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教科書/指導書の記述・表示に関する調査と考察

教師は日本語母語話者に中国語の発音を教える際、実際の音声を聞かせることは無論で あるが、最初の説明はやはり日本語で、多くの場合日本語で書かれた教科書を読むことに よって行なうであろう。そのため、筆者はまず筆者自身の身の回りにある、日本語で書か れ、日本国内で一般学習者向けに発行された中国語の教科書/指導書のうち、発音に関す る情報を掲載してあるもの37冊を選び、その中で

e

をどのように説明してあるかを調べ た。この目的も、前章と同様、個々の教科書/指導書を俎上に載せてその優劣を論じるこ とでは決してなく、全体の傾向を理解することである。これら37冊の単母音

e

の発音に

関連する記述・表示を詳しく読んだ上で簡略化し、要素を抽出・集約したものが表3Aであ る。対象教科書/指導書のうち、発音を専門に編んであるものは6番、9番、

17番、18番、32番、34番の6冊あり、各番号の下に「専門」と記してある。17 冊が単独著者16人、20冊が共著、共著のうち前記単独著者1人を含むものが2冊あっ た。出版元は15社である。

3.1.1 表の説明

一番左の項目は対象とする教科書/指導書の番号、次の4種の項目は以下の内容にした。

最初の2つ1)項および2)項は、言葉による記述や図示による、調音のための説明であ り、次の3)項はピンイン以外の音声表記、一番右側4)項は聴覚印象や1)~3)で表 わしきれなかった記述である。具体的には

1)「口形・開口度などから見た、言葉による説明の特徴的要素」、および「口 形・開口度などを表わす図示」

2)「舌位から見た、言葉による説明の特徴的要素」、および「舌位を表わす図 示」

3)「ピンイン以外の音声表記」

4)「その他特記事項」{1)項や2)項)の元になった記述も含む}

とした。

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表3A-1 ×は「記述や図示なし」を、㊐は「日本語」を、㊥は「中国語」を意味する。

点線下線は「消極的情報」を、太字は「有効で適切な情報」を、網かけは「不適切な 情報」を表わす。

調音のための言葉による記述や図 対象書番号

専門の場合

1)口形・開口度等 2)舌位

3)ピンイン 以外の音声 表記

4)その他特記事項

1 p.15

平唇・半狭

後舌・半高 [

、ə

] 舌の筋肉に力を入れオ

2 p.10 p.15

平唇・半狭

口の側面図・正面図

後舌・半高

[ ]

①口を左右にひき、㊐エの形で オという。

O を発音しそのまま唇を左右 にひく。顎を少し後へ引くと良い

3 p.3

p.26

平唇・半狭

口の側面図・正面図

後舌・半高 ×

o の丸めをとり・・・背中にブスリ とナイフを突き立てられた時、

喉の奥から出すようなウ

4 p.1

× 不明 × 口腔の奥で発する、オとエの中間音

5 p.14

平唇・半狭 口の正面図

後舌・半高 正中断面図では 中舌・半低

[ ] 喉の奥からオ

6

専門

p.7

平唇・半狭

口の側面図・正面図

後舌・半高 ×

喉の奥でオ

7 p.3

口の側面図・正面図で 平唇・半狭

× × 唇の形に注意して発音

8 p.5

平唇・半狭

後舌・半高 × ×

9

専門

p.10 p.11

平唇・半狭 口の正面図

後舌・半高 正中断面図

[ ]

(筆者補 注:多分

[ ]の意)

唇の力を抜き、

喉の奥からオ。

10 × × × ×

11 p.16

平唇・半狭

後舌・半高 × 喉の音。息を腹から思いきりだす(息 が詰まる感じ)。

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表3A-2 ×は「記述や図示なし」を、㊐は「日本語」を、㊥は「中国語」を意味する。

点線下線は「消極的情報」を、太字は「有効で適切な情報」を、網かけは「不適切な 情報」を表わす。

調音のための言葉による記述や図 対象書番号

専門の場合

1)口形・開口度等 2)舌位

3)ピンイン以 外の音声表

4)その他特記事項

12 p.4

平唇・半狭

不明 × 喉の奥からウ

14 p.15

平唇・狭 口の正面写真で 平唇・半狭

後舌・半高 ×

口角を横に引いて

i

と同じ唇の

形のままオを言うようなつもりで 発音

15 p.11

平唇・半狭

後舌・半高 × ①㊐エの口でオという。

②㊥Oを発音後そのまま平唇に

16 p.3

× × × エーではない

17

専門

p.17 p.18

平唇・半狭 後舌・半高 [

e

]

