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第6章 専任教育担当者が認識する学習ニーズ

第Ⅰ節 研究方法

病院看護部組織の人材育成に関して先駆的に取り組み、その成果を公表している看護部 トップマネジメントの看護管理者とした。著書や論文の内容から該当する人物を選出して、

その中で研究参加の同意が得られた方とした。

2.データ収集方法

2008 年7月 17 日~8 月 18 日、半構成的面接を研究参加者に個別に行った。インタビュ ーガイドの内容は、①専任教育担当者が果たすべき役割について、②その役割を果たすた めの具体的な職務内容について、あるいは職務を通して期待する行動や成果について、③ さらに、文献から概念整理した「役割と能力」に対する意見、これらの問いかけを糸口に して対話を膨らませながら参加者の考えを引き出した。面接場所は、プライバシーを確保 できる個室で行い、研究参加者の許可を得て IC レコーダーに録音した。

3.データ分析方法

データの中から、専任教育担当者に期待される役割および能力を抽出することを目的に、

データの文脈と意味を重視した内容分析の手法を用いて(グレッグ,2007)、以下の手順で 分析を行った。

①まず、逐語録を熟読し全容を把握した。次に、できるだけ参加者の言葉を用いながら、

どのような役割を果たすべきか(あるいは実際に果たしているのか)、その役割を果たす ためには具体的にどのような行動をとるのか(あるいは実際に行っているのか)、につい て述べている部分を抽出した。

②抽出した部分の意味を損なわず、かつ明瞭になるように要約してコード化し、それを〈求 められる行動〉として表現した。

③〈求められる行動〉の同質性と異質性に注目して、類似したものを分類してカテゴリー 化し、それを割り当てられた特定状況の仕事を成し遂げる能力として表現した。

④さらに、サブカテゴリーの能力の意味内容の類似性に基づき分類してカテゴリー化し、

いくつかの仕事を通して能力を発揮することで、組織や周囲がその人の働きをイメージ する役割として表現した。

研究参加者が語った内容には、〔実際に自施設で果たしている役割〕と、〔実際にはでき ていないが、理論的にはこういう役割を果たすべきではないか、もっとこのような成果を 目指したい〕という内容に分かれた。前者を《実践的・現実的》、後者を《理論的・将来展 望的》として、それぞれの結果を、表 2-1 と表 2-2(p161)に示した。両者ともに最終 的に 2 つの役割カテゴリーとなった。<現場の能力開発を支援・促進する役割>は、両者 とも共通していたが、もう一つのリーダー役割に関しては、《実践的・現実的》では、<能 力開発システムを管理するリーダー役割>であったが、《理論的・将来展望的》では、<人 材開発システムを管理するリーダー役割>となった。

以下に、役割ごとに、分析の根拠となる逐語データを「 」で示しながら、結果を記述 する。【 】はサブカテゴリーの能力、〈 〉は、コード化した内容の行動を示す。

1.人材開発あるいは能力開発システムを管理するリーダー役割

専任教育担当者である副看護部長は、看護部長の指揮下で、人事担当や業務担当の他の 副看護部長と役割分担して、〔能力開発および教育〕の範囲で役割遂行していたため、実際 に行っている職務を中心に述べていた。そのデータを分析した結果、<能力開発システム を管理するリーダー役割>となり、その役割を果たすためには、【能力開発ビジョンを構想 し教育施策を策定する能力】、【能力評価と教育を連動させたシステムを構築する能力】、【プ ロジェクトをマネジメントする能力】、【能力開発システムの運用を調整し評価する能力】、

【集合研修の企画運営プロセスを総括する能力】の 5 つの能力が求められた。

一方、現在のところ専任教育担当者を置かない教育体制で運営している看護部長は、教 育研修の企画運営は、病棟管理との兼任で年間ルーティーンとして遂行できている事実を 踏まえ、専任として配置するに値する「スペシャリスト」としての役割を述べていた。そ れは、経営戦略との整合を図り、人事と能力開発を密接に連携させつつ、人と組織を成長 させるしくみ〔人材開発システム(キャリア開発プログラム)〕を総括する「看護部長の諮 問機関」という位置づけであった。その発言内容を分析した結果、《理論的・将来展望的》

