8−1 本研究の成果
この章では、本研究の成果と残された課題について、最後にまとめることにする。
本研究の基本的な成果は、企業間関係の構築による経営改善効果の測定を戦略策定のた めの管理会計の対象として位置づけた上で、この経営改善効果の一部であるコスト低減効 果に関する測定が、M&Aや提携に関する意思決定支援に有益となり得ることを検証した点に
ある。また、この測定を可能とせしめるには、低減対象コストや市場環境、経営効果など を条件変数として用いることが有効であることを示した点や、これらの変数を用いてM&A と提携の差異を示したことが、この研究の特徴である.
図表8−1 外部経営資源導入・環境条件・経営効果・会計利益の関係
(図表1−1の再掲)
→ :直接的な因果関係
−−−−
− ̄ゝ :間接的な因果関係
それらにより、外部経営資源の導入目的に相応しい企業間関係の形態(M&A又は提携)を 示すとともに、コスト低減を図るには成熟市場に属する企業がM&Aによって中流コストを 低減させる場合が好ましいパフォーマンスを得られる可能性が高いこと、研究開発力の強 化や市場拡大を図る場合にはM&Aよりも提携の方が目標達成の可能性が高いことを示した。
また、M&Aという外部経営資源導入の手段により中流コストを低減させるときには損益面 の財務指標の改善効果を測定できる可能性があることを示した。
これらの知見は、コスト低減をM&Aや提携によって図ろうとする場合の意思決定支援の
ために、一般的に適用可能な命題であるといえる。
第1章で述べたように、本研究の問題意識の特徴は、外部経営資源導入・環境条件・経 営効果▲会計利益の関係(図表8−1)への着目する点にある。そして第5章では、低減 対象コスト・パフォーマンス・財務的効果の関係(図表8−2)を分析した。この両者を 比較すると、図表8−2は図表8−1の一部分を構成していることがわかる。つまり、前
者の関係を考察するプロセスを経て、後者の因果関係が導かれたわけである。
図表8−2 低減対象コスト・パフォー マンス・財務的効果の関係
資源投入
低減対象コスト
パフォーマンス
財務的効果 経営効果
会計利益
第4章では、M&Aや提携は複数の目的を前提に行われるが、コスト低減目的は最も重要な 目的(コスト、研究開発、市場拡大)の1つであり、かつ、効果も認識されていることを 明らかにした。また、報道記事や質問紙調査を用いて、当該企業の市場の成長力と、M&Aや 提携による低減対象となるコストの種類(費目)は一定の対応関係にあることを指摘した。
そして、コスト低減目的のM&Aや提携がその目的を達成するには市場環境や低減対象コス トの費目において、一定の条件が必要となることを明らかにした。この条件が満たされて
いる場合には、経営者等をして、M&Aや提携によるコスト低減効果があったと評価せしめる 傾向にあることを質問紙調査の統計解析をもとに実証した。
この解析結果としては、コスト低減効果に反映する市場環境及び低減対象コストの組合 せは、M&Aと提携で差を生じる傾向にあることが特徴である。M&Aの場合、生産コストの低 減といった価値連銭の統合に踏み込んだ外部資源投入がコスト低減効果に結びつく傾向が 観察された。ここでは、成長市場に属する企業では提携よりもM&Aを実施した場合の方が コスト低減効果を得られ易く、研究開発効果と市場拡大効果はM&Aよりも提携から得られ 易い傾向がみられた。なかでもM&Aでは、自社又は相手が成長市場、中流コスト(低減対 象)の組合せの場合などでコスト低減効果が生じる可能性が高い傾向にある。
一方の提携では価値連鎖の統合に踏み込まなくとも、物流コストの低減など迅速・柔軟 な外部資源投入によって低減されやすい費目が低減対象なるときに成果が出やすい傾向が
みられた。つまり、M&Aと提携では、それぞれの価値連鎖の統合力に見合った費目を低減対 象にする場合に、コスト低減効果が得られ易いものと判断できる。
第5章では、M&Aと提携という企業間関係構築形態別に、財務面の状況、低減対象コスト、
市場環境の相互関係を検証した。これは、第4章では、コスト低減効果が営業費用の低減 といった財務的効果に反映しているかどうかの検証は行っていないので、コスト低減効果
が反映する可能性のある財務状況を分析対象とするためである。また、第4牽の分析対象 企業がM&Aまたは提携を実施した企業に限られていたことに対して、M&Aや提携を実施した
