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川井伸一の利潤分配についての見解の検討

ドキュメント内 博士(経済学)学位論文 (ページ 140-145)

第 4 章 国有企業の利潤分配に関する考察 はじめに

第 1 節 川井伸一の利潤分配についての見解の検討

本稿第3章で検討の対象とした川井(2003)『中国上場企業―内部者支配のガバナンス』

は、中国の上場企業(その大半は国有企業)を対象にその企業統治に関わる「内部者支配」

を論じているが、その中で上場企業の利潤分配(すなわち株主への配当の有無、配当の形 式、配当性向などの状況や経営者の配当政策等)を取り上げて分析している。川井が分析

2 財務省の法人企業統計調査による報告である「法人企業統計年報特集」『財政金融統計月 報』No.628(2004年8月)、No.641(2005年9月)、No.653(2006年9月) より筆者が算出。

なお、役員賞与は、法令改正に伴い2006年度調査(2007年に報告)は金額ゼロとなり、

2007年度調査以降は利益処分から費用の対象に移行した為、純利益に占める役員賞与のデ ータは示されなくなっている。

3 考察の対象について、国有企業(国有及び国有控股企業)の内の狭義の国有企業は非会社 制企業であり本考察の対象にならない、国有控股企業(その内訳は有限責任公司と株式有 限公司)は、その内の株式上場会社についてのみ個々の企業の財務状況・経営状況が公表 されているので、株式上場されている国有株式会社を対象とする。同じ事情より私営企業 については株式上場されている実質私営株式会社を対象とする。国有株式会社、実質私営 株式会社の企業形態、資本所有関係等は本稿第3章を参照されたい。

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対象とした当時の上場企業の株主の大部分(77~79%)は国有部門(政府・国有企業)に よって占められているので4、その上場企業の分析は国有企業を対象とする点に主眼が置か れている。

川井(2003)は分析結果等のデータに基づいて、中国上場会社は、歴史的に草創期また は成長期にあり、会社の長期的な成長と規模拡大を志向し、そのために株主への配当を相 対的に抑制し内部蓄積を優先してきた。このような経営者の分配政策は一般的に、支配的 大株主の強い支持に支えられ、上場会社経営者と大株主は基本的に利害関心と選択行動が 一致していた、特に集団公司などの親会社(その大半は国有企業)が支配的大株主である 場合には、このような上場会社経営者と親会社の関係がより緊密・一体的であった、と述 べている5

川井(2003)の分析結果の概要は次の通りである。上場会社(この上場企業の支配株主 の大部分は政府・国有企業である国有部門によって占められている)の配当形式について 1992 年から1999 年までのデータ6を示して、①無配当の会社が年々増加し、1997 年以降 は過半数の上場会社が無配当を選択している、1998年の無配政策を選択した会社の80%以 上が当期利益をあげている、②現金配当を選択する会社は 1992~1994 年に増加、1995~

1996 年は急減、1997~1999 年は増加または安定と推移、③株式配当を選択する会社は減 少している、と述べている7。また上場会社の中の現金配当を実施した会社の配当性向につ いて同期間(1992年から1999年)のデータ8を示して、現金配当額は0.2元程度/1株(額 面価格=1元)で推移して比較的安定し有配当会社の平均配当性向は1992年度:23.4%→

1998年度:98.0%1999年度:84.0%、と増加傾向を示している(この同期間、1株当たり 収益は減少している9)、と述べている10。さらに無配会社も含めた上場会社全体の平均配当 性向は、1998年度:18.4%、1999年度29.7%である、これは、日本の1980年代の全上場 会社の平均配当性向:28%~37%に比較して低い配当性向である、と述べている11

4 川井(2003)、51-52頁で2000年の上場会社940社および942社についてのデータ(出 典:馬慶泉主編、2001年、中国証券業協会2001年科研課題研究報告『中国証券市場発展 前沿問題研究2001』上冊、中国金融出版社、59頁)に基づいて支配株主の状況を示してい る。

5 川井(2003)、194頁。

6 川井(2003)176頁で示したデータ:「表6-1上場会社の配当形式の動向」は、藍発欽(2001)

『中国上市公司股利政策論』華東師範大学出版社、125-126頁の「表5・2 中国上市公司 各年股利類型一覧表」、魏剛(2001)『中国上市公司股利分配問題研究』東北財形大学出版

