第2章 企業間関係の構築によるコスト低減 に関する先行研究の考察
第3節 戦略的コスト低減と戦略決定のための管理会計システム
2−3−1 戦略的コスト低減
次に、コストマネジメントを価値連鎖の考え方にしたがって再構築した概念である戦略
的コストマネジメントと、企業間関係の構築との関係を考察する。
競争戦略は、競争の発生する基本的な場所である業界において有利な競争的地位を探す ことであり、コスト・リーダーシップ、差別化、集中の3つの基本戦略をいかにして実行さ せるかが問われる(Por t er (1985),pP.1−3.)
また、戦略的コストマネジメントは、戦略的要素がますます意識され、明確にされ、公 式化された、広い意味でのコスト分析であり、そこでは、コストデータを用いた戦略立案
が行われ、価値連鎖分析、嘩那各的ポジショニング分析、コストドライバー分析の3つの会 計分析手法から成り立っ(Shank andGovi ndar aj an(1993),P.6.)(図表2−7)。
(図表2−7)戦路的コストマネジメントによる視点
このうち価値連鎖分析については、戦略的コスト管理の枠組みの中では効果的にコスト を管理するためには企業を超えた広い視野を持つ必要があること、企業にとっての価値連
鎖とは、基本的原材料や素材から最終消費者が手にする製品までの間で行われる価値の創 造し付加価値)関係全体だと述べている。
そLて、コストマネジメントを戦略的レベルで捉える場合、総合的な価値連鎖の重要性
を考慮しないと、コスト管理の機会(収益の機会)を逃してしまうことから価値連鎖分析 が不可欠であるとともに、戦略のタイプに応じたコストマネジメントが必要である(Shank
and Govi ndar aj an(1993),PP,15−18.)。つまり、企業間関係の構築によるコスト低減を考 察するには、低減の対象とされるコストの種類と当該コストの価値連鎖上の位置について
も立ち入った検討が求められる。
一方、これらの競争に係る戦略とは別に、組織どうしの相互作用の中には、単なる競争
や調整ではない新たな価値の創造を指向するものが含まれており、それを組織間関係の「共 進化」と捉える場合もある(西口(1998),PP.129−130.)。そこに、コストマネジメントや 研究開発といった領域が含まれるとすれば、企業間関係の構築を軸とした新たな戦略の展
開の余地もある。そして、「共進化の戦略」を採用する場合でも、「競争の戦略」の場合と 同様、企業間関係の構築・コスト低減・財務上のパフォーマンスの相互関係が成立する可
能性がある。
戦略的ポジショ ニング分析は、企業が選択する競争の性格すなわち差別化と低コスト化 の2つの基本戦略の違いに伴って異なるものとなる(Shank and Govi ndar aj an(1993),
Pp・13−17.)。戦略的ポジショニングとコスト管理との関係については、誰でも買える一般 的商品でコストリーダーシップ戦略をとる企業では、目標コストに焦点を当てることが管 理として非常に重要であるが、需要が活発で、急速に成長し、変化の早いビジネスにおい
ては製品差別化戦略をとっている企業では、注意深く製造コストを管理することはさほど 重要ではないし、異なる戦略の下では異なるコスト管理が必要になる。
その一方、コストドライバー分析については、所与の環境でのコスト発生要素間の複雑
な相互関係を理解することである(Shank and Govi ndar aj an(1993),pP.1ト19.)。
こうした戦略的コストマネジメントの視点は、コスト低減は価値連鎖の設計を通じて考 えられる必要性を主張しており、コストマネジメントにおける低減対象コストの選択に関
する視点を提供するものとして評価できる(図表2−2)。つまり、コスト低減のための戦
略的レベルでの意思決定の中心的プロセスは戦略的コスト低減であるが、それは、コスト
情報を用いて価値連鎖を評価するものとして位置づけられる。
コスト優位にしろ差別化によるにせよ競争優位が実現される場合には、業界平均以上の収
益をあげることができる(Por t er (1985),P.11.)。そして、この競争優位によって得られ た収益は、最終的には財務諸表上の業績となって把握される。
山方、競争優位を追求するアプローチは、低コスト化による競争優位の確立、差別化に
よる競争優位の確立の2通りに大別され、それを実現するための3つの基本戦略として、
コストリーダーシップ、差別化、集中(コスト集中と差別化集中)があげられている(Por t er
(1985),PP.1卜12.)。コスト優位の源泉には、規模の経済性の追求、独自技術によるもの、
他社より有利な原材料確保など多様であり、業界の構造によって異なるとされている。た だし、低コストと差別化は択一的な関係にあるものではなく、コスト低減を用いて競争力
を獲得する戦略をとる場合でも、製品が他社よりも優れていないと評価されれば競争優位 の確保は困難となる。
差別化戦略をとる場合も、他社よりもコスト地位が著しく劣るのであれば、差別化によ ってもたらされるプレミアムの幅が減少することにもなる。また、効率的な工程管理や、
技術革新などによって差別化を追求しながらコスト低減に成功することもある(Por t er
(1985),pP,12−17.)。しかも、Das and Teng(2001)の指摘するように、計画と予算によ る提携の管理がパフォーマンスを好ましいものにするに影響する(Das and Teng