企業と実施しなかった企業の比較を行った。こうした第5牽の検証目的に適するものとし て、経済企画庁実施の企業行動アンケート調査という大規模データを用いた。その結果、
M&Aないしは提携を実施した企業では、低減対象コスト・市場環境・財務状況の間に、叫定 の関係性が存在することが判明した。この関係の一つは、主要事業が成熟市場に属し、か
つ、コスト低減対象を中流に設定し、業務提携を選択する場合に財務状況が好ましくなる
可能性が高い、というものである。第2の関係は、主要事業が成熟市場に属し、かつ、コ スト低減対象を中流に設定し、M&Aを選択する場合に財務状況が好ましくなる可敵性が高い というものである。このとき、財務状況の好ましさが観測される市場環境と低減対象コス
トの組合せは、第4章の組合せとは若干異なるものとなった。ただし、価値連鎖の統合に 関する知見は共通している。
以上の第4、5章の結果としては、コスト低減効果、財務状況の好転をM&Aや提携で図 るには、コスト、市場の条件を適切に選択する必要あるという解釈が成立した。むしろ、
こうした条件を満たさない場合には、コスト低減効果ないしは財務的な効果が測定される 可能性は低いものといえる。
第6章では、M&A と提携それぞれに関して、低減対象コスト、企業経営者等による当該 M&Aや提携に関する成否の評価(企業のパフォーマンス)、財務諸表上に表れる会計上の効 果の間の因果関係を分析した。これは、M&Aないしは提携の前後で、利益指標の改善効果が
あったかどうかを検証することを含んでいる。その結果、コスト低減活動における低減対
象コストの選択と財務業績の向上として観測される財務指標とを特定し、両者の因果関係 を明らかにした。ここでは、上・中・下流に分類した低減対象コストと、経営者等の判断
する経営効果の2つの要素から財務的効果を説明できる可能性を示した。これは、企業パ
フォーマンスの変数化と測定しやすい低減対象費目(M&Aや提携による外部資源の投入によ るコスト低減)によって、M&Aや提携を会計的に評価できることを示したものである。
この分析において、コスト低減活動を示す上で適合性の高かった低減対象コストに関し ては、第4、5章と共通するものとしないものがあった。そして、企業パフォーマンスは、
コスト効果、利益効果、経営上の効果から測定され、財務的業績は、利益(損益計算書上 の経済的評価)で測定するときに最も適合性が高かった。また、研究開発活動や市場拡大 活動を構成する手段と経営上の諸効果、財務的効果の間の因果関係を分析した。
その結果、企業間関係の構築によって達成される企業パフォーマンスはM&A と提携では 異なる分野で生じる傾向にあった。M&Aによるコスト低減活動により中流コストを低減させ た場合に企業パフォーマンスや収益性を表す財務業績の改善に促進的に作用することが実 証された。しかし、M&Aを通じた研究開発活動や市場対応活動は経営上の効果に結びつきに
くいことも示された。つまり、提携によってコスト低減を図るよりも、提携によって研究 開発や市場拡大を図る方が経営上の効果には結びつきやすいが、会計的な効果には結びつ きにくい傾向にあった。
つまり、M&A と提携の性格の違いが、M&Aや提携を通じた外部経営資源の導入の結果と しての経営上のパフォーマンスや、財務諸表上の業績への影響への差として観測されたわ けである。したがって、本研究は、M&Aや提携の目的とともに、その目的を達成するための コスト低減や研究開発、市場拡大の各活動の内容に関する意思決定の判断材料を提供する ものとなった。
以上の成果をまとめると、次の内容となる。
①M&Aや提携の主要な目的として、日本企業では、コスト低減、研究開発、市場拡大の3つ が重視されているが、それらの効果が、当事者が知覚できる程度と会計数値に反映され る程度はそれぞれ異なる。3つの目的の中で、コスト低減効果が当事者の認知も会計数 値への反映の程度も高い。
②M&Aと提携で効果に対する差が観測されたが、このことは、M&Aと提携の性格としての価 値連鎖の統合に係る強弱に依存する可能性がある。
③コスト低減効果の認められる変数の組合せとともに、財務的効果の測定される変数の組 合せを明らかにした。各章で用いた変数に則して述べると、低減対象コスト・市場環境・
コスト低減効果(4章)、低減対象コスト・市場環境・財務状況・パートナーシップの形