社、44,100頁より作成、並びに川井(2003)182頁で示したデータ:「表6-3無配会社の収

益状況」は、『上海証券報』1999年、『中国証券報』2000年より作成されている。

7 川井(2003)、175-177、181-182頁。

8 川井(2003)177頁で示した配当額・配当性向(配当性向=1株当たり現金配当/1株当 たり収益)のデータは、魏剛(2000)「中国上市公司現金分紅比例偏低」『中国証券時報』

2000年12月20日、51頁、より作成された。

9 現金配当額が安定し、収益が減少すれば、株式数に変動が無い限り配当性向は増加する。

10 川井(2003)、177-178頁。

11 川井(2003)、178頁。

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川井(2008)12では、国有株式会社と私営企業の利潤分配の特徴を比較して次のように述 べている。国有株式会社については、川井(2003)での分析結果13にしたがって「国有株式 会社の利潤分配は無配当政策が優先的に採用された。1990 年代はこの傾向が顕著で特に 1997年から1999年にかけては無配企業が50%以上を占めた。1998年の無配企業の80%

以上は利益のある企業」14と述べ、続いて、(国有株式会社の親会社である)支配的株主の 国有企業にとっては、利潤配当による利益還元よりは投資による資産価値の拡大または関 連取引(国有株式会社の関連企業である親会社や同親会社の子会社との取引)による(国 有株式会社からの)利益吸収のほうが大きなメリットがあった、と川井(2003)と同様に 述べている15。一方、私営企業については、1993年、1995年、1997年の調査データ16より

①純利潤から再生産投入へ分配された比率は60%台から70%台、②純利潤から投資者配当 に分配された比率は10%台から30%台であり、投資者配当を抑制し再生産投入比率がかな り高く、資産拡大の志向が強いことを示している、そして、このような傾向は特に近年の 民間の会社においてより一層顕著にみられた、と述べている17

以上のような川井(2003、2008)の主張を引き出した分析に立ち入って見てみると、現 時点に立って見てみると、その分析には幾つかの改善すべき課題がある。例えば、川井

(2008)の私営企業の対象は上場株式会社ではないので、上場されている国有株式会社と 上場されていない私営企業との比較になっているという点である。以下、川井(2003、2008)

が分析に用いたデータを検討し課題を提起する。

―データの対象時期について―

川井(2003、2008)に示されたデータは、いずれも 1990 年代を対象としたデータであ る。しかし、中国経済が大きく発展した2000年代に入ってからは、上場企業数は1999年

度:949社から2011年度:2,342社へ2.5倍に増加し、また上場企業の発行済株式数も1999

年度:3,088.95億株から2011年度:36,095.52億株へ11.7倍に増加している18

このような状況を考慮すると 2000 年代のデータに照らして川井(2003、2008)の分析

12 川井伸一(2008)「中国の会社の歴史的性格:法人の二重性の視点から」『中国経済研究』

第5巻第1号(通巻7号)、中国経済学会、2008年3月。

13 川井(2003)、175-178頁、181-182頁に基づいている。

14 川井(2008)、13頁。

15 川井(2008)、13頁。

16 中華全国工商業聯合会編(2007)『1993‐2006. 中国私営企業大型調査』中華工商業聯 合出版社、24頁、58頁・「表32 1994年私営企業利潤分配結構」、89頁・「表7 被調査 企業利潤分配」より川井が作成(川井は34,58,89頁と記しているが24,58,89頁が正しい)。

中華全国工商業聯合会編(2007)のデータは私営企業に関わる1993、95、97、00、02、

04、06年のサンプル調査報告であり、この報告は、中華全国工商業聯合会・中国民(私)

営経済研究会主編『中国私営経済年鑑』各年版 にも掲載されている。1993、95年調査報 告は、川井が『中国私営経済年鑑』各年版より和訳をし、川井(1998)『中国私営企業と経 営―概説と資料―』愛知大学経営総合科学研究所 に掲載している。

17 川井(2008)、15-16頁。

18 中国証券監督管理委員会編『中国証券期貨統計年鑑』2012年版、学林出版社、2012年 12月、10-11頁より。

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結果が 2000 年代にも適合するか否かの検証をすることは無駄ではなかろう。したがって、

筆者は2000年代の利益配当の分析を後の節で行う。

―データの対象企業について―

前述したとおり、川井(2008)の国有株式会社の利潤分配について、無配当政策が優先 的に採用されたとの記述は、川井(2003)の分析結果に依っているので、川井(2003)176 頁の「表 6-1 上場会社の配当形式の動向」のデータを確認する。また川井(2008)の私営 企業の純利潤分配について、投資者配当を抑制し再生産投入比率がかなり高いことは、資 産拡大の志向が強いことを示しているとの記述は、「中華全国工商業聯合会編(2007)

