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他文献との文体的な比較

ドキュメント内 古代日本語の因果関係を表す接続表現 (ページ 116-126)

第四章 『今昔物語集』の接続詞の使用について

三 他文献との文体的な比較

『今昔物語集』と他の 15 文献の接続詞の使用の関わりを捉えるために、共通する個々 の語の各文献における使用頻度、延べ語数、異なり語数、平均使用頻度及び順接を表すも

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のと逆接を表すものの比率を調べてみる。その結果を【表3】に示す(4)

【表 3】他 15 文献との比較

接続詞 今昔 冥報 大唐 極記 霊異 験記 宇治 大鏡 栄花 御堂 小右 将門 江談 三法 百座 打聞

かかるほど 4 0 0 0 0 0 18 2 120 0 0 0 0 0 0 0 かかれば 4 0 0 0 0 0 4 9 8 0 0 0 0 0 0 0 かくて 76 0 0 0 0 0 22 24 302 0 0 0 0 0 3 4 さて 358 0 0 0 0 0 71 94 158 0 0 0 0 0 5 14 さらば 0 0 0 0 0 0 42 7 10 0 0 0 0 2 5 1 されば 0 0 0 0 0 0 58 48 33 0 0 0 0 0 4 7 さるは 2 0 0 0 0 0 2 8 23 0 0 0 0 0 0 0 さるほど 10 0 0 0 0 0 13 2 0 0 0 0 0 0 0 0

このゆゑに 37 1 3 0 81 22 0 0 1 0 0 0 0 17 1 0 これをも

(ち)て 62 1 1 1 2 1 0 0 0 1 1 2 3 0 1 0 これにより

175 0 0 0 13 8 1 0 0 1 1 3 4 14 3 1 しか(う)

して 4 19 1 0 63 2 0 0 0 5 4 3 6 0 0 0 しからば 0 2 0 0 0 1 1 0 0 0 3 1 7 0 0 0 しかれば 0 3 0 0 4 1 4 3 0 0 0 3 21 0 7 3

しかるあひ

777 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 11 3 1 0 0 しかるほど 24 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

然らば 155 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 然れば 1625 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 順(小計) 3313 26 5 1 163 35 237 197 655 7 9 23 44 34 29 30

かかれど 1 0 0 0 0 0 0 1 2 0 0 0 0 0 0 0 さりとて 28 0 0 0 0 0 13 7 22 0 0 0 0 0 0 2 さりとも 22 0 0 0 0 0 10 16 39 0 0 0 0 0 1 0 されど 2 0 0 0 0 0 4 23 85 0 0 0 0 0 1 1 されども 0 0 0 0 0 0 10 3 5 0 0 0 0 0 0 0

しかりとい

へども 45 0 0 0 1 8 0 1 0 0 1 0 8 0 0 0 しかるに 550 22 0 0 1 4 11 0 0 14 46 12 30 1 0 4 しかるを 10 1 0 0 0 0 1 0 1 0 0 1 1 1 3 4 しかれども 0 14 2 0 15 4 2 1 0 2 27 15 6 3 0 0

※ 然れども 176 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 逆(小計) 834 37 2 0 17 16 51 52 154 16 74 28 45 5 5 11 異なり語数 22 8 4 1 8 9 19 16 14 5 7 9 10 7 11 10 異なり語数の

一致率(%) 100 36.4 18.2 4.5 36.4 40.9 86.4 72.7 63.6 22.7 31.8 40.9 45.5 31.8 50.0 45.5 延べ語数 4147 63 7 1 180 51 288 249 809 23 83 51 89 39 34 41 平均使用頻度 188.5 7.9 1.8 1.0 22.5 5.7 15.2 15.6 57.8 4.6 11.9 5.7 8.9 5.6 3.1 4.1 順(小計)/逆(小