(筆者補 注:ピンインか も)

舌の根元で喉の奥の隙間を 微妙に調整しながらオと発音。実際 の音を聞きながら調整。ほんの少し 顎を前に突き出すようにするとうま くいく人が多い。舌先が反ってしま わないように

18

専門

p.9 p.20

顎を自然な位置に (半狭)

正中断面図で

後舌・半低 ×

顔の力を抜く。

舌根部のみに神経を集中。舌根部を 下げるつもりで力を入れる。

19 p.2

平唇・半狭

口の側面図・正面図

正中断面図で 中舌・半低

× ×

20 × × × ×

21 p.3

× × × 大きな声で筋肉をしっかり動かして

発音。

22 × × × ×

23 p.8

平唇・半狭

後舌・半高 × 舌の奥のほうに力を入れオー

24 p.1

平唇・半狭

後舌・半高 × 口を平たい楕円形にし 喉の奥でオ

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表3A-3 ×は「記述や図示なし」を、㊐は「日本語」を、㊥は「中国語」を意味する。

点線下線は「消極的情報」を、太字は「有効で適切な情報」を、網かけは「不適切な 情報」を表わす。

調音のための言葉による記述や図 対象書番号

専門の場合

1)口形・開口度等 2)舌位

3)ピンイン 以外の音声 表記

4)その他特記事項

25 p.9

平唇・半狭

後舌・半高 × 口の奥から発音

26 × × × ×

27 p.4

平唇・半狭

後舌・半高

×

Oの舌位で、唇の丸めをとり、

左右に引き「オ」

このとき舌尖を下歯茎から離し舌全 体を奥にゆっくり引く

28 p.13

平唇・半狭

後舌・半高 ×

o

から唇の丸めを取り舌の位置は そのままで、口をやや左右に開き 背中にブスリとナイフを突き立てら れた時に、喉の奥からでるようなウ

29 × × × ×

30 p.9

平唇・半狭 口の正面図

中舌 正中断面図では半高

× 喉の奥から英語の「a pen」

a

を発音

31 p.2

平唇・半狭

不明 ×

a

より大きく開けず喉の奥から 発音

32

専門

p.33

平唇・半狭 口の側面図・正面図

後舌・半高 正中断面図

× "

i

"から始め、やや口を開け、その

まま舌を奥に動かしてオーとウー の中間音を発音

33 p.6

平唇・(半狭)

o

と発音

後舌・半高 正中断面図

× 舌位置

o

とほぼ同じだが、唇を丸めな い。唇をエーの形にして

o

と発音。

34

専門

p.35

半開(半狭)

⇐ ➪

後舌・半高 唇を半開きにし喉の奥から出すオ。

唇を丸く構えて o を発音し続けな がら脱力し唇を半開した時の音。

35 p.6

やや平唇 開口度不明 (半狭)

中~後舌・半高

正中断面図で後舌・半高 ×

ウとオの間ぐらいの音

36 × × × ×

37 p.13

平唇・半開(半狭) × × ×

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簡略化の具体例としては、たとえば、教科書1番の「口を半閉じの程度まであけ」とい う記述は「半狭」に、「唇をエのように平口にかまえ」という記述を「平唇」に、続く「舌 の筋肉に力を入れてオを出す」という記述を「後舌・半高」に集約するというものである。

