第6章 専任教育担当者が認識する学習ニーズ
第Ⅲ節 専任教育担当者が目標とする役割と現状
専任教育担当者が認識している「目標とする行動と現状」を分析した結果を表 4(p163)
に示した。専任教育担当者の現在の状態には、「悩んでいる状態」、「取り組み始めている状 態」、「ほぼうまくいっている状態」と様々であった。この現状を要約したものを表の右側 に『 』で並べた。これらの内容が意味する〈求められる行動〉は、「~ができる」という 表現で、左側の能力のサブカテゴリーの中に並べた。カテゴリーは、<能力開発システム を管理調整するリーダー役割>、<教育プログラムを企画運営する教育責任者の役割>、
<個人および部署の能力開発を支援・促進する役割>の 3 つとなった。以下に、それぞれ の役割ごとに分析結果を述べる。【 】はサブカテゴリーの能力、〈 〉は行動、『 』は 現状の要約、「 」は逐語録データを示す。
1.能力開発システムを管理するリーダー役割
<能力開発システムを管理するリーダー役割>を果たすためには、【能力開発の全体枠組
みを構築する能力】、【能力評価システムを開発し機能させる能力】【能力開発活動を統制す る能力】の 3 つの能力が必要であった。
1)能力開発の全体枠組みを構築する能力
【能力開発の全体枠組みを構築する能力】には、〈能力開発および教育の理念・ビジョンが 成文化できる〉、〈能力開発の人事戦略的目標が提案できる〉、〈能力開発の将来課題や施策 が提案できる〉の行動目標が含まれた。
ほとんどの専任教育担当者が、既に構築された看護部の教育理念やビジョンに基づいて 能力開発活動に取り組んでいたが、9 名のうち 1 名のG看護師長は、看護部の教育の全体 システムの再構築という課題に取り組んでいた。G看護師長の病院は、看護部に新たに専 任教育担当を配置するようになり、就任して 5 か月で、『看護部全体の教育体制を考えてい るが、目指す看護師像がみえない』という状況を次のように述べていた。
「総務と兼務している副部長とは違う仕事で、新人だけではなく看護職員全体の OJT も含めた新 しい教育体制を作って、全体の流れを把握するという役割です。以前から集合教育は比較的しっ かり行っていたのですが、教育委員に何人も師長が入って分割された感じがあって、全体を見る 人が必要じゃないかということで。・・・(中略)・・今年は、私は立ち上がったところからのス タートなので、今は、看護部で方針や企画を考えて諸会議に提案しているところです。・・(中 略)・・教育が最終的には患者さまの看護にどう還元するかですから、やはり、ニーズをどう捉 えるかってところがまだ自分に見えてきていない部分です。もう少し現場の声を聞いて、こうい う状況だから、病院ではこういう看護師を育てていかなければいけないとか、だからこういう教 育がもっと必要であるとか、そういう情報を吸い上げていく必要があるのかなと思うんです。」
(G)
新たな教育体制を構築しているG看護師長は、システムを作っていくためには、まず、
病院がどのような看護を提供するのか、そのためにどのような看護師を育成するのかとい った〈能力開発および教育の理念やビジョンを成文化〉する必要があると認識していた。
そして、そのニーズ把握のために情報収集が必要だと気づいていた。
一方、9 名の参加者のうち 1 名の副看護部長は、新病院を作る準備段階から『能力開発シ ステム作りのリーダーとなってシステム構築した』経緯があり、新病院開設と同時に専任 教育担当者に就任して 4 年目を迎えていた。
「実践力に強い自律した看護師を目指す、主体的に学習でき個別性のある看護実践ができる、倫 理観に基づく行動ができ患者さんの意思決定を尊重する、協働や連携がとれる、そういったこと
づけや教育目的や教育目標を決めてこちらに来たっていう経緯があります。それでクリニカル・
ラダーでいこうということになって、そのワーキンググループで、とにかくそれぞれが口頭で言 うんじゃなくって、文書化しようということで、1 冊の教育マニュアルを作りました。それに沿 って取り組んできました。」(N)
新病院のシステムを構築してきたN副看護部長は、看護部が目指す看護や育てたい看護 師像について、具体的な看護実践の姿を言葉にしていた。このように、教育の理念やビジ ョンを実践レベルの表現で共有してから「クリニカル・ラダーでいこう」と、システムの 協議に入っていた。そして、両者とも、考案したことを会議に〈提案する〉必要があり、