『1993-2006 中国私営企業大型調査』中華工商業聯合出版社」のデータに依っているので、

当該データを確認する。以上の国有株式会社と私営企業とのデータの対象企業数は、下の 表1-1のA表部分の通りである。 次に以上の川井(2003、2008)のデータに対応する企 業数・企業区分を筆者が『中国統計年鑑』により抽出して下の表1-1のB表に表示し、さ らにB表より私営企業数を算出してC表に表示した。

表1-1:川井(2003、2008)、利潤分配のデータの対象企業数―国有株式会社数および私営

会社数―

C表

川井(2003)、配当形 式のデータ(注1)

川井(2008)、私営会社 の配当性向のデータ

(注3)

国有企業 (b)

集団企業 (c)

股份制企業

(有限責任会 社・株式有限 会社)

(d)

外資企業(含 む港墺台)

(e)

当該企業数の内の 多くは私営企業と推 察される。

1992年 53 1,440 407,989 74,066 321,389

1993 183 449,216 80,586 339,617 2,579 20,055 6,379

1994 304 2,564 465,239 79,731 342,908 4,359 29,101 9,140

1995 357 510,381 87,905 363,840 5,559 44,293 8,784

1996 530 1,171 506,445 86,982 351,987 7,760 43,412 16,304

1997 745 468,506 74,388 319,438 12,522 42,881 19,277

1998 840

1999 947

(注1)

(注2)

(注3)

(注4)

(注5)

(参考)

(注6)

出所:

A表 B表

川井(2003、2008)・利潤分配のデータの 対象企業数(社数)

 『中国統計年鑑』各年版による鉱工業の全国の企業数(社数)

・・・独立採算法人企業の社数(個人経営など、非法人の工業活動 組織は含まない)

 (注6)

独立採算法人の私 営企業数(社数)

・・・左記B表のデー タより筆者が算出 (a)-(b+c+d+e)

対象企 業類型

上場会社

・・・大部分は国有株 式会社(注2)

私営会社

・・・サンプル調査対象 社数

(注4)(注5)

独立採算法 人・

合計 (a)

『中国統計年鑑』における企業区分が1998年より変更されたため、1997年までのデータ使用。

川井(2008)、川井(2003)、中華全国工商業聯合会(2007)、『中国統計年鑑』(93~98年版)より作成、及び藍(2001)、川井(1998)を参 照。

当該データは、川井伸一(2003)『中国上場企業―内部者支配のガバナンス』創土社、176頁、「表6‐1 上場会社の配当形式」による・・・

当該表6‐1の出所は、藍発欽(2001)『中国上市公司股利政策論』華東師範大学出版社、125‐126頁の「表5・2 中国上市公司各年股利 類型一覧表」。

川井(2003)、51-52頁、2000年の上場会社データに基づき支配株主の状況を示し、上場企業の支配株主の大部分(77~79%)は国有部 門(政府・国有企業)によって占められていると記している。

当該データは、川井(2008)、15頁の私営企業の純利潤分配のデータによる・・・当該データの出所は、中華全国工商業聯合会編(2007)

『1993-2006 中国私営企業大型調査』中華工商聯合出版社、24頁、58頁・「表32 1994年私営企業利潤分配結構」、89頁・「表7 被調 査企業利潤分配」。なお、24頁を川井(2008)の脚注には34頁と記載しているが、24頁が正しい。

中華全国工商業聯合会編(2007)のデータは、93年調査の統計時点は92年末(その他の年も同様に前年末時点)であり、川井(2008)で 93年のデータと記述している部分を本表では前年末である92年(その他の年も同様)に表示。

中華全国工商業聯合会編(2007)のデータは私有企業についてのサンプル調査のデータ、

調査対象の私営会社の企業形態別内訳は、単独資本企業(中国名:独資企業)、合名企業(中国名:合伙企業)、有限責任会社(中国名:

有限責任公司)の3種類。

中華全国工商業聯合会編(2007)のデータは私営企業に関わる1993、95、97、00、02、04、06年のサンプル調査報告であり、この報告 は、中華全国工商業聯合会・中国民(私)営経済研究会主編『中国私営経済年鑑』各年版 にも掲載されている。1993、95年調査報告 は、川井が『中国私営経済年鑑』各年版より和訳をし、川井(1998)『中国私営企業と経営―概説と資料―』愛知大学経営総合科学研究所 に掲載している。

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