24番「口を平たい楕円形にし」という記述も「平唇・半狭」に集約した。また、服部(1962) にある「基本母音[

o

]の位置を変えずに唇を上下左右に開いてできる母音[ ]」という説明

(p.71)などに沿って、3番のように「

o

の発音から唇の丸めをとり(舌の位置はそのま まで)口をやや左右に開き喉の奥でウという」という記述については、「

o

の発音から・・(舌

の位置はそのままで)・・」の部分を「後舌・半高」に集約し、「唇の丸めをとりやや左右 に開き」の部分を「平唇・半狭」に集約した。また2番のように両者を併用しているもの もあった。口形・開口度を先に準備し、舌位を後で準備するものは、2)項の舌位欄の左 端に小さな右向きの矢印をつけた。舌位を先に準備し、口形・開口度を後で準備するもの は、1)口形・開口度などの欄の右端に小さな左向きの矢印をつけた。両者を併用してい るものには、右向きと左向きの矢印を両方つけた。教科書などの記述原文に「日本語ウ」

などとあった場合、字数節約のため、「㊐ウ」としてある。

3.1.2 表から読み取れることとそれに関する考察

4)項の以下5種の表現は括弧内の理由により、学習者がこの音声の調音特有の具体的 イメージを持ちにくく、消極的情報と考えられるので、点線下線で表示してある。

7番「唇の形に注意して発音」(具体的な指示ではないし、この発音独特の必要 性ではない)

16番「エーではない」(音声を聞けば分かる。一種の限定をしていると言えるが、

限定の結果示しているものが具体的でない)

17番「(舌の根元で喉の奥の隙間を)微妙に調整しながらオと発音。実際の音を 聞きながら調整」(調整による最終目的が不明であるし、微妙に調整したり 実際の音を調整したりすることはこの発音特有の必要性でない)

18番「顔の力を抜く」(顔の力を入れて抜く発音というのは何を指すか不明であ るし、実際に顔に力を入れても発音はできる)

21番「大きな声で筋肉をしっかり動かして発音」(この発音特有の必要性でない)

以下、具体的な調音方法を記述していない10番、16番、20番、21番、22番、

26番、29番、36番の8冊は除き、29冊について考察する。

18番「顎を自然な位置に」という記述については1)項に配し、括弧つきで(半狭)

と特徴づけた。7番と14番はそれぞれ口の側面図・正面図と口の正面写真で口形と開口 度を表示しているので、これも括弧つきで(平唇・半狭)と特徴づけた。33番、34番、

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35番、37番もそれぞれの記述に多少違いがあるものの、括弧つきで(半狭)とした。

その結果、29冊中28冊(約96.6%)が「半狭」を記述・表示していることが判明 した。「平唇」を記述・表示しているものは、上記29冊のうち18番と34番を除く27 冊(約93.1%)あった。こうして見ると、対象の37冊の教科書/指導書のうち、具 体的に調音方法を記述している29冊においては、全体の9割強が「平唇・半狭」を挙げ ていると言える。

また、2)項の適切な舌位「後舌・半高」について明瞭に記述・表示してあるものは、

1番、2番、3番、5番(正中断面図では「中舌・半低」)、6番、8番、9番、11番、

13番、14番、15番、17番、18番、19番、23番、24番、25番、27番、

28番、32番、33番、34番、35番(記述では「中~後舌・半高」)の23冊である。

4)項「その他特記事項」に配したもののうち、

3番「喉の奥から出すようなウ」

4番「口腔の奥で発する、オとエの中間音」

5番「喉の奥からオ」

6番「喉の奥でオ」

9番「喉の奥からオ」

11番「喉の音」

12番「喉の奥からウ」

13番「喉の奥からオ」

23番「舌の奥のほうに力を入れオー」

24番「喉の奥でオ」

25番「舌の位置は o と同じ、口の奥から発音」

28番「o の丸めを取り、背中にブスリとナイフを突き立てられた時に喉の奥か らでるようなウ」

30番「・・喉の奥から a pen のaを発音」

31番「・・喉の奥から発音」

34番「O(中国語)」「のどの奥から出すオ」

という類似表現が15種あるが、2章で述べた通り「母音の音源はすべて声門付近にあり 母音の音色の違いは共鳴腔の形状によって決まる」という事実に基づいて考察すると、上 記はすべて余りに漠然とし過ぎているか、もしくは余りに不合理であると考えざるを得な い。この種の表現は、物理的には口腔の奥の部分に狭めがあることを述べたかったのだと 解釈すべきである。但し、この中でも「

o 」 、 「

オ」、「オー」などの例示音および明瞭な記述 や表示がある3番、5番、6番、9番、11番、12番、13番、23番、24番、25