4. 事例調査と分析
4.3 調査結果 2: 形容詞 II (leicht, schwer)
4.3.2 意味的な出現環境 1(どのような個体と共起するか)
ここでは、形容詞が述語的、副詞的に用いられる際に、どのような個体名詞と共起し ているのかを確認する。
まず、leichtが述語的用法で用いられる43例のうち、(173) のZeiten(時代)のよう なモノが述語対象語である例は1例のみ、大半の40例は (174) のSkifahren(スキーす る(こと))や (175) のMelody Gardot zu verstehen(メロディ・ガルドーを理解するこ と)のような事象を述語対象語とする例であった。また、(176) のalles(すべて)のよ うに、述語対象語が具体的に何を指し示しているのかが明確でなく、モノと事象のどち らにも分類できない例も2例あった。70 なお、(173) のZeiten(時代)は時間の流れを 内部に持つことからモノとは異なるように思える。しかし、事象は時間の内部に存在し、
時間そのものではないので、事象に分類するのも適切とは言い難い。ここでは、「時代 が簡単である」というのは、「誰かが時代を「切り抜ける」のが簡単である」などと捉 え、「時代」は何らかの事象に客体として参与しているモノと考えた。「時代」がどのよ うな事象に客体として参与しているかは、あくまで文脈やモノそのものの意味から推測
70 ここで分類不可としている述語対象語は、(176) のallesと、(i) のように後続する補文の ないesの2例である。
(i) „Am Anfang war es nicht sehr leicht, aber jetzt kennen wir alle unsere Stärken und Schwächen.“ (Mannheimer Morgen, 28.05.2003)
(最初、それはそれほど簡単ではなかったが、しかし今、私たちは自らのすべての得意と 不得意を知っている。)
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されるのであり、文中で明示されてはいない。そのため、「時代」がどのような事象に どのような役割で参与するのかは確定できない。ただし、「時代」は主体性のある人や 移動の推進力を持つ物ではないことから、これが何らかの事象に主体的に関わるとは考 え難い。
(173) Ich würde sagen, Zeiten sind nicht per se schwierig oder leicht. (Rhein-Zeitung,
06.11.2014) <leicht, 述語対象語がモノ(主体以外)>
(私が言いたいのは、時代とはそれ自体が難しかったり簡単だったりするのではない ということだ。)
(174) Der hat immer behauptet, Skifahren sei leichter als zu Fuss gehen. (=(164)) <leicht, 述語対象語が事象(名詞句)>
(その男はいつも、スキーするのは徒歩で行くよりも簡単だと主張した。)
(175) Leicht ist es nicht, Melody Gardot zu verstehen. (=(165)) <leicht, 述語対象語が事 象(zu不定詞句)>
(メロディ・ガルドーを理解するのは簡単ではない。)
(176) Alles sah so leicht aus, bist du je am Limit gefahren? (Neue Kronen-Zeitung,
16.06.1996) <leicht, 述語的、述語対象語の分類ができない>
(すべてはとても簡単であるように見えた、君は極限の状態で運転したことがあるの かい?)
次に、leichtが付加語的に用いられる41例では、26例が (177) のAufgabe(課題)の
ようなモノ、15例が (178) のLauftraining(ランニング練習)のような事象である。な お、モノのほとんどは何らかの事象に主体以外として参与するものである。例えば、
(177) では課題は客体であり、誰かがそれを「解決する」のが簡単ではないことを表し
ていると考えられる。leichtの被修飾語はある程度語彙が限られているようで、(177) の
ようなAufgabeが8例見られるほか、Spiel(試合)が7例、Beute(獲物)が3例と、
複数の事例に現れる単語がある。なお、これらが客体として参与する事象は、「課題」
を「解決する」、「試合」に「勝つ」、「獲物」を「手に入れる」などではないかと思われ る。さらに、被修飾語のモノが事象に主体や客体として参与するのではないと思われる 事例として、„mit leichter Hand(容易に)“ のHand(手)が挙げられる。
(177) Den Richtern und Geschworenen fällt keine leichte Aufgabe zu. (Niederösterreichische Nachrichten, 19.05.2008) <leicht, 被修飾語がモノ(主体以外)>
(裁判官たちと陪審員たちに簡単な課題は与えられない。)
(178) Der Mittelfeldregisseur steigt diese Woche mit leichtem Lauftraining wieder ein.