計)の比 4.0 0.7 2.5 × 9.6 2.2 4.6 3.8 4.3 0.4 0.1 0.8 1.0 6.8 5.8 2.7

112 三・一 異なり語数の一致率

【表3】に示したように、共通する語の異なり語数を見ると、『今昔物語集』との一致率

が一番高いのは類話を持つ『宇治拾遺物語』で、22語の中19語で、約86%に達する。次 いで、『大鏡』の 16 語(72.7%)、『栄花物語』の 14 語(63.6%)、『法華百座聞書抄』の 11語(50%)である。その他の文献との一致率は、いずれも50%以下である。

『今昔物語集』との接続詞の異なり語数の一致率が一番高いのは『宇治拾遺物語』であ る。『今昔物語集』と同様で、接続詞の異なり語数の種類は多いが、延べ語数の面では、『今 昔物語集』と異なり、ほとんど和文系のものに集中し、漢文訓読系のものが入っても、使 用頻度は低い。訓読系接続詞の中で、「しかるに」11 例の外、いずれも使用例が少ないも のである。(「しかれば」4例、「しからば」1例、「これによりて」1例、「しかるあひだ」1 例、「しかれども」2例、「しかるを」1例)歴史物語の『大鏡』『栄花物語』も同様な傾向 を示している。

『今昔物語集』と純漢文『冥報記』『大唐西域記』、仏教系統の変体漢文『日本霊異記』

『法華験記』『極記』が一致するのは、順接を表す「このゆゑに」「しかうして」「これをも ちて」など、逆接を表す「しかるに」「しかれども」など漢文訓読系の接続詞である。しか し、和文系の接続詞が見られないため、『今昔物語集』との一致率が極めて低く、最大の『法 華験記』でも40.9%ほどである。

変体漢文については、『御堂関白記』寛仁元年と、『小右記』長元四年の部分のみを調べ た結果、「しかるあひだ」(「然間」「而間」)は見られないが、『東京大学史料編纂所 古記 録フルテキストデータベース』によれば、『御堂関白記』には4例、『小右記』には6例見 出せる(5)。『今昔物語集』と『御堂関白記』『小右記』、軍記物語の『将門記』、貴族説話の

『江談抄』は、変体漢文体の「しかるあひだ」の使用が共通している。また、これらの文 献では漢文訓読系の「しかれば」「しかるに」などを用いることとも共通している。

『三宝絵』『法華百座聞書抄』『打聞集』は文体が近いながらも、接続詞の使用では、違 う様相を見せている。いずれも和漢混淆文のため、漢文訓読系と和文系の接続詞の両方が 見られるが、異なり語数の種類は、『今昔物語集』より少ない。延べ語数の面から見ると、

漢文訓読系接続詞と和文系接続詞の偏りが少ない面では、『今昔物語集』とこの三文献は同 じ傾向が見られ、『宇治拾遺物語』より偏りが少ない面も窺える。

以上のことから、『今昔物語集』は文章表現上、和文系、漢文訓読系、変体漢文系、多様

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な接続詞を取り入れ、和と漢の偏りの差がなく、平均的に使用されることがわかる。また、

平均使用頻度から見ると、『今昔物語集』の接続詞の平均使用頻度(188.5)が他の文献を 遙かに超えている。他文献より、接続詞を積極的に使うことが確認できる。

三・二 順接と逆接の使用傾向

ここでは、順接を表す接続詞と逆接を表す接続詞の全体的な使用傾向【表3】から、『今 昔物語集』と他15文献の接続詞の使用状況の関係を見る。

【表3】に示したように、『今昔物語集』の順接を表す語の使用頻度の小計は3313とな

り、逆接を表す語の使用頻度の小計は834となり、両者の比は約4:1である。つまり、

逆接を表す接続詞より、「然れば」(1625例)をはじめとする順接を表す接続詞の使用が4 倍多くなっていることがわかる。15文献の中、近い傾向を示したのは、『大鏡』(3.8:1)、

『栄花物語』(4.3:1)、『宇治拾遺物語』(4.6:1)である。いずれも和文系の物語作品で ある。

なお、順接を表す接続詞より、「しかるに」をはじめとする逆接を表す接続詞の使用が多 く見られる作品は、変体漢文体としての貴族日記『御堂関白記』(0.4:1)『小右記』(0.1:

1)、軍記物語『将門記』(0.8:1)と漢文訓読文の『冥報記』(0.7:1)である。これは、

漢文や変体漢文の系統においては、逆接関係に比べて、順接関係を取り立てて言うほどの 必要がないことにあるのではないかと思われる。順接の接続詞においても、漢文や変体漢 文では、論理性を表現する「このゆゑに」「これによりて」などは多用され、時間の経過や 事件の羅列を示す「しかれば」のようなものはあまり使われない。その結果、漢文や変体 漢文の表現の影響として、二・四で述べたように、『今昔物語集』の中では、天竺震旦部と 本朝仏法部において、逆接接続詞の使用頻度が本朝世俗部より高くなっていると思われる。

以上のことから、接続詞の中身では、天竺震旦部と本朝仏法部は漢文訓読の影響を強く 受けたことが指摘できる。しかし、漢文系作品に出典が多いにしても、順接と逆接の全体 的な使用傾向から見ると、今昔編者の論理的思考はやはり和文のほうと近いと言えよう。

四 『今昔物語集』における高頻度の接続詞

次に、『今昔物語集』における高頻度の接続詞について考察を行う。他の文献での使用状 況を検討しながら、具体例を引用して、個々の意味用法を順次記述していく。

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まず、『今昔物語集』における個々の接続詞を使用頻度が延べ語数に占める割合の高い順 位に並べると、「然れば」39.2%、「しかるあひだ」18.7%、「しかるに」13.3%、「さて」

8.6%、「然れども」4.2%、「これによりて」4.2%、「然らば」3.7%となり、接続詞全体の

92%を占めている。それ以外の接続詞の割合はいずれも2%にも達していない。したがっ

て、この7語は今昔編者が好んで使う語とみてよいと思われる。この7語を他の15文献 から抽出して、その使用状況と比較すると、【表4】のようになる。数値は、接続詞個々の 使用頻度が作品全体の接続詞に占める割合(%)を示したものである。

〈然れば〉(表の中の数値は、『今昔物語集』では「されば」或は「しかれば」、他の作品 では「されば」と「しかれば」の合計数の割合を表す。)

『今昔物語集』に最も頻用される「然れば」は、使用頻度が延べ語数に占める割合が39.2%

となる。『宇治拾遺物語』は21.5%となり(「されば」58例、「しかれば」4例)、『大鏡』

は20.5%となり、(「されば」48 例、「しかれば」3例)、『江談抄』は23.6%となり(「し かれば」21例)、『法華百座聞書抄』は32.4%となり(「されば」4例、「しかれば」7例)、

『打聞集』は24.4%となる(「されば」7例、「しかれば」3例)。『江談抄』以外では、「さ れば」と「しかれば」を併用しているが、その割合は『今昔物語集』より低い。

(1)今昔、天竺ノ舎衛國ニ一人ノ翁有リ、歳八十ニシテ身極テ貧シ。然レバ其國ノ人ニ 物ヲ乞テ世ヲ過ス。(今昔・巻四ノ15)

(2)「我モ亦年来養ヒ立ツレバ、実ノ祖ニ不異。然レバ、共ニ祖トシテ可養キ也」ト契テ、

【表 4】『今昔』の高頻度接続詞が他文献における使用状況

順位 接続詞 今昔 冥報 大唐 極記 霊異 験記 宇治 大鏡 栄花 御堂 小右 将門 江談 三法 百座 打聞 1 然れば 39.2 4.8 0.0 0.0 2.2 2.0 21.5 20.5 4.1 0.0 0.0 5.9 23.6 0.0 32.4 24.4 2 しかる

あひだ 18.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 21.6 3.4 2.6 0.0 0.0 3 しかる

13.3 34.9 0.0 0.0 0.6 7.8 3.8 0.0 0.0 60.9 55.4 23.5 33.7 2.6 0.0 9.8 4 さて 8.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 24.7 37.8 19.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 14.7 34.1 5 然れど

