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本研究の限界と今後の研究課題

第9章 教育プログラムの開発

第Ⅲ節 本研究の限界と今後の研究課題

本研究は、病院看護部で、看護部長の直属専従スタッフの位置づけでいる専任教育担当 者の能力開発に資する教育プログラムを開発した。「看護スタッフ能力開発」の実践を科学 的に展開できる能力を開発して、看護部組織の人材を戦略的に強化するための課題解決に 貢献できる人材像の育成を目指した。

本研究では、人材開発論における「教育プログラム開発」の手法に依拠して、教育プロ グラム開発の研究を行った。まず、目指す人材像を具体的に描くために、米国の「看護ス タッフ能力開発」の文献を中心にして、役割と能力の視点から概念整理した。これを基盤 にして、わが国の人材育成の実績をもつ病院看護部トップマネジメントに携わる看護管理 者に、「期待する役割と能力」についてインタビューした。また、現職の専任教育担当者に

「目標とする役割と現状」についてインタビューした。これらのデータ分析から「求めら れる行動」を抽出し、分析統合して 46 行動を作成した。これをアセスメント枠組みの質問 項目にして、調査対象を全国レベルに拡大し、教育ニーズ調査を実施し、この結果からニ ーズアセスメントを行い、教育プログラムを開発した。

本研究の限界は、一つには、インタビュー調査と教育ニーズ調査の結果は、限られた対 象者から得られたデータであるため、ニーズアセスメントの枠組みの完成度には限界があ る。また、インタビューによるデータ収集に関しては、研究者の知識と経験の範囲で参加 者と対話を膨らましながら聞き取っていったために、データの幅と深さには限界がある。

さらに、ニーズアセスメント枠組み作成時には、できるだけ項目数が膨らむのを抑えつつ、

言語表現を簡潔にして、用語の解釈が多様にならないように、留意しながら作成した。し かし、教育ニーズ調査の求められる行動に対する 4 段階評価は、日ごろの実践を振り返っ て「どの程度できているか」の視点で、自己評価あるいは上司評価として回答を得たので、

回答者の主観的な解釈に影響を受けていることは否めない。

本研究は、「看護スタッフ能力開発」の実践と研究の発展に向けた出発点としての研究で

任教育担当者の必要性を全国の病院看護部に発信することである。そして、開発した教育 プログラムを実際に実施して、その効果を評価することである。まずレベルⅠの教育プロ グラムを実施すると共に、レベルⅠ修了の専任教育担当者の実践のデータを蓄積していく ことである。それによって、求められる行動 46 項目を洗練させて、評価指標を作成するこ とができる。それに基づいて、より確実に不足能力が把握でき、教育プログラムが改善で きる。また実践事例の蓄積は教材開発にもつながる。そしてレベルⅡプログラムは中期的 展望で取り組むために、経過を追いながらプログラム評価のアウトカムを検討していく必 要がある。このような研究と実践を進めていく過程で、この分野のネットワークを形成し、

「看護スタッフ能力開発」の実践と専任教育担当者の専門性を社会に認知させていくこと が大きな課題である。

第 11 章 結論

本研究の目的は、病院看護部専任教育担当者の能力開発に資する教育プログラムを開発 することである。病院の看護を取り巻く環境が目まぐるしく変化する中で、看護部長直属 専従スタッフとして、「看護スタッフ能力開発」の実践を科学的に展開でき、看護部組織の 人材開発の課題解決に貢献できる専任教育担当者の育成を意図した「教育プログラム」を 開発した。以下のように、段階的に研究を進めてプログラム開発に至った。

1.米国の「看護スタッフ能力開発」の教育担当者の役割や実践を基盤に置いて、専任教 育担当者に期待する「役割と能力」を概念整理した。これに、人材育成に先駆的に取り 組んでいる病院看護部トップマネジメントに携わる看護管理者 6 名のインタビュー分析 結果と、現職の専任教育担当者 9 名のインタビュー分析結果を統合して、教育ニーズの アセスメント枠組みを作成した。結果、46 項目の「求められる行動」となり、12 の能力 サブカテゴリー、4 つの役割カテゴリーに区分された。4 つの役割カテゴリーは、<能力 開発システムを管理するリーダー役割>、<教育プログラム企画運営の責任者の役割>、

