第一章 原因理由の接続表現「によりて」
第二節 「により(て) 」の接続助詞への発展
二 文体別から見た「により(て) 」の接続助詞的用法
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第二節 「により(て)」の接続助詞への発展
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より」と「によりて」両方が用いられる。築島裕(1963)は、「テ」が付く「ニヨリテ」
は、訓読語に頻用される形でありながら、和文にも見出せるものであるとする。一方、「テ」
が付かない「により」は、訓読文には用いられず、和文では概して重々しい発言の際に用 いているように認められるとしている。つまり、「により」と「によりて」は、形によって 文体的な対立を持つが、和文では両方が用いられるのである。ここでは、「により」と「に よりて」を総合的に捉えて、用法と使用傾向の面から、和文における定着を見ていく。
【表 1】は、用例を体言接続と用言接続に分け、さらに用言接続の用例を、形態上「に
より」と「によりて」に分け、本文の種別を会話文と地の文に分け、それぞれの用例数、
および体言接続と用言接続の例の合計例数に占める比率を示したものである。
【表1】に示したように、「により」と「によりて」は時代による偏りはないが、作品に
よる偏りは認められる。『源氏物語』と『大鏡』にそれぞれ合計75例、21例あり、比較的 に多く見られるが、その他の作品では、用例数が稀である。『源氏物語』と『大鏡』に限っ
【表 1】和文における「により(て)」の分布
体言接続
用言接続
小計 計
「により」 「によりて」
会話文 地の文 会話文 地の文
竹取 0 0 0 3 0 3(100.0%) 3 伊勢 0 0 0 0 1 1(100.0%) 1 土佐 2(100.0%) 0 0 0 0 0 2 大和 2(100.0%) 0 0 0 0 0 2 平中 1(100.0%) 0 0 0 0 0 1 蜻蛉 4(100.0%) 0 0 0 0 0 4 落窪 5(100.0%) 0 0 0 0 0 5 枕草子 1(50.0%) 0 0 1 0 1(50.0%) 2 和泉式部 1(100.0%) 0 0 0 0 0 1 源氏 39(52.0%) 19 11 3 3 36(48.0%) 75 紫式部 1(100.0%) 0 0 0 0 0 1
堤中納言 0 0 0 0 0 0 0
更級 1(100.0%) 0 0 0 0 0 1 大鏡 11(52.4%) 6 0 4 0 10(47.6%) 21 讃岐 1(50.0%) 0 0 1 0 1(50.0%) 2 古今集 3(100.0%) 0 0 0 0 0 3 物語和歌 7(100.0%) 0 0 0 0 0 7 計 79(60.3%) 25 11 12 4 52(39.7%) 131
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て言えば、用言接続の比率が5割近く占めており、また、和文全体では、用言接続の比率 も4割近く占める。『万葉集』の用言接続の18.8%(=3/16)よりは、高くなっている。ま た、「により」と「によりて」の用言接続の例はいずれも会話文を中心に用いられる。「に よりて」の合計16例に比して、「により」が合計36例であり、二倍以上の例数で多く見 られる。したがって、和文において、「により」の例を数え加えると、用言接続の用例も少 なくないことがわかる。
続いて、文法化の度合いを図るために、「により(て)」の上接語の品詞や助動詞別に区 別して傾向を見る。その調査結果は【表2】のようである。
【表 2】に示したように、中古和文において、「により(て)」が訓読特有的な打消助動
詞ザル・断定助動詞ナル・タルに接する例がないものの、動詞・形容詞連体形、過去・完
【表 2】和文における用言接続の「により(て)」の上接語
竹取 伊勢 枕草子 源氏 大鏡 讃岐 計 動詞連体形(敬語動詞) 0 0 0 6(1) 4(2) 1(1) 11
形容詞連体形 0 0 0 9 2 0 11
形容動詞連体形 0 0 0 0 0 0 0
助動 詞の 連体 形
過去 シ 0 0 1 2 0 0 3
ケル 2 0 0 0 0 0 2
完了
ツル 0 0 0 0 0 0 0
ヌル 0 0 0 1 0 0 1