(2001),pP.275−276.)。
つまり、競争優位の礫得のためには、低コスト戦略であれ差別化戦略であれ、コスト低 減の対象分野や目的は別にしても、コストマネジメントへの視点を欠かすことはできない
ことが、ここに示されている。
2−3−2 戦略決定のための管理会計システム
最後に、管理会計の視点から舶Aや提携をとらえた研究を考察する。
企業間関係の構築は、価値連鎖の構造を決める戦略決定の問題の一つである。門田(2001)
によれば、戦略決定を管理会計の立場からとらえるとき、戦略策定のための情報システム
は、①外部環境調査システム、②経営分析システム、③戦略的事業計画システムの3つの サブシステムから構成され、このうちの②、③が管理会計の情報サブシステムとなる(門 田(2001),P.6.)。そして、③戦略的事業計画システムは企業が生きのび、発展していく ためには、現在手掛けている諸々の事業のうち、撤退すべきものと伸長させるべきものを 峻別し、さらには成長分野への進出の決定がトップ・マネジメントにとってもっとも重要 な戦略的決定となり、このような会社の方向を決める問題(撤退、多角化、集中化、新市 場開拓、新製品開発など)へのシステマチックなアプローチが戦略的事業計画であるとさ れる(門田 ほ001),p.6」乱)。
(図表2−8)管理会計との関係
戦略策定のための情報システム
さらに、①外部環境調査システムによって市場環境における好機と脅威を峻別し、好機を
認識する。②経営分析システムによって自社の強みと弱みを識別しコア・コンビタンスを 誰識する、③戦略的事業計画で自社の内部的なコア・コンビタンスを外部の好機に当ては
めて、自社が進むべき事業領域が決定される(門田(2001),Pp.6−8.)(図表2−8)。
また、コスト引き下げも企業内での原価低減精勤のみでは競争優位を確保できなくなり、
価値連鎖のなか での企業の戦略策定が要請されてきたのと同時に、M&Aが一般的な現象にな りつつある結果、企業の管理会計担当者が経営戦略策定のための情報提供に関与する必要
性が高まってきた(櫻井(2000),P.69.)。
一方、大多数の銀行は事業統合の結果、かなりの資源投入を低減させることができ、そ
の結果、相当のコスト低減を達成することができるという日本の最近の銀行合併に関する
実証研究もある(Dr ake and Hal l (2003),P.905.)。これは、製造業の例ではないが、M&A の効果をコスト低減を通じて論じるものである。しかしGul at i (1998)によれば、研究に
伴う困難な障害があるため、企業間関係のパフォーマンスの研究分野は他に比べて余り注
目されていない。この障害とは、提携スのパフオ}マンスに関する測定の問題であり、詳
細な測定に必要な十分なデータ収集が難しいといったロジスティックな問題である
(Gul at i (1998),PP.306−309.)。
以上のように、企業間関係の構築やそれによるコスト低減は、戦略策定のための管理会 計が研究領域とする範囲に位置づけることができる。しかし、これまで掲げた先行研究で
は搬Aと:提携がそれぞれ別個に扱われている。M&Aと提携を同時に扱いながら、コスト低減 効果などの効果を検証した研究は見当たらない状況となっている。批Aの効果、あるいは提
携の効果に関する研究についても、新技術の共同開発や技術的分業といったを目的とする
提携はM&Aに発展しない(Hagedoor n and Sadws ki (1999),Pp.10卜103)、とされるが、
Hagedoor n and Sadws ki (1999)のようにM&A合併と提携を同時に扱うものほ例外的な存在 である。そのした状況のなかで、企業間関係の構築に影響を及ぼす諸要因に関する先行研 究の蓄積はあまり進んでいない(清水(1999),p.78.)、(黒川・平本(1995),P.80.)。
一方、Koch(1980)や星野(1990)、池田・土井(1980)、Si r ower (1997)のようにM&Aと業 績の関係を扱った実証研究では、業績に対する効果を否定的に捉えるものが大勢を占めて
いる。これに対して、清水(1999)のように、合併が企業業績の向上につながるという結論 を株式上場期間という限定的な範囲の中で導き出したものもあるが、それはむしろ少数派
である。
先行研究の大勢が、企業間関係の構築と業績の関係を否定的に捉えている背景には、M&A にしろ提携にせよ、実施したからといって必ずしも業績が改善されるとは限らないことを
反映していると判断できる。
しかし、星野(1990)などの企業間関係の構築が業績にプラスの効果を及ぼさないとする 研究と、滑水(1999)の実証研究のように企業間関係の効果を測定する際にいくつかの条件
を設定した上で分析を行った研究を対比すると、後者のような実証手法を採用した場合に は、M&Aや提携の効果を測定できる可能性が浮かび上がる。
また、M&Aとコスト低減の関係については、それを戦略論的な見地に立って論じるまでに 発展させた研究は少ない。清水(1999)や黒川・平本(1995)では戦略性への言及もみら れるが、それらは研究開発との関連で語られており、コスト低減との関係で語られている
ものではない。
ここに、M&Aの実施の有無と財務データとの直接的な関係性を検証するのではなく、そこ にM&Aを実施した企業特性やM&Aの目的などを表す変数(一定の条件)を加えた上で、コ スト低減との関係を分析する意義を見出すことが出来る。