には、<人材開発システムを管理するリーダー役割>を果たすために、【人材開発ビジョン 実現に向けた教育施策を策定する能力】、【看護能力の実態から独自の能力開発システムを 創る能力】、【人材開発システムの運用を統制し評価する能力】の 3 つの能力を求めていた。

以下、双方の共通点と相違点を中心に述べていく。

1)ビジョンと教育施策

能力開発システムを構築するためには、まず組織内外の情報を把握し、看護部がどのよ うな看護職者をどのように育成するのかといった大きな開発のビジョンを描き、それに向 けての課題や施策を設定する必要があった。その構想の範囲が、《実践的・現実的》では、

能力開発ビジョンであったが、《理論的・将来展望的》では、それよりも広範囲な人材開発 ビジョンであった。

《実践的・現実的》:【能力開発ビジョンを構想し教育施策を策定する能力】

E副看護部長は、病院にラダー・システムを導入して10年が経過した昨年から、見直し 修正に向けて教育担当者になった。その再構築の経緯を次のように語っていた。

「看護部の教育方針や理念があって、それと求められる看護師像も決まっているので、それとす り合せて社会情勢もみながら考えます。教育というのは、こう育てるというのが必要ですよね。

でもそれだけでは机上の空論になるので、臨床の中で何が必要かという点と、できていない点は 何かということから考えていく。社会情勢からみて、最近はがんや糖尿や助産とかクローズアッ プされてきているので、今まではラダーはⅣまで上がるだけでしたけど、もう少し専門領域に入

って院内認定コースを作ろうということで教育プログラムを考えています。法律が変わったとか、

将来の社会の方向性がみえると見方が変わってくるので、情報を自分がどれだけもっているかは 大事だと思います。」(E)

まず、「情報をもつことが大事である」と述べているように、〈看護に関する法律や社会 の変化を把握〉していた。そして、既に設定してある〈看護部の教育理念、方針、人材像 を理解〉し、さらに、臨床で必要なことや不足していること、つまり〈看護現場の教育ニ ーズを把握〉していた。これらを照らし合わせて、ラダーに専門領域のコースを入れると いう『能力開発ビジョンを構想し教育施策を策定』していた。それが、ラダー別の教育プ ログラム設計やコース設計に反映されていっていた。

《理論的・将来展望的》:【人材開発ビジョン実現に向けた教育施策を策定する能力】

一方、B看護部長は、より広範な人材開発ビジョンの構想から必要だと述べていた。

「この国の労働人口がどうなるか、看護師の社会的イメージがどうか、これから入職してくる人、

育てる側の組織の環境、採用から配置から定年までのこと、教育だけでなく全体のこと、これら 全て理解した人でなければ、専任にする意味がないと思うんです。・・・10 年後の地域に貢献し 続ける組織の姿をイメージして、人事戦略を理解して、何年前からこういう人たちを育てる準備 をする、そのためにどのような人を採用し教育しておく必要があるか、先を見越して教育を創造 する。」(B)

こちらも、組織内外の情報を把握することが必要であると述べていたが、その内容は、「労 働人口」「看護師の社会的イメージ」など、〈看護の人的資源に関する外部環境を把握する〉

ことであった。さらに、〈組織の経営方針や人事戦略を理解〉して、「入職してくる人」「育 てる環境」「採用から配置」など、〈看護の人的資源に関する内部環境の把握〉をして、こ れらを全て理解して、『人材開発ビジョン実現に向けた教育施策を策定する』ことを求めて いた。

双方とも最終的には教育施策の策定にたどり着くのではあるが、《理論的・将来展望的》

では、施策の選択肢が教育研修に限定されていなかった。以下のデータが示すように、B 看護部長が求めていたのは、〈個人の最大パフォーマンスが引き出せる最適な人材開発施策 を考える〉と、〈人材開発システムの全体像の中に教育を位置づける〉ことであった。

「この組織が何を求めているかということ、人をどうやってこの組織の中で最大限にその人の潜 在的な力も引き出しつつ最大限のパフォーマンスを上げてもらえるかということ、その両方を理