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意味的な出現環境 1(どのような個体と共起するか)

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 107-113)

4. 事例調査と分析

4.5 調査結果 3: 形容詞 III (vorsichtig, leichtsinnig)

4.5.2 意味的な出現環境 1(どのような個体と共起するか)

ここでは、形容詞が述語的、副詞的に用いられる際に、どのような個体名詞と共起し ているのかを確認する。

まず、vorsichtigが述語的用法で用いられる82例すべてにおいて、(258) のich(私は)

のようにモノが述語対象語であり、事象を述語対象語とする例は見られない。86 また、

86 ただし、別途DWDSのKernkorpusの事例を100例集めた際には、以下のような事象を表 示する語句を述語対象語とする事例が 1 例見られたため、このような構文が不可能とは

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これらはほぼすべて、人や動物、そして (259) のdie Banken(銀行)のような人が属す る機関である。このような人、物、機関は、意志があり、何らかの事象に主体として参 与しうるという点で共通している。82 例中 1 例のみ、(260) の der Bericht über die Untersuchung(調査に関する報告書)という、主体性がないモノの例が見られた。ただ し、ここでのモノの背後には、意志を持つ人が主体的に参与する事象があることが予想 される。(260) の述語対象語である「報告書」の背後には「人が報告書を書く」という 事象があることが想定される。報告書そのものが慎重なのではなく、その作成者が慎重 に報告しているから、その結果としてできた報告書もまた慎重であるという解釈になる のだと思われる。

(258) Was bleibt, ist die Angst von Frauen, überhaupt auf die Straße zu gehen. Drei Wochen zögerte Sharma. „Ich war immer vorsichtig und werde es auch in Zukunft sein“, sagt sie. (die tageszeitung, 09.01.2013) <vorsichtig, 述語対象語がモノ(主体)>

(残っているのは、女性たちの、特に通りに出ていくことの不安である。3週間シャ ルマは躊躇した。「私は常に慎重だったし、今後もそうだろう」と彼女は言う。)

(259) Allerdings seien die Banken vorsichtiger geworden und verlangten nun mehr Sicherheiten als früher einmal. (Die Presse, 26.04.2003) <vorsichtig, 述語対象語がモノ

(主体)>

(もっとも銀行はより慎重になり、以前よりも多くの担保を要求した。)

(260) Der Bericht über die Untersuchung ist vorsichtig, macht mit seinen Informationen allerdings bewusst, dass Alternativen bestehen. (Neue Zürcher Zeitung, 20.02.2014) <

vorsichtig, 述語対象語がモノ(主体以外)>

(調査に関する報告書は慎重である、ただ、その情報により別の可能性があることを 理解させる。)

上で確認したように、vorsichtigが述語的に用いられる際の述語対象語は、ほぼすべて が人のような主体性のあるモノである。これらのモノは、何らかの事象に主体として参 与しうるが、具体的にどのような事象に参与していると考えられるか、文脈や述語対象 語が表示するモノの種類そのものからは必ずしも判断できない。例えば (259) では、述 語対象語の「銀行」が参与する事象は「融資」であることが文脈から推測できる。一方、

(258) の述語対象語「私」には「通りに出ていく」以外にも「買い物をする」「誰かと話

いえない。

(i) Dann schob er sich […] zur Dachrinne. Viel vorsichtiger und zögernder waren seine Bewegungen geworden, als wäre der Schlafwandler erwacht. (Schulze, Ingo: Simple Storys, Berlin: Berlin-Verl.

1998)

(それから彼は[…]軒樋へ移動した。まるで夢遊病者が目覚めたかのように、彼の動 きははるかに慎重でためらいがちになった。)

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をする」など、様々な行為をする可能性があり、そのうちのどれか、あるいはそのすべ てにおいて慎重だったのかもしれない。

4.5.1 で確認したように、vorsichtigが述語的に用いられる際、主語のほかにもう一つ

の文成分を伴う事例がある。これらの事例では、主語が表示するモノが主体として参与 する事象が推測しやすい。例えば、(261) ではdas Essenが表示する「食事」という事象 において、主語が表示する人が慎重であることを表しているのだと推測できる。なお、

vorsichtigが述語的に用いられる82例中、主語以外の文成分を伴う事例は26例であり、

そのうち23例の文成分で表示されるのは (261) のdas Essen(食事)のような事象であ

る。3例のみ、(262) のOpiate(アヘン剤)のようなモノの例が見られた。この場合も、

モノの背後に、それが主体以外として参与する事象が容易に推測される。例えば (262) では、医者がアヘン剤を「使用する」ことに関して慎重なのだと思われる。

(261) Auch beim Essen sollte man vorsichtig sein und […] (=(254)) <vorsichtig, 述語対象 語がモノ(主体)、もう一つの文成分が事象>

(食事の際にも人は慎重であるのが望ましく[…])

(262) Doch viele Ärzte sind […] viel zu vorsichtig mit Opiaten. (Rhein-Zeitung, 14.07.2005)

<vorsichtig, 述語対象語がモノ(主体)、もう一つの文成分がモノ(主体以外)>

(しかし多くの医者は[…]あまりにもアヘン剤に関して慎重すぎる。)

