第5章 企業間関係の形態。低減対象コスト。市場環境。財
第1節 本章の課題
そこで第5章では、第4章で扱った4つの変数(企業間関係の財務面の効果、M&Aまたは 提携の実施・非実施、市場の成長力、低減対象コスト)の相互関係=関係性を、M&Aおよび 提携を実施していない企業も分析対象に加えて、検証を行う。
このような目的に照らして、経済企画庁の「企業行動アンケート調査」(注1)を利用するこ ととした。経済企画庁では、1961年から現在まで「企業行動アンケート調査」と称する大 規模な調査を行ってきた。この調査は、東京、大阪、名古屋の証券取引所第1部及び2部 上場企業のうち金融・保険業を除く企業2,000社あまりを対象とする悉皆調査であり、回 答率も7割程度に達している。このうち1996年の同調査には各種のコスト低減手法の採用 について、97年の調査には企業間関係の態様(M&Aおよび提携を含む)について、99年の 調査には企業間関係の態様、財務体質の現状(損益計算面およびバランスシート面)、市場 環境(市場の成長力)についての設問が含まれていることから、この章の目的に合致した 条件を満たしている。したがって本草では、1996年、97年、99年の「企業行動アンケート 調査」の回答データ(付録4を参照)を用いて、市場環境(成長・成熟・衰退)、企業間関 係の構築(M&A・業務提携)とコスト低減(低減対象:上流・中流・下流コスト)の組合せ
による交互作用が損益面での財務状況にどのような作用をもたらすのかを考察する。
5−1−2 調査の概要と利用する変数
「企業行動アンケート調査」の中から、製造業に属する企業からの回答データを抽出し、
後述の仮鋭の検証を試みる。実際の分析対象とする企業数は1996年、97年、99各年に共 通して回答した513社(牲2)であり(図表5−2)、わが国の製造業全体の傾向を鳥陣的・網 羅的に反映するにはほぼ十分な規模と判断できる。なお、アンケート調査に一般的に付随 する若干の非標本誤差等の問題については否定するものではない。
ただし、企業行動アンケート調査のデータは数値データとカテゴリカルデータから構成
(往1)経済企画庁が、東京・大阪・名古屋の各証券取引所(1部・2部)に上場する金融・保険業を除く企 業(約2,000社)を対象に、1961年以降毎年1月に実施している大規模な調査で、景気や業界需要に関す る企業の見通しを毎年継続的に質問するとともに、その時々の経済情勢に応じた企業の行動を捉えるため
の質問を実施している。なお、省庁再編により、現在は内閣府経済社会総合研究所が実施している。
(往2)本章では、1990年代後期のわが国において、批Aや提携とコスト低減、企業の成長力がいかなる関 係性を有するのかを検証するものであるので1996年、1997年、1999年のデータを用いた。1998年のデー
タを用いなかった理由は、「企業行動アンケート調査」は経済企画庁が毎年実施している調査であるが、そ の時々の経済情勢に応じた質問項目を設定しているため、継続的に質問されている事項と特定の実施年に のみ設定される質問項目が混在している。本章で用いる変数については後者に属するものであり、それら が質問項目となっている調査年は1996年、1997年、1999年となっているからである。
図表5−2「企業行動アンケート調査」の概要 ㈹ 1996年 1997年 1999年
調査対象企業数 1,993 2,047 2,146 回答企業数 1,404 1,377 1,361
製造業 899 859 806
非製造業 505 518 555
回答率 70.4% 67.3% 63.4%
調査時期 1996年1月 1997年1月 1999年1月
分析対象 513件
されるが、企業間関係の態様や低減対象コスト、市場環境といった本章の分析に関連する 項目はすべてカテゴリカルデータである。分析対象が変域を持った数値データであれば第
4草と同様の分析手法を採用できるが、カテゴリカルデータという制約上、この牽での分 析ツ←ルとしては対数線形モデル(注3)を採用する。
対数線形モデルで検証対象とする変数は、企業行動アンケート調査の質問項目である4つ
の項目に対する回答データ(注4)となっている(図表5−3)。
図表5−3 変数と値域
変 数 値 域 内 容
3:良い 「良い」又は「どちらかといえば良いJ
A:財務状況
(1999年調査)
2:どちらともいえない r どちらともいえないJ
1:良くない r 悪い」又は「どちらかといえば悪い」
B:市場環境 3:成長市場 r 成長市場であり,参入企業数が増えている」
2:成熟市場 「成熟市場であり.多数の参入企業により過当競争が行われている」
(1999年調査) 1:衰退市場
「成熟ないし裏退市場であり,参入企業の合弁による寡占化や企業の 撤退が進んでいる」
