第 2 章 国有企業の地位の再評価
第1節 国有企業と非国有企業との区分と先行研究の事例
国有企業または国有経済部門の実態を把握するにあたり、その前に統計データにおける 国有企業と非国有企業との区分または国有経済部門と非国有経済部門との区分を明らかに し、この区分に係る先行研究の事例も見てみる。次節では、本考察を行う場合の筆者の区 分を提示する。
1‐1 『中国統計年鑑』における区分
『中国統計年鑑』の鉱工業部門5の企業別分類は、大きくは次の2種により区分されてい る。1つは登記に基づく組織形態の別、すなわち国家統計局・国家工商行政管理局が1998 年に公布した「企業登記類型の区分に関する規程」による企業登記に応じた組織形態の別 による区分である。もう1つは企業の所有の別、すなわち同局が1998年に公布した「統計 上経済構成の区分に関する規程」による国(=中国政府)が資本金を出資、中国内の私=
民間が資本金を出資、外国からの資本金の出資、等という資本金の出資者=所有者の性格 の別による区分である。この区分の概要は表1-16の通りである。
表1-1の左表と右表とを、「国有企業」と「国有控股企業(国有株支配企業)」とに注目し て比較してみる。「国有企業」とは、その企業の資産の100%を国が所有する非会社制(非 公司制)の企業であり、「国有控股企業(国有株支配企業)」とは、その企業をコントロー ルする出資者が国であるという企業である。左表の「国有企業」の鉱工業総生産額は57,013
5『中国統計年鑑』の工業部門という項目の対象産業には石油採掘・石炭採掘などの採掘業 や電力なども含まれている。したがって、この工業部門という項目は日本語の鉱工業部門 に該当すると解釈できる。
6 表1-1の企業名称、指標の日本語表記は、主に『中国経済データハンドブック』2005、
2011年版、日中経済協会、2005、2011年 に準じて記述し、一部は筆者の訳語にて記述 した。適切な日本語表記がない用語については、『中国経済データハンドブック』では中国 語表記をそのまま用いており、表1-1でも同様に中国語表記をそのまま用いた。本稿では表 1-1の日本語表記および中国語表記を併用する。
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表1-1:組織形態別による区分と所有別による区分との比較・2010年鉱工業企業
(企業登記に応じた組織形態の別による区分・2010年鉱工業企業)(所有(出資)の別による区分・2010年鉱工業企業) 企業数鉱工業総 生産額(名 目価格)
(鉱工業 総生産額 の構成 比)
資産総計(資産の 構成比)企業数 鉱工業総 生産額 (名目価 格)
(鉱工業 総生産額 の構成 比)
資産総計(資産の 構成比) 左表・右表の中の〔〕内は『中国統計年鑑』の中国語の表記〔工業総産 値(当年価 格)〕
〔工業総 産値(当 年価格)〕 (社)(100Mil.元)(100Mil. 元)(社)(100Mil. 元)(100Mil. 元) 総計(内資、外資(港澳台を含む)の合計)452,872698,591592,882総計452,872698,591592,882 (内資企業)〔内資企業〕378,827508,67372.81%444,33074.94%(内資企業)378,827508,67372.81%444,33074.94% 国有企業〔国有企業〕8,72657,0138.16%79,88813.47%国有及び国有株支配企業20,253185,86126.61%247,76041.79% 集団企業〔集体企業〕9,16610,3831.49%5,4730.92%〔国有及国有控股企業〕 株式合作企業〔股份合作企業〕4,4813,7890.54%2,6290.44%(国有控股…複数者が所有する企業で、国が支配している企業) 聯営企業〔聯営企業〕7041,2370.18%1,4220.24% 国有聯営企業〔国有聯営企業〕1307230.10%1,0230.17% 集団聯営企業〔集体聯営企業〕2222180.03%1060.02% 国有・集団聯営企業〔国有与集体聯営企業〕1751540.02%1800.03% その他聯営企業〔其他聯営企業〕1771430.02%1130.02% 有限責任公司〔有限責任公司〕70,078156,23222.36%168,13928.36% 国有全額出資公司〔国有独資公司〕1,47927,3053.91%43,4887.34% その他有限責任公司〔其他有限責任公司〕68,599128,92818.46%124,65121.02% 株式有限公司〔股份有限公司〕9,56263,8049.13%68,09911.49% 私営企業〔私営企業〕273,259213,33930.54%116,86819.71%私営企業273,259213,33930.54%116,86819.71% 私営単一人全額出資企業〔私営独資企業〕59,92638,8095.56%15,2752.58% 私営合名企業〔私営合伙企業〕10,4326,2540.90%2,5260.43% 