第 5 章 CFRP グリッドの有効ひずみと RC はりのせん断耐力の評価
5.4 CFRP グリッドの有効ひずみ式の検証
5.4.4 各方向のグリッド筋の分担比率の検討
4.3より,各方向のグリッドの分担比率(有効ひずみ縦横比k=0.23)について は,CFRPグリッドと既設コンクリートが完全付着状態下での両方向の負担率を 保持したまま,縦方向の剥離(有効ひずみ)発生に伴い,横方向の最大時を迎え るものと推測される。しかし,5.4.3より,各方向グリッド筋の分担比率ははり のせん断スパン比(せん断スパン/有効高さ)により異なる。これについては,
数値解析等も含め,せん断スパン比をパラメータとし,分担比率の検討を行った。
解析モデルまたモデルの種類を図-5.4.8および表-5.4.7に示す。分担比率 の検討について,シリーズCにおけるCR-4を補強した試験体(C-1)を基づいて,
引張補強筋比 pw(=As/(bw ·d)=3.65%)および有効高さ(d=690mm)を一定とし,せん 断スパン(a)をパラメータとし,FEM 解析を行った。ここで,As:引張補強筋の 断面積(mm2),bw:ウェブの幅(mm),d:有効高さ(mm),SS:せん断補強筋の配置 間隔(mm)である32)。
図-5.4.8 解析モデル
表-5.4.7 解析モデルの種類
Type CFRPグリッド
(ピッチ:縦×横)
有効高さ d, (mm)
せん断スパン a, (mm)
せん断スパン比 a/d
F-1
CR-4@150×50 690
1525 2.21
F-2 1625 2.36
F-3 1725 2.50
F-4 1825 2.64
F-5 1925 2.79
F-6 (C-1) 2025 2.93
F-7 2125 3.08
F-8 2225 3.22
F-9 2325 3.37
F-10 2375 3.44
強制変位 (Z方向)
コンクリート
PCM
CFRPグリッド(CR4@50)
拘束条件 (Z+Y方向)
拘束条件 (Z方向)
軸方向鉄筋 拘束条件
(X方向)
計測位置
-101-
CFRP グリッドは斜めせん断ひび割れ発生時から終局荷重時までせん断抵抗 が生じている。この荷重区間における各解析モデルの CFRP グリッドの縦筋と 横筋のひずみとの比較を図-5.4.8 に示す。また,シリーズ A および 5.4.1 で 述べた試験33),34)の実験値も併せて,各方向のCFRPグリッドの分担比率(有効 ひずみ縦横比(k))を表-5.4.8および図-5.4.9に示す。
(a)a/d=2.21 (F-1) (b)a/d=2.36 (F-2)
(c)a/d=2.50 (F-3) (d)a/d=2.64 (F-4)
(e)a/d=2.79 (F-5) (f)a/d=2.93 (F-6/C-1)
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1000 2000 3000 4000 5000
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=2.21 ɛhor/ɛver=0.37 +15%
-15%
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1500 3000 4500
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=2.36 ɛhor/ɛver=0.34 +15%
-15%
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1500 3000 4500
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=2.50 ɛhor/ɛver=0.32 +15%
-15%
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1000 2000 3000 4000
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=2.64 ɛhor/ɛver=0.28 +15%
-15%
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1000 2000 3000 4000
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=2.79
ɛhor/ɛver=0.26 +15%
-15%
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1000 2000 3000
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=2.93 ɛhor/ɛver=0.23 +15%
-15%
-102-
(g)a/d=3.08 (F-7) (h)a/d=3.23 (F-8)
(i)a/d=3.37 (F-9) (j)a/d=3.44 (F-10)
(k)a/d=2.75 (A-2) 図-5.4.8 縦筋と横筋
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1000 2000 3000
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=3.08
ɛhor/ɛver=0.23 +15%
-15%
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1000 2000 3000
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=3.23 ɛhor/ɛver=0.23 +15%
-15%
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1000 2000 3000 4000
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=3.37
ɛhor/ɛver=0.23 +15%
-15%
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 1000 2000 3000 4000
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=3.44
ɛhor/ɛver=0.23 +15%
-15%
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000
0 700 1400 2100 2800 3500
縦筋のひずみεver
横筋のひずみεhor
a/d=2.75 (A2)
ɛhor/ɛver=0.27 +15%
-15%
-103-
表-5.4.8 解析モデルの種類
Type CFRPグリッド
(ピッチ:縦×横)
引張鉄筋比 pw
せん断スパン比 a/d
有効ひずみ縦横比k (εhor/εver)
A-2 CR-5@150×50 3.17% 2.75 0.27
D-1 CR-4@50×50
4.37% 2.42 0.32
D-2 CR-8@100×100
E-1 CR-4@50×50 3.58% 2.59 0.31
F-1
CR-4@150×50 3.65%
2.21 0.37
F-2 2.36 0.34
F-3 2.50 0.32
F-4 2.64 0.28
F-5 2.79 0.26
F-6 2.93 0.24
F-7 3.08 0.23
F-8 3.22 0.23
F-9 3.37 0.23
F-10 3.44 0.23
図-5.4.9 有効ひずみ縦横比(k)とせん断スパン比(a/d)の関係 0.20
0.25 0.30 0.35 0.40
2.00 2.40 2.80 3.20 3.60
有効ひずみ縦横比(k)
せん断スパン比(a/d) A2 D1,D2 E1 F1~F10 式(5.4.1) 相関係数(R)=0.996
-104-
その結果,図-5.4.9 に示すように,全てのモデルはa/d 2.93程度でせん 断スパン比が大きいほど,有効ひずみ縦横比(k)は小さくなることがわかる。ま た,せん断スパン比は2.93以上の範囲では有効ひずみ縦横比(k)が0.23一定とす る。そこで,有効ひずみ縦横比(k)から回帰分析を行い,式(5.4.1)のとおり求め た(図-5.4.9中の破線)。
365 . 0 ) / ( 612 .