タル 0 0 0 0 0 0 0
ル 0 1 0 0 1 0 2
推量 ム 0 0 0 2 0 0 2
ベキ 0 0 0 4 0 0 4
断定 ナル 0 0 0 0 0 0 0
タル 0 0 0 0 0 0 0
打消 ヌ 1 0 0 2 0 0 3
ザル 0 0 0 0 0 0 0
打消推量 マジキ 0 0 0 1 1 0 2
受身・尊敬 ルル・ラルル 0 0 0 0 0 0 0
使役 シムル 0 0 0 0 0 0 0
存在表現アル(ハベル)・ナキ 0 0 0 5(2) 1 0 6
接尾辞ニクキ・ガタキ 0 0 0 1 1 0 2
連体詞サル 0 0 0 3 0 0 3
計 3 1 1 36 10 1 52
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了・推量・打消の助動詞、存在表現、接尾辞、連体詞など、様々な表現形式に接続してお り、表現上のバラエティがある。この点から、上代の「により(て)」の表現から広がり、
文法化の度合いの高さを反映していると考えられる。
このように、用言接続の比率と上接語の種類から、「により(て)」の接続助詞的な用法 は相当に発達していたものと考えられる。しかし、吉田永弘(2007a)(2007b)によれば、
「ニヨッテ」の接続助詞化は中世以降となる。それは、中世以前の例は、「によりて」の前 接語が活用語といっても、『万葉集』の「人言の繁き(コト)」のように、準体句として解 釈できるからである。吉田永弘(2007a)によれば、「によりて」の前接句が用言句となっ たことの根拠として、「ニヨリテ」の受ける句に現れる主題を表す係り助詞「ハ」に着目し、
「AハB ニヨッテC。」の構文は「ハ」の作用域の範囲によって、文末までに及んでいる
と解釈できるもの「A ハ[B ニヨッテ]C。」と、「ハ」の作用域が「ニヨッテ」節中に収 まっているとしか解釈できないもの「[AハB]ニヨッテC。」とに分け、前者のBは活用 語であるが、用法として体言相当の準体句を形成しているのに対して、後者のBは述語と しての性格が強いため、用言句と解せるとしている。しかし、吉田永弘氏の考察基準に当 てはまる、用言句と解せる例は、『大鏡』にも見出せる。
(1)[左大臣は御年も若く、才もことのほかに劣りたまへる]により、右大臣の御おぼえこ とのほかにおはしましたるに、(大鏡・天 左大臣時平)
この例では、前件の主題「左大臣は」の作用域は後件句に及ばず、後件の主題が変わっ て、「右大臣の御おぼえ」になっている。
実際に、このような例は早く上代の『続日本紀・宣命』において見出すこともできる。
(2)[墨縄は久しく辺戍を歴て仕へ奉れる労在る]に縁りてなも、斬刑をば免し賜ひて……
(第六十二詔)
この例では、前件句の主題「墨縄は」の作用域は後件句にまで及ばず、後件句の主語は 隠れている「朕」と考えられる。上記二例の場合、前件句は後件句に対して従属性が弱く、
そこに含まれる述語「劣りたまへる」「(労)ある」は、独立性の高い例と見なせ、用言句 と解せると考えられる。これによって、「により(て)」の接続助詞的用法は、古く成立し ていた可能性もある。
もともと「は」が従属節の中では現れにくいことと、日本語では主題や主題マーカーを 明示しない場合が少なくない実情から、吉田永弘(2007a)の基準に満たす用例が見出せ ると言っても、中世までには数例程度にとどまる。しかし本節では、「により(て)」の文
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法化を見据えた観点からは、様々な品詞や表現に接する以上、それを接続助詞的用法とし て積極的に捉えたい。
つぎに、用例が最も多い『源氏物語』に見られる例を通して、「により(て)」の出現傾 向を捉えてみる。
(3)「仏天の告げあるによりて奏しはべるなり。」(源氏・薄雲) →僧都の会話文
(4)「重しとなるべき心おきてをならひなば、はべらずなりなむ後もうしろやすかるべ きによりなむ。」(源氏・少女) →源氏の会話文
(5)『月ごろ風病重きにたへかねて、極熱の草薬を服して、いと臭きによりなむえ対面 賜らぬ。目のあたりならずとも、さるべからむ雑事らはうけたまはらむ。』(源氏・
帚木) →博士の娘の会話文
(6)年返りぬ。桐壺の御方近づきたまひぬるにより、正月朔日より御修法不断にせさせ たまふ。(源氏・若菜上) →重々しい儀式感、記録的書き方
