額面価格)(%)。なお、発 行済株数×額面価額=資本金であれば(日本では1981年の改正商法施行前であれば)、 配当率(資本金配当率)=(配当総額〈1株当たり配当額×発行済株数〉/資本金)(%)

で、額面配当率=資本金配当率となる。

・<資本金純利益率>・・・(当期純利益〈税引後利益額〉/資本金)(%)。なお、発行 済株数×額面価額=資本金であれば(日本では1981年の改正商法施行前であれば)、資 本金純利益率=(配当率/配当性向)(%)となる。

・<配当性向と配当率の関係>・・・(配当性向と配当率との式から分かるように)配当 率を変化させない場合、1株当たり当期純利益が増加すれば配当性向は低下し、1株当 たり当期純利益が減少すれば配当性向は上昇する。配当金を当期純利益の全てと内部 留保の取崩額との合算とすれば配当性向は100%超になる、また当期純利益がゼロまた はマイナスである期に内部留保の取崩しによって配当金支払いをすれば配当性向はマ イナスになるがその値は無意味である。一方、配当性向を変化させない場合、1株当た り当期純利益が増加すれば1株当たり配当額は増加し配当率も上昇し、1株当たり当期 純利益減少すれば 1 株当たり配当額は減少し配当率も低下する。つまり、通常、利益 は変動するので配当率の変動が小さければ配当性向の変動は大きくなり、配当性向の 変動が小さければ配当率の変動が大きくなる(配当率のバラつきの大きさと配当性向 のバラつきの大きさとは逆方向の関係にある)。

・<配当政策>・・・1株当たり配当を長期にわたって安定させる安定配当政策(安定配 当率政策)を採用すれば、利益の多い期には増配を避けて内部留保を厚くする効果が でる、しかしながら、利益が少ない期には減配を回避するために内部留保の取崩しを 行わねばならなくなる。すなわち、経済成長が大きく利益の拡大傾向が見込まれる時 期に安定配当政策を採用すれば内部留保の増大が見込まれるし、このような時期には 内部留保の増大に見合う企業拡大のための新たな投資需要もある。

21 上場企業の利潤分配に関する国有と実質私営とに分類した纏まった統計データは『中国 証券期貨統計年鑑』および『上海証券年鑑』にも記載が無いため、個別企業を対象にそれ らの企業の年次報告より利益配当の実状を観察して比較分析する。対象企業は本稿第3章 第3節「株主・経営者・従業員の関係、性格についての考察」3-3「中国の経営者と従 業員との収入格差」で対象とした13社。

22 説明は諸井勝之助(1990)「配当政策と内部留保」水越潔編『財務制度の現状と課題』中 央経済社、19-32頁、を参照して筆者が作成。

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2‐1 上場企業の概要

2-1-1 上場企業数

上場企業数の推移は次の図2-1の通り。

図2-1:1990‐2011年、中国・上場企業数の推移

出所:中国証券監督管理委員会編(2012)『中国証券期貨統計年鑑』2012年版、学林出版社、2012年12月、209頁より筆者が作成 0

500 1,000 1,500 2,000 2,500

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

上場企業数

内、上海証 券取引所

内、深圳証 券取引所 1990-2011年、中国・上場企業数

(社)

上場企業数の推移は1995年:323社、翌1996年:530社と500社超となり、その後2000 年まで大きな増加が見られる(各年毎新規上場企業数は、1995年:32社、1996年から2000 年には各年とも100社から200社、2001年:72社、と1996年から2000年はその前後の 年より新規上場社数が多い)(本稿では、この時期を第 1 次増加期と呼ぶ)。その後、上場 企業数の増加スピードは低下し2005年の新規上場企業は4社まで低下した。2006年以後 は再び新規上場社数が増加に転じ2011年の上場企業数は2,342社となる(各年毎新規上場 企業数は、2005 年:4 社、2006年から 2009年には各年とも 100 社前後、2010年:345 社、2011年:279社、と2006年以降は新規上場社数が多い)(本稿では、この時期を第2 次増加期と呼ぶ)。上場企業数は1995年:323社→2000年:1,088社と3.37倍、2000年:

1,088社→2005年:1,381社と1.27倍、2005年:1,381社→2011年:2,342社と1.70倍 に伸びている。なお、証券取引所別上場企業数は、2011 年度末上場企業数総計:2,342 社 の内、上海証券交易所に931社、深圳証券交易所に1,411社が上場されている23

以上より、上場企業数の増加は、第1次増加期が中国共産党第15回全国代表大会(1997 年9月開催)で株式制度の積極的な利用が提起された時期の少し前からWTO加盟(2001 年末)の1年前までの時期であり、2006年以降の第2次増加期は2008年の北京オリンピ ック、2010年の上海万博に向かっている時期である。

