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第 6 章 結論

6.1 本研究の成果

CFRPグリッドを用いたPCM 吹付けによる既設RC部材の耐震補強工法を提 案し,本工法は実構造物を模擬して補強部界面の必要定着長や応力伝達機構を 検討する必要がある。本研究ではまず CFRP グリッドの付着特性を明確にする ことを目的として,実構造物を模擬した試験体での必要定着長や応力伝達機構 およびCFRPグリッドの表面付着力の検討を行った。また,本工法によるRCは りのせん断補強効果を検討するため,本補強工法を適用することを想定して,

CFRPグリッドの補強範囲や補強量をパラメータとし,三つシリーズ載荷試験を 行った。さらに,縦・横両方向CFRPグリッドの有効ひずみを考慮したRCはり のせん断耐力の評価手法を検討した。本研究で得られた成果を下記に示す。

第1章は FRPの現状や背景目的について述べた。また,加えて本論文の構成 について述べた。

第 2 章では,PCM 吹付け工法開発までの経緯や PCM の特性,炭素繊維補強 材の一般的特性や特徴,成形法および事例などを述べた。

第3章では,既設コンクリートを作製し,CFRPグリッドおよびPCMとの付 着機構についての検討および格子筋間隔の違いや縦筋の有無による挙動の変化,

CFRPグリッド間の応力伝達機構を明らかにした。

(1) 荷重と変位の関係より,縦筋を有さない試験体は引抜けによる破壊と破断に よる破壊の両者が進行した挙動を示す傾向が多い結果となり,縦筋を有する 試験体は縦筋を有さない試験体に比べグラフの傾きが急になり剛性が高い 傾向にある結果となった。しかし,両者とも格子筋間隔の違いによる剛性の 変化は見られなかった。

(2) 設計引張強度の 2/3(12.0kN)の荷重が生じ,分担率の総和が 70%での必要格 点数は筋間隔 50mm 試験体で 3 格点,筋間隔 75mm 試験体および筋間隔

100mm 試験体で 2 格点となり,分担率の総和が 80%での必要格点数は筋間

隔 50mm 試験体および筋間隔 75mm で縦筋を有する試験体で 3 格点,筋間

隔100mm試験体で2格点となり,分担率の総和が90%での必要格点数は筋

間隔 50mm 試験体で4 格点,筋間隔 50mmおよび 75mm で縦筋を有する試 験体,筋間隔100mmで縦筋を有する試験体で3格点,筋間隔75mmで縦筋 の無い試験体および筋間隔100mmで縦筋の無い試験体で2格点となった。

(3) どの荷重レベルにおいて縦筋を有する試験体においても,格子筋間隔が大き

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くなるにつれて分担率も増大する傾向となった。

(4) 各試験体のPCM表面に埋設したCFRPグリッドの1格点目から斜め45度,

載荷方向に顕著なひび割れが見られた。また,低弾性型 PCMを用いた試験 体は,母材破断と同時に増厚した PCMが既設コンクリートから剥離する現 象が見られた。

(5) 筋間隔が大きく,縦筋の有無によらず十分な表面付着力を有していたため,

両者ともに付着切れは発生しにくく,変形量の違いにより,分担率に差が生 じる結果となった。

(6) 縦筋有する試験体は,横筋の両端が拘束されているため,縦筋が無い両端自 由の場合と比較し,CFRPグリッド縦筋の変形量が小さく,付着切れが発生 しにくくなり,CFRPグリッド全体で引張力に抵抗する結果となった。

第4章では地下構造物の一つである樋門の函体に対する本補強工法を想定し,

本工法によるRC部材である隔壁のせん断補強効果を検討するため,CFRPグリ ッドの定着方法を,ウェブのみを定着領域とした同一平面内の定着とウェブお よびハンチを定着領域とした面外定着の 2 通りとし比較検討を行った。(シリ ーズA)

(1) 隔壁の補強領域をウェブのみとした場合は,ウェブに加えてハンチも補強し た場合に比べて,せん断耐力および剛性はやや劣る傾向にある。これは,ハ ンチまで補強した場合は,ハンチで十分な定着力を確保できることに起因す る。そこで,ウェブおよびハンチを補強領域とした面外定着は必要であった。

(2) CFRPグリッドの必要定着長は面内定着3格点とされているが,本研究のよ うに面外定着においても準用できることわかった。

次に,縦・横両方向のCFRPグリッドの有効ひずみおよびCFRPグリッドによ るせん断耐力の評価手法を明らかにするために,CFRPグリッドの補強量および 配置間隔をパラメータとして検討した。(シリーズB+シリーズC)

(1) 無補強とPCMのみの最大荷重にほとんど変化がなかったことから,PCMの みでは補強効果は期待できないことがわかった。また,補強量はCR-4が最 適である。

(2) ウェブのみ補強した試験体除外すれば,全ての試験体では,せん断補強筋と CFRPグリッドがほぼ同じ挙動を示しており,既設部と補強部の付着状態が 良好であることが確認された。

(3) 一部のCFRPグリッドのひずみでは,750~850kN程度に達してからひずみは 減少しており,これは既設コンクリートとCFRPグリッドの剥離が発生した ためであった。

(4) CFRPグリッド補強した試験体では,荷重400kN程度で斜めせん断ひび割れ が発生すると同時にCFRPグリッドの縦・横筋のひずみは増大しており,鉛 直・水平両方向のCFRPグリッドはせん断抵抗することがわかった。

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(5) シリーズ C において,各試験体の縦筋の最大ひずみは,それぞれ 15161μ,

8038μ,5548μおよび5140μとなった。しかし,CFRPグリッドの縦筋が層間

剥離するために伴い,CFRP グリッドの横筋のひずみは 1000~2500μ 程度に 止まっていることがわかった。

第5章では前章で述べた本工法によるRCはりの載荷試験対して,CFRPグリ ッドによるせん断耐力の評価手法を検討し,CFRPグリッドの有効ひずみ式を提 案した。また,本工法を用いたCFRPグリッドのひずみを検証することが最適で あるが,文献が少ないため,CFRPグリッドを用いた試験のひずみに着目し,数 値解析等も含め,提案した式の有用性の検証を行った。

(1) 本工法による RCはりのせん断耐力は,CFRP グリッドの破断ひずみを用い た現行の設計法の算定値の比が 1.00 とやや小さく,安全側のものとは言え なかった。

(2) 棒部材としてのロッドの有効ひずみを用いてせん断補強耐力の評価は過大 に安全側の結果となり,不適切であった。

(3) CFRPグリッドのせん断耐力評価に用いる有効ひずみ式を提案した。本試験 に対して,縦筋に対する横筋のひずみ(応力)割合(k)は約 0.23 であった。

CFRP グリッドのせん断補強に対して,CFRP グリッドの縦・横両方向の抵 抗力を考慮して評価することはできることがわかった。

(4) せん断スパン比(a/d)による各方向のグリッドの分担比率(有効ひずみ縦横比 (k))の推定式を提案した。この有効ひずみ縦横比(k)を基づく縦・横両方向の CFRPグリッドを考慮した評価法によれば全ての試験体を精度良く予測でき,

評価することは妥当であることがわかった。

(5) CFRPグリッドの縦横両方向のせん断抵抗を考慮することによって,縦筋の みのせん断抵抗を考慮した場合に比べて,必要補強量が10~20%を低減でき ることがわかった。

第 6 章では本研究で得られた成果を総括するとともに,研究課題について言 及した。

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