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本研究の意義と今後の課題

ドキュメント内 古代日本語の因果関係を表す接続表現 (ページ 129-140)

第四章 『今昔物語集』の接続詞の使用について

二 本研究の意義と今後の課題

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集』の出典とされる純漢文の『冥報記』、変体漢文の『法華験記』、和文として類話を持つ

『宇治拾遺物語』などの文献における使用傾向について、数量的調査を行った。その結果、

漢文訓読調が強い天竺震旦部と本朝仏法部では、順接の接続詞においては、因果関係を明 確に表現する接続詞「このゆゑに」「これをもちて」「これによりて」と、より論理的思考 が必要とされる逆接の接続詞「しかりといへども」「しかるに」「しかるを」が多く見られ る。それに対して、本朝世俗部に頻用されるのは、「然れば」「さて」「かくて」などのよう な、時間の経過、あるいは事件の羅列を示すだけで、論理的関係からいうと、より曖昧に 表現されるものである。これによって、漢文訓読調に傾く巻二十以前では、より論理的な 表現をとっていることを指摘した。

以上の考察を通して、条件表現形式の論理化や因果関係を明示化する接続表現の発達す る傾向は従来室町時代以降と言われているが、それに先立ち、院政鎌倉時代の和漢混淆文 において、その一端が既に見られることが指摘できる。その背景には、漢文訓読、特に仏 教漢文を訓読した営為が大きく関与していることを明らかにした。

本研究では、古代日本語の論理的表現において、漢文訓読の影響があったことを主張し てきたが、これは日本語がもともと論理性を欠く言語と言っているのではない。このよう な論理化や分析化は、いつの時代にも起こっており、言語に内在する必然性によって行わ れる場合もある。ただし、序章で述べた山口堯二(1980)(1996)で指摘した日本人の思 惟方法に対応する間接的・文脈依存的な形式のほうが歓迎されることを認めるならば、明 示的な形式の使用は、やはり自然な日本語と乖離する面もあり、その産出は、やはり外側 の何らかの要素によって促された面があると推測される。これは、山口佳紀(1993)が「漢 文訓読を離れて論理性の強い言語様式が別にあったとも思えない」と述べたように、古代 語の場合、漢文訓読、とりわけ論理的表現に富んだ仏教漢文を理解・訓読するための日本 語の中に求められるのではないかと思われる。

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きが置かれているようである。また、古代語の文法に関する研究においても、日本語内部 の変化に主眼があり、文体的問題や資料的性格を考慮しなかったような研究が多かったと 言える。このような現状の中で、本研究は、文法研究と文体研究の接点を求めるものとし て位置づけられる。

序章で確認したように、院政鎌倉時代の因果関係を表す接続表現に関する研究は乏しい のが現状である。本研究では、この時代の和漢混淆文における因果関係を表す接続表現の 発達は、日本語条件表現史上の重要な一段階として位置づけられることを明らかにした。

また、日本語条件表現の変遷において、分析化や論理化という事実が多くの研究によっ て整理されてきたが、その原因については未解明のところがある。阪倉篤義(1958)は、

「已然形+ば」の衰退が、「ほどに」「によって」「さかいに」などのような新しい形式の発 生を推進した背景としている。山口堯二(1996)と小林賢次(2005)は、「あひだに」「ほ どに」などの発達を、慣用している内に文法化した結果として捉えている。本研究では、

日本語条件表現の分析化や論理化する背景には、漢文訓読の影響があったことをはじめて 指摘した。

さらに、古代の漢文訓読は日本語の文法体系に多大な影響を与えたことは、すでに山田 孝雄(1935)によって説かれる。後に、大坪併治(1981)は、「および」「すなはち」「に おきて」等を取りあげ、漢文訓読の日本語に与えた影響について、訓点資料にあたって、

実証的な考察を加えた。近年では、築島裕(1963)が漢文訓読語と和文語の形態上の区別 があることを体系的に解明して以来、文体論的研究が数多く行われてきたものの、漢文訓 読の日本語に対する影響を正面から取り上げた研究は盛んではなかったように考えられる。

そのような中で、日本語の自立語の意味用法に漢字・漢文訓読の影響があることに関する 研究が進められる一方(1)、文法にかかわる機能語について、見過ごされがちな用法の面に 関する研究はほとんどないのが現状である。そこで、文法にかかわる機能語を積極的に取 りあげ、細かい用法の面、網羅的傾向の面において漢文訓読の影響を追究したことに、本 研究の意義があると考えられる。

