第4章 文献から「役割と能力」の概念整理
第Ⅱ節 分析結果
分析結果を表 1(p160)に示した。最終的に次の 4 つの役割に分類された。<看護スタ ッフ能力開発を管理するリーダー役割>、<教育プログラム企画運営の教育責任者の役割
>、<現場の個人と集団の学習を支援するコンサルタント役割>、<エビデンスに基づく 実践を推進する研究者の役割>である。以下に、役割ごとに分析結果を述べる。重要なキ ーワードや説明部分を「 」で示している。
1.看護スタッフ能力開発を管理するリーダー役割
米国看護師協会(ANA,2000)は、リーダー役割の定義を次のように述べている。組織目 標の達成に向けて、「組織を管理するしくみと構造を提供しそれを維持すること」である。
な交渉術」が含まれる。教育担当者は、「教育活動を組織のミッション、ビジョン、目標か ら確実におろして、教育プログラム全ての効果を評価」する。そして、「組織のあらゆるレ ベルに効果的にコミュニケーションをとり問題解決スキルを使う」ことが、リーダーシッ プを発揮している特徴である。教育担当者は、倫理的原則に沿って実践し、周囲にとって モデルとなる行動をとり、外部組織でもリーダーシップを発揮する。このように、リーダ ー役割は、組織目標と教育活動の間の調和を図るための管理的な職務遂行を通して果たす 役割である。
さらに、チェンジエージェント役割の説明の中には、教育担当者は「組織、コミュニテ ィ、州、国、国際レベルで、変化の媒介者として務める」とあった。また、「委員会、タス クフォース、プロジェクトなど、様々な活動でリーダーシップ」をとり、「施策や基準や手 順など、何が変革されるべきかを見出す」。そしてそれを採用して、「現実への適用を促進 するのを助ける」。このように、チェンジエージェント役割には、強力なリーダーシップが 要求されていたので、ここのリーダー役割に統合することにした。
また、教育者の役割の中でも記録管理など管理的要素が強い説明があった。「学習者の学 習経験やキャリア計画の記録であるポートフォリオ」を作るためには、専門職の認可、継 続教育、リーダーシップ活動、実践の自己の振り返りのナラティヴ、が含まれ、専門職と しての学習経験を記録として残す必要がある。
以上の役割に関わる「求められる行動」の説明内容に実践の方法論を加えて統合すると、
①<看護スタッフ能力開発の全体システムを構築する能力>、②<看護部全体の教育ニー ズを把握して全体課題を設定する能力>、③<看護スタッフ能力開発の全体を把握し調整 する能力>、<組織内外の会議に参加して変革を推進する能力>となった。
1)<看護スタッフ能力開発の全体システムを構築する能力>
まず、能力開発のしくみと構造を構築する能力である。具体的に構築するべきしくみは、
「理念・ビジョン・目標・ミッション」「組織体制」、「記録保管」、「職務遂行能力の評価」
であった(Cooper,& Bulmer,2002:Kelly,1997)。また全体システムは人事戦略や人事考 課と連携できるようなシステムにする必要がある(日本能率協会,2007)ので、以下の 4 点 の行動に表現した。
・組織の方針を受けて、教育理念、教育目的・目標、ミッションを提案する。
・教育目標を達成するための組織機構と連携システムを提案する。
・全ての能力開発活動を記録保管するしくみを作る。
・人事と連携できる看護スタッフの職務遂行能力を評価するしくみを作る。
2)<看護部全体の教育ニーズを把握して全体課題を設定する能力>
次に、看護部全体の教育ニーズを把握して課題を設定する能力である。看護スタッフの
ポートフォリオをはじめとした「記録からの情報」、「現場での情報」、「組織外の情報」な ど、多様な情報収集をすることが必要である。これらの情報アセスメントによって看護部 全体の能力開発の具体的な課題や目標を設定する(福澤,2009:日本能率協会,2007:Cooper,
& Bulmer,2002)。以下の 4 点の行動表現にした。
・個々のスタッフのポートフォリオを保管し、組織の人材の特徴を把握する。
・行政の報告書、最新トピックス、顧客ニーズなどの情報を収集する。
・看護現場に出向いて観察やスタッフとのコミュニケーションから情報収集する。
・ニーズアセスメントで目標と現実のギャップを診断し、能力開発の重点課題と長期目 標を設定する。
3)<看護スタッフ能力開発の全体を統制する能力>