(=(166)) <leicht, 被修飾語が事象>
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(そのミッドフィールドの司令塔は今週、簡単なランニング練習に再び参加する。)
一方、schwerが述語的用法で用いられる70例のうち、(179) のdie Aufgabe(課題)
のようなモノが述語対象語である例は 4 例のみ、大半の 66 例は (180) の die Auswahl
(選択)や (181) のzu erklären … (…を説明する(こと))のような事象を述語対象語 とする例であった。述語対象語がモノである場合、それは (179) のdie Aufgabeのよう に、何らかの事象に主体以外として参与すると考えられる。(179) であれば、課題は客 体であり、それを誰かが例えば「解決する」のが難しいということを示しているのだと 考えられる。このような事象は、文中で明示されてはいないため、述語対象語のモノが どのような事象にどのような役割で参与するのかは確定できない。ただし、述語対象語 のモノに主体性のある人や移動の推進力を持つ物が見られないことから、これらが何ら かの事象に主体として参与しているとは考え難い。
(179) „Die Aufgabe ist schwer, aber schön“, ist er sicher. (Nordkurier, 02.09.2008) <schwer, 述語対象語がモノ(主体以外)>
(「この課題は難しいが、素晴らしい」と彼は確信している。)
(180) „Die Auswahl war schwer, weil es bei uns so viele schöne Sachen gibt.“ (=(168)) <
schwer, 述語対象語が事象(名詞句)>
(「私たちにはたくさんの素晴らしいものがあったので、その選択は難しかった。」) (181) Es ist so schwer, zu erklären, was hier passiert ist. (=(169)) <schwer, 述語対象語が
事象(zu不定冠詞)>
(ここで何が起こったのかを説明するのはとても難しい。)
次に、schwerが付加語的に用いられる43例のうち、34例が (182) のPrüfung(試練)
のようなモノ、9例が (183) のEntscheidung(決定)のような事象である。被修飾語と してのモノはどれも何らかの事象に主体以外として参与すると考えられる。例えば
(182) では試練は客体であり、誰かがそれに「耐える」のが難しいことを表していると
考えられる。leichtと同様に、schwerの被修飾語もある程度語彙が限られているようで、
Prüfungのような「課題」に類する語が8例見られるほか、Zeitenなど「時」に類する語
句も 15 例と、多くの事例で似たような語句が見られた。(173) の事例で確認したよう に、「時」を表す語句は何らかの事象に客体として参与しているものと考え、Prüfungな どと同じくモノとして分類している。
(182) Der Weltbürger aus Argentinien hat sich diese schwere Prüfung selbst auferlegt.
(=(170)) <schwer, 被修飾語がモノ(主体以外)>
(そのアルゼンチン出身の世界市民は、この難しい試練を自らに課した。)
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(183) Für mich als Tierarzt ist das eine schwere Entscheidung. (St. Galler Tagblatt, 08.07.1998) <schwer, 被修飾語が事象>
(獣医としての私にとってこれは難しい決定だ。)
以上の結果は表6 のようにまとめられる。II の形容詞leicht, schwerはともに、述語 的に用いられる際の述語対象語や、付加語的に用いられる際の被修飾語にモノや事象を 表示する語句を取る事例が認められた。この際のモノは基本的に客体として、そうでな くとも主体以外として何らかの事象に参与していると考えられる。ただし、その語彙は ある程度限られているようである。なお、これらの形容詞が共起するモノは述語的用法 には表れにくいように思われるが、事例数が少ないので明言は出来ない。
leicht schwer
述語的 モノ(主体) 41 0 70 0
モノ(主体以外) 1 4
事象 40 66
付加語的 モノ(主体) 41 0 43 0 モノ(主体以外) 26 34
事象 15 9
表 6 形容詞IIが共起する個体の種類71