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3.高効率石炭火力発電設備の普及に向けた課題と対策

インドネシアでは、超臨界圧石炭火力発電設備3基を建設中であるが、第2章の2.1節 に示したとおり稼働中の石炭火力は全てが亜臨界圧発電設備である。本章では、高効率石 炭火力発電設備(超臨界圧、超々臨界圧)の普及に向けた課題と対策、及び高効率石炭火 力発電設備を導入した場合のメリットについて整理する。

表 3.1.1 近年の大型石炭火力入札案件

公告年 プラント 設備容量 蒸気条件

2008 Adipala 1 × 660MW 超臨界圧

2008 Cirebon IPP 1 × 660MW 超臨界圧

2010 Central Java IPP 2 × 1,000MW 超臨界圧/超々臨界圧

2010 Indramayu 1 × 1,000MW 超々臨界圧

出所:現地ヒアリング調査より

(2)安価な電気料金

電気料金の安いことが、高効率石炭火力設備の導入に影響を与える。インドネシアの電 気料金は社会保障の観点から政策的に安価に据置いているが、高効率石炭火力設備の導入 に際しては割高な設備コストが電気料金の値上げにつながると指摘されている。

インドネシアでは電気料金は供給コストを下回っており、差額分を政府がPLNに対して 補填している。現地ヒアリング調査43では、「補助金の80%が発電コストとの差額分、20% がPLNのマージンとなっている。また、補助金は、電気料金への補助金と燃料購入費への 補助金の2通りがあり、電気料金で50兆ルピア/年、燃料購入で70兆ルピア/年の補助金 が充当されている。ジャワ島以外の地域において供給コストが高くなるため、補助金が必 要になるとしている。特に、島嶼地域では電力需要が小さいためディーゼル発電が主流で あり発電コストが高い。」との情報を得ている。

表3.1.2にジャカルタの電気料金を示す。

表 3.1.2 ジャカルタの電気料金

米ドル ルピア 備 考

月額基本料:3.2 月額基本料:29,500 1kWh料金:0.05 1kWh料金:475 月額基本料:3.3 月額基本料:30,500 1kWh料金:0.06 1kWh料金:530

為替レート 1㌦=9,205ルピア インターバンクレート

(2010/1/15付)

業務用電気料金 PLN

一般用電気料金 PLN

出所:アジア主要都市・地域の投資関連コスト比較(日本貿易振興機構、20104月)

(3)割高な初期投資額

高効率石炭火力発電設備は、亜臨界圧石炭火力発電設備と比べ、初期投資額が割高とな る。このため、初期コストの安い発電設備を導入するという経済意識が働けば、高効率石 炭火力発電設備の導入を妨げる要因となる。しかし、超臨界圧、超々臨界圧石炭火力発電 設備を導入した場合、亜臨界圧石炭火力発電設備よりも発電効率が向上することで、燃料 費を節減でき、また二国間オフセットが成立すればクレジットが確保できるというメリッ トが見込まれる。なお、高効率石炭火力設備を導入した場合に現状の亜臨界圧石炭火力発

43 BPPTでのヒアリング

電設備に比べ、どの程度の燃料費が削減でき、クレジットが確保できるかについては、次 節で試算を行っている。また、2 章では設定したベースライン毎のクレジット量を試算し ている。

(4)資金調達

PLN は、1998年のアジア通貨危機以降に経営状況が悪化し、発電所建設資金を自前で 調達をすることが難しくなった。このため、PLNのEPC入札では資金調達が条件となっ ている。PLNが実施した第1次クラッシュプログラムの入札では、低価格で応札した中国 企業がプロジェクトを独占受注し、さらに建設資金のほとんどが中国から提供される結果 となった。しかし、第1次クラッシュプログラムは当初2009年に完成する予定であった が、プロジェクトを受注した中国企業の資金調達、建設工事の遅れ等により、完成が大き く遅れている(第1章の表1.2.8参照)。このように、資金調達が原因となって計画が遅延 する例が出ており、ファイナンス面が課題となっている。

資金調達に関しては、技術供与国の融資制度を利用するだけでなく、相手国に対してイ ンドネシア政府が保証することで投資リスクを低減することや外資の導入に障害となる法 律や制度を改定することも必要になると考えられる。

我が国の企業が高効率石炭火力発電所建設に参画する場合、JBIC の投資金融や輸出金 融などの他、NEXI の貿易保険を活用することが有効になる。加えて、JBIC が実施して

いるJ-MRVを用いたGREENの活用が期待される。また、二国間オフセットスキームに

よるCO2削減量のクレジット化は相手国、事業者の資金負担の軽減となる。

(5)技術的課題

発電所の操業に際しては、プラントの能力を低下させることなく、高効率を維持するた めの運転・補修(O&M)が不可欠となる。インドネシアで稼働中の石炭火力発電所は亜 臨界圧であり、既存発電所の実績をみると全ての発電所で所定の効率を維持しているとは 言いがたいが、亜臨界圧石炭火力発電設備のO&Mについては一応の技術は有していると 思われる。しかし、高効率石炭火力発電所の運転は未経験である。超臨界圧、超々臨界圧 は、亜臨界圧よりも高度なO&Mノウハウが必要となり、インドネシアが高効率石炭火力 発電技術を導入する上では、運転技術や複雑な設備の管理能力を習得する必要がある。ま

た、O&M ノウハウを自前の技術とすることは、操業コストの低減という点からも重要で

ある。このためには、自国における人材開発、O&M要員の育成が必要となる。

一方で、インドネシアは自国に豊富に賦存する低発熱量の石炭(低品位炭)の利用を進 めている。低発熱量炭を燃料とする超臨界圧、超々臨界圧石炭火力発電設備の開発・導入 は褐炭を多く利用するドイツをはじめ欧州等において進んでいるが、世界全体をみれば導 入例は少ない。技術的には可能であるが、アジアにおいてはO&Mも含めこれからの技術 といえる。

(6)パブリック・アクセプタンス

インドネシアでは、石炭火力発電所の建設に対する一般国民の反対はないといえる。し かし、過去にはチレボン石炭火力発電所の建設時に地元住民の反対運動が起き、建設が遅 れた例がある。この反対運動は、発電所建設予定地の地方自治体(村)が福利厚生のため にトラック通行費の徴収を中央政府に申請したが、却下されたことが発端となり、トラッ ク通行費徴収問題だけでなく、地元民の雇用問題、土地の空け渡し問題、に拡がった。こ の例が示すように、建設予定地の地元住民に対しインセンティブを与えるなど、発電所建 設において十分な配慮をし、地元住民の理解を得られなければ、工期の大幅な遅れなどプ ロジェクトとの推進を妨げる問題が発生する可能性があると考えられる。