例(3)(4)(5)は会話文に見られる例である。『源氏物語』に見られる総計22 例の 会話文の話者は、僧都(5例)、源氏(5例)、桐壺院(2例)、頭中将(1例)、良清(1例)、 左大臣(1例)、入道(1例)、鬚黒大将(1例)、朱雀院(1例)、致仕の大臣(1例)、柏 木(1例)、夕霧(1例)、博士の娘(1例)であり、博士の娘のほかに、すべて男性である。
僧都、源氏、博士の娘などの言葉は、従来、漢文訓読語や記録語の存在が指摘されている
(2)ように、例(5)においても、前後に「極熱」「対面」「目のあたりならずとも」のような 漢語や漢文訓読的表現が使われている。例(6)は地の文の例であり、儀式を描く場面で、
記録的な書き方がされている。上の例からは、「により(て)」が男性の会話文や堅苦しい 場面に用いられやすいことが確認できる。また、大鏡においても同じく、用例はすべて男 性の会話文に見られることから、「により(て)」は和文の一般的な用語ではないことを示 していると同時に、当時の日常会話語の様子を反映していると考えられる。ただし、次の 例(7)(8)のような普通の地の文に用いられる例もある。
(7)頼みきこえて年ごろになりぬる人を、今はともて離れむと思はぬによりこそ、かく いみじとものも思ひ乱るれ、(源氏・浮舟)
(8)明けはてなばはしたなかるべきにより、急ぎ出でたまひぬ。(源氏・須磨)
このような例は『源氏物語』(10例)に集中している。これは「により(て)」を日常用 語として使っている可能性も示しているが、紫式部の文体は漢文訓読文の影響を受けてい ることも考えられる。
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以上、「により(て)」の和文における使用は、用法の面では、接続助詞的用法としての 発達が認められるが、出現傾向から言えば、原因理由を強調的に言う男性の会話文や特定 の場面や普通の地の文に共通して現れている。また、漢文訓読系の原因理由の接続表現「活 用語+(が)ゆゑ」が本節で取り上げた作品には10例のみ見出せることに比して、「によ り(て)」は、それの5倍以上の数を持つことから、和文にはより馴染みやすい表現と言 える。ただし、「により(て)」は論理的な原因理由を明示する表現として、文学志向の和 文にはやはり疎遠な面があると考えられる。
二・二 漢文訓読文における使用状況
ここでは、平安初期から中世にまでの訓点資料における「ニヨリテ」の用例を見ていく。
漢文訓読文では、「ニヨリテ」が用言接続をとる場合では、「由」「因」「為」にあてられる ことが多い。表【3】は、漢文訓読文における「ニヨリテ」を体言接続と用言接続に分け て整理したものである。
漢文訓読文において、「ニヨリ テ」合計369例のうち、体言接 続が288例、用言接続が81例 となり、用言接続の比率は約 2 割にとどまる。「ニヨリテ」がよ り多く頻用される資料『金光明 最勝王経』『地蔵十輪経』『三蔵 法師伝』では、用言接続の比率 は そ れ ぞ れ 24.3%、19.8%、 15.0%であり、いずれも低い。
【表 4】は漢文訓読文におけ
る用言接続の「ニヨリテ」の上
接語を整理したものである。これによると、漢文訓読文における用言接続の「ニヨリテ」
の上接語は、一見して和文におけるそれとあまり差がなく、幅広く分布しているが、それ らの中で、敬語動詞の連体形、完了助動詞ツル・ヌル、推量助動詞ム、打消助動詞ヌ、受 身助動詞ルル・ラルル、使役助動詞シムルの出現は、平安初期訓点資料の金光明と地蔵十 輪経に限られており、一般的な用法ではないと考えられる。つまり、一般的な漢文訓読文
【表 3】漢文訓読文における「ニヨリテ」の分布
体言接続 用言接続 計
金光明最勝王経 87(75.7%) 28(24.3%) 115 三蔵法師表啓 5(100.0%) 0 5 地蔵十輪経 105(80.2%) 26(19.8%) 131 南海寄帰 9(56.3%) 7(43.8%) 16 妙法蓮華経 2(28.6%) 5(71.4%) 7 三蔵法師伝 68(85.0%) 12(15%) 80
白氏文集 2(100.0%) 0 2
論語 2(100.0%) 0 2
史記 1(100.0%) 0 1
荘子 2(66.7%) 1(33.3%) 3 遊仙窟 5(71.4%) 2(28.6%) 7 計 288(78.0%) 81(22.0%) 369