4.2 22.2 28.6 0.0 8.3 7.8 4.2 1.6 0.6 8.7 32.5 29.4 6.7 7.7 0.0 0.0 6 これに

よりて 4.2 0.0 0.0 0.0 7.2 15.7 0.3 0.0 0.0 4.3 1.2 5.9 4.5 35.9 8.8 2.4 7 然らば 3.7 3.2 0.0 0.0 0.0 2.0 14.9 2.8 1.2 0.0 3.6 2.0 7.9 5.1 14.7 2.4 92.0 65.1 28.6 0.0 18.3 35.3 69.8 62.7 25.5 73.9 92.8 88.2 79.8 53.8 70.6 73.2

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(今昔・巻二十六ノ1)

(3)家ノ主及ビ御弟子達モ此ノ事ヲ聞テ貴ブ事无限シ。然レバ、一言・一宿モ皆前世ノ 契リ也ト知リヌトナム語リ傳ヘタルトヤ。(今昔・巻二ノ5)

「然れば」は順接の確定条件を表す接続詞として、「そうであるから」という意味を表す。

文と文をつなぎ、時間の経過や因果関係を表すもので、地の文、会話文、話末評語など、

たくさんの場面に用いられやすく、説話や物語系のものに広がりやすいと考えられる。

〈しかるあひだ〉

2位となる接続詞「しかるあひだ」(「然ル間・而ル間」)は、記録体の『御堂関白記』『小 右記』に多く見られ、変体漢文系の接続詞とされている。今回の調査範囲では変体漢文体 の軍記物語『将門記』に21.6%(11例)を占め、最も多く見られる。

(4)父母此レヲ見テ歓喜スル事无限シ。此レニ依テ児ノ名ヲ燈指ト付タリ。而ル間、阿 闍世王、此ノ事ヲ聞テ勅シテ「児ヲ将来レ」ト宣フ。(今昔・巻二ノ11)

(5)其後、大師ニ随テ、頭ヲ剃テ法師ト成ヌ、名ヲ圓仁ト云フ、顕蜜ノ法ヲ習フニ、少 シキ愚ナル事无シ。而ル間、傳教大師失給ヒヌレバ、心ニ思ハク、「我レ、唐ニ渡テ顕 蜜ノ法ヲ習ヒ極メム」ト思テ、(今昔・第十一ノ11)

「しかるあひだ」は主に地の文に用いられ、「そうしているうちに」という意味を表す。

峰岸明(1986)では、『今昔物語集』における「しかるあひだ」は、すべて出典の漢文へ の付加改変によって現れるものであり、変体漢文の文章に由来するものであると指摘して いる。なお、順接のほか、例(5)のような「転接」の用法も認められるが、本質的な意 味用法は、時間の経過を踏まえて次の場面を導き出すことにあると考えられる。

〈しかるに〉

『今昔物語集』で 3 位となる「しかるに」(「而ルニ・然ルニ」)は、漢文訓読系の接続 詞とされ、和文にはほとんど見られず、純漢文『冥報記』、変体漢文『御堂関白記』『小右 記』に数多く見られ、それぞれ34.9%、60.9%、55.4%を占めている。なお、変体漢文で はいずれも文頭に立ち、漢字「而」と対応している例が圧倒的である。

(6)然レバ、同寺ニ住ム比丘共、此ノ僧澤ヲ軽メ蔑テ同座ニモ不居ズ、稍モスレバ寺ヲ 追ヒ出ス。而ルニ、此ノ僧澤、少ノ智恵有テ、我ガ身ノ内ニ在マス佛ノ三身ゾ功徳ノ 相ヲ心ニ懸テ、忘ル、時无ク晝夜ニ常思フ。(今昔・巻四ノ10)

(7)龍王、夢ノ中ニ相宰ニ云ク、「龍衆ニハ九ノ苦有リ。而ルニ、此ノ珠ヲ得テ後、其苦 ヲ滅タリ。(今昔・巻十一ノ15)

ドキュメント内 古代日本語の因果関係を表す接続表現 (ページ 116-126)