次に、vorsichtigが付加語的に用いられる例は68例あり、そのうち8例では、被修飾 語が (263) のTiere(動物)のような主体性のある人や動物、人が所属する機関である。

なお、被修飾語が (264) のFahrer(運転手)のような動詞の派生語(動詞語幹+-er/-or)

である事例もあり、この場合、当該の人が主体的に行う事象が明示されているといえる。

一方で、このように事象が明示されていないと、モノの背後にある事象は必ずしも容易 には推測されない。例えば (263) の Tiere(動物)は「人を回避する」という事象での み慎重であるというよりは、あらゆる事象において慎重であり、だからこそ人間を回避 すると考えられる。また、68例中8例では、被修飾語は (265) のWorte(言葉)のよう な主体性のないモノである。これらは、人が行う事象に主体以外として参与するのであ ることが、文脈から推測される。例えば (265) では言葉そのものが慎重なのではなく、

市長が慎重に言葉を選んだため、その選ばれた言葉もまた慎重だといえるのではないか。

最後に、vorsichtigが付加語的に用いられる際、最も多い被修飾語は (266) のBedenken

(懸念)のような事象を表す語句で、このような事例は52例ある。

(263) „Wölfe sind vorsichtige Tiere, die Menschen aus dem Weg gehen“, erklärt Höfken.

(=(248)) <vorsichtig, 被修飾語がモノ(主体)>

(「狼は慎重な動物で、人間を回避する」とホフケンは説明する。)

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(264) Wer schnell fährt […] ist schlechter rangiert als der vorsichtige Fahrer mit einer längeren Zeit, aber ohne Fehler. (St. Galler Tagblatt, 02.10.2001) <vorsichtig, 被修飾語がモノ(主 体)>

(速く運転する者は[…]より長い時間をかけるが失敗をしない慎重な運転手よりも 悪く位置付けられている。)

(265) Deshalb wählte der Rathauschef vorsichtige Worte, als […] (Nordkurier, 22.01.2015)

<vorsichtig, 被修飾語がモノ(主体以外)>

(そのため市長は[…]の際に、慎重な言葉を選んだ。)

(266) Auch das Umweltministerium kündigte vorsichtige Bedenken an. (Berliner Morgenpost, 31.10.1998) <vorsichtig, 被修飾語が事象>

(環境省もまた慎重な懸念を知らせた。)

一方、leichtsinnigが述語的に用いられる事例は87例である。その中の59例では (267)

のMenschen(人間)のようなモノが述語対象語であり、これらはすべて、意志を持ち、

何らかの事象に主体として参与しうる人や動物、人が属する機関である。さらに vorsichtigとは異なり、leichtsinnigには (268) のBushs Politik(ブッシュの政治)や (269)

のsie als Familienhunde zu vermitteln(それらを飼い犬として仲介する(こと))のように

事象を表示する語句が述語対象語となる例も24例見られた。また、(270) のetwas(何 か)のように、述語対象語が具体的に何を指示しているのかが明確でなく、モノと事象 のどちらにも分類できない例も4例あった。

(267) Menschen sind so leichtsinnig. (=(250)) <leichtsinnig, 述語対象語がモノ(主体)

(人間はとても軽率である。)

(268) Die Senatoren Daschle und Byrd bezeichneten Bushs Politik als leichtsinnig. (Neue Zürcher Zeitung, 23.08.2001) <leichtsinnig, 述語対象語が事象(名詞句)>

(上院議員のダシュルとバードはブッシュの政治を軽率だと言った。)

(269) Sie [=die Tiere] hier als Familienhunde zu vermitteln, sei leichtsinnig und könne nicht funktionieren. (=(251)) <leichtsinnig, 述語対象語が事象(zu不定詞句)>

(それら[=動物たち]をここで飼い犬として仲介するのは軽率で機能しえないとい う。)

(270) „Sie [=die Chihuahuahündin] hat plötzlich unglaublich viel Energie, die irgendwie raus muss – egal, wie leichtsinnig, gefährlich oder verboten etwas ist.“ (Rhein-Zeitung, 26.10.2013) <leichtsinnig, 述語対象語の分類ができない>

(「それ[=チワワ]は突然、どうにかして外へ出さなければならない、信じられな いほどたくさんの活力を得た。 ― どれほど何かが軽率で、危険で、禁じられてい

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上で確認したように、leichtsinnigが述語的に用いられる際の述語対象語がモノであれ ば、それは必ず「人」のように主体性を持つ。これらのモノは、何らかの事象に主体と して参与しうるが、具体的にどのような事象に参与していると考えられるか、文脈や述 語対象語が表示するモノの種類そのものからは必ずしも判断できない。例えば (267) の述語対象語 Menschen(人間)には様々な行為をする可能性があり、人間がどのよう な事象の際に軽率であるのかは判断できない。しかし、同じ述語的用法でも、leichtsinnig が特定の事象に関して軽率であると、文脈や述語対象語が表示するモノの種類から推測 できる場合もある。例えば (271) のKraftfahrer(自動車運転手)は動詞の派生語(動詞 語幹+-er/-or)で、leichtsinnigは運転手が「運転」に際して軽率であることを指している のだと推測できる。さらに、4.5.1 で確認されたように、leichtsinnig が述語的に用いら れる際、主語のほかにもう一つの文成分を伴う事例がある。これらの事例でも、主語が 表示するモノが主体として参与する事象を推測しやすい。例えば、(272) では、家主が 不動産賃貸の際の「決定」「契約」などの事象に関して軽率であるのだろうと、参与す る事象が推測できる。なお、leichtsinnig が述語的に用いられる87例中、主語以外の文 成分を伴う事例は6例であり、そのすべてで (272) のdie Vermietung ihrer Immobilien(彼 らの不動産の売買)のような事象を表す語句が用いられている。