私営有限責任公司〔私営有限責任公司〕192,614154,71522.15%90,44715.26%その他(国有及び国有控股85,315109,47315.67%79,70213.44% 私営株式有限公司〔私営股份有限公司〕10,28713,5611.94%8,6191.45%企業、私営企業を除く内資 その他企業〔其他企業〕2,8512,8760.41%1,8120.31%企業) (外資企業)74,045189,91827.19%148,55225.06%(外資企業)74,045189,91827.19%148,55225.06% (香港・澳門・台湾系企業)〔港、澳、台商投資企業〕34,06965,3589.36%52,4958.85%外資系企業と香港・澳門・台 湾系企業 合弁企業(香港・澳門・台湾)〔合資経営企業(港或澳、台資)〕10,58322,9763.29%20,3693.44% 合作経営企業(香港・澳門・台湾)〔合作経営企業(港或澳、台資)〕1,2231,9770.28%1,6250.27% 香港・澳門・台湾全額投資経営企業〔港、澳、台商独資経営企業〕21,67137,4595.36%27,4514.63% 香港・澳門・台湾投資株式有限公司〔港、澳、台商投資股份有限公司〕5922,9440.42%3,0510.51% (外資系企業)〔外商投資企業〕39,976124,56017.83%96,05716.20% 中外合弁企業〔中外合資経営企業〕15,03656,6528.11%43,2537.30% 中外合作経営企業〔中外合作経営企業〕1,2372,4850.36%2,2040.37% 外資全額投資企業〔外資企業〕23,02760,5968.67%45,1207.61% 外資投資株式有限公司〔外商投資股份有限公司〕6764,8260.69%5,4800.92% (注)工業は採掘業部門も含む…日本の鉱工業部門に同じ。〔工業総産値(当年価格)〕の『中国統計年鑑』における英文表記は、Gross Industrial Output Value(current prices) 出所:『中国統計年鑑』2011年版、及び筆者が追記
〔外商投資与港澳台商投資 企業〕
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表1-2:(参考)組織形態別による区分の各企業の概要
企業の組織形態 〔〕内は『中国統計年鑑』の中国語の表記 支配的所有形態 内資企業〔内資企業〕 非会社制企業〔非公司制企業〕 国有企業〔国有企業〕企業法人登記管理条例に基づき登記、全ての資産が国家所有国有 集団企業〔集体企業〕企業法人登記管理条例に基づき登記、全ての資産が集団所有 株式合作企業〔股份合作企業〕合作制、従業員が共同出資して株式所有(出資比率等により決まる) 聯営企業〔聯営企業〕2者以上の共同での投資・設立された経済組織 国有聯営企業〔国有聯営企業〕国有 集団聯営企業〔集体聯営企業〕集団(公有) 国有・集団聯営企業〔国有与集体聯営企業〕(出資比率等により決まる) その他聯営企業〔其他聯営企業〕(出資比率等により決まる) 会社制企業(*1)〔公司制企業〕 有限責任公司〔有限責任公司〕公司登記管理条例に基づき登記、2者以上50者以下の出資 国有全額出資公司〔国有独資公司〕国が授権した投資機構/部門が出資国有 その他有限責任公司〔其他有限責任公司〕国有独資及び私営以外の有限責任公司(出資比率等により決まる) 株式有限公司〔股份有限公司〕公司登記管理条例に基づき登記、株券の発行を通じて資本調達(出資比率等により決まる) 上場企業は当該形態、通常、独資で股份は無い(株券発行の意味がない) 私営企業暫定条例/合伙企業法/公司法の企業 私営企業〔私営企業〕自然人が投資設立または株式支配 私営単一人全額出資企業〔私営独資企業〕私営企業暫定条例に基づき登記、1名の自然人が投資経営、無限責任私有 私営合名企業〔私営合伙企業〕合伙企業法に基づき登記、2名以上の自然人が投資経営、無限責任私有 私営有限責任公司〔私営有限責任公司〕公司法と私営企業暫定条例に基づき登記、2名以上の自然人が投資、私有 または1名の自然人が出資金を支配する有限責任公司 私営株式有限公司〔私営股份有限公司〕公司法に基づき登記、5名以上の自然人が投資、私有 または1名の自然人が株式を支配する株式会社 外資企業 香港・澳門・台湾系企業〔港、澳、台商投資企業〕香港・澳門・台湾の投資が設立企業の全資本の25%以上 合弁企業(香港・澳門・台湾)〔合資経営企業(港或澳、台資)〕中外合資経営企業法に基づき香港・澳門・台湾の投資者と内地の企業の合弁(出資比率等により決まる) 合作経営企業(香港・澳門・台湾)〔合作経営企業(港或澳、台資)〕中外合作経営企業法に基づき香港・澳門・台湾の投資者と内地の企業の合作(出資比率等により決まる) 香港・澳門・台湾全額投資経営企業〔港、澳、台商独資経営企業〕外資企業法に基づき香港・澳門・台湾の投資者が全額出資外資 