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第9章 教育プログラムの開発

第Ⅰ節 教育ニーズアセスメント

本節では、46 項目に対する 4 段階評価の結果について、求められる行動と現状との差異 が意味するところを不足能力および必要な学習経験の視点から文献を用いて考察する。ま ず、46 項目全体の中で差異が大きな項目に注目して、役割を超えて学習すべき課題を抽出 する。次に、4 つの役割ごとに、大きな差異のある項目に注目して、役割を果たす上での 不足能力および学習課題について考察する。最後に、それぞれのニーズアセスメントの結 論を統合して、学習の優先順位を決定し、開発する教育プログラムの方向性を述べる。

1.46 項目全体のニーズアセスメント

1)「看護スタッフ能力開発」のプロセスの全容を理解する必要性

46 項目に対する 4 段階評価の結果で、最も「できていない」という認識の比率が高かっ たのは、1 位「能力開発のアウトカム指標を開発して評価研究ができる」であった。しか し、アウトカム指標の開発と評価研究ができるためには、その前提として、能力開発をど のように定義するのか、能力開発の成果を何で測るのか、能力開発の顧客は誰か、何をモ ニターしていくのかなどの検討が重要となる(Gloe,1998)。したがって、自ずと、能力開 発の全体枠組みの構築が基盤になる。しかし、ニーズ調査結果では、36 位「能力開発の課 題やミッションの成文化」や、39 位「能力開発の理念ビジョンの成文化」の項目は、ほと んどの対象者が「できている」と認識していた。これは、質問項目の語尾を「成文化でき る」としたために、「文章を作った、修正した」と解釈して答えた可能性もある。文章にす る前に、「戦略的ニーズアセスメントを行って課題が抽出できる」ことが必要で、その点を 問うべきであった。あるいは、質問項目の「能力開発のビジョン、課題、ミッション」と いった用語の定義を示していないために、回答者それぞれの解釈で応えた可能性もある。

いずれにしても、ビジョンや課題を設定するためには、経営戦略を人材開発および能力開 発につなぐ力が必要で、それは人と組織への深い洞察力を要するもので、簡単な作業では ない(福澤,2009)。ビジョンや課題などの大きな設計図が明確にあってこそ、能力開発の 評価が可能になるのであるが、そのような知識が回答者に不足していることが推測できる。

また、5 位「教育プログラムが現場の看護の質の向上に寄与したかどうか評価できる」

と、9 位「研修で学んだ知識スキルを現場で活用し行動変容したかどうか評価できる」の

評価に関する行動も「できていない」という認識が高かった。しかし、40 位「期待と現実 のギャップを把握したニーズアセスメント」、41 位「到達目標のためのコース設計」、45 位「学習目標を設定して内容方法の設計」など、研修の企画運営に関する直接的活動は、

高い比率で「できている」と認識している傾向にあった。ここからも教育の設計から評価 までの一連の循環的なプロセスが理解できていない傾向が浮かび上がった。つまり、能力 開発の全体枠組みの構築から評価に至る全体プロセスを提示して、能力開発や教育を設計 するという考え方を定着させていく必要性が示唆された。

ここで、本研究における「看護スタッフ能力開発」の定義を確認する。『看護組織の理念・

目的と人材開発方針に基づいて、看護スタッフの個人、集団、組織の能力を開発するため の「ニーズアセスメント-計画開発-実施-評価改善」の系統的アプローチに基づく実践 であり、人事考課や人材活用と関連づけながら、スタッフの看護専門職としてのパフォー マンスの強化を目指すものである』。本研究における教育プログラムを設計していく上で、

まずは、学習者が、この「看護スタッフ能力開発」の実践のプロセスの全容を理解する必 要があると考えた。そこで、実践のプロセスの全容を視覚的に理解できるように図式化し たものが、図 3(p184)の『「看護スタッフ能力開発」循環サイクルフロー』である。

