3. 形容詞と、形容詞が項に取る事象の関係
3.3 本章のまとめ
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(115) a. *Jochen schmückte langsam den Weihnachtsbaum.
Jochen-NOM decorated-3SG slowly the-ACC Christmas tree-ACC
*ヨッヘンは遅く[=時間をかけて]クリスマスツリーを飾り付けた。
b. Jochen schmückte den Weihnachtsbaum langsam.
Jochen-NOM decorated-3SG the-ACC Christmas tree-ACC slowly ヨッヘンはクリスマスツリーを遅く[=遅い速度で]飾り付けた。
さらにMaienborn (2003: 93) は、schnellが事象を外から規定しうるということが、述 語的用法における起動相の再解釈につながるとしている。(116) と (117) は形容詞を除 くと「ハイディが町の中にいた」という状態を表す述語文であるため、形容詞が動作の 様態を表していると解釈すると非文である。しかしschnell を用いた (116) では、その 状態に至るまでの時間が短いと、起動相的に再解釈されうるのである。
(116) #Heidi war schnell in der Stadt.
Heidi-NOM was-3SG fast in the-DAT city-DAT ハイディは速く町の中にいた。→すぐに町に着いた。
(117) *Heidi war langsam in der Stadt.
Heidi-NOM was-3SG slowly in the-DAT city-DAT
*ハイディは遅く町の中にいた。→*時間をかけて町に着いた。
このように、Maienborn (2003), Schäfer (2013) からは、同じ形容詞でも事象を有界的 に捉えるか、無界的に捉えるかが異なりうること、その意味解釈の違いは形容詞の統語 的な環境の違いにも反映されること、さらに、schnell/langsamのような対義語でも、形 容詞と事象の意味関係が異なりうることが主張されている。
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また、3.1.4では、形容詞と名詞が表すモノの関係について、名詞の「有界性」を基準 とした可算/質量の区別が、形容詞が付加語的ないし述語的にモノ名詞を伴う際の語の 選択の制限や意味の解釈に関係することが確認された。しかし、名詞と並行して「有界 性」の基準が適用されうる動詞の達成・到達/状態・活動という相の区別が、同様に形 容詞と事象名詞が共起する際の語の選択の制限や意味の解釈に関係しうるか否かに関 しては、あまり論じられていない。52
3.1.5では、時間軸に沿って展開がある出来事である「達成・到達・活動」と時間軸に
沿った展開がない「状態」の区別が確認された。さらに、状態の中にも、時間軸をそも そも認識しない「属性」があり、状態と出来事を同じ事象としてひとまとめに扱うこと に関しては先行研究でも異論がある。このことから、本稿での分析の際には、事象を有 界的(達成・到達)か無界的か(状態・活動)という点だけでなく、無界的であっても、
状態か活動かという点には注意を払うべきであることを確認した。
さらに、3.2.1では副詞的に用いられる英語形容詞に関する先行研究として、Davidson
(1967, 1969) を取り上げた。Davidson的な事象の捉え方を導入することで、副詞的な形
容詞を、述語的・付加語的な形容詞と同じように、事象を叙述する述語として扱うこ とができることを確認した。また、副詞的な形容詞は、述語的・付加語的な形容詞と 同様に、事象に一律に関わる訳ではないことが確認された。統語的には事象を項に取 っていても、意味的には事象の性質を表していると思われる形容詞もあれば、動作主 の性質を表していると思われる形容詞もある。
3.2.2では、ドイツ語でも、副詞的に事象の性質を表す形容詞もあれば、動作主の性質
を表す形容詞もあることが確認された。この違いは、形容詞の統語的な出現環境の違い にも反映される。さらに、意味的に事象の性質を表す形容詞でも、事象を有界的に捉え るか、無界的に捉えるかが異なることがあり、それが統語的な語順の違いに反映される ことを確認した。
ドイツ語形容詞には付加語的・述語的・副詞的の3用法があるが、Schäfer (2013) の ように形容詞の副詞的用法に焦点を当てた先行研究は、あまり多くない。さらに、同じ 形容詞が副詞的に用いられる場合と、付加語的あるいは述語的形容詞に用いられる場合 の形容詞の働きについて、その意味的な機能がどのように共通あるいは相違するのかと いったことに関しては、Maienborn (2003) などを除いてあまり論じられていない。
そこで本稿では、事象を項に取る形容詞に注目し、付加語的、述語的、副詞的用法と
52 なお、形容詞が述語的に用いられる際、形容詞は一般的に述語動詞seinとともに状態(一 時的な状態や恒常的な属性)を表すと考えられている。しかしDölling (1999: 113-114) は
„Die Fahrt war schnell.“(その走行は速かった。) のような事象名詞を主語に取る形容詞の
述語文について、形容詞schnell(速い)は状態ではなく、die Fahrt(走行)が表す出来事 や過程を叙述するとしている。このことからも、事象を項に取る形容詞が述語文で一律に 状態を表すということはなく、事象名詞が表す事象構造が文全体の意味の解釈に関わる ことが予想される。
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いう統語的用法全体を通して、形容詞がどのように事象や、その事象の参与者(特に動 作主)と意味的に関係するかを調査する。
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