構築したしくみと設定した課題を念頭において、日々の管理的な活動を通して、全体を 把握しながら活動を調整し評価するといった「統制する能力」である。そのためには、活 動内容を記録保管し、そのデータをもとに評価する。人的資源と財源の調整のために、予 算計画とコミュニケーションと問題解決のスキルを発揮する。そして、全ての活動上の意 思決定と行動は,労働や教育に関連する法律や倫理的原則に基づ くものである (福 澤,2009:日本能率協会,2007:Cooper,& Bulmer,2002)。以下の 5 つの行動表現にした。
・全ての活動を記録保管するしくみをつくり評価データにする。
・教育プログラムに見合った直接経費と間接経費に関する年間教育計画を立てる。
・活動過程で、人的資源と財源を調整し効果的な説明・説得・交渉を行う。
・活動過程で、効果的にコミュニケーションし問題解決スキルを使って対処する。
・労働や教育に関する法律を遵守し倫理的原則に基づいて活動する。
4)<組織内外の会議に参加して変革を推進する能力>
これは組織の変革を推進する能力である。会議やプロジェクトチームにおけるリーダー シップを発揮するための行動で(Cooper,& Bulmer,2002)、「必要な変化の見極め」「プロ ジェクトを導く」ための様相を以下の 4 つの行動に整理した。
・能力開発の施策・基準・手順などに必要な変化を見極め、変革ビジョンを描く。
・変革のビジョンを実現するためにプロジェクトを導く。
・会議では、簡潔明瞭に説明し、建設的に意見交換する。
・委員会やプロジェクトで、計画立案や問題解決の資源となる。
2.教育プログラムを企画運営する教育責任者の役割
米国看護師協会(ANA,2000)は、教育者の役割の中で、教育プログラムの開発計画-実
習にふさわしい雰囲気を作り「成人学習のプロセスを促進」する。そして、学習者を「学 習ニーズアセスメント」のプロセスや「教育評価活動」に参画させる。「学習者と組織のニ ーズに合わせて、教育を計画し実践」する。そして、「教育の成果や効果を評価」し、学習 ニーズに合った活動になるよう「評価改善」の努力をする。このプロセスの中で、教育担 当者は、「直接的、間接的に学習者の能力を強化」する。適切な「視聴覚機材、相互作用的 教育方略、質の高い技術、その他の資源を活用」して、「学習者のクリティカルシンキング と問題解決」を引き出す。このためには、教育担当者は、教授と学習、カリキュラムデザ イン、評価方法や評価研究、これらに関する強力な理論的知識が必要である。そして、学 習者の目標達成を通して、「能力開発の成果を可視化して説明」することが期待される。
以上の説明のキーワードをもとにして、企画、実施、評価に分類して、①<教育プログ ラムを企画する能力>、②<集合研修を実施運営する能力>、③<教育研修を評価する能 力>の3つの能力に分類した。
1)<教育プログラムを企画する能力>
リーダー役割のところで、能力開発の重点課題と目標を設定したので、そのあと、年間 教育計画におろしていく工程を行動で表現した。人材層別に期待される目標を明確にして、
期待と現実の差異を把握し、目標-内容方法-評価の教育プログラムの設計をして、教材 の準備をする(日本能率協会,2007)。このプロセスを以下の 6 つの行動に表した。
・人材層別に期待する到達目標を明確にする。
・多様な資源と方法で情報収集して学習ニーズを把握する。
・期待能力と現実のギャップを把握してニーズアセスメントする。
・成人学習の原理を教育過程の全てに入れる。
・指導デザインの原理を活用して、到達目標と内容・方法と評価方法を設計する。
・視聴覚教材やディスカッションなど質の高い教育技術を活用する。
2)<集合研修を実施運営する能力>
次は、計画した集合研修を実施する際に必要な能力である。教育担当者は、直接講師に なる場合もあるが、それよりもスタッフやグループの支援をして全体の調整をすることが 多いので(日本能率協会,2007:Kelly,1998)、以下の 4 つの行動に整理した。
・クリティカルシンキングや問題解決を引き出す学習経験をつくる。
・ファシリテーターとなってグループのチーム構築を支援する。
・看護スタッフを講師に活用する場合、助言指導する。
・企画運営スタッフや外部講師との調整交渉を遂行する。
3)<教育研修を評価する能力>