2)「『看護スタッフ能力開発』循環サイクルフロー」について

看護スタッフ能力開発のアウトカム評価のタイプには、「組織」、「集団」、「個人」がある

(Sikma,1998)。したがって、ニーズアセスメントも「組織」、「集団」、「個人」のレベル で段階的に行う必要がある。

まず、「全体枠組みの構築」をするにあたり、「戦略的ニーズアセスメント」を行う。把 握すべき情報は、病院看護部の看護スタッフを取り巻く「外部要因」(医療経済の変化、法 律施策の変化、日本の看護職の労働人口や特徴、看護基礎教育の現状、競争病院や地域医 療の現状など)と、「内部要因」(病院トップの経営方針、理念・目的、看護部トップの看 護理念・目的、人材開発方針と人事システム、現場スタッフの意見、過去の能力開発の施 策と評価、看護スタッフの能力の現状など)である。特に、専任教育担当者は、トップと 話し合って人材開発の方針を明確にすることと、現場のニーズを把握することは最も重要 で、大規模な調査が必要な場合もある。

この現状分析から、専任教育担当者を含む看護部トップマネジメントに携わる人たちは、

看護部組織が目指す看護実践の特徴と看護職者像を描く。この方針に基づいて、専任教育 担当者は、これ以降の能力開発に関する全体枠組みの構築を成文化し提案していく。まず、

目指す人材像と現状を比較して、そのギャップを補うために、看護部としてどのような方 針で能力開発を進めるのかといった教育理念を表明する。そして、5 年から 10 年先の長期 的な能力開発ビジョンを描く。そこから、能力開発の課題や教育で解決するべき施策が抽

院は常に外部環境に影響を受けているため、組織が環境変化に適応していくためには、常 に戦略的ニーズを確認しておく必要があるという意味で双方向の矢印を入れた。この組織 ニーズレベルでのアウトカム指標を検討しておく。

次に集団の人材層別ニーズアセスメントである。看護スタッフ全体の能力の現状を把握 できたら、人材フレームを設計して人材層に区分する。そして、人材層別に期待する役割 と能力を明らかにする。それと現実のギャップを多様なニーズアセスメント方法を使って 把握する。ここで、期待する看護実践能力を明確に描き、能力評価指標に具体化し、能力 評価方法も開発しておく。作成した能力評価指標がアウトカム指標になる。到達目標に向 けて中長期的な能力開発計画を立てるが、解決策を検討する上では、教育と人材の配置や 昇進および人材活用との関連を明確にしておくことが重要である。また、人材フレームを 作成する際の留意点として、戦略的ニーズから降ろしてターゲットを絞っておく人材層と、

それ以外の区別が重要である。それは 5~10 年先の将来ビジョンとの整合性を図る際に決 定されるが、例えば、全体の底上げか、リーダー層強化なのか、急性期看護の強化なのか などの意思決定が必要になる。

以上の計画を年間教育計画の具体策に降ろしていく。年間教育計画を考える際に、中長 期的な強化人材層の教育プログラムの一環と、安全で確実な業務遂行のための必修教育訓 練との区別が必要になる。いわゆるルーティーン研修との区別である。そして、集合研修、

職場内 OJT、自己学習、人材活用など、多様な手段を効果的に組み合わせて企画し、各教 育プログラムの予算計画と評価計画を立てておく。

そして、教育を実施し、評価を行う。評価の 4 段階レベルを示し、評価改善によって循 環サイクルするイメージを矢印で示した。この図は、「看護スタッフ能力開発」のカリキュ ラムデザインモデルでもある。このデザインの中に、必要に応じて、「成人学習の原理」、

「ベナーの新人からエキスパート」、「リアリティショック」、「リフレクション」などの概 念を盛り込んでいくのである。これまでカリキュラムといれば、学校教育における学習の 順序性や積み上げを重視した伝統的な考え方にとらわれる傾向にあったが、これが、現任 教育におけるカリキュラム構築の考え方なのである(Schoenly,1998)。

2.役割別のニーズアセスメント

1)能力開発システムを管理するリーダー役割

(1)看護実践能力の評価指標と評価方法を開発する能力

リーダー役割の【看護スタッフ能力を把握し評価する能力】の中で評価が低かった項目 は、7 位「採用、配置、報酬、昇格など能力評価を必要とする人事業務が支援できる」と、

16 位「能力アセスメントのための評価指標と評価方法が開発できる」であった。逆に、評 価が高かった項目は、35 位「現場に出てスタッフの能力を観察し把握する」、29 位「人材 層を区分して期待される能力を成文化する」、22 位「個人履歴を記録保管するしくみをつ