さらに教育マニュアルなどの企画書を作っていく必要があった。このように、専任教育担 当者には、システム構築の過程で、企画したことを〈成文化できる〉という行動が必要で あった。
また、理念やビジョンが設定されていたとしても、常に組織内外の環境が変化している 中で、数年先を見越した能力開発の課題や課題解決に向けた施策の提案が必要になってい た。M副看護部長は、『人事戦略を立てて教育を行う必要があるが、実現していない』とい う現状を以下のように述べていた。
「もっと戦略的に、将来的にはこういう領域に強い看護師を育てていくために、こういう研修を やっていこうとか、こういう領域の専門看護師が必要だとか、そういう戦略的なものが必要だと 思うけど、忙しさであまりそこまで考えられていない気がします。看護部長とはもっとこんな人 材が必要ですねっていう話はするけど、まだ実際の形にまでは繋がっていなくて。・・・副部長 だから人事と教育を繋げていくことができるし、それが必要だと思う。」(M)
副看護部長という職位にあれば、看護部長と人事や将来構想を話す機会があり、人事と 教育を繋ぐ必要があると考えていた。これは中長期的な〈能力開発の人事戦略的な目標を 提案する〉ことを目指すものであったが、まだ具体的な検討に至っていなかった。
また、H看護師長は、看護部長から『施策提案を求められて悩んでいる』という状況を 次のように述べていた。
「部長にいつも言われているのですが、研修企画はルーティーンの仕事であって、看護部への施 策提案を自分からしなくてはいけないと。例えば、7 対 1 を取得して何が変わったのか、今後は 5 対 1 になる可能性もあるし、何年か先を見越して自分で提案事項を考えてきなさいと言われま す。教育担当者は、細かい作業で止まっていてはいけない、開発の実践能力が必要だと言われま す。これは自分の課題ですが、今すごく悩んでいるんです。」(H)
このように、師長の職位ではあったが、看護部長は、研修企画は教育担当者のルーティ ーンの仕事で、医療制度などの外部環境の変化に伴う組織内の変化を把握して、〈能力開発 の新たな課題を見出して、その施策を提案する〉ことを要求していた。しかし悩んで手が かりが見つからない状態にあった。
2)能力評価システムを開発し機能させる能力
【能力評価システムを開発し機能させる能力】には、〈ラダー段階別の能力評価指標と評 価方法が開発できる〉、〈開発プロジェクトを導くことができる〉、〈企画書を作って説明で きる〉、〈システム活用の結果に基づいて評価改善できる〉、〈個人と全体の能力評価状況が 把握できるしくみを作る〉という行動が含まれた。
9 名の専任教育担当者の各病院では、数年前からラダー・システムを導入していたが、
まだ試行時期の段階でもあり、〔能力評価〕と〔目標管理〕と〔教育〕を連動させることは 難しく、何らかの不具合が出ていた。ラダー・システムの作成に関与していた数名の副看 護部長は、『評価指標の共通理解が難しい』、『部署によって差があり妥当な評価が行えてい ない』、『ラダー評価の認定システムが動いていない』といった状況に陥っていた。
いずれの施設でも、ラダーレベル別の目標、すなわち能力評価指標に沿って、部署師長 が看護スタッフと目標面接をして能力評価を行うようにしていたが、特に、この能力評価 を妥当に行うことが難しいようであった。ラダー評価が適切にできないという現状につい て以下のように述べていた。
「外部評価を受けるのに、ラダーを入れているという評価項目があるので、5 年前から 4 段階の ラダーを入れました。今は、これで本当に適切なのか見直しをしているところです。全ての研修 がクリアできて、自己評価と同僚評価をして、師長と主任が評価しています。・・・ですが、上 の人が評価するので、どうしても甘くなるんですよね。これで本当にみんな修了できているのか なと、毎年、毎年、思う。」(L)
「事例の読み取りをして臨床能力の段階を評価するという形はずっとしていましたけど、それを 基に今年からにラダーに変えていって、事例を書いてもらって師長が本人と面接するんです。そ れが難しいんですよね。今回、各病棟から出してもらって集計したら、病棟によってかなり差が ある。それはたぶん評価する側の問題だと思うんですけど。まだ出来上がったばかりで見よう見 まねで評価している段階なので、評価する側の能力を高めていくことを来年から計画しているん ですけどね。」(K)
L副看護部長の病院は、外部評価を受けるために標準的なラダー・システムを導入して