3:M&A r 鵬A」と「業務提軌を選択,又は「鵬AJ のみを選択
C:企業間関係の態様
2:提携 「業務操携」のみを選択
(1997年調査)
1:なし 「鵬A」も「業務操携」も選択していないもの
3:M&A 「搬A」と「業務捷軌を連択.又はr 批A」のみを選択
C,:企業間関係の態様
2:提携 「巣務提携」のみを選択
(1999年調査)
1:なし 「M&A」も「業務提携」も選択していないもの
3:上流コスト 「研究開発費の抑制」又は「設備投資の抑制」
D:低減対象コスト 「部品・原材料調達コストの削減」又は「製造コストの削減」
(1996年調査)
「物流コストの削減」又は「販売コストの削減」
(注3)対数線形モデルは分割表(度数表)を用いた分析を行う手法で、分散分析と同様、主効果・交互作用 により効果を表現し、各セルにおける発生頻度データに与える説明変数が持つ効果や、複数の説明変数と 応答変数との間の交互作用の効果を明らかにする。対数線形モデルを用いるのは、ここでの分析対象デー タはアンケート調査によるカテゴリーデータであり、それぞれの回答項目をカテゴリーに分類することに ょり業種間の差をなくすことができる。Ar i t aandMcCann(2000)では、企業の立地、規模、企業間関係 の形態の関係性を対数線形モデルにより分析し、企業間の情報交流は地理的近接性と直接的に関係するが、
この関係の程度は一般的な想定よりも地域限定的であると結論づけている(Ar i t aandMcCann(2000),PP・
1398−1402.)。
(注4)本章での分析の目的は、企業間関係の構築、市場環境(市場の成長力)、低減対象コスト、財務状 況の4変数間の関係性を軒数線形モデルにより明らかにすることであり、搬Aや捜携と事後の財務的効果 の因果関係の測定までは予定していない。そのため、本章でいう「財務状況」とは、企業行動アンケート 調査への回答者(経営者)が回答時点で認識していた自社の財務状況とした。
変数Aが示す財務状況は損益計算面(単独ベース)の状況である。この調査では損益計算 面とバランスシート面についてそれぞれ単独・連結ベースの4通りの評価が問われている
(付録5参照)。この節では財務状況を単独ベースの損益計算面から評価した回答を利用す ることにした。その理由は、回答企業の8割以上が「売上高や利益の絶対額を重視」する など収益性を業績判断の基準にしており(経済企画庁(1999),p.21.)、収益向上のための
生産面の措置として各種のコスト低減手法を質問している(経済企画庁(1996),pp.22−23.)
ためである。さらに、M&Aや提携による外部資源の利用の効果を検証するのが本章の目的で あるので、連結ベースよりも単独ベースのデータを用いることにする。企業間関係の構築 はグループ企業の内部で行われるタイプと異なるグループ間で行われるタイプがあるが、
いずれのタイプについても、連結ベースよりも単独ベースのデータに反応する可能性が高
いと判断するためである。
次に、当該企業の主力事業に関する市場環境への回答データ(成長市場、成熟市場、衰 退市場)によって、当該企業の市場の成長力すなわち競争条件を判断する(変数B)。
さらに、企業間関係の態様C及びC とは、回答企業が構築する企業間関係の種類、すな わちM&A、業務提携、あるいは関係構築をしなかったかを示す。なお、変数Cは1997年の 企業行動アンケート調査、変数C は1999年の同調査に基づく。
一方、コスト低減対象D とは、当該企業が価値連鎖上の上流、中流、下流のいずれの部 分に属するコストを低減のターゲットとしたのかを示す。ここでは、質問項目のうち上流
コストには研究開発費と設備投資の抑制、同様に中流コストには部品・原材料調達コスト と製造コスト、下流コストには物流コストと販売コストを分類する。
5−1−3 仮説の設定
本章の冒頭でも述べたとおり、M&Aや提携によるコスト低減は、市場環境や低減対象コス トなどが一定の条件を満たす場合にときに成果につながる可能性がある。この一定の条件
を考察するために、変数A、B、C、C 、Dの相互関係についての仮説検証を行う。そのため、
A、B、C、D及びA、B、C 、Dの各変数から構成される仮説を設定するわけである(注5)。
(往5)ここでは、変数A、臥C、DとA、B、C,、Dの組合せについて、それぞれ別個に関係性を分析する。
なお、第4章の仮説は第3章で得られた知見とは独立したものとして扱う。第3牽では、成長力のある企 業が批Aによって中流コストを低減対象とする場合にコスト低減効果が得られる可能性が高いことが示さ
れた。また、提携よりもM&Aの方が効果的となる傾向があることも観察された。しかし、分析データが異 なることと第4牽のデータの方が大規模である故に、第3章とは異なる結果が観察される可能性がある。