(271) Kraftfahrer sollten heute nicht leichtsinnig werden. (Nordkurier, 12.08.2011) (自動車運転手は今日軽率になるべきではない。)

(272) Viele Hausbesitzer seien bei der Vermietung ihrer Immobilien höchst leichtsinnig.

(=(256)) <leichtsinnig, 述語的、主語以外にも文成分を伴う(bei+名詞句)>

(多くの家主は、自分たちの不動産の賃貸の際にきわめて軽率である。)

最後に、leichtsinnigが付加語的に用いられる例は107例あり、そのうち52例では被 修飾語が (273) のMannのような主体性のあるモノである。なお、被修飾語が (274) の Fahrer(運転手)のような動詞の派生語(動詞語幹+-er/-or)である事例もあり、この場 合、当該の人が主体的に行う事象が明示されているといえる。一方で、このように事象 が明示されていない (273) のMannなどでは、そのモノの背後にある事象は必ずしも容 易には推測されない。また、107例中2例では、被修飾語は (275) のSpruch(標語)の ような主体性のないモノである。これらは、人が行う事象に主体以外として参与するの であることが、文脈から推測される。例えば (275) では標語そのものが軽率なのではな く、その標語を彼が軽率に「使用する」「選ぶ」ことから、その事象に客体として参与

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する標語もまた軽率だといえるのではないか。87 最後に、leichtsinnigが付加語的に用い られる際、53例では被修飾語が (276) のUmgang mit Öfen(ストーブの扱い)のような 事象を表す語句であった。

(273) Mohammed Raschid ist kein leichtsinniger Mann. (=(252)) <leichtsinnig, 被修飾語 がモノ(主体)>

(ムハンマド・ラシドは軽率な男ではない。)

(274) Das Motorrad ist gefährlich, gefährlich für leichtsinnige Fahrer wegen der ungeheuren Kraft. (Braunschweiger Zeitung, 01.10.2005) <leichtsinnig, 被修飾語がモノ(主体)>

(オートバイは危険、とてつもない力のために軽率な運転手にとって危険である。) (275) Sein leichtsinniger Spruch, […] soll nun mit werblicher Gewalt ins Positive gekehrt

werden. (Der Spiegel, 14.09.1998) <leichtsinnig, 被修飾語がモノ(主体以外)>

(彼の軽率な標語は[…]今や宣伝の力により肯定的なものに転じたとのことである。) (276) Falsches Heizen und ein leichtsinniger Umgang mit Öfen führen […] zu schweren

Bränden. (Rhein-Zeitung, 03.02.2007) <leichtsinnig, 被修飾語が事象>

(間違った暖房と軽率なストーブの扱いは[…]重大な火災につながる。)

このように、形容詞III のvorsichtig とleichtsinnigはどちらも、述語的に用いられる 際の述語対象語や、付加語的に用いられる際の被修飾語にモノや事象を表示する語句を 取る事例が認められた。この際のモノは基本的に意志を持ち、何らかの事象に主体とし て参与できる。ただし、そのモノが参与する具体的な事象は、文脈から推測できる場合 もあれば、できない場合もある。

また、これらの形容詞が主語以外の文成分を伴う場合、その文成分では主語が表示す るモノが主体として参与する事象が表示されることが多い。この場合、形容詞はその事 象に関して主語のモノの性質を表していると考えられやすいが、(272) のように、その 事象から連想される、他の事象に関連して、モノの性質を表していると思われる場合も ある。いずれにせよ、vorsichtigやleichtsinnig はこの場合、あくまでも何かをする際の 主語の「人」の性質を表していると考えられ、事象そのものが慎重だったり、軽率だっ たりするとは考え難い。

一方で、vorsichtigとleichtsinnigには異なる点もある。vorsichtigが述語的用法で用い られる際の述語対象語はモノを表す語句に限られるのに対し、leichtsinnigの場合はモノ だけでなく事象を表す語句も述語対象語として現れうる。88 このことは、4.5.1(形容詞

87 なお、(275) は政治に関する記事であり、「彼」は当時の連邦首相であるヘルムート・コ ールを、「標語」は „Blühende Landschaften wählen!“(花咲く風景を選ぶ!)を指す。「花 咲く風景」とは、コールによる東西ドイツ再統一後の新しいドイツのイメージである。

88 なお、脚注86 の述語形容詞文における述語対象語seine Bewegungen(彼の動き)は事象

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 107-113)