0
e
a dk
(5.4.1) ここに,a:せん断スパン(mm)d:有効高さ(mm)
ただし,k 0.23の場合は,k0.23とする。
せん断スパン比(a/d)による有効ひずみ縦横比(k)式(式(5.4.1))における横 筋の有効ひずみεhorは式(5.4.2)により求めた。
6 2 365
. 0 ) / ( 612 .
0 10
0079 . 0 0352 . 0
1
ver d
a ver
hor k e
(5.4.2)
ここで,k:有効ひずみ縦横比
εver:CFRPグリッドの縦筋の有効ひずみ(式(5.3.1))
ρver:単位長さ当り縦筋の断面積(mm2/mm)
算定値⑤は,縦・横両方向のCFRPグリッドを考慮したせん断耐力(式(5.3.3))
に式(5.4.2)を代入したものである。また,算定値④と算定値⑤の全てを同時に 比較したものを表-5.4.8および図-5.4.10に示す。
表-5.4.8 せん断耐力の実験値および算定値の一覧
Type a/d 式(5.4.1)による
有効ひずみ縦横比(k)
実験 (kN)
算定④ (kN)
算定⑤
(kN) 実/④ 実/⑤
B-1 2.93 0.24 885 752 755 1.18 1.14
B-2 2.93 0.24 949 881 887 1.08 1.07
B-3 2.93 0.24 922 915 921 1.01 1.00
C-1 2.93 0.24 881 765 768 1.15 1.15
C-2 2.93 0.24 943 933 939 1.01 1.00
C-3 2.93 0.24 950 808 810 1.18 1.17
C-4 2.93 0.24 860 821 823 1.05 1.04
D-1 2.42 0.33 588 488 500 1.21 1.18
D-2 2.42 0.33 631 505 520 1.25 1.21
E-1 2.59 0.30 373 304 310 1.23 1.20
-105-
(a)実験値と算定値の比較
(b)算定値による安全率の一覧 図-5.4.10 せん断耐力の比較
その結果,せん断スパン比(a/d)による有効ひずみ縦横比(k)を基づく縦・横両方 向の CFRP グリッドを考慮した算定値⑤は実験値を上回り,かつ良い相関関係 がみられる。また,実験値と算定値⑤の比(1.00~1.21,平均値:1.12)は,実験 値とせん断スパン比(a/d)を考慮しない算定値④の比(1.01~1.25,平均値:1.14)
より小さくなった。
このことから,せん断スパン比(a/d)による有効ひずみ縦横比(k)を基づく縦・横 両方向の CFRP グリッドを考慮した評価法によれば全ての試験体を精度良く予 測でき,評価することは妥当であることがわかった。
200 400 600 800 1000 1200
200 400 600 800 1000 1200
実験値(kN)
算定値(kN)
実/④ 実/⑤
1.18
1.08 1.01
1.15
1.01 1.18
1.05 1.20
1.25 1.23 1.17
1.07 1.00
1.15
1.00 1.17
1.04 1.18
1.21 1.20
0.80 0.90 1.00 1.10 1.20
B-1 B-2 B-3 C-1 C-2 C-3 C-4 D-1 D-2 E-1
実験値/算定値
算定値④ 算定値⑤
-106-
また,CFRPグリッドの縦筋の有効ひずみのみを考慮した算定値③とせん断ス パン比(a/d)による有効ひずみ縦横比(k)を基づく縦・横両方向の CFRP グリッド を考慮した算定値⑤の比較を表-5.4.9 および図-5.4.11 に示す。同図中◇印
(算定値③/算定値⑤)より, CFRPグリッドの縦横両方向のせん断抵抗を考慮 した算定値⑤の比は,縦筋のみのせん断抵抗を考慮した算定値③の比より6%~
18%を大きくなった。そこで,CFRPグリッドの縦横両方向のせん断抵抗を考慮
することによって,縦筋のみのせん断抵抗を考慮した場合に比べて,必要補強量
が約10~20%を低減できることがわかった。
表-5.4.9 せん断耐力の実験値および算定値の一覧
Type 実験 算定③ 算定⑤ 実/③ 実/⑤ ③/⑤
シリーズB
B-1 885 678 755 1.31 1.17 1.11
B-2 949 760 887 1.25 1.07 1.17
B-3 922 782 921 1.18 1.00 1.18
シリーズC
C-1 881 691 768 1.27 1.15 1.11
C-2 943 799 939 1.18 1.00 1.18
C-3 950 766 810 1.24 1.17 1.06
C-4 860 775 823 1.11 1.04 1.06
相関論文33),34)
D-1 588 459 500 1.28 1.18 1.09
D-2 631 475 520 1.33 1.21 1.09
E-1 373 287 310 1.30 1.20 1.08
平均値 1.24 1.12 1.11
図-5.4.11 算定値の間の比較
1.11
1.17 1.18
1.11 1.18
1.06 1.06 1.09 1.09 1.08
0.80 0.90 1.00 1.10 1.20 1.30
B-1 B-2 B-3 C-1 C-2 C-3 C-4 D-1 D-2 E-1
実験値/算定値
実/③ 実/⑤ ⑤/③(平均) ⑤/③
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