2-1-2 発行株式数・種類

上場企業の発行済株式総数の推移は次の図2-2の通り。

23「証券交易所」の和訳は「証券取引所」。

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図2-2:中国・上場企業発行済株式総数の推移

出所:中国証券監督管理委員会編(2012)『中国証券期貨統計年鑑』2012年版、学林出版社、2012年12月、10‐11頁より筆者が作成 0.00

5,000.00 10,000.00 15,000.00 20,000.00 25,000.00 30,000.00 35,000.00 40,000.00

1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

合計(未流通

+流通)

内、未流通株

内、流通株

(億株) 1992-2011年、上場企業発行株式数推移

上場企業発行済株式総数の推移は1996年:1,219.54億株、翌1997年:1,942.67億株と 年間新規発行株式数は723.13億株となり、その後2001年まで大きな増加が見られる(各 年毎新規発行株式数は、1996年:371.12億株、1997年から2000年には各年とも500億 株超、2001年:1,426.30億株、2002年:657.44億株、と1997年から2001年はその前後 の年より新規発行株式数が多い)、この時期は前述の第1次増加期に相当する。その後、発 行済株式総数の増加スピードは低下し各年毎新規発行株式数は1,000億株未満となり2005 年の新規発行株式数は 480.08 億株まで低下した。2006 年以後は再び新規発行株式数が増 加に転じ2011年に発行済株式総数は36,095.52億株となる(各年毎新規発行株式数は、2005 年:480.08億株、2006年:7,296.84億株、2007年以降は各年とも1,000億株から7,000 億株の間で推移し、2006 年以降は新規発行株式数が多い)、この時期は前述の第2 次増加 期に相当する。発行済株式総数は1996年:1,219.54億株→2001年:5,218.01億株と4.28 倍、2001年:5,218.01億株→2005年:7,629.51億株と1.46倍、2005年:7,629.51億株

→2011年:36,095.52億株と4.73倍に伸びている。

発行済株式総数の内訳は、2008年度以降は未流通株が減少し流通株総数が未流通株総数 を上回るようになった。上場企業の発行済株式の種類別の構成は次の表2-1の通り。

表2-1:中国・上場企業の株式の種類の構成比率

1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 未流通株式 69.97% 72.18% 66.98% 64.47% 64.75% 65.44% 65.89% 64.98% 64.28% 65.08% 65.33% 64.72% 63.95% 62.20% 62.37% 54.06%

内、国家保有株 42.11% 49.06% 43.31% 38.74% 35.42% 31.52% 34.25% 36.13% 38.90% 46.03% 47.20% 47.39% 46.78% 45.00% 30.74% 26.85%

内、法人保有株 26.63% 20.66% 22.53% 24.63% 27.18% 30.70% 28.34% 26.58% 23.81% 18.29% 17.32% 16.63% 16.40% 13.39% 5.03% 3.87%

内、内部従業員保有株 1.23% 2.40% 0.98% 0.36% 1.20% 2.04% 2.05% 1.19% 0.64% 0.46% 0.27% 0.17% 0.13% 0.05% 0.02% 0.00%

内、その他の株 0.00% 0.05% 0.16% 0.74% 0.95% 1.18% 1.25% 1.07% 0.92% 0.31% 0.54% 0.53% 0.65% 3.76% 26.58% 23.33%

流通株式 30.75% 27.82% 33.02% 35.53% 35.25% 34.56% 34.11% 34.95% 35.72% 34.75% 34.67% 35.28% 36.05% 38.20% 37.77% 45.98%

(注1)未流通株と流通株との合計は発行株式の100%であるが、出所の当該統計年鑑の数値によると1%未満の範囲で100%からズレが有る。

(注2)未流通株は株式市場に公開されていない株式、流通株は株式市場で取引されている株式。

未流通株式の内訳…国家保有株は国家が保有。法人保有株は発起人法人などが保有し、その中には国有及び国有株式支配企業が保有する 株式も非国有法人が保有する株式も含まれている。

流通株式の内訳…A株:国内通貨建て、B株:外貨建て、H株:海外市場(主に香港株式市場)に上場された中国企業の株式。

その他の株…既存の株主に無償で交付された株式(資本準備金より無償増資:“中国語で転増”、利益剰余金により配当された株式配当:“中国語で送股”)など。

出所:中国証券監督管理委員会編(2008)『中国証券期貨統計年鑑』2008年版、学林出版社、2008年8月、181頁より筆者が作成(2009年版以降は当該データがない)

表2-1の構成比の推移より2005,2006年度から未流通株の中の国家保有株、法人保有株 の構成比減少が見られる。この状況は上記の「図2-2:中国・上場企業発行株式数の推移」

の中の未流通株の増加傾向が止まった時期の直前の時期である。そして、法人保有株の中

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