香港・澳門・台湾投資株式有限公司〔港、澳、台商投資股份有限公司〕香港・澳門・台湾の投資者の持分が25%以上の株式会社(出資比率等により決まる) 外資系企業〔外商投資企業〕外国の投資が設立企業の全資本の25%以上 中外合弁企業〔中外合資経営企業〕中外合資経営企業法に基づき外国の投資者と内地の企業の合弁(出資比率等により決まる) 中外合作経営企業〔中外合作経営企業〕中外合作経営企業法に基づき外国の投資者と内地の企業の合作(出資比率等により決まる) 外資全額投資企業〔外資企業〕外資企業法に基づき外国の投資者が全額出資外資 外資投資株式有限公司〔外商投資股份有限公司〕外国の投資者の持分が25%以上の株式会社(出資比率等により決まる) (*1)…国有株支配企業〔国有控股企業〕・・・会社制企業の内の企業を支配する出資者が国である企業の呼称(法規に基づく分類・呼称ではない)。 国有株支配企業には、国有資本の支配に応じた以下の2種の呼称がある(法規に基づく分類・呼称ではない)。 ①国有株絶対支配企業〔国有絶対控股企業〕:企業の資本における国家資本(持ち株)の占める比率が50%を上回る企業(政府の過半出資会社)。 ②国有株相対支配企業〔国有相対控股企業〕:企業の資本における国家資本(持ち株)の占める比率が50%を上回らないが、その他の出資者より大きい(筆頭株主)、 または小さくとも出資者間の契約や協議により、国が実際の支配権を持つ企業。 (出所)『中国経済ハンドブック』日中経済協会、2005年、今井健一・渡邉真理子『シリーズ中国経済4 企業の成長と金融制度』名古屋大学出版会、2006年、『中国統計年鑑』2010年版より筆者が作成。
企業の概要
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億元であり、その2010年・鉱工業総生産額の全体に占める比率は8.16%である。右表の「国 有及び国有控股企業」の鉱工業総生産額は185,861億元であり、その2010年・鉱工業総生 産額の全体に占める比率は、26.61%となる。この両者の数値の差異の128,848億元が「国 有控股企業」の鉱工業総生産額である。この 128,848 億元は、企業の組織形態と数値から 見れば、その大半が左表の有限責任公司の一部と股份有限公司(株式有限公司)の一部と に該当している。さらに外資企業のなかにも外資の出資比率よりも国有の出資比率が大き く実質的に国がコントロールする合弁企業が存在するので、そのような企業を加味すれば、
国有経済部門は26.61%を超過する。
したがって国有企業または国有経済部門を、組織形態別による区分の国有企業とするか、
または所有の別による区分の国有及び国有控股企業(国有株支配企業)とするかによって、
国有企業または国有経済部門の大きさには大きな差異が生じる(参考・・・組織形態別に よる区分の各企業の概要は表1-2の通り)。
なお『中国統計年鑑』における区分についての詳細は本節の末尾の 1‐補論「『中国統 計年鑑』の企業の区分」を参照されたい。
1‐2 先行研究の事例
1‐2‐1 呉敬璉の事例
(1)その1:呉(2007)『現代中国の経済改革』7の事例
呉(2007)第 5章「民営経済の発展」にて、「21世紀にかけて、民営経済はすでに中国 の国民経済において最大の割合を占める経済部門となり、中国の経済成長を支える基礎的 勢力となった」と述べ、表1-3を示している8。
この呉のデータに対応する『中国統計年鑑』の固定資産投資についての経済類型に基づ く区分によるデータは表1-49,10の通りである。
表1-3と表1-4とを比較してみれば、表1-3の呉の「国有」「集団」「私有」は、それぞれ 表1-4の「国有経済」「集体経済」「国有経済と集体経済を除くそれ以外の全ての経済類型(企 業形態)を含めたもの」に合致する。また、呉(2007)第5章の「民営経済」は広く非国 有経済一般を指す、と定義しているので11 、この定義に則れば、呉の「民営経済」とは、
表1-3の「私有」と「集団」の合計であり、それは表1-4の「国有経済」以外の全てに合致
7 呉敬璉、青木昌彦監訳、日野正子訳(2007)『現代中国の経済改革』NTT出版。
8 呉敬璉(2007)、180頁。
9 表1-4のデータは『中国統計年鑑』の「固定資産投資」の項の全社会固定資産投資のデー タであり、これは鉱工業部門を含む全産業を対象としたデータである。表1-3の経済類型分 類による区分は、『中国統計年鑑』2006年版まで用いられた区分。2007年版からは登記類 型分類(区分は国有・集体・股份合作・聯営・有限責任公司・股份有限公司・私営・個体・
その他、港澳台商投資・外商投資)に変更される。2006年版までの「股份制経済(Share
Holding Economic Units)(株式制経済)」のほとんどは、2007年版以降の区分では有限責
任公司と股份有限公司(株式有限公司)に分類される。
10 表1-4の「個体経済」は個人経営経済という意味。その対象は経営者個人が出資する従 業員7人以下の自営の企業。
11 呉(2007)、163頁の注記1)。