しかしながら、本研究には多くの課題が残されている。

(1) 本研究では、個別の因果関係を表す接続表現を中心に考察してきたが、因果関係を 表す接続表現全体を扱うことはできなかった。今後、多くの因果関係を表す接続表 現について、総合的・体系的に検討していく必要がある。

(2) 本研究では、因果関係を表す接続表現を取り上げ、その発生と発達に漢文訓読の影

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響があったことを指摘した。因果関係を表す接続表現のほかに、並列・累加・逆接 など、様々な論理的表現において、漢文訓読の影響があるかどうか、どの程度ある か、などの問題について考察を進め、本研究で指摘した「日本語表現の論理化にお いて漢文訓読の影響があった」という観点を検証して行く必要があるだろう。

(3) 文体の面に関しては、「漢文訓読の影響」を明らかにするために、本研究では慎重 な態度を採って考察を行った。今後、同様な方法で、築島(1963)が整理した和 文語と漢文訓読語のような「形態レベル」で対立をもつことを、それぞれ「用法レ ベル」で捉え直してみることが課題となる。また、本研究の考察で、「漢文訓読の 影響」というのは、用法を拡張する(例えば、「(が)ゆゑに」の接続助詞的用法と

「によりて」のプラス的用法)、あるいは限定する(例えば、もともと用法に広が りを持っていた「しからば」は、漢文訓読文において、極端に疑問表現と推定表現 の条件を表す用法に固定化するようになった)両方の働きがあることが分かった。

今後、個別の調査結果を踏まえて、漢文訓読の影響を類型的に整理していく必要が ある。

(4) 本研究の考察では、院政鎌倉時代の和漢混淆文における様相について特に注意を払 って観察してきた。和漢混淆文は、古代日本語文章の一段階の達成、現代日本語文 章の源流と言われるものでありながら、その概念、および実態については、不明瞭 な点が多く残っている。今後、和漢混淆文を特徴づける要素をさらに見出すことが 課題になる。また、本研究では和漢混淆文を広く捉えたが、個々の用法において、

仏教説話集と軍記物語のような資料的性格、また、説話内部の構造・分布によって 使用上の相違が見られることが推測されるため、資料間、分布上の相違点を細かく 探っていく必要がある。

これらの課題について、今後も、こうした文法的な問題を、文体的な問題へと連動して 考える観点から、取り組んでいくつもりである。

【注】

(1)青木毅(1992)「"時間の経過"を表す『オクル(送)』の成立について」『鎌倉時代語 研究』15、山本真吾(1993)「平安時代に於ける動詞『をしふ(教)』の意味用法につ いて―訓点資料の用例に注目して―」『訓点語と訓点資料』92、山崎貞子(2005)「古 代語の副詞『まさに』をめぐって」『国語と国文学』82-11、ジスク・マシュー(2010)

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「意味の上の漢文訓読語―和語『あらわす』に対する漢字『著』の意味的影響―」『訓 点語と訓点資料』125などが挙げられる。

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【参考文献】

青木 毅(1992)「"時間の経過"を表す『オクル(送)』の成立について」『鎌倉時代語研 究』15

青木 毅(2006)「平安時代における漢文翻訳語『ナキカナシム(泣悲)』について」

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李 淑姫(2000)「キリシタン資料における原因・理由を表す接続形式―ホドニ・ニヨ ッテ・トコロデを中心に―」『筑波日本語研究』5

李 淑姫(2001)「文の焦点から見たホドニとヨッテ―大蔵虎明本狂言集を中心に―」『筑 波日本語研究』6

李 淑姫(2002)「『応永二十七年本論語抄』の因由形式の階層」『筑波日本語研究』7 池上 禎造(1947)「中古文と接続詞」『国語国文』15-12

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牛島 徳次(1971)『漢語文法論(中古編)』大修館書店 王 力(1992)『中国古典読法通論』朋友書店

大坪 併治(1970)「漢文訓読語における接続詞」『月刊文法』2-12 大坪 併治(1981)『平安時代における訓点語の文法』風間書房

大坪 併治(1982)「原因・理由を表はす文末のバナリについて」『訓点語と訓点資料』67 大野 晋(1953)「『カラ』と『カラニ』の古い意味について」『言語民俗論叢 金田一博

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来田 隆(1993)「洞門抄物に於けるホドニとニヨッテ」『近代語の成立と展開』和泉書 院

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