<個人、集団、組織の変化を推進する役割>、<エビデンスに基づく実践を推進する役 割>である。

2.46 の「求められる行動」に対する 4 段階評価を問う質問項目にして、看護部長と教育 担当者を対象に、教育ニーズの質問紙による実態調査を行い、その結果に基づいてニー ズアセスメントを行った。

結果、46 項目に対する 4 段階評価は、教育担当者よりも看護部長の方が高く評価して いた。このことから、教育プログラムの実施に先立って、全国の看護部トップマネジメ ントが、「看護スタッフ能力開発」の実践と専任教育担当者の専門性に関する知識を得る 必要性が浮かび上がった。

46 項目の中でも<エビデンスに基づく実践を推進する役割>に属する行動の評価が 低い傾向にあった。評価が低い上位 3 項目は、「アウトカム指標を開発した評価研究」「エ ビデンスに基づく研究の推進」「能力開発活動に研究成果の活用」で、科学的思考で活動 を展開することが難しい現状が浮き彫りになった。

<教育責任者の役割>の中で、研修の企画運営に関する多くの項目の評価が高い傾向 にあったが、教育プログラムの現場への効果を評価する項目の評価が低く、教育研修が 現場ニーズや現場での成果と繋がっていない現状が推測された。

<変化を推進する役割>に関しては、変革が必要なものを見極めて、ビジョンを描き、

プロジェクトを導きチーム構築を促すリーダーシップの発揮は難しいことが示された。

認識していたが、キャリア支援やストレスマネジメント支援など専門性を活かした支援 はできていないと認識する傾向が明らかとなった。

<リーダー役割>では、資源の調整や会議での意見交換などの日常のマネジメント活 動はできているという認識傾向であったが、能力開発活動をモニタリングしながら評価 改善することや、能力評価を要する人事業務支援の評価が低い認識傾向にあった。

3.ニーズアセスメントの結論を出して、開発する教育プログラムを方向づけた。

本研究では、看護スタッフ能力開発を次のように定義した。『看護組織の理念・目的と人 材開発方針に基づいて、看護スタッフの個人、集団、組織の能力を開発するための「ニー ズアセスメント-計画開発-実施-評価改善」の系統的アプローチに基づく実践であり、

人事考課や人材活用と関連づけながら、スタッフの看護専門職としてのパフォーマンスの 強化を目指すものである』。ニーズアセスメントの結論としては、この「看護スタッフ能力 開発」の実践のプロセスの全容を理解することが優先的な教育ニーズであった。実践の全 容を視覚的に把握できる『「看護スタッフ能力開発」循環サイクルフロー』を図式化して、

専任教育担当者の実践と能力開発の指針とした。この実践過程の全容の難易度をニーズア セスメントの結果から識別して、「レベルⅠ」と「レベルⅡ」のコースを設定して、段階的 に学べる教育プログラムを開発した。

4.中期的展望の基に、以下のレベル別の学習目的を設定した教育プログラムを開発した。

<レベルⅠ> (1 年間コース)

看護部の人材開発システム全体を踏まえて、組織ニーズと現場ニーズに合った教育プ ログラムを企画評価するための科学的アプローチ方法を学び、年間教育計画における「短 期的教育プログラム開発」を展開する。この実践経験によって、教育プログラム企画運 営の責任者の役割や、現場と個人の変化を推進する役割が果たせることを目指す。

<レベルⅡ>(5 年間コース)

看護部の人材開発システム全体と人事戦略を踏まえて、能力開発ビジョンと能力開発 の中長期目標を設定して教育プログラムを開発する方法を学ぶ。この過程で、変革マネ ジメントを学びプロジェクトマネジメントを展開する。また、能力評価指標と評価方法 を開発し、クオリティ・マネジメント計画を立てる。この実践経験によって、能力開発 システムを管理するリーダー役割と、組織変革を推進する役割が果たせることを目指す。

5.開発した教育プログラムを実施し評価することを今後の課題とし、特に、レベルⅠコ ース修了者の成果を追跡して、その実践を蓄積していくことを課題とした。そしてレベル

Ⅱコースへの移行後は、経過を追いながら支援を継続して、「看護スタッフ能力開発」の実 践と専任教育担当者の専門性を社会に認知させていくことを究極の課題とした。